クック理事解任でリスクが高まる10月利下げ

上級研究員 初田 好弘

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 日本時間の8/26、トランプ大統領が、FRBのクック理事を解任したと発表した。過去の住宅ローン取引を巡る疑惑が理由とされるものの、トランプ大統領がパウエルFRB議長に対しても批判を繰り返している状況を踏まえると、政治的圧力の一環という見方はぬぐえない。交代人事によって、よりトランプ大統領に近い考えの持ち主が選ばれれば、いっそう利下げ圧力が高まることになる。当然、今後のFRBの利下げ動向に注目が集まるだろう。
 9月に関しては、マーケットはほぼ利下げを織り込んでいる。もともとパウエル議長は、金融政策は経済データ次第というスタンスを続けてきた。足もとでは、FRBの金融政策目標の1つである雇用に関して、8月上旬に公表された雇用統計が大幅に下方修正されたことで、利下げ期待が急速に高まっている。8月中旬に公表されたCPIに目立った上昇が見られず、また、パウエル議長が8/22のジャクソンホール講演でも雇用の悪化リスクに言及したことで、利下げの素地は整えられたとみるべきだろう。
 より注目すべきは、インフレ圧力が高まる10月以降の利下げ動向だ。7月下旬~8月上旬に主要国・地域との間で相次いで関税合意が得られたことから、その内容を踏まえて本格的に価格転嫁する企業が増え、10月頃から経済指標にその影響が表れてくるとみている。パウエル議長は、関税によるインフレへの影響の様子見を、ここ数カ月の金利据え置き判断の理由の一つに挙げていた。クック理事解任報道前の時点では、利下げと据え置きが拮抗していたが、報道を受けて利下げ確率が高まる可能性が高い。仮に、関税の影響で一段の物価上昇が生じている状況にもかかわらず利下げを行った場合、これまでの説明と理屈が合わなくなる恐れがある。
 

 
 折しも、トランプ大統領は、次期FRB議長の選任を進めているとされる。流れとしては、ベッセント氏が全候補者と面談を行い、その上で最終候補者リストを大統領に提言するとみられている。しかし、トランプ大統領が既に候補者をある程度絞っており、また早めに指名したい意向を示していることを踏まえると、今秋にも指名される可能性が高いとみる。
 この次期FRB議長指名と、関税の影響が現れる中での利下げのタイミングが重なった場合、パウエル議長のレームダック化が進み、利下げ判断に政治的圧力が影響したとの見方が強まるだろう。市場が、トランプ大統領による利下げ圧力が当面続くと見て、利下げ催促相場を形成する恐れもある。FRBには、政治的圧力が高まる中でも、政治的圧力が判断に影響していると受け取られないよう、難しいコミュニケーションおよび政策決定が求められることになる。

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