シティ・モビリティ

転籍可能な外国人が増加~外国人で東京圏志向が進む可能性~

上席研究員 岡田 豊

2023年1月1日現在の住民登録を基にした人口によると、2022年の都道府県別外国人増加数では東京圏が多い。また、2022年末の都道府県別外国人増加数を在留資格別に見ると、上位の永住者、技術・人文・国際業務、留学で東京圏が多くを占めている。このうち、永住者と技術・人文・国際業務は転籍可能である。また、地方在住が多い特定技能や技能実習でも、転籍可能な特定技能が増加しているうえ、転籍不可能な技能実習でも国は今後、1年後の転籍可能とする予定だ。転籍先として賃金が高い東京圏の企業を選ぶ外国人が今後増加することが推察され、外国人の地方分散は今後の大きな課題となろう。【内容に関するご照会先:ページ下部の「お問い合わせ」または執筆者(TEL:050-5363-4383)にご連絡ください】

1.はじめに

住民基本台帳に基づく2023年1月1日の人口と2022年の人口動態が総務省から2023年7月に公表された。外国人が調査対象になった2013年以降では、外国人は最大の増加数となった。その地域別分布を見ると、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)で外国人の増加が目立つ一方、非三大都市圏でも住民の多くを外国人が占める自治体が続出している。

そこで、本稿では過去最高となった2022年の外国人増加数の背景について外国人の地域別分布の現状を分析し、今後の傾向について考察したい。なお、日本全体における外国人の動向については、岡田豊「Insight Plus 2022年の外国人人口増加数は過去最高~国の目標「2060年の1億人」に目途~」を参照して欲しい。

2.東京圏で急増する外国人

2022年の日本人人口と外国人人口について都道府県別増加数を見ると(図表1)、日本人人口は全都道府県で減少している一方、外国人人口は全都道府県で増加している。都道府県単位でも、少子高齢化の進展で日本人人口の減少が進む中、外国人が人口減少を緩和しているといえる。これをコロナ禍前の2019年(図表2)と比較すると、特に東京都で大きな違いが出ており、2019年の日本人増加数が68,547人、外国人増加数が25,646人であるのに対し、2022年はそれぞれ▲16,499人、63,231人となっている。東京都ではコロナ禍のリモートワークの浸透などで社会増加が急減した一方、2022年は外国人の大幅な増加により、日本人と外国人の合計である総人口がプラスとなっている。もはや東京都は外国人なしに人口増加が見込めない。

また、2022年の外国人人口について2019年比の増加数は、東京都(37,585人)、大阪府(8,198人)、福岡県(6,297人)、京都府(5,832人)となっている。このように、外国人は大都市圏を中心に増加している。

3.留学などが東京圏で増加

外国人人口急増の背景を在留資格別に考察してみよう。まず、全国の2022年の在留資格別外国人数は、永住者、技能実習、留学、技術・人文・国際業務が上位となっている。この4つの在留資格について2021年から2022年にかけての増加数を見ると、留学が最も多く、ついで技能実習、技術・人文・国際業務、永住者と続く。また2019年創設の特定技能は2021年から2022年にかけて留学に次ぐ大幅な増加数になっている。つまり、留学、特定技能、技能実習はコロナ禍で入国が難しかったことで希望者が海外に大量に滞留したため、入国が解禁となった2022年の外国人数に大きな影響を与えたことがわかる。

次に、特定技能+技能実習、留学、永住者、技術・人文・国際業務の外国人の増加数(2022年)について東京圏、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)と非三大都市圏に分けて見てみよう(図表3)。まず、特定技能+技能実習では非三大都市圏が多い。特定技能や技能実習は非三大都市圏に多い製造業や農業における就労が多いからだ。次に、留学では大学や日本語学校が多い東京圏が非常に多い。コロナ禍で入国できずに待機していた留学生が入国解禁になった2022年に一気に増加したことが影響している。また、永住者、技術・人文・国際業務でも東京圏の増加が目立つ。この2つの在留資格は会社を変わることができるため、賃金の高い東京圏を選ぶ者が多いのだろう。このように、外国人に多い4つの在留資格のうち3つにおいて、東京圏志向の高さが垣間見られる。

4.外国人割合が非常に多い自治体では長期滞在型の外国人が多い

図表4は総人口(日本人+外国人)に占める外国人の割合について市町村(含む政令指定都市行政区、東京都特別区。以下同じ)別で見た上位20位であるが、日本全体の外国人割合をはるかに上回る自治体が並んでいる。それらでは、中国人、韓国人・朝鮮人、日系ブラジル人、フィリピン人といった古くから日本に移り住んだ人種のコミュニティがある、三大都市圏の伝統的な外国人の多い自治体が入っている一方、図表で赤字となっているスノーリゾートも目立つ。このランキングにないが、同じスノーリゾートである長野県白馬村も外国人割合が8.3%と多い。

次に、外国人割合が上位20位の市町村について、在留資格別外国人割合を記したものが図表5である。これらから、東京圏をはじめとする三大都市圏にある自治体では、留学を除けば、技能実習に代表される短期間の在留資格よりも、永住者に代表されるように、在留期間が長くなる傾向がある在留資格を持つ外国人割合が多いことがわかる。また、戦前から多い韓国人・朝鮮人は特別永住者、中国人やフィリピン人は永住者、日系ブラジル人は永住者と定住者がそれぞれ多いことを考え合わせると、当該自治体の特徴がわかる。

