シティ・モビリティ

ローカル鉄道の廃線問題 ~ コロナ禍で放置できなくなったJRの赤字路線~

上席研究員 岡田 豊

JR各社は大都市圏の路線や新幹線の利益によってローカル線の赤字路線を支えているが、このビジネスモデルがコロナ禍で大きく揺らいでいる。これを受けて国は、廃線問題に関する鉄道事業者と沿線自治体の協議について提言を発表した。この提言では、今の鉄道の維持に固執せず、地域の交通網の将来像において鉄道をどう生かすのか、それ以外の代替手段も含め、鉄道事業者と自治体が最適な地域住民の足を探ることが求められている。今後は代表的な赤字路線を巡る協議の進展とともに、解決策として注目される「上下分離方式」や「BRT」について、先行事例である只見線や気仙沼線・大船渡線BRTの行方が注目される。                      

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1.はじめに

日本初の鉄道路線は1872年10月14日に新橋駅1~横浜駅2で開通した。2022年は鉄道開通から150周年を迎えたが、この記念の年に鉄道の将来に大きな影響を与える、ローカル鉄道の廃線問題が浮上している。

JR各社は都市部の路線や新幹線で得られる利益によってローカル鉄道の赤字路線を支えている。しかし、都市部の路線や新幹線の経営環境はコロナ禍で大きく揺らいでおり、このままではローカル鉄道の赤字路線が維持できなくなるという問題意識がJR各社で高まっている。一方、沿線自治体はローカル鉄道の廃線を街づくりに関わる大きな問題と捉え、廃線協議への警戒感が根強い。

鉄道事業者と沿線自治体は、廃線問題におけるこのような対立構造を解消し、街づくりで協力できる点を見出し、前向きに協議することが望まれる。そこで、国は「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、検討会と記す)を2022年2月から開催し、「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言~地域戦略の中でどう活かし、どう刷新するか~」(以下、提言と記す)を2022年7月に公表した。

本稿では、この検討会の議論と提言を中心に、今回のローカル鉄道の廃線問題の特徴、赤字線区の現状、JR東日本やJR西日本等を襲うコロナ禍の影響、今後の廃線協議の進め方、等について考察したい。

(本稿は、時事通信社「金融財政事情」(2022年10月)への寄稿を基本的に踏襲しながら、JR北海道・JR四国・JR九州のローカル路線情報やJR九州の観光列車「A列車で行こう」、気仙沼線BRTの現地撮影画像等を追記したものである)

2.今回の廃線問題はコロナ禍のJR問題として浮上

ローカル鉄道の廃線問題の歴史は長い。特に、国鉄民営化前後の廃線ラッシュは際立っている。巨額赤字で苦境に陥った国鉄の再建のために、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」が1980年に成立した。同法に基づき、旅客営業1km当たりの1日平均旅客輸送人員を表す「輸送密度」3が8,000人以上等の幹線系線区以外は、「地方交通線」とされた。この地方交通線は1981年に全国で175線区あったが、そのうち83線区は1990年頃までの約10年間でバス転換や第三セクターへの移換等を終えた。

一方、今回、約40年ぶりにローカル鉄道の廃線問題が浮上した背景は前回の国鉄民営化時とやや違う。検討会の提言において「人口減少、少子化の進展、モータリゼーションを前提としたライフスタイルや都市構造の変化等により、相当程度進行していたにもかかわらず、危機認識が広く共有されてこなかった。」と記されているように、国鉄民営化時に課題とされた廃線問題が長年放置されてきた。実際に、前述の地方交通線の多くは国鉄民営化後も人口減少とモータリゼーションの進展で苦戦しているが、JRの経営判断でバス転換や第三セクターへの移換等に至る線区は18線区に留まっている。

国鉄民営化後にローカル鉄道の赤字路線が長年にわたり大きな問題とならなかったのはJRのビジネスモデルに起因する。JR東日本は検討会への提出資料4において「首都圏や新幹線の利益で地方交通線を維持する内部補助構造」と表現しているように、JR各社は利用者が多い都市部の鉄道路線や新幹線の黒字によってローカル鉄道の赤字路線を支えている。そのため、鉄道事業者が社として赤字に陥らない限り大きな声を上げにくい。

