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ドローン配送と災害時孤立集落への物資輸送

主任研究員 水上 義宣

2022年12 月に改正航空法が施行されたことで、ドローン配送への期待が高まっている。平常時からドローンによる配送を実施することで、災害で孤立した集落への物資の輸送も容易になることが期待される。
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1. はじめに

2022年度防災白書によれば短時間強雨が増える1など異常気象が増えている。一方、消防団員が高齢化する2など、防災の担い手不足も課題となっている。このような中、災害時にドローン3を活用することに注目が集まっている。災害時のドローンの活用については、消防庁の『消防防災分野におけるドローン活用の手引き』など、主に情報収集や捜索での活用を想定したガイドラインが存在しているが、2022年12月に改正航空法が施行され、第三者上空を飛行する基準が制定されたことから、物資の輸送での活用も期待される。

本稿では、ドローン活用に関する各種ガイドラインや実際の事例を参考に、災害時のドローンによる物資輸送の方法と課題を整理し、あわせて平常時からドローン配送を実施しておくことの重要性について述べる。

2. 災害時孤立集落とドローンの活用

(1)孤立可能性集落

内閣府が2013年度に行った調査4によると、災害時に孤立する可能性がある農業集落は全国に17,212か所ある。また、2020年度には自然災害による被害が道路6,944か所、橋梁98か所5で発生し、異常気象による道路通行止めが12,003回6発生した。う回路がある場合や短時間で復旧する場合もあるため、被害や通行止めがただちに集落の孤立を意味するわけではないが、決して少ない数ではない。

2013年度内閣府調査によれば、孤立への備えとして、孤立可能性集落のうち66.2%に避難施設、48.1% に通信手段が確保されている。一方で医薬品等の備蓄は6.8%の集落にしかない。また、一般的な医薬品は備蓄されていても、個人の処方薬など行政で備蓄することが困難なものもある 。従って、集落の孤立が長期化した場合、物資の輸送が必要になる可能性は高い。

(2)ドローンの活用条件

従来、孤立集落への物資の輸送方法としてはヘリコプターやオフロードバイク7、徒歩が利用されてきた。しかし、近年では消防団員の高齢化など地域防災の担い手不足が課題となっている。こうした中、2022年12月に航空法が改正されたことで物資の輸送にドローンを活用することが期待されている。

ドローンは、ヘリコプターと比較すると離着陸のために要するスペースが小さく、ヘリコプターが飛行できない気象条件でも飛行が可能8であり、騒音も小さい。ヘリコプターより安価であるため運航機体数を確保しやすいが、航続距離や搭載重量は ヘリコプターに劣っている9。従って、ドローンは医薬品といった、緊急できめ細かく対応する必要があり、軽量なものの輸送に向いている 。一方、住民の避難や負傷者の搬送、食料や飲料水、救助用機材といった重量物の輸送には向いていない。重量物などは従来通りヘリコプターやオフロードバイクで輸送したり、あらかじめ備蓄したりしておくことが必要である。

3. ドローンの飛行準備

(1)ドローンによる物資輸送の準備

ドローンによる物資輸送については内閣官房 ・国土交通省の『ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン』などの各種ガイドラインがあるが、飛行にあたっては「コンセプトの構築」「実施体制の整備」「現地調査等の準備」「日々の運航」の4段階にわけて考えることができる。(図表 1)

図表1ドローンによる物資輸送の準備

特に物資輸送の場合は、操縦者の目の届かない範囲まで飛行させる目視外飛行を行うのが一般的であるから、航空法に基づく許可・承認の申請等が必要であることはもちろん、実際飛行させる経路の障害物やドローンと操縦者の間の通信状況の確認、飛行経路下にあたる住民等への説明が必要となる。2022年12月に改正された航空法により従来禁止されていた第三者上空の飛行が解禁となり、第一種認証を受けた機体を一等無人航空機操縦士が飛ばす場合は、飛行経路下への第三者の立入りを管理する必要はなくなったが、適合する機体や操縦士を確保することは必要であるし、飛行経路下の住民との合意形成も引き続き重要である

