キャリアの変化とどう向き合うのか
~「気づきの場」としてのキャリアコンサルティングの活用~
新年度に入り、人事異動によって新しい職場で働き始めた人も多いだろう。希望通りの異動であった人もいれば、まだ異動に戸惑いや不安を抱えている人もいるかもしれない。人事異動は、企業にとっては従業員に多様な経験を積ませ、スキルや知識の幅を広げる人材育成の一つであるが、その意図が十分に伝わらず、働く個人がキャリアに対する不安や疑問を抱いてしまうこともあるだろう。働く人がこうした悩みに直面したときに、方向性を見直すための支援の場があるかどうかは、その後のキャリア形成や働く意欲にも影響する。
厚生労働省では、2025年2月より、「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」が立ち上がり、キャリアコンサルティングの活用促進に向けた議論などが行われている1。企業内でのキャリア支援や相談の機会は上司や人事部門との面談の機会などあるが、ここでは、アンケート調査の結果などを踏まえてキャリアコンサルティングの有効性について考えてみたい。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が、就労者と非就労者を対象に2023年に実施した「キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」によると、キャリアコンサルティング経験者の相談内容で多いものは、転職などの職業選択や自分の職業の向き不向き、さらには学生時代の就職活動や労働条件、病気や不調など、その内容は多岐に渡る2。その中でも、企業内で行われる相談で特に多いものは「異動・配置転換」であるという3。異動のタイミングで悩みや不安を抱き、相談をする人が多いのだろう。
既出の調査によれば、キャリアコンサルティングを受けた人の約6割が、相談を通じてキャリアや職業生活が変化したと回答している。その変化では「将来のことがはっきりした」や「就職できた」「仕事を変わった、転職した」などが多く、それ以外にも職業能力のアップや資格取得、仕事を続けられたといった、学びや働くことに対する前向きな意識の高まりがうかがえる≪図表≫。

相談を通じて、自らのキャリアや仕事の捉え方を見直したり、視野を広げたりすることができ、自分の可能性に気づくことができたとも考えられる。このような内面の変化や気づきを促すキャリアコンサルティングの場は、従業員の主体性を促し、成長や職場定着につながる効果も期待できるため、従業員と企業の双方にとってプラスの効果はあるだろう。厚生労働省の「令和5年度能力開発基本調査」によれば、正社員または正社員以外に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みを導入する事業所は、まだ全体の約4割と半分にも満たないが、今後、企業が制度整備や活用に向けて前向きに検討することを期待したい。
また、企業の取組みに加えて、働く個人も、自分のキャリアや仕事の意味を柔軟な発想で捉えることが必要だ。例えば、米国の心理学者で人間性心理学会長も務めたウィリアム・ブリッジス氏は、トランジション(転機)は、何かが始まる時ではなく、何かの終わりから始まることを提唱している。転機の時期には、慣れ親しんだ環境からの予期せぬ異動や役割の変化などを経験し、戸惑いを覚えることもあるだろう。しかし、それはキャリアの終わりではなく、人が変化し成長する次のステップの始まりかもしれない。過渡期を乗り越える中で、新たな可能性が見えてくることもあるだろう。そんな節目で悩みや不安を抱えている人は、キャリアコンサルティングという仕組みを活用してみてほしい。
- 厚生労働省の定義では、キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」とされる。
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」労働政策研究報告書No.233(2025年3月)
- 「企業内(人事部)」と「企業内(人事部以外)」で行われた相談のうち、統計的に有意で特に値が大きい相談は「異動・配置転換」である。