ワーク・エコノミックグロース

これからの働き方をオランダから考える ~企業での選択的週休3日制導入の議論を端緒に~

主任研究員 大島 由佳

選択的週休3日制の導入を表明する企業が出てきている。背景には人材の流出防止や獲得、従業員の副業・兼業やリカレント(学び直し)促進への期待がある。オランダは、労働者に時間当たり賃金などの処遇を変えずにライフプランに応じて働く時間や日数を自ら選択し雇用主に申請できる権利を認め、労働参加率の向上とともに、高い労働生産性を実現してきたと評価される。オランダ企業は、柔軟で多様な働き方を支援するため、追加の休暇やサポート・プログラムを提供している。適切な業務配分・公正な評価、チーム主義に基づく従業員間の信頼の醸成などとあわせて成果を高めようとしている。

1.日本での「選択的週休3日制」導入を巡る動向

(1)政府や企業の動き

2021年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針 2021」(骨太方針 2021)の中で、「選択的週休3日制」(希望する従業員に1週間のうち3日の休日を付与する制度)の企業での導入促進を掲げた1。狙いは、従業員が育児・介護、ボランティア、副業・兼業をしながら働ける、働きながら学び直しができるようにすることである。少子高齢化により労働力減少や社会保障負担増加が進む日本では、幅広い人々の労働参加が求められる。また、産業構造の変化に合わせ、成長性が高い分野への人材の円滑な移動の促進が重要であり、そのために学び直しを通じた人材の育成が不可欠とされる。

企業では、育児・介護以外の目的での「選択的週休3日制」の導入の検討が始まっている。例えば、パナソニックは今年1月、希望する従業員が週休3日を選べる制度を導入する方針を明らかにした。副業や学び直し、ボランティアなど社外での取組みを推奨し、従業員が働きやすい環境作りを進める2。また、塩野義製薬は2022年度からの導入を発表している。新たなスキルの習得などを想定し、制度導入と同時に副業も解禁する。知見の吸収や外部の人脈作りに使える時間を生み、組織全体のイノベーション力向上を目指す3

(2)企業での「選択的週休3日制」導入に向けた主な論点

企業が「選択的週休3日制」を導入する際、労働時間や給与が論点の1つになる。①休日を増やして労働時間を減らすが給与は変えない、②休日を増やして労働時間を減らし給与も減らす、③休日を増やすが他の日の労働時間を増やして給与は変えない、の3つに大別される。従業員のニーズによりいずれの働き方が合うかは異なる4。企業としての導入の狙いに加え、従業員や求める人材のニーズを踏まえた検討が求められる。

「選択的週休3日制」を導入した場合、週休3日での労働を可能にする制度構築と組織運営も求められる5。現行法制でも「選択的週休3日制」の導入は可能である6が、休みが週休2日より多い制度を取っている企業は調査企業の8.3%に留まる7。理由は、週休3日が馴染まない職種などの他、給与体系や人事評価の制度設計や労働時間管理の煩雑さなどが考えられる8。週休3日を選択した従業員が休む1日分に関して、他の従業員が代わりに業務を担う必要があるか、必要な場合は業務をどう切り出すか、目標設定や評価方法をどうするかなど、週休3日を選択する本人と周囲の双方に不安や不公平感、負荷を生じさせない制度構築と組織運営が課題となる9

新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの普及など、時間と場所を問わない働き方が広がりつつある今、業務や評価方法の見直し、各自の職務内容の明確化、従業員間のコミュニケーションや連携方法が模索されている。これらは、前述した「選択的週休3日制」導入に向けた課題の解決策とも重なる。労働時間や給与も含めた踏み込んだ検討が必要ではあるが、企業も働く人も、現実感をもって「選択的週休3日制」を検討できるタイミングが来ているだろう。

そこで、本稿では制度改革や企業の取組みにより、個人が勤務日数や時間を自律的に選択する働き方が定着しているオランダを紹介する。オランダにおいて、企業は、従業員が働きやすいよう勤務時間や日数の自律的な選択に留まらず様々な選択肢を提供して、優秀な人材の獲得と能力発揮、労働生産性や競争力の向上を実現している点に焦点を当てる。

