シティ・モビリティ

コロナ禍の人口への影響 ~外国人の入国者数の減少と東京一極集中緩和が進む ~

上席研究員 岡田 豊

住民基本台帳に基づく2021年の人口動態が2022年8月に公表された。外国人が調査対象になった2013年以降では、日本の人口(日本人+外国人)の減少数は最大となり、また、東京圏の東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の全てが人口減少に転じた。コロナ禍が外国人の入国者数の減少等により日本の人口減少を加速させ、また、東京圏の転入超過数の減少等により東京一極集中の緩和をもたらしたといえる。今後は、入国制限の緩和により外国人人口の減少に歯止めがかかる一方、フルリモートワークの定着等により2022年前半も東京都の転入超過数はコロナ禍前に戻っておらず、東京一極集中の緩和は続くであろう。

1.コロナ禍の日本全体の人口への影響

(1) 日本の人口減少ペースが加速

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」1によると、日本の人口は1億2,593万人で、2021年は2020年比▲73万人(▲はマイナスを表す)となった。減少数は、2020年(▲48万人)を大幅に上回り、住民基本台帳により外国人人口が把握できる2013年以降では最大となった。また、日本人と外国人に分けて2013年以降の人口の増減を見ると《図表1》、日本人人口は減少し続けており、2021年(▲62万人)は2020年(▲43万人)よりも減少が加速した。一方、外国人人口は2014年から2019年まで6年連続で増加してきたが、2020年に減少(▲6万人)に転じ、2021年(▲11万人)はさらに大きく減少した。


新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと記す)前は日本人人口の減少が拡大する一方、外国人人口の増加も拡大していたため、日本全体の人口の減少ペースは緩和されてきた。また、コロナ禍前の2019年には特定技能という新たな在留資格が設けられ、5年で35万人の受け入れ拡大が想定されるなど、外国人人口のさらなる増加が想定されていた。しかし、コロナ禍で外国人人口も減少に転じたため、日本の人口の減少ペースが想定外に加速している。

(2) 外国人の社会減少が拡大

人口動態は自然増減(出生者数-死亡者数)と社会増減(主に転入者数-転出者数)に分けることができる。日本人について見ると、2021年の自然増減数は▲63万人で、2020年(▲53万人)から減少数が拡大した。特に2021年の死亡者数は、前年比+7万人と大きく増加しており、新型コロナウイルス感染症による死亡に加え、心疾患や自殺などによる死亡者数も増加し、平年を大きく上回る超過死亡が生じている2。一方、2021年の社会増減数は+1万人で、2020年(+10万人)から急減している。この背景には、海外からの日本人の帰国がコロナ禍初年の2020年に比べて2021年は一服したことがある。

次に外国人について見ると、2021年の自然増加数は前年比+1万人で、出生数が死亡数を上回る状況が継続している。一方、2021年の社会増減数は▲12万人で、2020年(▲7万人)から減少数が大幅に増加しており、コロナ禍の入国制限の影響が大きい。実際に、国外からの外国人の転入者数は2019年(52万人)まで順調に増加していたものの、コロナ禍で2020年に23万人、2021年は12万人と急減している。

2.コロナ禍が地域別人口に及ぼす影響

(1) 東京圏の一都三県の全てで人口が減少

都道府県別人口を見ると、2021年に人口(日本人+外国人)が増加したのは沖縄県(+186人)だけとなっている《図表2》。2020年は、沖縄県に加えて東京圏の東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県も人口が増加していたが、その東京圏の一都三県は全て人口減少に転じたことになる。

都道府県別の自然増減数と社会増減数を日本人と外国人に分けると、東京圏の一都三県では日本人の社会増加(転入数が転出数を上回る)にも関わらず、日本人の自然減少(死亡者数が出生者数を上回る)と外国人の社会減少(転出者数が転入者数を上回る)により人口減少に至っていることがわかる(《図表3》)。