仮にコンセプトがすでに構築されていたとしても、実施体制を整備し、現地調査等を行い、日々飛行する準備を整えるの には数か月を要するのが一般的である。

(2)災害時の飛行における準備

実際に孤立集落が発生し、ドローンにより物資を輸送しようとする場合も基本的には前項と同様の手順で行うことになる。ただし、緊急を要するものであるから採算性などを検討する必要はないであろうし、住民の理解も得られやすい。

一方で、現地が孤立している状態では飛行経路上の障害物や通信状況を確認することは容易ではない。また、携帯電話回線網などが災害で混雑していたり、飛行経路によってはそもそも携帯電話の圏外であったりすることも考えられる。孤立理由が大雪などであれば、低温や降雪に耐えられる機体も必要である。

実際の飛行にあたっても、災害時は救助や報道、被害調査など多くのヘリコプターや他のドローンも飛行することが想定され、有人機や他のドローンが飛んでいないか確認し、場合によっては飛行の順番や経路を調整することが必要となる。例えば、NEDO発行のガイドライン10ではドローン運航調整会議の開催や災害対策本部内での特定班での対応が例示されている。

これら平常時と比較した災害時の特徴をまとめると図表2のとおり。

図表2災害時のドローンによる物資輸送の準備

4. 災害時ドローン活用に向けた課題

以上の議論を踏まえ、当社では災害時のドローン活用に取組んだことのある自治体、企業にアンケートを送り5つの自治体と3つの企業から回答を得ることができた。回答数は少ないが実証実験などの実績のある自治体、企業の回答であり、現時点におけるドローン活用の課題として参考になるものと考える。

まず、自治体が災害時の物資輸送にドローンを活用する課題として、5 つの自治体すべてが「飛行経路上の通信環境」と回答し、「機体の確保」「ドローン操縦者の確保」「離発着場所の安全確保」「荷物の受け渡し方法」「行政職員や被災者がドローンに不慣れ」が続いた。(図表3)

図表3災害時にドローンで物資を輸送する課題(自治体回答)

次に、平常時からドローンで物資を輸送する場合に課題になることとして「ドローン操縦者の確保」を4つの自治体が選び、続いて「必要な距離を飛べる機体がない」「飛行経路上の通信環境」となった。(図表4)

図表4平常時からドローンで物資を輸送する課題(自治体回答)

最後に、ドローンの運航企業は、平常時からドローンで物資を輸送していても災害時に課題となることとして「操縦者や機体の被災」を除くと、「飛行経路上の通信環境」「離発着場所の安全確保」「運航コスト」 と回答した 。(図表5)

図表5平常時からドローンで物資を輸送していても 災害時に課題となること(運航企業回答)

以上の結果から、平常時からドローンによる物資輸送を行っておくことで「機体の確保」「荷物の受け渡し方法」「被災者や行政職員の不慣れ」といったドローンに慣れていないことによる課題は解消できることが分かった。一方で、平常時、災害時を問わず「飛行経路上の通信環境」「操縦者の確保」が課題となっていることも分かる。

5. 事例に見る現状 ・課題

「飛行経路上の通信環境」「操縦者の確保」を中心としたドローン活用の課題とその解決について、実際の道路通行止めにおいてドローンでの物資輸送を行った埼玉県秩父市と、住民による災害時ドローン活用に取り組んでいる広島県神石郡神石高原町の2か所の事例を紹介11する。

(1)埼玉県秩父市 ~道路通行止め区間で物資輸送を実施

埼玉県秩父市では2022年9月に土砂崩れが発生し、中津川、中双里の2集落16名の生活道路となっていた県道が通行止めとなった。同集落には森林管理道も通じているが、2019年の台風による被害箇所があるため通行は緊急車両などに制限されているほか、冬季には積雪や凍結により通行できなくなる恐れがある12

このため、秩父市では株式会社ゼンリンなどと2023年1月26日から毎週木曜日にドローンによる生活物資の輸送をはじめた。(図表 6)