2.オランダの働き方と労働生産性など

(1)概要と歴史的経緯

オランダは「パートタイム社会」と言われるように、短時間就労(パートタイム)が普及している。パートタイムといっても、非正規や有期の雇用ではなく、無期雇用の正社員であり、労働時間の長短以外の待遇は同じである10。フルタイムは労働時間が週35時間以上、パートタイムは週35時間未満とされる11。理由の如何を問わずにフルタイムとパートタイム間の移行が労働者の権利として法律で認められている12

オランダでのパートタイムの普及は、1980年代の不況、高い社会保障給付による財政難に端を発する。政府・労働者・使用者での協議の文化が根付くオランダでは、政労使の痛み分け(政府:減税/社会保障改革、労働者:賃金抑制受容、使用者:雇用確保/時短)で経済を活性化させ、不況と財政難の克服を目指した。その際、雇用機会の確保・創出のために推進されたのが、パートタイム労働とワークシェアリングである。

(2)オランダと日本の国際的な位置

オランダの就業率は男女合計値では日本と同水準だが、就業率の男女差は日本より小さい《図表 1》。日本は、過去に比べてその意識は弱まっているものの、家事・育児の多くを担うのは依然として女性と言われ、働く女性の55%は非正規雇用である13。オランダもヨーロッパ諸国の中では性別役割分業の意識が強いとされるが、短時間労働は特に女性の労働参加を後押ししていると考えられる《図表 2》14。労働生産性、国際競争力やイノベーション力については、オランダは日本を上回る高い水準を実現している《図表 3》。

3.オランダ企業での取組み

オランダでは、フルタイムとパートタイムでの同一待遇、勤務時間と日数の自律的な選択、フルタイムとパートタイムの間の移行が労働者の権利として法律で認められているため、企業はその遵守を求められる。このような労働時間に関する労働者側の裁量の広さは、企業には制約や非効率になるのではないかという批判的な見方もある15。しかし、短時間労働など勤務時間や日数を選択して従業員が働けることは、《図表 3》の労働生産性や国際競争力に見られる企業の生産性や競争力を高める効果があるとも指摘されている16

オランダに本拠を置く大手投資銀行ABN AMRO銀行の人事担当者は、「新しい人が入社してくる際に、在宅勤務は可能か、フレキシブルに働けるのか、パートタイムで働けるのかなどを問われることが多く、人事部としては、そうした魅力を訴える必要」があるとコメントしている17。企業は、柔軟な雇用条件は優秀な人材の獲得と能力発揮につながり、労使双方にメリットがあるという認識のもと、従業員がライフプランに応じて柔軟に働く時間や日にち、更には場所を自律的に選択できるなど、働きやすい仕組み作りを積極的に行っている。

(1)ING

INGはオランダに本拠を置く多国籍銀行であり、新型コロナウイルスの感染拡大以前から先進的な働き方を取り入れている。例えば、勤務時間や場所を従業員が自ら決定できる「New Approach to Working」という制度がある。2012年にリモートワークから始まり、その後、どこでもINGのネットワークに接続し、時間や場所を自由に選んで働けるようになった。多様な働き方をする従業員の心身の健康をサポートするため、パーソナル・コーチやアプリを活用した「Energy@ING」などの施策も行っている18

2012年当時にリモートワーク可能だった従業員1,500人のうち89%が好意的な評価をしていて、生産性の向上とワーク・ライフ・バランスにつながっている。また、当時からテレビ会議や電話会議への移行を進め、会議出席のための移動費用やCO2排出量を削減した19

INGは、オランダ企業のブランドのランキングにおいて、2021年には第3位になっている20

(2)Philips

オランダに本拠を置く世界的な電子機器会社のPhilipsには、2005年から時間と場所の制約を受けないリモートワークの仕組みがある。また、「Philips à la Carte」という制度があり、従業員は追加的な休暇の購入や未消化の休暇(法律上取得が必須な休暇数は除く)などの換金が可能である21

Philipsは、2015年にはオランダ発の世界的な総合人材サービス会社Randstadが選ぶオランダで最も魅力的な雇用主に選定された22。また、世界で企業のブランディングサービスを行うUniversumによるオランダでの就職人気企業ランキングでは、2021年に技術系学生が選ぶ企業第4位に選ばれている23。オランダ企業のブランドのランキングでは、2021年に第5位になった24

(3)Schiphol Group

オランダの首都アムステルダムにある世界的なハブ空港の1つ、スキポール(Schiphol)空港などを所有・運営する空港会社のSchiphol Groupでは、従業員はフルタイム勤務の週労働時間を36時間・38時間・40時間から選べるほか、出勤と在宅勤務を自由に組み合わせることができる。休暇制度としては、毎年休暇時間を既存の休暇に加えて104時間まで購入でき、4年に1回使用できる最長4か月のサバティカル休暇のために休暇を貯めておく選択肢もある25

