有料老人ホームの紹介事業とは
~「紹介センター」を利用する際に知っておくべきこと~
入居先を探す高齢者を有料老人ホーム等1に紹介する「入居者紹介事業者」あるいは「紹介センター」(以下、「紹介事業者」という。)という言葉を報道等で目にする機会が増えている。
2024年11月に、難病の高齢者が入居する際に、通常より高額な紹介手数料が有料老人ホームから紹介事業者に支払われていたことが報道された。後ほど詳述するが、高齢者が入居した後に有料老人ホーム等の運営事業者が得られる社会保障費(介護報酬)の多寡を踏まえて紹介手数料を設定しているのではとして疑問の声があがった。
2024年12月27日、有料老人ホーム等の運営事業者の団体である高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)は、厚生労働省老健局から発出された通知2を受けて、紹介事業者の届出制度の運用を改めた。高住連が運営する紹介事業者の届出制度(高齢者住まい紹介事業者届出公表制度)において、「社会保障費に応じた金額設定は厳に慎む」など、紹介事業者が届出にあたり遵守すべき項目の見直しを行った(2025年1月届出分より適用)。
また、同日に高住連が公表した「高齢者向け住まい紹介事業の実態把握(ホーム運営事業者向け、紹介事業者向けアンケートの集計結果)3」においては、「紹介料の決め方」(紹介事業者向けの質問)について「ホームごとに介護度や医療必要度等を考慮して決めている」との回答が47.9%(102件)であった。「ホームごとに介護度や医療必要度等を考慮して決めている」との回答のうち高額(100万円以上)の紹介手数料となった理由として、紹介事業者から回答があった23件のうち、(空室が増えたことや開設直後で空室が多いことを理由とする一時的な)「キャンペーンにて上乗せ紹介料が示された」が17件と最も多く、一部ではがん末期などの入居者についての料金をホーム側から示されたとした回答も2件あった。
2025年2月18日の第217回国会衆議院予算委員会では、その前日の記事4を引用しつつ有料老人ホーム等の入居者紹介事業のあり方への見解について厚生労働大臣への質疑が行われた5。
また、本年4月より厚生労働省では「有料老人ホームにおける望ましいサービスのあり方に関する検討会」を開催している。有料老人ホームの運営やサービス提供のあり方を検討する中で、入居者紹介事業について運営の透明性の確保や消費者保護の観点からの方策が検討事項に含まれている。
さらに、本年4月23日には財政制度等審議会財政制度等分科会において、財務省が「(前略)職員の処遇改善等に充てられるべき公費(税金)と保険料を財源とする診療報酬・介護報酬が、紹介手数料等に充てられているとすれば、重大な問題。」とし、本年5月27日に財政制度等審議会から財務大臣宛てに建議された「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」において「(前略)紹介事業者への手数料等に係る対応など、給付の合理化・適正化が必要となる。」とするなど、最近、紹介事業者に支払われる紹介手数料のあり方を課題であるとする報道等が増えている。
以上のように国の主催する検討会等で議論が進んでいるが、新たに制度のあり方を策定し、それが浸透するまでには一定の時間がかかるとみられる。そこで、今回は、有料老人ホーム等への入居を検討するにあたり消費者が知っておくべきこととして、「入居者紹介事業」のビジネス構造をとりあげる(以下、入居を検討する消費者…具体的には高齢者やその家族等…を「入居検討者」とする)。
まず第一に、入居検討者にとって紹介事業者は利便性が高く、実際に利用されることが多い。入居検討者が有料老人ホーム等を探す場面を考えてみると、要介護度が徐々に悪化することにより在宅での介護の継続が難しくなるケースのほか、急性期疾患やケガで入院したあと、急ぎ退院先を決定しなくてはならないケースなどがある。入居検討者がホーム(運営事業者)のホームページ等を検索し問い合わせることも可能であるが、一件一件各社のホームページを見ていくのは手間と時間がかかる上に、それぞれのホームの違いが分かりにくいといった感想を持つことも多いであろう。こうした状況で複数のホームや異なる運営法人のホームを一挙にまとめて紹介している紹介事業者のページを見つけ、紹介事業者に問い合わせを行うことで入居検討者の手間と時間は大幅に効率化される。
一方、有料老人ホーム等の運営事業者は、入居者の募集(営業活動)について、自社ホームページ等への掲出に加えて地域包括支援センター、居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)や病院のソーシャルワーカー(MSW)へ入居検討者を紹介してもらえるよう働きかけを行っている。これに加えて、紹介事業者との間で紹介契約を締結し、紹介手数料を支払って入居者を集めるケースが従前より存在している。
ケアマネジャーやMSWとしても、それら紹介事業者がワンストップで対応してくれることから利便性が高く、入居検討者がケアマネジャーやMSW等の専門職に相談しても、結局はケアマネジャーやMSW等から紹介事業者に連絡したうえでホームを紹介されるケースも少なくない。