物資の輸送は、前日に集落から電話で注文を受け、各店舗で商品を用意した上で、離陸場所まで自動車で輸送し、そこからドローンに搭載できる量に分割をして中双里集落の集会所まで飛行している。冬に備えた導入であったため、衛星電話や重量のある食料などはあらかじめ自動車で輸送することができたほか、万が一の孤立時にはヘリコプターを活用する準備もできているが、ヘリコプターなどよりも気軽に利用できるドローンが飛ぶことにより、酒やたばこなどの嗜好品やお弁当などの輸送ができるようになった。長期間にわたる通行止めの状況下で、集会所に集まる機会にもなり、ドローンによる物資輸送は住民の楽しみ、励みになっているそうだ。

秩父市は2019年からドローンの実証実験を行っている13先進地域だが、ドローンの活用には土砂崩れから4か月ほどかかっている。秩父市の笠井氏によれば、土砂崩れが起きた中津川ではドローンによる物資輸送を行ったことはなく、問題の一つは通信環境だったという。集落には携帯電話網があるが、土砂崩れ現場周辺は携帯電話の圏外にあたる。今回はKDDI株式会社の衛星を使った携帯電話基地局Satellite Mobile Linkを使用することにより、携帯電話の圏外をカバーすることができたという。日本では2022年10月に低軌道衛星通信サービスStarlinkがサービスを開始14しており、秩父市では日本で初めてStarlinkを活用してドローンを飛行させた(図表 7)。

KDDI株式会社の泉川氏によれば、現行制度ではStarlinkを移動局に使用することはできないため、ドローンに搭載することはできないという。また、アンテナ等の機材一式で大きさ50cm四方、重さ7kg程度になるそうなので物理的にも大型ドローンでなければ搭載は難しい15だろう。一方で、実際に運航に携わっている KDDI スマートドローン株式会社の博野氏によれば、Starlinkを使用した携帯電話基地局でも、ドローンとの通信品質は通常の携帯電話網を活用する場合と変わらず、問題はないという。秩父市のような事例では、従来の光ファイバーを使用する携帯電話基地局と比べて費用、納期の面で利点があるという。

(2)広島県神石郡神石高原町 ~地産地防の取組み~

ドローンを活用する際の もう一つの 課題として操縦者の確保がある。広島県神石郡神石高原町ではいざというときにドローン操縦者を確保できるように地産地消ならぬ地産地防という取組み17を行っている 。地産地防の取組みでは、町でドローンを購入し、町民有志に向けた防災時の活用も含めたドローンの講習を実施、月2回操縦技量維持のための訓練も行っている。2023年1月時点で26名の操縦者が町内にいるという。現在、ドローンは災害現場の情報収集を中心に活用されているそうだ。

神石高原町は山間部にあることもあり、道路の凍結や雪、大雨による土砂崩れなどによる孤立も想定されるので、物資の輸送にも使用したいが、現在のドローンの性能では孤立集落への物資の輸送に使用するには搭載重量などが不足するという。そこで、神石高原町では総重量25kg以上の大型ドローンの導入を目指しているという。ドローンスクールの誘致も進め、9月には日本初の大型ドローンのドローンスクールが町内に開設されることも発表18された。大型であってもドローンは3m四方程度の場所で離着陸できるため、ヘリコプターが離着陸できない集落でも活用が期待されるという。また、地産地防の取組みが広がることで自治体相互間の応援も期待できると神石高原町の中野氏は語った。

6. おわりに

2022年12月5日に改正航空法が施行され、第三者上空の飛行が解禁されたことで、ドローンによる物資輸送への期待は高まっている。また、近年は異常気象などによる集落の孤立可能性も高まっている。こうした状況において、平常時からドローンによる配送が実施されていれば、「機体の確保」「荷物の受け渡し方法」「被災者や行政職員の不慣れ」といったドローンによる物資輸送の障害となる課題があらかじめ解決されていることから、ドローンを活用した物資の輸送が災害時にもスムーズに行えるようになる。