外国人割合が多い自治体の中で、留学の割合が多い自治体がいくつかあるが、その多くは大学等の高等教育機関が集中している三大都市圏に立地している。また、三大都市圏にない恩納村には留学生が多いことで知られる沖縄科学技術大学院大学がある。

これらの自治体は日本における転籍可能な外国人を増やすことに貢献しているといえる。日本の留学生が卒業後に日本で就職する際に主に取得する技術・人文・国際業務の割合が多いが、技術・人文・国際業務は資格更新の必要はあるものの、更新回数に制限はなく、転籍が可能だからだ。

一方、スノーリゾートでは技術・人文・国際業務が大きな割合を占めている。インバウンドに人気のスノーリゾートでは外国語を話すことができる外国人が重要な戦力である。日本への留学生が卒業後に得る技術・人文・国際業務の在留資格はそのような観光地で非常に人気といえる。技術・人文・国際業務が外国人全体に占める割合を見ると、箱根町(52.3%)、草津町(45.2%)など国際的な知名度を誇る観光地で軒並み高い。

また、スノーリゾートで在留資格別外国人割合が多いのは特定活動である。スノーリゾート特有の状況として、冬季のピークシーズンだけ働く外国人労働者が多く、特に特定活動の代表例であるワーキングホリデーなどで来日する外国人にスノーリゾートにて冬季だけ働くことが人気となっているからだ。図表5の市町村別在留資格別外国人割合は年末時点という冬季シーズン中の数値となっている。これが影響して、特定活動の数値が特に大きくなっており、通年で見た場合とは少し状況が異なる。

日本全体で市町村別・在留資格別外国人数がわかる「在留外国人統計」の最新データとなる2023年6月のデータは出入国在留管理庁からまだ公表されていないが、公表しているニセコ町のデータで冬季とそれ以外の違いを見てみよう。まず、毎月の日本人と外国人の人口の推移を見ると、コロナ禍を除いて、日本人にも外国人にも冬季に増えて冬季が終わると減るという傾向があることがわかる(図表6)。2020年からそのような季節変動があまり見られないのは、コロナ禍でスノーリゾートの雇用が非常に少なくなったためである。直近の変化では、2023年6月の外国人人口は2023年1月に比べて外国人口の約2割に当たる約100人も少なくなっている。

この季節変動について、ニセコ町における2023年6月の在留資格別外国人数と割合が2022年12月と比べてどのように変化したかを見ると、特定活動(20人・5%、▲111人・▲21%)は人数と割合ともに大きく減少した一方、技術・人文・国際業務(144人・36%、+18人・+10%)と人数と割合ともに増加し、在留資格別外国人割合で最大となった。つまり、スノーリゾートの企業では、コロナ禍の持続的なインバウンドブームを見込んで継続的な雇用を前提とした技術・人文・国際業務の外国人の雇用を増加させた一方で、季節労働的な特定活動での外国人の雇用についてはコロナ禍前と同様の対応をしたと推察される。つまり、スノーリゾートでも中長期的には長期の滞在が可能な外国人が増加傾向にあるといえよう。

5.おわりに

2023年1月1日の外国人人口は過去最高で、2022年の増加数、増加率も過去最高であった。その背景には、コロナ禍で入国が難しかった留学、特定技能、技能実習の希望者が2022年に一気に入国し始めたことがある。

また、人数の多い永住者、技術・人文・国際業務、留学、特定技能+技能実習について都道府県別増加数を見ると、永住者、留学、技術・人文・国際業務で東京圏が多い。

日本人並みの資格である永住者、留学生の大学卒のメインの資格である技術・人文・国際業務も転籍が可能である。そのうえ転籍が自由である特定技能が増加している中、国は転籍不可能になっている技能実習でも1年後の転籍を可能とする制度改正を予定しているとされる。この結果、これまで地方志向であった「特定技能+技能実習」でも賃金が高い東京圏の企業を転籍先として選ぶ外国人は今後増加することが推察される。

次に市町村別に見ると、外国人人口の割合が多い自治体の中で、東京圏をはじめとする三大都市圏にある自治体では、留学を除けば、技能実習に代表される短期間の在留資格よりも、永住者に代表されるように、在留期間を長くでき、転籍が可能な在留資格を持つ外国人割合が多い。また留学の増加も、中長期的には技術・人文・国際業務という、在留期限がなく転籍が可能な資格を持つ外国人の、東京圏など三大都市圏での増加につながる可能性が高い。

外国人人口の割合が多い自治体の中で、スノーリゾートにある自治体は特定活動という短期在留を前提とする外国人が多い。ただし、当該自治体において特定活動では冬季限定の雇用が多い一方、インバウンドの今後の発展などを考慮して、在留期間が長くなる技術・人文・国際業務の資格を持つ外国人が増えている。この技術・人文・国際業務は長期在留と転籍が可能であるため、高い賃金を求めて転職する外国人は少なくない。人気のリゾート地の比較的大規模な企業では高い賃金も可能であろうが、それ以外では賃金の高い東京圏に対抗するのは容易ではない。

このように今後は、中長期に日本に在留し、高い賃金を求めて転籍することができる外国人が増加する可能性が高い。そのため、地方の人手不足において、外国人への依存を高めることは短期的に有効であっても、低い賃金を看過すれば、中長期的に東京圏などとの賃金競争に敗れ、貴重な人材を失うことになる。地方でも生産性を高め、日本人も含めた高い賃金が実現できるよう、不断の努力が欠かせないであろう。

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