(2) 東京都の日本人の社会増加数が減少

2021年の都道府県別の日本人の社会増減数をコロナ禍前の2019年と比較すると《図表4》、東京都の社会増加数が激減しているのがわかる。さらに、日本人の国内移動について東京圏の一都三県を見ると、東京都では転入者数はやや減少したのに対し(2019年82万人→2021年80万人)、転出者数は大幅に増加した(2019年73万人→2021年79万人)。また、神奈川県、千葉県、埼玉県の三県合計では、転入者数(2019年98万人→2021年99万人)、転出者数(2019年92万人→2021年92万人)共に大きな変化がない。これらから、コロナ禍で東京圏の中でも東京都の人口が東京圏以外にも広く分散しているのがわかる。

3.今後のコロナ禍による人口への影響

(1) 外国人人口の増加が本格化するのは2023年以降

日本全体の人口に対するコロナ禍の主な影響は、外国人の転入者数の減少と日本人の死亡者数の増加に見られた。そこで、この影響が今後も続くのかを考察した。まず、2022年は外国人労働者と外国人留学生の受け入れを再開しているので、2022年の外国人の入国者数は増加すると推測される。ただし、外国人人口がコロナ禍前のような増加基調に戻るのかは、外国人材を大量に必要とされる業種における人材の過不足状況や、技能実習や特定技能といった外国人材の受け入れ政策次第であり、コロナ禍の影響が続く2022年は、外国人人口が増加に転じても、その増加数は2019年に遠く及ばないと推察される。外国人の入国が本格化し、コロナ禍前の水準を超えるのは、アフターコロナを迎え、景気回復が本格化する2023年以降であろう。

一方、2022年の日本人の死亡者数はコロナの影響次第であろう。オミクロン株は感染者に対する死亡率が低いとされるが、感染力が非常に強いため、新規感染者数はけた違いに多い。そのため、2022年の死亡者数は前年より増加する可能性が高そうだ。厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」3によると、新型コロナウイルス感染症陽性の死亡者数は、2022年8月上旬に2021年累計を上回り、なお増加している。

(2) コロナ禍前の東京一極集中に戻るには容易ではない

これまで東京都の人口は、日本人の自然減少数を外国人と日本人の社会増加数の合計が大きく上回ることで増加してきた。しかし、コロナ禍で外国人は社会減少に転じ、さらに日本人の社会増加数が激減しているため、東京都の人口はついに減少に転じた。また、東京都の日本人社会増加数の急減は東京圏以外に恩恵を与えており、人口の分散が進んでいる。コロナ禍が東京都の人口と東京一極集中に与えた影響は甚大である。

アフターコロナで最も注目されるのは、コロナ禍で急減した東京都の社会増加数の行方である。2022年に大流行しているオミクロン株は大都市以外にも広範囲に広がっており、人口当たりの新規感染者数では東京都と大きな違いのない地域が多く、東京都を脱出してもコロナ禍を避けるのは難しい。

しかし、総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、2022年6月までの東京都の日本人の転入超過数はコロナ禍前の2019年の同時期より減少している(《図表5》)。特に、行動制限が撤廃されたことの人口移動への影響で注目された2022年5月と6月も、2019年の同月より東京都の転入超過数は大きく減少している。また、この特徴は東京圏に拡大しても変わらない。この背景にフルリモートワークを利用した「転職なき移住」の浸透があると考えられることから、東京都や東京圏の日本人の社会増減数がコロナ禍前の水準に戻るのは容易ではない。さらに、人口の地方分散を望む国や自治体によってフルリモートワークが一層推進されるならば、東京一極集中の緩和がアフターコロナでも続く可能性が高まるだろう。

  • 人口は2022年1月1日現在。また、人口動態は2021年1月1日から12月31日までの1年間。なお、特に記さない限り、本稿の統計はこの資料が出典。
  • 厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
  • https://covid19.mhlw.go.jp/

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