ワーク・エコノミックグロース

高齢女性の職場 ~労災リスクの軽視は禁物~

上級研究員 菅原 佑香

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 2025年4月1日から、高年齢者雇用安定法の改正により、企業には希望者全員を65歳までの雇用確保措置を講ずることが完全義務化された1。企業は、定年制の廃止、65歳までの定年引上げ、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を講ずる必要がある。高齢化が進むなか、年齢にかかわりなく働き続けることのできる環境整備や取組みが企業には一層求められている。

高年齢者の働き方において重要な課題の一つは、労災リスクだ。厚生労働省「令和5年高年齢労働者の労働災害発生状況」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高年齢者の割合は増加している2。さらに、男女別、年齢別に見た死傷年千人率(労働災害発生率)は年齢上昇とともに高くなり、特に60歳以上の死傷年千人率の高さは、男性より女性で目立っている≪図表1≫。

同データによると、60歳以上女性の「転倒による骨折等」の労働災害発生率は、20代の約15倍にものぼる3。女性は閉経後の女性ホルモンの減少に伴い骨量が著しく低下することから、骨密度が低下し骨粗しょう症になりやすく、男性以上に骨折のリスクが高い4。2023年3月に策定された「第14次労働災害防止計画」の重点事項として「労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」が掲げられている5。段差の解消や見える化、通路や作業場所の床の水などの拭き取り、整理整頓の徹底などの転倒しにくい環境づくりだけでなく、働く人の転倒や怪我のしやすさへの対応として、転倒などリスクチェックの実施と結果を踏まえた運動プログラムの導入、骨粗しょう症検診の受診勧奨などの取組みが推奨されている。

しかし、厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、設備・装備や整理・整頓・掃除の徹底などの物理的対策の取組みをおこなう事業所は約8割である一方、「骨密度、ロコモ度等のチェックによる転倒やけがのリスクの見える化」や「転びにくい、又はけがをしにくい身体づくりのための取組(専門家等による運動指導、スポーツの推進等)」など身体的要因を考慮した対策を実施している事業所は、1割前後にとどまっている≪図表2≫。高年齢者の健康や身体機能には個人差があるため、特に高年齢女性(本稿では60歳以上の女性を対象とするため、高齢女性ではなく高年齢女性と記す)の転倒リスクなど、個々の身体状況を考慮した取組みを講じることが重要だ。

また、働く場所で事故を防ぐための注意喚起を行うことや就労者の状況に応じて業務分担を見直したり、柔軟な働き方の検討をしたりすることで身体的負担が偏らないよう配慮することも大切であろう。高年齢女性の活躍が期待されるなか、働く人が安心して働き続けられる職場環境の整備は不可欠だ。人手不足が深刻な業界では、高年齢女性の活躍がますます重要となっている。こうした業界において、高年齢女性がその能力を安全に発揮できるよう支援することが期待される。

  • 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~『継続雇用制度』の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~」
  • 厚生労働省「令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況」(令和6年5月27日)
  • 脚注2同様
  • 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ「骨粗しょう症、骨折」
    菅原佑香「ホルモンの揺らぎを考慮した女性の健康支援 ~ヘルスリテラシーの広がりで期待される女性活躍の未来~」(Insight Plus レポート、2024年10月10日)
  • 厚生労働省「第14次労働災害防止計画の概要」(令和5年3月)

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