マクロ経済・公共政策

伸びるホテル、伸び悩む旅館

上級研究員 小池 理人

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 インバウンドが活況を呈する中で好調な宿泊業であるが、ホテルと旅館とで状況は異なっている。経済産業省が公表する第3次産業活動指数をみると、ホテルがコロナ前を上回る水準で推移する一方で、旅館については依然としてコロナ前の水準に達しておらず、足もとではむしろ水準を切り下げている(図表1)。最新の景気ウォッチャー調査(2025年4月調査、現状)をみても、ホテルにおいては「良」や「やや良」のコメントがみられるのに対し、旅館においては「良」や「やや良」のコメントは一つもみられていない1
 第3次産業活動指数において、両者に違いが生じ始めたのは2022年後半からであり、この時期は外国人観光客の受け入れ再開時期と一致する。外国人観光客の受け入れ再開以降、訪日外客数の回復は続き(図表2)、それに呼応するようにホテルの活動指数は上昇したが、旅館の活動指数の動きは停滞が続いている。
 観光庁が公表するインバウンド消費動向調査をみると、外国人観光客が訪日前に期待していたことに対する「旅館に宿泊」との回答は18.1%と、「日本食を食べること」(82.2%)や「繁華街の街歩き」(54.7%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(26.8%)などと比較して低く、旅館への期待が低いことが示されている(図表3)。
 理由として考えられるのが、旅館サービスとインバウンド需要との不一致だ。旅館においては短期滞在を前提していることが多く、1週間など、長期の滞在には馴染みにくい。また、食事時間があらかじめ定められており、自由度が低いことが多い。
 インバウンドの回復は人口減少の続く日本経済において、重要な需要増加要因であるものの、供給制約によって受け入れが困難になってきている。こうした中、旅館の魅力を海外に伝え、サービス内容を柔軟化させることで需要を取り込むことに成功すれば、宿泊業全体としての需要分散化に繋がり、供給制約が一定程度緩和されることが期待できる。

  • 景気ウォッチャー調査では、景況感について「良い」「やや良い」「どちらとも言えない」「やや悪い」「悪い」という5つの選択肢から回答がなされる。

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