ヘルスケア・ウェルビーイング

介護人材確保に向けたスポットワークへの期待と懸念

主任研究員 清水 大晟

【内容に関するご照会先:ページ下部の「お問い合わせ」までご連絡ください】

1.長期雇用の入り口として注目されるスポットワーク

 

2018年に登場して以後、スポットワークの利用者が増加し続けている。多様な業界で活用が進んでおり、スポットワークの労働者(以後、ワーカー)と事業者を結ぶプラットフォームの数も増えてきている。
 従来は、スポットワークは急な欠員や繁忙時間帯を補う短期的な人員確保手段であったが、近年では事業者がワーカーを長期雇用する前の「お試し就労」の機会としても機能してきている。プラットフォームによっては、事業者に対して直接雇用への切り替えを規約で推奨したり、正社員採用を視野に入れたリスキリング講座を開講したりしている。

一方、日本労働組合総連合会が発表した『スポットワークに関する調査1』では、スポットワークを経験したワーカーの46.8%が、就業中に何らかのトラブルを経験したことがあると回答している。このようなトラブルを受け、厚生労働省からはスポットワークでの注意点をまとめたワーカー向けのリーフレットが発行されている2。また、スポットワーク協会のホームページでは、プラットフォームに対する「スポットワーク雇用仲介事業ガイドライン3」や、事業者の労務管理に関するリーフレット4が確認できる。
 また、スポットワークは数時間単位で多数のワーカーと契約する仕組み上、従来のアルバイト等に比べて事業所に出入りする人の数が増える。スポットワークにおいて個人情報の適切な取り扱いが求められる中、スポットワーク協会によるガイドラインでは、事業者に対して個人情報保護法等の関連法令の遵守につとめることを喚起している。

 

2.介護業界特有の課題への対策が必要

スポットワークは介護業界でも広がってきている。2026年5月15日、日本介護福祉士会と、介護スポットワークのプラットフォームを提供するカイテク株式会社が包括連携協定を締結した5。他にも、プラットフォームと大手事業者との業務提携6や、カイテクと自治体との連携協定7,8,9が続々発表されている。介護業界でのスポットワークは今後さらに拡大していくことが見込まれる。プラットフォームで公開されている内容を閲覧したところ、長期雇用を視野に入れた説明会や面接への参加を前提とした募集を掲載する介護事業者が複数見受けられた。介護業界でも、スポットワークを経由した長期雇用に対する積極的な意向が伺える。例えばカイテクでは、スポットワーク協会のガイドライン改定に伴いサービス内容の変更が行われていた10。介護業界のスポットワーク事業者も、同ガイドラインのような一般的に推奨される規則に基づいた運用が広がっていくだろう。

ここで、介護業務は、利用者の日常生活と密に関わるという特性によって、他業界と比べてプライバシーや個人情報保護の観点でトラブルが生じやすい可能性があることに注意したい。介護現場では、利用者の身体状況、既往歴や現病、経済状況、家族構成など、多くの方の私的で取り扱いに配慮を要する情報に触れる機会が非常に多い。しかし、スポットワーク協会のガイドラインには、そうした要配慮情報に関わる記述は確認できない。

さらに、訪問介護や定期巡回といった在宅の利用者を対象にしたスポットワークでは別のリスクもある。要介護状態にある高齢者等の利用者宅を訪問する職員は、多くの場合、単独で訪問する。一般に、訪問介護員等はみな有資格者であり、身元が事業所によって明確に確認されている。それに加えて、時間をかけて利用者本人や関係者となじみになっていくという前提に立つため、比較的利用者の信頼を得やすいと言える。しかし、なじみのないスポットワーク職員の場合には、その前提が成立しにくいという課題がある。よって、在宅介護におけるスポットワークでは、顧客の個人情報やプライバシーの侵害だけでなく、無資格で顔なじみのないことに起因する不適切接触等のトラブルを抑止するため、現場では従来以上の厳格なマネジメントが求められるだろう。

このようなトラブルの可能性がある中で、介護業界全体、とりわけ在宅介護に関連する全国的なスポットワークのガイドラインは、公開情報上確認できない。自治体や、事業者およびプラットフォームによる内部ルールが存在する可能性はあり、例えば北海道旭川市では介護スポットワークにおける留意点を独自にまとめている11。だが、介護業界としてスポットワークの活用を効果的かつ健全に進めていくためには、介護業界特有の課題に対する全国的なガイドラインの制定が必要であると考えられる。

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る