ワーク・エコノミックグロース

イキイキとした職場で働く経済効果、11.7兆ドル
~職場におけるWellbeingの重要性~

主任研究員 久井 環

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国際労働機関(ILO)は、毎年4月28日を、労働安全衛生世界デー(World Day for Safety and Health at Work)と定めている1。国連の一機関であるILOは、すべての人が「働きがいのある人間らしい仕事(decent work)2」ができるよう、労働基準を設定し、政策づくりを行う3。労働安全衛生世界デーは、業務上の事故や病気などあらゆる労災から従業員を守るため、労働上の安全と健康の重要性を世界中に啓発する日とされている4

2025年の労働安全世界デーに合わせて、世界経済フォーラムは、職場におけるWellbeingの重要性をアピールしている5。なお、日本WHO(世界保健機構)協会は、Wellbeingとは、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と定義している6

世界経済フォーラムとWellbeing研究の世界的権威であるMcKinsey Health Institute(MHI)は、イキイキとした職場(thriving workplace)で働くことの経済効果は全世界で11.7兆ドルと試算する7。企業として従業員のWellbeing向上に投資することは、生産性を向上させ、安定的な収益をもたらし、健康管理に関する支出を抑えることができるとしている8。職場におけるWellbeingがもたらす経済効果に対して、各界から高い関心が寄せられている。

オックスフォード大学と世界最大級の求人サイトの運営会社Indeedが行ったWellbeingと株価パフォーマンス(リターン)との関係に関する研究も注目されている。まず、Indeedは世界各国の上場企業で働く従業員を対象に、独自の尺度に基づきWellbeingの度合い(Wellbeing Score)を調査した9。従業員のWellbeing Scoreが高かった100社を、従業員のWellbeing向上に積極的に取組む企業としてWellbeing100に選出した10。そして、オックスフォード大学はこのWellbeing100の株価が、S&P500などの各主要株価指数と比較して、株価パフォーマンスがどの程度であったか、について調査した。その結果は、以下のとおりである≪図表≫。

オックスフォード大学は、仮に、2021年1月からWellbeing100の株を保有していた場合、2024年7月時点で、S&P500指数に基づく収益より11%大きな収益が見込まれた、という試算結果を発表した11。これにより、従業員のWellbeingに積極的に取組む企業は投資効果が高い、との見方ができることが示唆された。この調査結果は、世界経済フォーラムとMHIのレポートで引用されるなど12、世界中の経営者や専門家から高い関心を集めている。

今一度、労働安全世界デーをきっかけに、それぞれが職場においてWellbeingをどの程度感じ、また、自身が勤める企業は従業員のWellbeingとどの程度向き合っているか、思いめぐらしてほしい。心身の健康が保たれ、イキイキとした職場で働くことは誰しもが願うことだろう。そして、企業であれば、その企業価値向上を目指すことは当然であろう。そのひとつの手段として、従業員のWellbeing向上に取組むことが有効と言える。

  • 国際連合(UN)サイト <https://www.un.org/en/observances/work-safety-day>
  • 国連広報センターサイト<https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/ilo/>
    原文にある、ILOの使命”promote decent work for all women and men”は、「すべての女性と男性にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を目指し」と翻訳されている。
  • 国際労働機関(ILO)サイト <https://www.ilo.org/about-ilo>
  • 前掲注3
  • 世界経済フォーラムサイト <https://www.weforum.org/stories/2025/04/what-companies-can-do-to-improve-workplace-wellbeing-and-why-it-matters/>
  • 日本WHO協会サイト <https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/>
  • 世界経済フォーラム ”Thriving Workplace :How Employers can Improve Productivity and Change Live”, Jan. 2025
    Thriving とは、繫栄している、盛況な、という意味である。原文 ”Thriving Workplace” を「イキイキとした職場」と筆者は表現する。
  • 前掲注7
  • Indeed, “Global Work Wellbeing Report 2024”, Sep.17, 2024
    Indeedは、世界19か国、2,500万人を対象にWellbeingに関する調査を実施した。調査データのうち、従業員数100名以上の上場企業で働く回答者からのデータに基づきWellbeing100が選出された。Wellbeing100には、米国企業ではデルタ航空、IBM、アップル、グーグルなど、また、日本企業ではトヨタやホンダが選出されている。
  • 前掲注9
  • 前掲注9
    仮に2021年1月にWellbeing100の該当株を1,000ドルで取得した場合、2024年7月時点で株価は1,533ドルに上昇した、との試算結果となった。これは、各主要株式指数に基づく株価1,479ドル(S&P500指数)、1,408ドル(ナスダック総合指数)、1,401ドル(ラッセル3000指数)と比較し、Wellbeing100の投資収益が大きかった、とのオックスフォード大学独自の研究結果である。
  • 前掲注7

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