当社ではドローン運航企業である株式会社SkyDriveにもヒアリングを行ったが、同社の小谷氏からも災害時に機体や操縦者が災害現場まで駆けつけることは 、飛行までに時間がかかる要因にもなるため、近隣でドローンを運航している企業が災害時にも駆けつけることが望ましいとの声があった。

「飛行経路上の通信環境」「操縦者の確保」にはまだ課題があるが、秩父市の事例のように衛星通信を活用することや、神石高原町の事例のように普段から担い手を確保する施策に取り組むことにより、これらの課題も解決される可能性は高い。特に通信環境については総務省「Beyond5G研究開発ロードマップ」19においても「陸海空のシームレスな接続・カバレッジ拡張」が主な実現目標の一つとされており、2030年代に向けて技術開発と制度整備が期待される。

今後は、孤立可能性集落の多い中山間地域などにおいては、物流の効率化といった視点だけでなく、災害時の活用も含めた環境の整備、担い手の確保という点も見据え、ドローンによる配送を平常時から実施することも一つの選択肢となるのではないだろうか。

  • 内閣府『令和4年版 防災白書』付属資料21
  • 内閣府『令和4年版 防災白書』付属資料41
  • 本稿では「ドローン」とは航空法第2条第22項の「無人航空機」の定義に準じ「航空の用に供することができる機器で、
    構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」とする。
  • 内閣府2014年10月『中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査 調査結果』
  • 消防庁『令和2年度 消防・防災震災対策現況調査』附属資料1
  • 国土交通省『令和2年度道路交通管理関係調査の概要』p.5
  • 内閣府 地方都市等における地震防災のあり方に関する専門調査会(第 2 回)資料32 p.11, p.33 (2010年7月1日)
  • 消防庁2022年3月31日『消防防災分野におけるドローン活用の手引き<第2版>』p .21
  • 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2022年2月24日)『災害時におけるドローン活用ガイドライン』p.14
  • 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構2022年2月24日『災害時におけるドローン活用ガイドライン』pp.16-17
  • 以下この項の出典は、記載があるものを除き、秩父市笠井氏、KDDI株式会社泉川氏、KDDIスマートドローン株式会社博野氏及び神石高原町中野氏に当社がヒアリングした結果に基づく。
  • 秩父市「土砂災害情報(大滝中津川地区大滑ロックシェッド付近)」https://www.city.chichibu.lg.jp/10262.html(最終閲覧
    日:2023年2月10日、埼玉県秩父県土整備事務所 住民説明会資料(2022年10月8日)及び埼玉県プレスリリース「令和4年9月13日の一般県道への土砂崩落による被害状況について(第4報) 」(2022年9 月1 5 日)
  • 東京電力ベンチャーズ株式会社プレスリリース「ドローンハイウェイを活用した山間部における荷物配送実験に成功 ~楽天、ゼンリン、秩父市と共同でドローン目視外飛行による実験を実施!~」(2019年1月28日)
  • Space X社 twitter (2022年10月11日 https://twitter.com/SpaceX/status/1579587196033462272
  • 秩父市で飛行しているドローン「AirTruck」のペイロードは5kg
  • 秩父市市長ブログ「中津川地区でドローン定期配送を開始!」(2023年1月27日)
  • 地産地防プロジェクトについては、内閣官房(2021年3月)『国土強靱化 民間の取組事例集』や、内山庄一郎、梅岡康成、奥村英樹、勝俣喜一朗、城純子、谷真斗、出口弘汰、三澤努、南政樹、我田友史(2020年4月)「ドローンを用いた災害初動体制の確立-神石高原町における地産地防プロジェクトの取り組み-」『防災科学技術研究所研究報告 第84号』が詳しい
  • 長岡商事株式会社プレスリリース「大型ドローンスクール開校発表」(2022年9月20日)
  • 総務省情報通信審議会(2022年6月30日)『Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方-強靭で活力のある2030年代の社会を目指して- 中間答申』p.46

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