しかし、都市部の路線や新幹線の経営環境はコロナ禍で一変した。通勤利用・観光利用・出張利用等がコロナ禍により減少し、JR東日本やJR西日本も赤字に転落した。また、リモートワークやオンライン会議をはじめとする、コロナ禍で起こった新しいライフスタイルは一部で定着し、通勤や出張による利用はコロナ禍前に戻ることが今後も難しいとされる。例えばJR西日本は、検討会に提出した資料5で「コロナ禍により、社会の行動変容が急激に進む中で、鉄道全体のご利用は元に戻らないと想定」と述べている。このように、今回のローカル鉄道の廃線問題は、コロナ禍を受けた本州を中心としたJR各社のビジネスモデルの持続可能性と深く結びついている。

3.赤字路線の深刻な背景

(1) 県境を越える線区や「盲腸線」で苦戦

赤字路線の実情を見るために、JR東日本とJR西日本の赤字路線を紹介したい。JR東日本は輸送密度が2,000人未満の「ご利用の少ない線区」の経営情報を2022年7月に初めて開示した。コロナ禍前が大部分の期間となる2019年度について、輸送密度ワースト10は図表1の通りであるが、これらから典型的な課題のある線区を紹介する6

陸羽東線の鳴子温泉〜最上と花輪線の荒屋新町〜鹿角花輪は県境をまたぐ線区である。ローカル鉄道で県境をまたぐ線区は県境をまたがない線区に比べて、輸送密度が低迷するケースが少なくない。ローカル鉄道の赤字路線の沿線エリアでは、利用者は高校生と高齢者がメインとならざるをえないが、そのうち、高校生では県境を越えた通学は希少であるからだ。

ローカル鉄道の沿線エリアでは少子高齢化・人口減少になかなか歯止めがかからず、高校生や高齢者の減少が今後も避けられない。そのため、赤字に陥ったローカル鉄道にとって、高校生と高齢者以外に観光客等を増やすことも考えていかねばならない。

また、久留里線は利用者の多い内房線から木更津駅で内陸部へ分岐し、上総亀山駅が終点となる。このような利用の多い路線から分岐して行き止まりとなる路線は「盲腸線」と呼ばれ、全国的に苦戦しており、高校生や高齢者の利用に依存する傾向が強い。この久留里線も、木更津〜久留里の2019年度の輸送密度は1,425人で、久留里〜上総亀山の20倍弱に上るが、その背景には久留里駅を最寄り駅とする県立君津青葉高等学校(生徒数は約300人)が挙げられる。このエリアの中心都市である木更津方面から久留里駅に通う高校生の利用が久留里線の生命線の一つとなっている。

(2) 人口が少ない山間部にある線区は苦戦

JR西日本も2022年4月にローカル線の経営状況を初めて発表した。JR西日本「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」によると、2019年度の輸送密度ワースト10は図表2の通りである。芸備線の3線区のように、中国地方の山間部の線区において輸送密度の少なさが目立つ。この芸備線は広島駅と備中神代駅を結ぶ路線である。このうち、広島~三次は広島市の経済圏で輸送密度が多いが、山間部の線区では非常に少ない。

東城〜備後落合は1日の便数が非常に少ない。2022年10月の東城駅発・備後落合駅行は早朝の5時台、13時台、19時台のわずか3本しかない7。この便数では不便で輸送密度が低迷するのは致し方ない。また、同じくワースト線区に挙がっている木次線もこの芸備線の備後落合駅から日本海側の山陰本線の宍道駅まで走っている。このように、人口が少ない山間地にある線区は総じて苦戦しているといえる。山間部の自治体の多くが今後も人口減少が避けられないうえ、大都市からのアクセスの悪さから住民以外の観光需要に多大な期待をかけることも難しく、公共交通網を維持する際はバス転換などの抜本的な対策が必要とされる。

