物価高の中で、何の価格が下がっているのか
物価が高騰している。食料品にしても、エネルギーにしても、身の回りのあらゆるモノやサービスの価格が上昇しているように感じる。消費者物価指数では、582品目が調査対象となっており、それぞれの動きを確認することができるが、やはりほとんどの品目で価格上昇の動きがみられている。しかし、物価高の中においても、価格低下がみられる品目が存在する。以下では、その品目とその理由について探っていく。
582品目の中で、物価上昇前の2019年比で価格が低下した品目は34品目であった(図表1)1。価格低下をもたらした理由として最も多いのが、制度要因だ。具体例としては、教育無償化を背景とした授業料価格の低下や酒税法改正に伴うビール価格の低下などが挙げられる。市場原理とは異なる理由で価格押し下げ圧力が生じているため、物価高の中でも消費者物価指数の低下が生じている。
品質調整による影響もみられた。消費者物価指数の作成にあたっては、純粋な価格変化だけではなく、各品目の品質の向上も考慮される。価格が同じであっても、製品の品質が向上した場合には、その分を割り引いて指数が作成される(≒指数が低下する)ことになる。こうした影響は、メモリーカードやテレビなどにおいて生じやすい。
また、被服・履物においても価格低下が生じている。食料品や光熱・水道といった生活必需品の価格が高騰する中で、家計は選択的支出の削減を余儀なくされており、被服・履物への支出を削減している(図表2)。衣料品販売店において、需要が減少する中で積極的に値上げすることは難しく、そのことが価格の低下に繋がっているものとみられる。
ドラッグストア主導の価格競争の影響も考えられる。ドラッグストアを巡っては、客寄せを目的に日用品において価格競争が目立っている2。こうした中、茶飲料やボディソープに価格下押し圧力が生じているものとみられる。養毛剤については、それに加え、代替品である医療用脱毛処方薬の浸透が影響している可能性もある。
残りの6品目について、それぞれ理由を解説する。まず、振込手数料については、窓口・ATMで値上げが行われる一方で、インターネットバンキングでは値下げが行われ、デジタル化が促進されている。消費者物価指数では、インターネットバンキングでの値下げが大きく反映されたものとみられる。PTA会費(小学校・中学校)はコロナ禍を経て、経費や繰越金の見直し等が進んだ可能性がある。ビデオソフト・ゲームソフトについては、動画配信サービスやソーシャルゲームなど、競合の存在が価格押し上げを難しくしているものとみられる。たれについては、暦年で比較すると小幅な価格低下となっているが、月次でみると価格は2025年の終盤に大きく上昇しており、単に値上げのタイミングが遅かっただけであると考えられる(図表3)。
以上のように、物価高の中においても価格低下のみられる品目は確かに存在するが、その多くが制度要因や特殊事情によるものであった。今後は、中東情勢悪化に伴うエネルギー高の影響が様々な品目に及んでくることになるため、被服・履物や茶飲料などの日用品に関しても値上げは免れないだろう。物価高に対する家計・企業の動向がこれまで以上に注視される。
- 本稿では、2025年と2019年の各品目の指数を比較し、2025年の指数の方が低い品目を、価格が低下した品目としている。
- ドラッグストア業界では近年M&Aを通じた寡占化が進んでいる一方で、元々のプレイヤー数が多いこともあり、依然として過当競争が生じやすい構造にある。