ヘルスケア・ウェルビーイング

iPhoneは本当に高くなったのか ~価格・購入負担からみる13年~

上級研究員 石田 育秀

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 2026年9月、Appleが発表した新型iPhone1のなかでも目を引くのが、30万円を大きく超える価格が設定された同社初の折りたたみディスプレイを搭載したiPhone Duo2である。日本でも高い人気を誇るiPhoneだが、新製品の価格を見て、「iPhoneは高くなった」と感じる人も少なくないのではないだろうか。

 スマートフォンは、いまや通話やメール、チャット、カメラはもちろん、決済や情報収集、健康・運動データの記録、行政・金融サービスの利用など、日常生活のさまざまな場面を支える身近な存在である。なかでもiPhoneは日本で高い人気を集めており、その価格は多くの人にとって関心のあるところだろう。こうした日常生活に身近なモノを無理なく手に入れられるかという経済的な充足も、ウェルビーイングを考える一つの要素といえよう3。では、iPhoneを手に入れるための経済的な負担は、この十数年で実際にどの程度大きくなったのだろうか。

 そこで、Apple Storeで公式価格を確認できる2013年のiPhone 5c以降について、発売時の税込価格を整理し、一つの試みとして、購入負担を労働時間に置き換えてみた。すなわち、「最低賃金で働く場合、iPhoneを1台購入するために何時間働く必要があるのか」という前提を置いて「必要労働時間4」を試算し、その変化をみていく。

1.長期的に上昇してきたiPhone価格

 購入負担の時系列推移を整理したものが図表1である。

 2013年に発売されたiPhone 5cのApple Storeでの発売価格は63,840円(税込)であった。この価格を100とすると、2025年のiPhone 17(129,800円)の価格指数は203.3となる。12年間で名目価格は約2倍になった計算である。

 もっとも、すべてのiPhoneが5cより高かったわけではない。表にはないが、2016年以降に投入されたSEシリーズを見ると、第1世代の価格指数は89.3、第2世代は77.2、第3世代は90.5である。2013年以降に発売されたモデルのなかで、価格指数が100を下回ったのは、SEシリーズの3モデルだけであった。

2.必要労働時間は一方向には上昇していない

 名目の販売価格だけでなく、購入負担を労働時間に置き換えてみる。そこで、各モデルについて試算した必要労働時間を確認してみよう。
 
 2013年のiPhone 5cでは83.6時間であった。通常モデルを時系列で追うと、6は93.9時間、6sは117.5時間と続いていき、16は118.3時間、17は115.8時間となる。
 この試算から見えてくるのは、名目価格は長期的に上昇しているものの、必要労働時間は一方向に上昇してきたわけではないことである。例えば2015年の6sでは117.5時間まで上昇したが、2019年の11では91.3時間まで低下した。その後再び増加し、2022~23年には124時間台となったものの、近年は最低賃金の上昇もあって再び低下している。
 すなわち、通常モデルでは2013年の5cの83.6時間を下回ったことは一度もない。2025年のiPhone 17でも115.8時間であり、5cと比べて約38%多くの労働時間を必要とする。
 
 一方、表にはないが、SE第1~3世代はいずれも5cより発売価格が安く、必要労働時間も第1世代69.3時間、第2世代54.6時間、第3世代60.1時間と、5cの83.6時間を下回った。本稿で比較したモデルのうち、名目価格と必要労働時間の双方で5cを下回ったのは、SEシリーズの3モデルだけである。SEシリーズの実質的な後継に位置づけられる16e・17eは、ともに99,800円と5cを約56%上回るものの、必要労働時間は16eが89.0時間、17eが84.8時間であり、17eでは5cとほぼ同水準となっている。

3.それでもiPhone 17は「割高」になったといえるのか

 ここまでを見ると、「iPhoneは以前より割高になった」と結論付けたくなる。しかし、2013年の5cと2025年の17では、同じiPhoneという名称であっても、その性能や用途は大きく異なる。ディスプレイ、ストレージ、処理能力、カメラ、通信、セキュリティなどの性能は大幅に向上した。   

 さらに、スマートフォン自体が果たす役割も大きく変化している。かつての通話やメール、ウェブ閲覧を中心とした端末から、現在では各種機能やサービスを一台で担う端末へと変化してきた。

 したがって、5cの63,840円から17の129,800円へ名目価格が約2倍になったという事実だけから、「iPhoneが約2倍割高になった」と評価することはできないのではないか7

 必要労働時間でみれば、5cの83.6時間から17の115.8時間への増加は約38%である。12年間の大幅な高機能化や、スマートフォンが代替してきた機器・サービスの広がりを考えれば、この38%の負担増は高機能化に見合ったものと評価する余地もある。
 すなわち、「価格が約2倍になった」ことと「約2倍割高になった」ことは同じではない。

4.13年の間のiPhoneの価格推移は何を意味するのか

 そして2026年、iPhoneの価格をめぐる議論はさらに新しい段階に入った。

 これまでAppleは、通常モデルに加えてProやPro Maxなどの上位モデル、SEシリーズや現在のeシリーズといった廉価モデルを展開してきた。

 ここまでみてきたように、通常モデルの価格は長期的に上昇してきた。一方、SEシリーズなど通常モデルより安価な製品も投入されてきた。SE3までは5cより少ない労働時間で購入できるモデルが存在した。現在の17eは10万円近い価格になったものの、必要労働時間は5cとほぼ同水準にとどまる。

 つまり、iPhoneの13年間は、単に価格だけをみて「値上げの歴史」と捉えることはできない。通常モデルの名目価格は大きく上昇したものの、必要労働時間でみた購入負担の増加はそれより小さく、さらに端末自体の高機能化も進んできた。そうしたなかで、2026年には30万円を超えるDuoが登場した。

 では、30万円を超えるようなiPhoneについても、iPhone 17までと同じように「高機能化に見合った価格」と評価できるのだろうか。

 iPhoneの価格の推移を振り返ると、ウェルビーイングを経済的な充足という側面から考えるうえでも、日常生活を支える身近なモノを手に入れるための購入負担と、そこから得られる価値とのバランスは1つの重要な視点である。利便性の向上として打ち出されてくる新しい機能や価値を、どのように評価していくのかということかもしれない。

  • Apple、iPhoneは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標である。
  • https://www.apple.com/jp/shop/buy-iphone/iphone-duo
  • OECDでは、現在のウェルビーイングを構成する「物質的条件(Material conditions)」の一つとして、「所得と資産(Income and Wealth)」を位置づけている(How’s Life? 2024 Well-being and Resilience in Times of Crisis)
  • 商品の購入負担を労働時間に置き換える考え方には先例があり、UBSの Prices and Earnings(September 2012) では、iPhone 4Sを購入するために必要な労働時間を都市間で比較している。本稿では、便宜上、各年の発売価格(税込)を全国加重平均の最低賃金で除して試算した。
  • 通常モデルの最小ストレージ構成で試算、同一年に発売された他のモデルは掲載していない。
  • Duoは通常モデルではないが参考として掲載。2026年の必要労働時間は、同年度の最低賃金改定後の全国加重平均額を用いて算出。
  • iPhoneの日本での販売価格には為替レートなども影響し得るが、本稿ではその要因分析は対象としていない。

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