フューチャー・ビジョン

CES出展、実は増えてる日本企業
~ソニーやパナソニック撤退も~

上級研究員 秦野 貫

【内容に関するご照会先 :ページ下部の「お問い合わせ」または執筆者(TEL:050-5471-1041)にご連絡ください】

「常連」の不参加が相次ぐ

世界最大級のテクノロジー見本市「CES」から日本を代表する企業が相次いで姿を消す。9月28日、関連会社を通じた出展も含めると1967年の第1回から60年連続参加してきたソニーグループが2027年は見送ることが明らかになった1。パナソニックホールディングスも自社ブースを出さない方針だと報じられた2≪図表1≫。

日本の大手企業がCESを去る動きはここ数年で顕著になっている。CES2026ではソニーが初めて単独の出展を取りやめ、長年の常連だったニコンやキヤノンなども単独では参加しなかった。筆者はCESを2017年以降計4回現地で取材しているが、日本の存在感が薄れる一方で韓国や中国の企業が台頭する様子を肌で感じてきた。

ただ大手企業のCES撤退をもって日本企業の地盤沈下とみるのは早計だ。実は日本企業全体で見ると出展数はむしろ増えている。2026年と10年前の2016年を比較すると、全体の出展者数が約3,900社から約4,100社へと5.1%増加する中で、日本企業は約40社から約100社へと2倍以上に増えた3≪図表2≫。

日本企業は消費者との接点が薄れる

それでも日本勢の存在感が薄れて見えるのは、かつて会場の一等地で新しい家電やデジタル機器を世界に披露してきた大手企業が退出しているためだ。「Consumer Electronics Show」として始まったCESは、名称を変更した現在も「暮らしがどう変わるか」を示す場としての性格が強い。出展する日本企業の顔ぶれが変わったことは、日本企業が価値を生み出す場所が、消費者に身近な完成品から、素材・部材や産業向けの技術へと移っていることを映している。

実際、2000年前後には多くの消費者向け製品で日本企業が世界上位に位置していた。2000年時点の世界シェアを見ると、テレビはトップ5社のうち3社が日本企業、DVDプレーヤーは同4社、ビデオカメラやコンパクトカメラはそれぞれトップ5社すべてを日本企業が占めていた4。現在はこうした品目で順位を落とす一方、部品、素材、センサー、製造装置などでは高い競争力を維持する。2022年時点で日系企業が世界シェア60%以上を持つ224製品のうち7割超が素材・部材だった5。日本企業の活動の重心は、消費者との接点から製品の中や工場の中へ移っている。

こうした選択には合理性があった。価格競争の激しい完成品から距離を置き、技術優位や高い世界シェアを持つ領域へ経営資源を集中できる。少なくとも日本企業全体では稼ぐ力が衰えたわけではなく、上場企業の連結営業利益は2026年3月期に52.9兆円、売上高営業利益率は6.8%といずれも過去最高水準にある6。

ただその過程では、完成品を足場に新しい市場をつくる可能性も手放した面がある。スマートフォンはその典型的な製品だろう。日本勢が後退する一方、AppleはiPhoneを起点にアプリや決済、クラウドなどに事業を広げ、利用者との継続的な接点を通じて収益を得る仕組みを築いた。日本企業が産業の「川上」に向かったこの20年余りの間に、米国を中心とする巨大プラットフォーマーがOSやクラウド、アプリの流通基盤を押さえ、大きな価値を取り込む産業構造が形成された。

AIが動かす産業の境界と機会

しかし今、AIの進化によってこうした産業構造の中に新たな競争領域が生まれる可能性が出てきた。家電や自動車、ロボットなどと連携することによって、AIは作用する範囲を情報空間から実世界へと広げる。デジタル基盤を支えるプラットフォーマーに加え、実世界との接点を持つ企業にも新たな価値を提供する機会が生まれ得る。家電や自動車などはAIを介して他の製品・サービスと連携することで、単なるデジタル空間へのインターフェースにとどまらず、「家庭」「移動」「産業」といった領域全体で、単体では実現しにくい価値を提供する基盤となり得る。

CES 2026では韓国や中国の消費者向け製品メーカーがこうした方向を目指す姿勢を鮮明にした。LG電子は家電や家庭用ロボットなどをAIでつなぐことで生活全体をスマート化する「Sense-Think-Act」の構想を示した≪図表3≫。中国のTCLも車載システムと家電やモバイル機器をAIでつなぐ「Human-Vehicle-Home」のエコシステムを提示した。現代自動車グループは「AI Robotics」を掲げ、ロボットの利用を製造現場から物流、建設、施設管理などへ広げる構想を打ち出した。強い完成品と顧客接点を足場に、AIによって事業領域を広げようとする戦略が読み取れる。

日本企業にも、自動車をはじめロボットやセンサーなど、実世界に関わる技術や製品の強みが残る。AIがもたらす産業構造の再編は、消費者との接点を握る企業に技術を供給するだけでなく、自ら製品や技術を束ね、新しい製品やサービス、市場をつくる側へと事業を広げる機会にもなり得る。その意味でソニーとホンダがCES 2023で初披露した電気自動車(EV)「AFEELA」は象徴的だった≪図表4≫。ソニーのセンシング、ソフトウェア、エンターテインメントとホンダの自動車開発・生産を組み合わせ、高付加価値モビリティとサービスを展開する構想だったが、2026年3月に開発・発売中止が決まった。

CESから大手日本企業が消えることに日本人として多少の寂しさはあるが、それが即座に日本企業の衰退を意味するわけではない。懸念されるのは、かつて日本企業が競って示した「未来の暮らしをどう変えるか」という提案が消え、次の産業を主導する機会を逃すことだ。AIによって産業の境界が再び動く今、日本企業は何をつくり、どの市場を取りにいくのか。CES 2027では日本勢からその方向を示す提案が出てくることを期待したい。

  • 日本経済新聞電子版「ソニーグループ、27年のCES出展見送り 関連会社含めて不参加に」(2026年9月28日)
  • 日本経済新聞電子版「パナソニックHD、27年のCES出展見送り 初回から60年連続参加」(2026年9月15日)
  • 日本企業の出展数は、2016年はOlivier Ezratty, “Rapport du CES 2020”, Jan,2020.、2026年はEE Times, “AI Drives AV Momentum at CES 2026”, Feb.13, 2026 <https://www.eetimes.com/ai-drives-av-momentum-at-ces-2026/>。全体の出展数は主催者発表に基づく
  • 日経産業新聞「100品目シェア本社調査」(2001年7月13日)
  • 新エネルギー・産業技術総合開発機構 YouTubeチャンネル「産業技術のフロンティアを拓く新たなマテリアルによるイノベーション_ TSC Foresight セミナー」(2025年6月6日)<https://youtu.be/nghsYlG-Veg?si=BeOtaJ2a6idD6NN5>
  • 東京証券取引所「2026年3月期決算短信集計【連結】≪合計≫(プライム・スタンダード・グロース)」(2026年6月5日現在)。集計対象は1998年3月期以降の金融業を除く全産業

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る