しかし、山間部では道路網が充実していると言い難く、バス転換は容易でない。そのため、巨額の赤字が続いても廃線線区は少なく、鉄道事業者にとっては非常に重い負担となっている。例えば、前述の東城〜備後落合は2017年度~2019年度の年平均の収支を見ると、収入はJR西日本で最も少ない100万円であるにも関わらず、経費は2.6億円に上る。また、山間部の線区では地震、豪雨、豪雪等の天災による被害が近年相次いでいるが、このような線区では復旧か廃線かという議論が長引き、復旧しても時間がかかるケースが少なくない。

また、大糸線は松本駅と糸魚川駅を結ぶ路線である。このうち、JR東日本が管轄する松本~南小谷は著名観光地である黒部や白馬を含み、大都市から特急も走っている。そのため、人口の多い松本や東京圏からの誘客に成功しており、2019年度の輸送密度は3,077人と多い。一方、JR西日本が管轄する南小谷~糸魚川は、特急が走っておらず、糸魚川駅からの北陸方面からの観光客誘致に苦戦している。また、沿線エリアの人口が少ないため、住民の利用は低迷している。沿線の9駅の1日当たりの平均乗降客数についてコロナ禍前の2019年度を見ると、新幹線利用者が計上される糸魚川駅と白馬の北限となる南小谷駅を除けば、7駅の乗降客数は低迷し、最大でも13人、1人のみの駅が3つに及んでおり、この区間の2017年度~2019年度の平均収支は約6億円の赤字になっている。

このため、新潟・長野両県、沿線自治体、JR西日本、JR東日本(オブザーバー)が参加する「大糸線活性化協議会」が2019年に設立され、JR東日本管轄の信濃大町~南小谷も含めて大糸線の利用増加に向けた方策が議論され、鉄道が走っていない時間帯にバスを走らせる等のいくつかの対策を講じた。しかし、効果があまり上がらなかったこともあって、JR西日本は「持続可能な路線としての方策」という表現で、大糸線の管轄線区の今後についてさらに踏み込んだ議論を沿線自治体と行うと2022年2月に発表している8

(3) JR北海道は全線区が赤字、JR四国は2/3が赤字

JR東日本とJR西日本以外で、ローカル線の輸送密度と収支を公表していないJR東海以外のJR各社の状況を概観してみる。

まず、今回の論争の火付け役ともいえるのはJR北海道である。他のJR各社に先駆けてJR北海道がコロナ禍前の2016年に赤字路線問題への対応に乗り出したのは、管轄の全ての路線が赤字であったからである。

市町村で全国第5位の200万人弱の人口を抱え、北海道内で一極集中している札幌都市圏の路線やその札幌と旅行需要が極めて多いことで知られる新千歳空港を結ぶ路線も含め、コロナ禍前から全ての路線が赤字であることは驚きをもって受け止められた。例えば、2019年度の輸送密度で最も多いのは函館線(小樽~札幌)で45,565人と非常に多いが、札幌都市圏ではこの函館線(小樽~札幌)と周辺3線区と合わせた収支は▲26.62億円の赤字である9

2019年度の輸送密度と収支を見ると、23線区のうち、輸送密度が1000人未満の線区が12にも上る。また、JR北海道の輸送密度が低い線区では、他のJR各社の輸送密度の少ない線区であまり見られない、営業経費が10億円を超えるところが続出している(図表3)。北海道で特徴的な雪対策にかかる経費が大きくなっているからだ。数万人の輸送密度に上る札幌都市圏の線区の赤字も雪対策経費の重さが要因の一つである。このような雪対策経費の負担の重さを考えると、JR北海道の線区で黒字化は非常に難しい。

2019年度のJR四国は19線区のうち、本四備讃線(児島~宇多津)等、高松市~松山市周辺の6線区を除いて赤字である。2019年の輸送密度2000人未満の線区は図表4の通りである。JR四国は他のJR各社のように突出した輸送密度が期待できる大都市圏の線区や新幹線がない。四国ではほとんどの自治体が人口減少に苦しんでおり、今後も観光需要の飛躍的な増加がない限り、輸送密度の改善の見込みが立ちにくい。JR四国は国鉄民営化の際に営業基盤が最も弱い会社の一つと考えられていたが、その苦境を脱する策は30年以上たっても見出すことが難しい。

