在宅勤務は省エネになるか
~エネルギー安全保障としての需要側の取組の重要性~
1.イラン情勢で高騰する燃料、IEAが求める緊急対応
2026年3月20日、国際エネルギー機関(IEA)は、中東情勢の混乱による原油価格上昇への対応策として、原油やガスの需要抑制を通じて消費者への負担を和らげる方策を示した1。その中には、在宅勤務の推奨、速度抑制、公共交通の利用促進、不要不急の航空移動の抑制などが含まれる。これは脱炭素政策というより、まずエネルギー安全保障上の緊急対応として打ち出されたものである。なかでも在宅勤務は、通勤構造、住宅条件、産業構造といった日本国内の地域差によって効果が左右される。では、日本において在宅勤務は有効な省エネ策と言えるのだろうか。
2.在宅勤務は必ずしも省エネにはならない
直感的には、在宅勤務で通勤が減れば、燃料消費もCO2排出も減るように見える。実際、米国を対象とした研究では、出社から在宅勤務への切り替えで仕事に伴うCO2排出量が最大58%削減し得ることが示されている2。ただしその効果は、通勤手段、非通勤移動、オフィス運用、自宅と職場の条件に大きく左右される。英国の研究でも、在宅勤務で家庭のエネルギー需要が16~117%増え得るほか、交通削減まで含めた総排出も3%減から17%増まで変動するとされる3。つまり、在宅勤務は必ずしも省エネにつながる施策ではなく、生活と住宅の条件次第でその効果が大きく変わる打ち手であると言える。
3.大都市と地方で異なる在宅勤務の効果
この点を日本で考えるうえで重要なのが、地域ごとに異なる通勤構造である。2020年の国勢調査によれば、自宅外就業者・通学者の利用交通手段は「自家用車のみ」が48.2%と最も高く、「鉄道・電車のみ」は17.6%にとどまる(図表1)。加えて地域差も大きく、大都市圏では鉄道利用が多い一方、地方では自動車依存が強い。国土交通省の全国都市交通特性調査でも、地方都市圏は三大都市圏より自動車分担率が高いことが確認されている(図表2)。
つまり、鉄道中心の都市部では在宅勤務による燃料削減効果は相対的に小さく、自動車通勤が前提の地方や郊外では大きくなりやすい。実際、東京23区と栃木県を比較した研究では、テレワークによる年間1人当たりのCO2排出量低減効果を、乗用車と二輪車の走行削減分のみに限って評価すると、栃木県では226kg-CO2となるものの、東京23区では4kg-CO2にとどまると推計されている4。
4.効果が見込める地域ほど、テレワークは普及しにくい
しかし、在宅勤務を含むテレワークの導入状況を見ると課題が浮き彫りになる。パーソル総合研究所の2025年調査では、正社員のテレワーク実施率は全国で22.5%にとどまり、関東が31.7%と高い一方、北海道・東北は13.7%と低い5。この背景には地域の意識差というよりも、業務構造の違いがあると言えよう。RIETIの2025年の研究でも、日本のテレワーク実施状況が学歴、企業規模、職種、産業、東京圏への集中と強く結びついていることが示されている6。つまり、自動車依存が強く、在宅勤務が燃料需要削減に効果的な地域ほど、実際には在宅勤務が広がりにくいと言える。
5.寒冷地では、通勤削減だけでは効果を測れない
さらに、北海道・東北のような寒冷地では、在宅勤務の評価に別の視点が必要である。環境省の家庭部門CO2統計によると、例えば北海道では世帯当たり年間用途別CO2排出量のうち暖房が4割強を占める7(図表3)。寒冷地では、家にいる時間が長くなれば暖房需要が増え、通勤削減分を一部相殺し得るため、在宅勤務は移動の削減策としてだけでなく、住宅・暖房条件と一体で評価すべき対策である。
また、国立環境研究所の2024年の分析では、東京都市圏を対象にした研究として、オフィスの減床策が講じられない場合、在宅勤務による住宅側のエネルギー消費増と職場側の減少はほぼ相殺され、全体のエネルギー消費量は変わらない可能性があることが示されている8。逆に、オフィス面積の縮減が伴えば削減効果が見込まれる。日本でも在宅勤務の効果は一律ではなく、住宅条件、通勤構造、オフィス運用をあわせて評価する必要がある。
6.需要側でも無理なく省エネに取り組める仕組みづくりを
このように、在宅勤務の省エネ効果は地域の通勤構造や住宅条件によって大きく異なる。だからこそ、個人の努力だけでなく、それを支える仕組みづくりが重要になる。政府のGX(グリーントランスフォーメーション)投資の方向性もこうした問題意識を後押ししている。2025年12月に策定された『分野別投資戦略 ver.3』では、家庭、業務、運輸からなる『くらし関連部門』において、断熱窓改修、高効率給湯器、住宅・建築物の省エネ性能向上、自家用車を含む運輸部門のGXなどが重視されている9。ここで示されているのは、行動変容を個人の努力だけでなく、住宅や設備への投資と一体で進めるという発想である。
IEAの提言が示しているのは、エネルギー危機への対応には供給側の対策だけでなく、需要側でも無理なく取り組める省エネ行動を広げることが重要であるということである。日本でIEAの提言を活かした在宅勤務を取り入れるには、都市部では出張等の代替、地方では自動車依存の高い移動の削減、寒冷地では断熱改修や高効率暖房との組み合わせといった、地域条件に応じた設計と、それを支えるGX投資が不可欠であろう。
- IEA「New IEA report highlights options to ease oil price pressures on consumers in response to Middle East supply disruptions」(2026年3月)
- Tao, Y., Yang, L., Jaffe, S., Amini, F., Bergen, P., Hecht, B., & You, F. (2023). Climate mitigation potentials of teleworking are sensitive to changes in lifestyle and workplace rather than ICT usage. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(39), e2304099120.
- Shi, Y., Sorrell, S., & Foxon, T. (2023). The impact of teleworking on domestic energy use and carbon emissions: An assessment for England. Energy and Buildings, 287, 112996.
- 青木えり, 平松あい, & 花木啓祐. (2023). コロナ禍のテレワークによる CO2 排出量低減効果の推定. 土木学会論文集, 79(26), 23-26002.
- パーソル総合研究所「第十回・テレワークに関する調査」(2025年8月)
- Morikawa, M. (2025). Telework in Japan: An Overview from Micro Data of a Large Statistical Survey. Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI) Discussion papers, (25001).
- 環境省「家庭の中からのCO2排出量」(2026年3月23日閲覧)
- 国立環境研究所「在宅勤務の実施に伴うエネルギー消費量への影響の分析」(2024年2月)
- 経済産業省「分野別投資戦略(ver.3)」(2025年12月)