Schiphol Groupは、2015年にはオランダの最優秀雇用主1,000社で8位となり、Universumからはオランダの魅力的な雇用主に選ばれた26

(4)KLMオランダ航空

「選択的週休3日制」の導入時の課題として前述した、目標設定や評価方法、他の従業員によるカバーをどうするかなどについては、大手航空会社KLMオランダ航空の事例から、その解決方法の示唆が見出せる。

各従業員の就業時間に応じた適切な業務配分と目標設定を行い、成果があがらない従業員には上司が徹底して話し合い、行動計画の立案、実行、約半年後の再評価を行う。多くの場合はこれで改善されるという。

評価は、フルタイムか否かなど契約や働き方による相違はなく、時間内でどう仕事をしたかでなされる27

業務分担については、チーム内での議論や時間調整、会社としては労働力の追加などを行い、問題解決を図る28。各自の職務を明らかにするジョブ型雇用という前提に加えて、問題があれば皆で話し合って解決に最善を尽くす「チーム主義」の考え方も課題解決に寄与している。チーム内で仕事以外の内容も含めてオープンに会話し、働く目的、どのような働き方をしたいかなどの相手の考えや置かれた状況を知り、関係性や信頼を構築する文化がオランダ社会に根付いており、議論や協力による問題解決を可能にしているという29

KLMオランダ航空は、Universumによるオランダでの就職人気企業ランキングでは、2021年にビジネス系分野を学ぶ学生が選ぶ企業第5位に選ばれている30

4.むすび

本稿で取り上げた企業は、法律が定める働く時間や日、場所の選択肢だけではなく、健康を支援するプログラムや、労働時間と休暇を柔軟に増減できる制度などの幅広い選択肢を従業員に提供している31。従業員は、多人数が標準の働き方をして少人数が例外的な働き方をするのではなく、一人ひとりが選択肢を組み合わせて自分に合った働き方をしている。いずれの企業も雇用主や就職先としての魅力とブランド力が高いと評価されており、優秀な人材の獲得、ひいては労働生産性と企業競争力の向上に繋がっていると考えられる。

また、組織運営面では、働き方の相違によらず就業時間に応じた適切な業務配分と目標設定が行われ、成果が評価される。ジョブ型雇用という点はあるが、それだけではなく、チームの従業員間での密な対話により関係性や信頼を構築し、課題は議論や助け合いにより解決し、どの従業員も不安や不公平感、負荷を生じさせない組織運営が目指されている。選択的週休3日制の導入を検討する企業にとって、オランダの事例は制度面だけでなく組織運営の面でも参考になると考えられる。

効果の発露には時間がかかるかもしれないが、企業は従業員のライフプランに応じて働き方の選択肢を提供することが、優秀な人材の獲得と能力発揮による高い労働生産性と競争力を生み出すものと捉え、組織運営の在り方も含めて戦略的に検討していく必要があるのではないか。