(4) 著名観光列車を運行していても赤字のJR九州の線区

JR九州も苦しんでいる。九州内で人口の一極集中傾向にある福岡都市圏の路線やJR各社に比べて先んじて力を入れてきた観光列車10 で健闘しているものの、多くの路線で赤字となっている(図表5)。また、JR九州は福岡と九州各地を結ぶ路線を中心に西日本鉄道の比較的安価なバス路線と激しく競っている。さらに、JR九州を象徴するのはJRで最も多い本数が運行されている観光列車であるが、投資負担は重く、各線区の収支を圧迫している。

象徴的な線区は三角線(宇土~三角)である。三角線は鹿児島本線から宇土で分岐し三角で終点となる、いわゆる「盲腸線」である。2019年の輸送密度は1,187人で、図表5の輸送密度ランキングでワースト10位までに入らないものの、ワースト11位に位置する。

この線区を含む熊本~三角では特急「A列車で行こう」が2011年に運行開始し、JR九州の観光列車の中で人気を誇る列車とされる。乗車時間が1時間弱と限定されていることから、2時間前後の乗車時間の観光列車のように、車内で豪華飲食サービスが提供できないというデメリットはあるものの、JR九州のほとんどの観光列車のデザインを手掛ける水戸岡鋭治氏のデザインによる豪華車両は他の観光列車と遜色のない感動があろう。また、終点の三角駅そばにある三角港には天草の海の絶景ポイントを巡る豪華クルーザー「シークルーズ号」(こちらも水戸岡鋭治氏がデザイン)が接続している。さらに、三角港には大型観光施設「リゾラテラス天草」がオープンし、土産物だけでなく、地元の食材を使った贅沢ランチを味わうことができる。このように、多様なプレーヤー間で連携が取れた観光振興は珍しい。

しかし、2019年も三角線は2.42億円の赤字である。観光振興だけでは周辺人口の減少による乗降客数の低迷を補いきれないためであろう。このようにJR九州はローカル線の観光振興にこれまで注力してきたが、その努力の甲斐なく線区の収支の赤字が続けば、今後の努力に限界もあろう。観光列車の見直し11も含め、ローカル線の赤字を放置するのは難しい環境にあろう。

4.コロナ禍によるJR各社のダメージは甚大

前述のように、赤字路線の維持管理が厳しくなりつつある背景にはコロナ禍の影響がある。そこで、特にその影響が甚大とされるJR東日本とJR西日本についてコロナ禍の影響を見てみよう。

まず、JR東日本の2022年3月期の決算説明会の資料を見ると、運輸事業では2019年度の営業収益が2兆円で、営業利益も2,500億円の黒字であったが、コロナ禍で一変し、2020年度は営業収益が半減し、営業利益は5,000億円を上回る巨額の赤字に転落した。2022年度について2019年度比で、営業収益が8割程度に戻り、営業利益はなんとか黒字を確保するものの、その額は25分の1に留まる見込みである。また、新幹線の主要路線である東北新幹線(東京~大宮)と山手線における2021年度の輸送密度を2019年度と比較すると、コロナ禍で前者は半減、後者は約四割の減少となった。

次に、JR西日本を見ると、2019年度の運輸業の営業収益は1兆円弱、営業利益が1,500億円弱の黒字であるのに対し、2021年度の営業収益は5,000億円強に留まったため、営業利益が1,500億円弱の赤字に転落し、コロナ禍で大きなダメージを受けた。さらに、輸送密度の多い山陽新幹線(新大阪~岡山)と大阪環状線(天王寺~新今宮)における2021年度の輸送密度を2019年度と比較すると、コロナ禍で前者は半減、後者は約三割の減少となっている。

このように、JR東日本とJR西日本は、コロナ禍により新幹線と都市部の基幹路線で輸送密度が大きく減少する等により、経営基盤が大きく揺さぶられている。

線区別収支を出しているJR北海道、JR四国、JR九州もほとんどの路線がコロナ禍でさらに苦境に陥っており、抜本的な対策が必要な段階に突入しているといえる。

5.今回の提言のポイント

(1) 「守るものは鉄道そのものではない」

JR各社のコロナ禍の影響を踏まえて、検討会はローカル鉄道の赤字路線対策を提言している。特に、「守るものは鉄道そのものではなく、地域の足であるとの認識のもと、廃止ありき、存続ありきという前提を置かずに協議」が重要である。これまでの廃線議論では、協議に入ることさえ避ける自治体が少なくなく、また協議に入っても結論に至るまで長期間に及びがちだった。しかし、提言は議論の期限を設けつつ、「地域の足」という表現で廃線だけでなく鉄道活性化策も含めて鉄道事業者と沿線自治体が議論することを促している(図表6)。

