マクロ経済・公共政策

選挙戦のさなかに打ち出された外国人政策の司令塔設置

上席研究員 野田 彰彦

7月20日に投開票される参院選で、外国人政策への注目度が高まっている。「日本人ファースト」を掲げる参政党が6月の都議選で3議席を獲得して躍進し、その勢いのまま参院選でも支持を広げているためだ。一部メディアの情勢調査では、比例代表の投票先として参政党が自民党に次ぐ2位に浮上している。

外国人政策はSNSでも盛り上がりを見せており、参院選の論点に関するX(旧ツイッター)の投稿を分析すると、「外国人規制」への言及数が公示前の1か月で4割ほど伸び、他の論点を上回る状況が続いているという(7月6日付け日本経済新聞)。

参院選にあたって各党は、外国人政策について踏み込んだ公約を打ち出している(図表)。自民党は、昨年の衆院選で「適正な出入国在留管理」と「在留外国人との共生」をバランスよく公約に示していたが、今回は「違法外国人ゼロに向けた取組を加速化」するとして、管理強化を前面に押し出した。連立与党を組む公明党も、重点政策として「共生社会の実現」に加え「在留管理の高度化」を掲げる。

一方の野党をみると、国民民主党は、基本スタンスは自民党と大きく違わないとみられるが、外国人による土地取得の規制などを含め「外国人に適用される諸制度の運用を適正化」するとしている。日本維新の会や参政党などは、今の外国人労働者政策は事実上の移民政策であるとして、抜本的な見直しを主張する。対照的に、立憲民主党や共産党、社民党といったリベラル色の強い政党は、共生の重要さを強調している。

各党がこうした政策を掲げて論戦に臨むなか、7月8日(火曜日)の閣僚懇談会で石破茂首相は、外国人政策の司令塔となる事務局組織を内閣官房に設けると表明した。その後の記者会見で林芳正官房長官は、経済成長には海外活力の取り込みが不可欠だとしたうえで、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為、各種制度の不適切な利用など国民が不安や不公平感を有する状況も生じている」「外国人との秩序ある共生社会の実現は、政府として取り組むべき重要な政策課題の一つだ」と述べた。

前述したとおり、日本の外国人政策は「適切な在留管理」と「外国人との共生」が両輪となっているが、今回は「秩序」という言葉を使って「在留管理」に一層力を入れる姿勢を示したものと受け止められる。ただ、司令塔の設置は、日本維新の会が公約に掲げている。こうした施策を選挙戦のさなかに打ち出した背景には、保守票の一部が参政党に流れることに対する自民党の危機感があったものと推察される。

今回の選挙で、仮に自公両党が参議院の過半数を維持できたとしても、衆議院が少数与党となっている状況下では、石破政権は引き続き不安定な政権運営を強いられる。他党との協力関係、とりわけ保守勢力との協力関係を築くための材料として、外国人政策が使われる可能性もゼロではないだろう。

外国人政策については、2027年度から始まる育成就労の細かな制度設計が進められている最中であり、場合によってはこうした作業に影響が及ぶかもしれない。また、共生社会に向けた各種の取組(在留外国人に対する日本語教育や子ども支援の充実等)は推進力の弱さが指摘されてきたが、こうした傾向に拍車がかかるのかも注目される。

いずれにせよ、今次参院選は外国人政策の行方を占う試金石になるであろう。

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