シティ・モビリティ

東京一極集中はコロナ禍前に戻ったのか~2022年の国内人口移動におけるコロナ禍の影響①~

上席研究員 岡田 豊

アフターコロナ、ウィズコロナの社会経済への影響の一つとして、国内人口移動が注目されている。2020年からのコロナ禍により、東京一極集中が大きく緩和した。2022年はゆり戻しが見られるものの、東京圏内の移動にとどまらず、東京圏外への分散が2019年より進んでいることから、東京圏の転入超過数はコロナ禍前の2019年の水準には戻っていない。また、東京圏の40~59歳において、2019年は転入超過であったが、2022年は転出超過となっている。今後、東京一極集中の緩和を進めるなら、「転職なき移住」の促進が重要であり、シニア層を中心としたフルリモートワークの進展が鍵を握るであろう。
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1.はじめに

2020年からの新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと記す)は国内人口移動に大きな影響を与えた。特に、2021年は重症化率の高いデルタ株が猛威を振るい、その影響で人口の東京一極集中が大きく緩和した。一方、2022年はデルタ株より重症化率が非常に低いオミクロン株が流行したため、2022年3月21日のまん延防止等重点措置の終了以降は、社会経済活動の正常化に向けた動きが活発になった。それゆえ、コロナ禍前のような東京一極集中に戻ったという見方も少なくない。

そこで本稿では、総務省統計局から2023年1月に公表された住民基本台帳に基づく国内人口移動1によって、1年を通じてコロナ禍の影響がなかった2019年のデータとの比較を中心に、主に東京圏を巡る国内人口移動2について検証したい3

2.コロナ禍の影響続く東京圏

東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の2022年の転入超過数は94,411人で、2021年の80,441人から増加したものの、コロナ禍前の2019年の145,576人と比べると大幅な減少となっている(図表1)。少なくともコロナ禍前との比較においては、日本人について東京一極集中の緩和が2022年も続いているといえる。

大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)や名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)の2022年の転入超過数はコロナ禍前の2019年と大きな違いはない。これらから、2019年比のコロナ禍での東京圏の転入超過数の大幅な減少は非三大都市圏への人口拡散につながっているといえる。

《図表1》三大都市圏の転入超過数図表

3.埼玉県、千葉県、神奈川県からも全国に分散

2022年の都道府県別転入超過数を見ると(図表2)、東京都は、コロナ禍前の2019年の転入超過数が86,575人であったが、2022年は33,909人と大きく減少している。2022年の転入超過数が2019年を下回った(2022年転入超過数-2019年転入超過数がマイナス)道府県は、愛知県(▲6,142人。▲は本稿ではマイナスを表す)、大阪府(▲3,289人)、沖縄県(▲1,523人)、神奈川県(▲1,359人)、広島県(▲726人)、岡山県(▲239人)、香川県(▲160人)にとどまっており、多くの道府県で2022年の転入超過数が増加した(2022年転入超過数-2019年転入超過数がプラスであった)。

《図表2》都道府県別転入超過数

次に、東京圏の1都3県について、2019年と2022年の転入超過数を非東京圏の都道府県との間別に見てみよう(図表3)。2019年の東京都の転入超過数は対東京圏(東京都以外の埼玉県、千葉県、神奈川県)で合計3,340人に対し、この3県以外に対しては合計83,235人となった。一方、2022年の東京都の転入超過数は対東京圏で合計▲24,175人に対し、非東京圏に対しては58,084人となっている。つまり、2022年の東京都の転入超過数を2019年比で見ると、対東京圏は27,515人減少し、非東京圏に対しても25,151人減少した。これらから、コロナ禍により東京都から東京圏内だけでなく非東京圏にも人口が大きく拡散しているのがわかる。

埼玉県、千葉県、神奈川県についても、東京都と同様に対東京圏と対非東京圏に分けて2019年と2022年の転入超過数を比較すると、この3県は対東京圏で転入超過数が増加する一方で、非東京圏で転入超過数が減少している。これらから、埼玉県、千葉県、神奈川県ではコロナ禍で東京都から人口流入が進んでいる一方、埼玉県、千葉県、神奈川県から非東京圏への人口分散も進んでいることがわかる。つまり、コロナ禍は東京圏内だけの人口拡散にとどまらず、非東京圏へも人口が拡散している。