また、輸送密度に具体的な水準が盛り込まれたことで、対象線区が明らかになったことも注目される。ただし、新たに設けられる「特定線区再構築協議会(仮称)」の対象の輸送密度1,000人未満という水準は、これまでの廃線議論に比べて対象線区が厳選されている。国鉄民営化時は4,000人未満が、その後のJR各社は2,000人未満が、廃線議論の対象と考えていたからだ。なお、平常時の輸送密度が1,000人を切っている線区で営業エリアが単独の市町村に留まるケースは、第三セクターや地方の私鉄に多いと思われるが、既存の地域公共交通活性化再生法に基づいて協議が進められる。

このように、今回の提言は、対策に急を要する線区に限定した上で、JR各社と都道府県を加えた広域調整の新しいあり方を提起したものである。

(2) 上下分離方式やBRT等の様々な工夫を検討すべき

今回の提言では地域住民の足確保に向けて、様々な工夫が記されている。注目は2022年10月に災害から復旧した只見線で採用された「上下分離方式」である。只見線は会津若松駅と小出駅を結ぶ山間地の路線で輸送密度は低迷していたが、2011年の豪雨災害で不通になり、廃線も含む議論が長引いていた。結果的にJR東日本と福島県で協議が行われ、線路の保有管理は福島県が、列車の運行はJR東日本がそれぞれ担うことで2017年に合意した。只見線の今後の状況は上下分離方式の全国的な広がりに影響を与えそうだ。

BRTも鉄道の代替手段として重要な選択肢である。BRTは鉄道のバス転換の一つの形態である。既存の線路跡をバス専用レーンとして生かしつつ、既存の駅を超えて街中にもバスとして運行エリアを広げることで、鉄道がカバーできなかった集客施設等をカバーできる。また、バスであるゆえ最大輸送定員は鉄道より少ないものの、運行本数に柔軟性があること、運行経費が鉄道よりかなり低いこと、バス路線はダイヤ通りの運行が難しいとされるなか、BRTの線路跡の専用レーンでは定刻通りの運行が可能であること等もメリットである。さらには、山間部のように道路網が充実していない地域では鉄道廃線によるバス転換も容易ではなく、線路跡を専用レーンとして利用できるBRTは有力な選択肢になりえる。

特に「特定BRT」は目新しい提言である。バス路線ながらJR扱いとすることで、時刻表がJRと一体化されたり、JRの鉄道線区と同様の運賃体系になる等、JR線区維持を希望する沿線自治体として受け入れやすいであろう。JRにとっても激しい廃線運動を免れ、かつ維持管理費が鉄道より割安であることは大きなメリットである。この特定BRTのモデルケースとして、東日本大震災の被災地で運行中の、気仙沼線BRT(気仙沼線前谷地~旧気仙沼線の柳津〜気仙沼。前谷地~柳津は鉄道とBRTが併存)と大船渡線BRT(旧大船渡線の気仙沼〜盛)には大きな注目が集まっている。2022年12月から柳津~陸前横山の1駅間(約5キロで乗車時間は約7分間)について上下共に2本について、運転手が同乗する「レベル2」の自動運転も開始された。

6.おわりに

このように今回の提言では、国の関与は限定的とはいえ、これまでより一歩踏み込んだ提案が盛り込まれたといえよう。また、輸送密度の水準において何らかの足切りを行うというよりも、線区ごとに鉄道事業者と自治体が議論を深め、地域の交通網の将来像において鉄道をどう生かすのか、それ以外の代替手段も含め、最適な地域住民の足を前向きに探ることが求められている。今後は今回の方針に沿った議論が実際にこれまでに比べて円滑に進むのかどうか、実証実験等による代替手段の検証やアフターコロナの鉄道事業者の経営状況の行方も含めて注視していく必要があろう。