また、紹介事業は現時点で特段の法的規制がなく事業を開始しやすいこともあり、紹介事業者の数は増加する傾向にあるとされている。
次に紹介事業者のビジネス構造の実態を概説する。以下、第3回「有料老人ホームにおける望ましいサービスのあり方に関する検討会」に厚生労働省が提出した図を用いて解説する。

入居検討者が紹介事業者を通じて有料老人ホーム等(以下、「ホーム(運営事業者)」)を探そうとすると以下の流れとなる。
① 入居検討者が紹介事業者に相談・依頼する
② 紹介事業者は自社が契約しているホーム(運営事業者)の中から、入居検討者に対し、ホーム(運営事業者)の情報提供、見学先の調整や見学同行等の支援を行う(=紹介事業者がホーム(運営事業者)に入居検討者を紹介する)
③ 入居検討者がホーム(運営事業者)と入居契約を締結する
④ 入居契約が成約したのち、ホーム(運営事業者)から紹介事業者に紹介謝礼(紹介手数料)が支払われる。
ここで留意すべきは2点ある。
1つ目は、ほとんどの場合、紹介事業者は入居検討者からは費用を受領していないという点である。もちろん紹介事業者はボランティアでホームの紹介を行っているわけではない。ホームの情報を入手し、入居検討者に情報提供を行うほかにも、見学日程の調整や見学の送迎等も行う。当然ながら事務所等の固定費や相談員や事務員といった人件費が発生しているが、それらの費用への原資は入居検討者からではなく、成約した後にホーム(運営事業者)から紹介手数料(紹介謝礼)として受領して事業を運営しているのである。
紹介手数料に関する法的規制等はなく、紹介事業者とホーム(運営事業者)との相対で交渉されて決定している。したがって、入居者募集に困っているホーム(運営事業者)が、紹介事業者に対し優先的に紹介してもらうために他社より高額な紹介手数料を取り決めることがある。
2つ目は、紹介事業者は紹介契約を結んでいるホーム(運営事業者)の中から紹介するという点である。すなわち、地域のすべてのホーム(運営事業者)の中から紹介しているのではないことである。

さらに付け加えるとすれば、次の点にも留意が必要であろう。たとえば、紹介事業者のホームページで「親切な対応でした。無料でホームを紹介してもらい見学にも同行してもらいました。」といった趣旨の「お客様の声」が掲載されていることがある。もちろん紹介事業者の多くは相談に来た入居検討者のそれぞれの事情や要望(例えば自宅から近い、スタッフが感じがよい、医療対応が充実している、など)を踏まえ、その人に合った、最適なホームを紹介していると思われるが、たとえば同じ1件の紹介にかかる手間が同等であるとした場合、より高額の紹介手数料を支払ってくれるホームを勧めたくなることがまったくないとは言い切れない6。つまり、入居検討者はじぶんにふさわしいホームを紹介してもらったつもりであるのに、実は単に紹介事業者が提携しているホームの中から、紹介手数料の多いホームへの入居を勧められていただけという可能性がある。
紹介事業者を利用するメリットは入居検討者にとって大きい。しかし、入居検討者は費用負担なく紹介してもらっているとしても、紹介事業についてホーム(運営事業者)が負担する紹介手数料で成り立っていること、紹介事業者が提携しているホーム(運営事業者)以外は紹介されないことを知った上で、紹介事業者を賢く利用したい。また、急ぎで入居先を探す必要がないように、将来の入居を想定して自分でも入居先の候補となる有料老人ホーム等を調べておくなどの対応をおすすめしたい。
- 介護付きホーム、住宅型老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者住まい
- 「「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」における行動指針の見直しとその遵守の徹底について」(厚生労働省老健局高齢者支援課長通知(老高発1108第1号)、2024年11月8日)および「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(厚生労働省老健局長通知(老発1206第2号)、2024年12月6日)
- 2024年11月15日~12月6日に実施、回答数:紹介事業者213件、運営事業者2,174件、詳細は「高齢者向け住まい紹介事業に関する実態把握調査の結果報告」を参照
https://koujuren.jp/news_detail.php?c=1&id=153 アクセス日2025/05/27 - 要介護度高い高齢者に「高額値付け」 老人ホーム紹介ビジネスが横行(2025年2月17日、朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/AST2J3C2ST2JUTIL00PM.html アクセス日2025/05/28 - 「【社会保険料を下げる改革】何故社会保険料は増え続けているのか?中長期的ベッドコントロールで医療費適正化、高額な紹介料が横行する老人ホームビジネスへの対応等」https://youtu.be/pbPKJiNP8ZU?feature=shared アクセス日2025/05/26
- 先に触れた衆議院予算委員会(2025年2月18日)においても同趣旨の質疑があった。