ヘルスケア・ウェルビーイング

人口減少社会における医療機関のDX・AI活用を通じた新しい地域社会連携

特命部長上席研究員 岡島 正泰

医療機関 におけるDX・AI活用の展開

人口減少社会において、特に地方に所在する医療機関は患者の減少、慢性期への医療ニーズの変化、人手不足という三つの困難に直面している。この状況下で持続可能な医療提供体制を構築するため、DX、特にAIの活用が積極的に検討されている。

先進事例であるHITO病院(愛媛県四国中央市)は、スマートフォンとグループチャットの導入により、多職種間の情報連携の効率化により時間外勤務を54.1%削減するなど、業務効率化を実現した。単なる技術導入ではなく、業務実態に即した運用設計が奏功したと評価されている。

さらに、同院は院内の業務改善に留まらず、PHR(Personal Health Record)の活用による予防医療の推進や、入退院支援の一環で、医療・介護の枠を超えて地域の行政・金融機関等との連携を強化している。これにより、患者の生活を包括的に支える「地域になくてはならない存在」へと進化を遂げようとしている。

HITO病院の事例は、既に地域における医療・介護の基盤として中核的な役割を果たしている医療機関が、行政・金融機関といった他分野との連携を通じて地域で暮らす高齢者の福祉や私的な財産管理等の課題にも処方箋を示す可能性を示唆している。

※この節の内容は、東京財団のレビュー「人口減少社会の地域医療機関におけるDX・AI活用の展開」にて詳述しているため、参照願いたい。

医療・介護の枠を超えた地域社会連携

医療機関の患者の中には、日常生活に障害をきたし、他者の支援を必要とする者も多い。彼らが安心して適切な療養生活を送るためには、医療・介護の枠を超えた幅広い支援が不可欠である。その支援ニーズは、極めて多岐にわたる。具体的には、見守り、配食、清掃、付き添い、買い物といった日常生活支援に加え、日常の金銭管理、行政手続きの支援、金融資産の管理、自宅等の不動産のリフォームや住み替え、さらには信託や遺言といった法務サービスなどである。人出不足の中、医療機関がこうした幅広いニーズに応えていくためには、適切な連携先の確保が欠かせない。多様な専門機関との連携を通じて、患者が切れ目のない支援を受けられる体制を築くことが、医療機関に求められる重要な役割と言えるだろう。

行政においては、社会福祉法の改正が検討されており 、「小規模市町村における包括的な支援体制の整備を促進する事業」や「頼れる身寄りがいない高齢者等に対する(中略)相談体制等の整備を図る」取り組みが推進されようとしている。地域社会の相談体制の整備が図られることで、支援ニーズのある患者に接した医療機関からの連携が容易になる。

一方、金融・住まい・法務等の私的な財産管理の支援ニーズは、セーフティネット整備という文脈でとらえることができないことから、行政の介入対象になりにくい。東京大学高齢社会総合研究機構が推進する「Advance Life Planning調査研究」 は、そのような連携先を確保し、相談者の状況に応じて適切な連携先を紹介する「ALPアドバイザー」を育成する試みである。ALPアドバイザーが普及した場合、医療機関は、所属するMSW(医療ソーシャルワーカー)にALPアドバイザーを兼務させたり、地域のALPアドバイザー(金融機関等に所属している想定)を紹介し彼らと連携することで、私的な財産管理の支援ニーズにも応えやすくなる。

行政の相談窓口や、ALPアドバイザーの整備が進んだ未来では、医療機関におけるDXが院外にもその効果を発揮する将来像が展望できる。

例えば、医療機関の受診状況に基づいてALPアドバイザーへの相談を促し、金融・住まい・法務等の私的な財産管理のトラブルが顕在化する前にタイムリーな備えを促す。ALPアドバイザーやALPアドバイザーが紹介する連携先の事業者が本人の同意の下でPHR情報等を参照することで、本人の状態を正しく認識してアドバイスやサービスを提供する。また、患者の財産管理の備えの意識を喚起することで、高齢期のライフプランニングや延命治療等の方針を事前に選択するACP(アドバンス・ケア・プランニング)も促進する。

このような取組を経て、医療機関が保有する情報に財産管理の支援ニーズおよび対処方法に関する情報を紐づけることができれば、その分析結果を基に、入退院支援の一環で財産管理に関する提案を行い、連携先の事業者を紹介することも可能になる可能性がある。 つまり、DXにより蓄積されたデータは院内利用にとどまらず、地域で適切に共有され、前持った人生の備えと快適な療養生活の調整に貢献していく可能性につながるのである。

医療DX・AI活用の深化に基づく医療・介護の枠を超えた支援により、医療機関が「地域になくてはならない存在」となる将来像の実現が期待される。

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