  • 内閣府ホームページ 「経済財政運営と改革の基本方針 2021 日本の未来を拓く4つの原動力 ~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」(骨太方針 2021)(2021年6月18日閣議決定)
  • 日本経済新聞「パナソニック、週休3日制を導入へ 楠見社長が表明」(2022年1月6日)
  • 日本経済新聞「塩野義製薬、週休3日可能に 学び直しや副業を後押し」(2021年9月21日)
  • 星野卓也「選択的週休3日制の論点整理~誰のため・何のための制度なのか?~」(第一生命経済研究所 Economic Trends、 2021年4月16日)(visited Feb. 17, 2022)
    https://www.dlri.co.jp/files/macro/154077.pdf
  • Diamond Harvard Business Review 「週休3日制の導入に向けた6つのステップ」(ダイヤモンド社、2022年3月号)、他
  • 例えば、変形労働時間制を活用して週休3日制を導入する方法がある。変形労働時間制には、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制がある(労働基準法 第32条)。
  • 厚生労働省「就労条件総合調査」(2020年)
  • 厚生労働省「短時間正社員に関する企業アンケート調査」(2015 年)によると、企業が育児・介護休業法で定められた短時 間正社員制度以外の短時間正社員制度を導入していない理由として、「給与体系の設定、労働時間管理等の雇用管理が煩雑に なるから」「給与や評価制度等の設計方法がわからないから」などが挙がっている。なお、短時間正社員とは、フルタイム正 社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員であって、①期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締 結している、②時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等である、のいずれに も該当する社員をいう。厚生労働省 パート・有期労働ポータルサイト「短時間正社員とは?」(visited Feb. 17, 2022)
    https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/outline/
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「短時間正社員制度の導入と活用のポイント」(季刊 政策・経営研究 2010年 vol.2)
  • オランダには「パートタイム」とは別に、有期雇用や派遣労働などの「フレックス雇用」が存在する。権丈英子「オランダの
    労働市場」(日本労働研究雑誌 No. 693、2018年4月)
  • 週に何時間勤務をフルタイムとするかは企業によって異なる場合もある。
  • オランダでは、1990年代以降法整備が進んだ。1996年、賃金・手当・福利厚生・職場訓練・企業年金など、労働条件のすべてにわたりパートタイム労働者もフルタイム労働者と同等の権利が保障されるようになった。2000年には「労働時間調整法」により、労働者は時間当たり賃金を維持して労働時間を短縮・延長する権利が認められるようになった。2015年、「労働時間調整法」が「フレキシブル・ワーク法」に名称が改められ(2016年施行)、「労働時間の長さ」の他、「働く時間帯」と「就業場所」の変更を企業に申請する権利も労働者は認められた。権丈英子「オランダの労働市場」(前掲注 10)
  • 澁谷由紀「ジェンダーと仕事 ―欧米諸国との比較から見えるこれからの働き方―」(神田外語大学グローバル・コミュニケ
    ーション研究所 グローバル・コミュニケーション研究 第7号、2019年3月)
  • 女性のパートタイム就労が多い点は、個人の選択の自由のもとに男女の性別役割分業意識が残っているとの指摘もある。
  • 水島治郎「反転する福祉国家 オランダモデルの光と影」(岩波現代文庫、2019年1月)
  • 同上
  • 一般財団法人 1 more Baby 応援団「18時に帰る―「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方」
    (プレジデント社、2017年6月)
  • リクルートワークス研究所「Works Report 2018 フレキシブル・ワーク欧米8カ国の働き方改革(政策・事例)オランダ編」
  • 同上
  • Brand Finance “NETHERLANDS 50 2021 RANKING” (visited Feb. 17, 2022)
    https://brandirectory.com/rankings/netherlands/
  • Philips社 労働協約 (visited Feb. 17, 2022)
    https://www.unie.nl/wp-content/uploads/Philips-CEA-2018-2019-EN.pdf
  • 前掲注 18
  • Universum社ホームページ (visited Feb. 17, 2022)
    https://universumglobal.com/nl/studentenklassement-2021/
  • 前掲注 20
  • 前掲注 18
  • 前掲注 18
  • 前掲注 17
  • 前掲注 17
  • 前掲注 17
  • 前掲注 23
  • 日本でも導入できそうな他国の働き方に関する調査結果として、オランダの「時間貯蓄制度」(残業や休日出勤など所定外 の労働時間を貯蓄し、後日有給休暇などに振り替えて利用できる制度)が理想的かつ現実的な働き方として選ばれたという 調査結果がある。エアトリ社 ニュースリリース「日本の労働者に聞いた「日本でも導入できそうな他国の働き方」1位はオ ランダの『時間貯蓄制度』!「周りに迷惑がかからない」が選ばれるポイント?~「他国の働き方」に関する調査を実施~」 (2018年6月8日)
    https://www.airtrip-intl.com/news/2018/1798/
  • Autonomy “GOING PUBLIC: ICELAND’S JOURNEY TO A SHORTER WORKING WEEK”, Jun. 2021, BBC News Japan「給与そのままの「週休 3 日」で生産性向上も アイスランドで試験導入」(2021年7月6日)(visited Feb. 17, 2022) <
    https://www.bbc.com/japanese/57731066
    日本経済新聞「アイスランド、週休3日でも生産性向上」(2021年7月13日、英 Financial Times 2021年7月11日付 より)
  • 同様のトライアルはスペインやニュージーランドなど世界各地で実施されている。また、イギリスでの週4日勤務キャンペーンに関する 2021年5月の報告書は、労働時間を短縮することでイギリスの CO2 排出量を削減できる可能性を示唆した。

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