ワーク・エコノミックグロース

建設業界における女性活躍推進に向けて
~米国の建設会社Suffolk Constructionの取組みに学ぶ~

主任研究員 久井 環

なお、Suffolk Constructionのさまざまな取組みは、別稿【ここをクリック】でも取り上げている。
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1.低迷する米国の建設業における女性比率

米国労働省労働統計局1によると、2025年3月末時点で「Construction(建設業)」における女性従業員の割合は14.4%である。これは、「Mining and Logging(鉱業と林業)」の13.8%に次いで2番目に低い。一方で、女性比率が最も高いのは「Private Education and Health Services(教育と医療サービス)」の76.6%で、業種によって女性活躍の度合いに大きな差がある。

今後の更なる建設業界の発展のために、女性活躍推進は欠かせない。そこで、本稿では、米国Suffolk Constructionの女性活躍推進に向けた取組みを紹介する。

2.建設業界における女性活躍推進に向けたSuffolk Constructionの取組み

マサチューセッツ州ボストンに本社を構えるSuffolk Constructionは、1982年創業のゼネコンである2。売上高は55億ドルと同州内で最大規模を誇る3。また、全米で建設会社は約92万社存在するなか4、同社は売上高で上位30位以内にランクインするなど5、業界のリーディングカンパニーのひとつである。

同社の女性従業員比率は建設業界の全米平均を上回る水準にあるが、2024年3月5日、直近の28%を今後10年間で38%に引き上げる計画が報じられた6。「4年制大卒の新入社員向け教育支援プログラム「Career Start Program」7では、さまざまな現場経験をする機会が設けられており、女性の現場経験をより拡充させていく」と同社の人事担当役員は発言している8。また、同氏は「女性は世界を変える創造的アイデアを持っているにも関わらず、建設業界における女性比率、特に、設計や建築現場で働く技術者の女性比率は残念ながら9.9%と低い。女性に建設業界への関心を高めてもらうため、5~17歳の女性に対し、DIY(創作)教育などに積極的に関与していく」としている9

具体的には、まず、前述の「Career Start Program」(入社後2年間の教育支援プログラム)に加えて、主に技術者も含めた女性従業員を対象に、数日から数週間の「Build with Us」プログラムと呼ばれるフォローアップ研修が実施されている。これは、女性従業員同士の交流の場としても活用されている≪図表1≫10。また、現場で女性技術者として働く様子などが、たびたび公式SNSカウントで紹介されている≪図表2≫11。これらは、女性活躍を推進する企業としての評価を意識したものに留まらず、同社で技術者として働く女性に対するエールや、これから技術者の道を志す若い女性に対するポシティブな印象を抱かせるメッセージと受け止めることができる。

さらに、建設業界のファンを増やす取組みでは、若い年齢層が対象とされている。例えば、本社のあるボストン市内の女子児童らの団体であるガールスカウトを本社や建設現場に招待するプログラムがある≪図表3・4≫。DIY体験や、建物が出来上がっていく様子を目の当たりにするさまざまな企画を通じて、若い段階から建設業界への女性の関心を高めてもらおうとしている。

3.メディアが注目するSuffolk Constructionの女性技術者


これらの取組みの結果、企業として女性技術者の育成に力を入れる姿勢に、多くの関心が寄せられている。2024年10月29日、同社の新人教育プログラム 「Career Start Program」の現場経験をきっかけに、女性技術者として歩み始めた若手社員が、米国三大テレビネットワークのひとつCBSに取り上げられた≪図表5≫12

さらには、南フロリダの地方紙South Florida Business & Wealthが毎年働く女性モデルとして相応しい従業員を讃える「Prestigious Women Awards Honoree」の建設部門に、入社以来20年以上、3人の子育てをしながら働く女性従業員が選出された13

4.教育・支援制度の拡充と若い段階からのファン化が重要

Suffolk Constructionには、新人教育のみならず、キャリアを重ねていく過程でのフォローアップ研修など、さまざまな教育・支援制度がある。それらをきっかけとして女性従業員同士の交流が促進されることも相まって、女性の働きやすさに繋がり、同社の女性比率を押し上げていると考えられる。また、女性技術者の活躍ぶりがメディアや公式SNSアカウントで社内外に公表されることは、単に女性活躍推進に積極的という企業のイメージアップを狙ったものではない。同社で女性技術者として働く彼女たちへの敬意や企業として応援する姿勢が窺え、ひいては、社外や建設業界全体のムードアップにも繋がっている。さらには、女子児童を含めた幅広い年齢層を対象としたファン化に積極的に取組んでいることが、女性活躍推進の要因になっていると言える。

日本の建設業界における女性従業員比率は直近18.2%であり、現場などで働く技能者に限定すると2.7%に留まり、20年以上この低水準が続いている14。今後の人口減少による労働者不足を鑑みると、女性活躍の推進が望まれる。女性従業員を対象とした継続的な教育・支援制度の拡充や、若い年齢層を対象とした建設業界へのファン化に向けた積極的な取組みが求められる。

  • U.S. Bureau of Labor Statistics(米国労働省労働統計局) サイト <https://www.bls.gov/news.release/empsit.t21.htm>
  • Suffolk Construction サイト <https://www.suffolk.com/>
  • Statista サイト <https://www.statista.com/statistics/1197023/the-largest-massachusetts-construction-companies/>
  • The Associated General Contractors of America(米国建設業協会) サイト <https://www.agc.org/learn/construction-data>
    米国建設業協会は、約3万社の建設会社が会員として加盟する米国最大規模の建設業者の団体。
  • Bridgitサイト <https://gobridgit.com/blog/50-largest-general-contractors-in-the-united-states/>
    Bridgitは、建設業界を専門とする米国の調査会社。
  • Builder サイト <https://www.builderonline.com/building/how-suffolk-is-breaking-construction-gender-stereotypes-and-rebuilding-the-ratio_o>
    Builderは、米国の建設業界誌。
  • Suffolk Construction サイト <https://www.campusrecruiting.suffolk.com/career-start>
    新卒者が入社して2年間、上司やメンターからの手厚い伴走支援を受けつつ、2~3つの現場経験をしながら、今後のキャリアパスを見定めていくプログラム。
  • 前掲注6
  • 前掲注6
  • Suffolk Construction LinkedIn公式アカウント
    Suffolk Construction サイト <https://www.suffolk.com/news-categories/community/>
  • 前掲注10
  • CBS News <https://www.cbsnews.com/miami/news/talented-women-change-the-game-in-south-floridas-construction-industry/>
  • South Florida Business & Wealth (SFBW)サイト <https://sfbwmag.com/award-finalist/2024-prestigious-women-awards-honoree-elizabeth-lamborghini/>
  • 一般社団法人日本建設業連合会サイト <https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html#link11>

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