《図表3》東京圏と他の都道府県との間の転入超過数

4.東京圏のシニアが分散

2019年と2022年の東京圏の転入超過数について年齢別に分析する(図表4)。東京圏における2022年の15~19歳の転入超過数はコロナ禍前の2019年と比べて、男性が約2,000人、女性が約1,000人の減少であった。2022年は多くの大学で対面授業が開始されたこともあり、この年齢層におけるコロナ禍の影響が軽微だった。

次に、大学新卒で就職のための移住が多い20~24歳を見ると、東京圏における2022年の転入超過数はコロナ禍前の2019年と比べて男性が約2,000人、女性が約6,000人の減少であった。女性の減少が大きいのは、女性の就職先として多い対面型サービス業がコロナ禍で大きな影響を受けたためであろう。

一方、東京圏の25~39歳、40~59歳は転職に加えて、結婚・出産・育児等を契機とした移動が多い年齢層である。また、コロナ禍が進展する中、より良い子育て環境やリモートワークに集中できる仕事部屋の確保、さらには趣味の追求等、自らのライフスタイルが追及できる住居地を求めて移動する年齢層といえる。

この年齢について2022年の東京圏の転入超過数を見ると、25~39歳ではコロナ禍前の2019年と比べて男性が約6,000人、女性が約10,000人の減少であった。また、40~59歳の転入超過数を見ると、コロナ禍前は男女とも転入超過であったが、2022年は大幅な転出超過となっている40~59歳は25~39歳に比べて世帯収入が比較的高く、かつ子育てを終えた世帯も多数含まれる。そのため、40~59歳における大幅な転出超過は、コロナ禍での景気悪化の影響に加えて、リモートワークを活用し、自らのライフスタイルに合わせて東京圏からの移住が拡大していると推察される。

《図表4》東京圏の年齢別転入超過数

5.フルリモートワークが鍵

アフターコロナでは、経済成長局面において東京圏で求人が増加することから、東京圏や東京都にて転入者数が増加する可能性がある。特に、高賃金の求人増加の影響に注視する必要がある。今後の賃金上昇において、東京圏と地方の賃金の格差が広がれば、東京圏、東京都の転入者数の一層の増加につながりやすい。その結果、今後の転入超過数はコロナ禍の2019年の水準に近づく可能性がある。

一方で、コロナ禍で増えた転出者数は、アフターコロナにおいても容易に減少しない可能性があろう。なぜなら、アフターコロナでのライフスタイルの変容としてリモートワークの定着が想定されるからだ。

東京一極集中是正を強力に推進していくなら、フルリモートワークを推進していく必要がある。リモートワークといえども、オフィスへの出勤頻度によっては住居地選びに制限がかかるためである。東京圏にオフィスがある場合、出勤頻度が多ければ東京圏内で住居地を選ぶ可能性が高くなるが、出勤頻度が非常に少なく、フルリモートワークに近くなるほど、「転職なき移住」によって東京圏外の住居地も選択肢になりえる。

6.おわりに

人口分散が進むシニアについては他にも興味深いデータがある。郡部の年齢別の転入超過数を2019年~2022年の推移を見ると(図表5)、39歳まではコロナ禍でも転出超過で推移しているが、40~59歳については2019年が大幅な転出超過でありながら、2020年に転入超過に転じ、2021年は転入超過が拡大して、2022年は2021年とほぼ変わらない水準で推移している。郡部への転職は容易でないと考えられることから、シニアにおける郡部の転入超過の拡大はフルリモートワークによる「転職なき移住」がもたらした影響が少なくないであろう。

《図表5》郡部を巡る年齢別転入超過数

シニアはこれまでの就業経験で培った能力がある上、フルリモートワークを会社から許される人材は、自律性の高い仕事が可能である等、より高い能力があると推察される。地方はそのようなシニア移住者を活用して地域経済の活性化を目指すべきであろう。「転職なき移住」は本職を持ちながらの移住である以上、副業・兼業を活用した貢献が望ましい。移住先にある企業は賃金の高いシニアをフルタイムでいきなり雇うよりも、副業・兼業を通じた関係から始めることで、お互いにミスマッチを避けることができる。

「転職なき移住」により全国津々浦々にシニアが拡散し、移住先で地域経済の活性化に貢献する。その結果、コロナ禍で起こった東京一極集中の緩和トレンドがアフターコロナでも継続される。これこそが地方創生の目指すべきストーリーといえよう。

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