特に、代替手段としてのBRTにかかる期待は大きい。今回の提言はこの種の行政文書として珍しく、表紙と裏表紙に大きなイラストが掲載されている。これは水戸岡鋭治氏の会社によるもので、ローカル鉄道の再構築のイメージ図としてBRTのイラストが大々的に取り上げられている。前述のように、自治体とJR双方にメリットがあるため、今後はBRT化が進みそうだ。ただし、ローカル鉄道の沿線のほとんどが人口減少に苦しんでいることや、降雪地域であればBRT専用道路の除雪費用の負担が大きいこともあり、BRT化でも赤字回避は容易ではない。BRTの持続可能性を高めるためには、財政支援によるサブスク化等でリーズナブルな運賃とし、自動車からBRTへの利用転換を住民に積極的に促す必要がある。また、観光振興に向けてはBRT路線を含む広域での回遊性の担保が重要であり、自治体や鉄道会社の垣根を超えた連携が求められよう。

そのうえで、実証実験や代替手段の成果について、今後の他のエリアでの検討に資するべく、線区の利用状況や収支に留まらず、沿線エリアへの社会経済に与える影響に関するデータも広く公開してほしい。さらに将来的には、このような議論の枠組みは輸送密度の少ないローカル鉄道だけでなく、輸送密度の減少が進む大都市圏郊外部でも進められるべきであろう。

赤字路線を公表していないJR東海の動向も注目される。ドル箱の東海道新幹線を抱えていることもあって、コロナ禍前はJR東日本を大幅に上回る利益を確保し、赤字路線の廃線問題がほとんど俎上に上がってこなかった。しかし、東海道新幹線はコロナ禍の影響が大きい。さらに、社運を賭けるリニア中央新幹線では、静岡県との話し合いがこじれ、予定していた2027年の開業は難しいとされる。リニア中央新幹線はJR東海の巨額投資を前提とした事業であり、開業遅れはJR東海の経営状況に影響を与える。このため、今後はJR東海の管轄エリアにおいても廃線問題が浮上する可能性もありそうだ。

  • 当時の新橋駅は現在の新橋駅より汐留寄りにあった。
  • 当時の横浜駅は現在の桜木町駅。
  • 平均通過人員とも呼称されるが、本稿では輸送密度で統一する。
  • JR東日本「JR東日本の地方交通線の現状と取り組みについて」(「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」第1回資料、2022年)。
  • JR西日本「ご説明資料」(「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」第1回資料、2022年)。
  • 本稿で取り上げるJR東日本とJR西日本の数値は、路線の内訳である線区単位であるため、他の鉄道事業者が発表する路線単位の数値より比較的小さい。
  • 逆方向になる備後落合駅発・東城駅行も折り返し運転なので同じ本数である。
  • JR西日本「大糸線沿線の活性化および持続可能な路線としての方策検討の開始について」2022年。
  • JR北海道「2019年度線区別の収支とご利用状況について」(2020年)。札幌都市圏の函館線(小樽~札幌)を除く3線区と輸送密度は、札沼線(桑園~医療大学:16,872人)、函館線(札幌~岩見沢:43,025人)、千歳・室蘭線(白石~苫小牧:43,433人)。
  • JR九州では観光列車を、特徴あるデザインと物語を楽しむ「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と呼んでいる。
  • 東洋経済ONLINE「JR九州新社長「観光列車戦略は見直しの時期に」」(2022年6月22日)によると、JR九州社長は「(前略)今私が考えているのは、「指宿のたまて箱」や「あそぼーい!」「A列車で行こう」などのD&S列車が運行開始から10〜15年と経ってくる中で、D&S列車のあり方をどうするか。「指宿のたまて箱」は新幹線開業の頃は平均乗車率が毎日3往復しているのに90%近くあって、予約が取れない状況だった。でも最近は、コロナ前でも乗車率が落ちてきている。そのため、次にどんなD&S列車をどこで走らせるかというよりも、D&S列車をハード、ソフトの両面からどうしていくべきかを考える時期ではないかと考えている。」と述べ、観光列車が見直しの時期に来ていることを示唆している

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