シティ・モビリティ

物流の2024年問題と再配達削減への挑戦

主任研究員 水上 義宣

電子商取引(EC)市場の伸びにより宅配便取扱個数が増加する中、宅配便の約11%が再配達となっていることが運転手不足などの問題を深刻化させている。今日、宅配便は生活や経済活動を支える重要なインフラであり、宅配ボックスなどの非対面型配達ができる環境の整備が急がれる。
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1. はじめに

物販系分野のBtoC-ECの市場規模は、2013年から2021年にかけて2.2倍に成長し、宅配便取扱個数も1.3倍に増加した。一方で、宅配便の11%は一度で届けることができずに再配達となっており、運転手不足の深刻化や温室効果ガス排出の増加をもたらしている。本稿では、宅配便再配達の現状を概説し、再配達削減策を考える。

2.宅配便と再配達の現状

物販系分野のBtoC-ECの市場規模は2021年には13兆円を超え、これに比例して宅配便の取扱個数も増加して2021年には49.5億個となった《図表1》。

≪図表1≫物販系分野のBtoC-ECの市場規模と宅配便取扱個数
≪図表2≫営業用貨物軽四輪自動車保有台数

宅配便の配達を担う営業用貨物軽四輪自動車の保有台数は増加しており、2022年度は約31.4万台となった《図表2》。厚生労働省の調査によるとトラック運転手の有効求人倍率は2022年9月現在2.12倍であり3、全産業平均1.20倍と比較しても人手不足が深刻だ。さらに2024年4月1日から「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によるトラック運転手の拘束時間4規制が厳しくなり、1日あたりの拘束時間が原則13時間以下となる。貨物軽自動車運送事業の運転手の21%が1日13時間以上の労働をしており5、2024年度以降運転手不足がより深刻化する懸念がある。輸送能力が不足し、モノが運べなくなる可能性があり、これを「物流の2024年問題」という。

宅配便運転手が長時間労働となる原因の一つが再配達である。日本の宅配便は対面での受け取りを基本としてきたため、受取人が不在などで受け取れなかった場合は再配達となる。再配達される荷物の割合は《図表3》のとおりで、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が流行する前の2019年まで概ね15~16%となっていた。コロナの流行により在宅率が上昇した2020年4月には8.5%まで低下したものの、その後は11~12%となっている。

≪図表3≫再配達率の推移

2023年6月に関係閣僚会議で決定された「物流革新に向けた政策パッケージ」では再配達率を6%にすることが掲げられ、同年10月決定の「物流革新緊急パッケージ」において「ポイント還元を通じた消費者の行動変容を促す仕組みの社会実装に向けた実証事業」などの取組みが進められる。過去2017年3月に、環境省などでは「COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン~みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト~」を立ち上げ、日本郵便が2017年4月から1年間、ECサイト発送のゆうパックを一度で受け取るとポイントを付与するキャンペーンを実施するなど 、再配達の削減に取り組んでいた。しかし、コロナ禍以降の在宅率上昇や置き配の浸透を除けば再配達率は減少する傾向にない《図表3》。再配達率半減に向けては、広報活動やポイント付与などのキャンペーンにとどまらない新たな施策が必要と考えられる。

3.再配達の発生理由

国土交通省がコロナ禍前の2018年12月とコロナ禍後の2023年1~2月に行ったインターネットモニターアンケートによると再配達となった理由は《図表4》のとおりである。

≪図表4≫再配達となった理由

配達の日時を意識していない回答群(①)と、配達に来ることを知っていたが外出したなどの回答群(③)はコロナ禍前後で約半分となった。また、何らかの理由で配達物を受け取れなかった回答群(④)も減少した。一方で、配達日時がわからない・指定できない商品とする回答群(②)が最も多く、ほとんど改善していない。また、宅配ボックスが埋まっていた回答群(⑤)は増加している。

以上から、消費者の一度で受け取ろうとする意識は相応に高まっていると考えられ、消費者の意識改革・行動変容のみで再配達半減を達成することは難しいと考えられる。再配達を有料化することも考えられるが、配達日時がわからない・指定できない商品とする回答群(②)が多いことを踏まえれば、現状で有料化することには問題がある。再配達を減らすためには、EC事業者や宅配事業者が消費者と配達日時を調整する仕組みを整えるほか、いつ配達されても再配達にならないように非対面型配達を推進することが重要である。

4.非対面型配達と課題

非対面型配達には「置き配」「宅配バッグ」「スマートキー」「宅配ボックス」がある。ここでは、それぞれの特徴と課題を整理する。

(1)置き配

置き配は、玄関前などに荷物を置いておく配達方法である。置き配には宅配バッグや宅配ボックスを含める場合もあるが、ここでは荷物をそのまま置いておく方式を「置き配」とする。

国土交通省の調査8によると2018年に置き配を利用した人は8%に過ぎなかったが、2023年には50%の人が置き配を利用している。ECプラットフォームや宅配事業者が置き配に取り組んできたところに、コロナ禍による非対面型配達の浸透が加わり、置き配が普及したことがうかがえる。

≪図表5≫置き配を利用しない理由
≪図表6≫置き配利用時に経験したトラブル

一方、置き配を利用しない人も50%おり、盗難に対する不安などが理由となっている《図表5》。株式会社ナスタの調査では、置き配利用者の48%が何らかのトラブルを経験しており、利用者の2.4%が荷物の盗難にあっている。さらに、「荷物が濡れていた(11.0%)」「荷物が壊れていた(4.0%)」といった荷物の損傷や「他人の家に置き配された(7.4%)」「他人の荷物が届いた(8.5%)」といった誤配達のトラブルも少なくない《図表6》。

置き配には、特別な設備を必要としない利点があるが、荷物の損傷・盗難、誤配達などのトラブルや伝票の個人情報が見えるなどプライバシーに関わる不安がある。共同住宅においては、通行の妨げになる懸念11もあり、オートロック式の場合は不在時に建物に入れず置き配ができないなどの課題もある。以上のような置き配の課題に対する解決策として「宅配バッグ」と「スマートキー」がある。

(2)宅配バッグ

宅配バッグ(「置き配バッグ」ともいう。)は、玄関付近にワイヤーでつないだ折り畳みバッグを設置し、配達員がバッグを広げて荷物を入れ、施錠するものである《図表7》。置き配に比べて、荷物を置く場所を明確にでき、ラベルも見えなくなり、ある程度は盗難や水濡れも防止することができる。このため、置き配を経験したことのない人や置き配に不安を感じている人に置き配を勧める場合や、置き配場所を明確にしたい場合には有効な手段といえる。

ただし、宅配ボックスと異なり、刃物でワイヤーやバッグを切断するような盗難や、大雨による水濡れなどは防ぐことができない場合がある。また、オートロック式の共同住宅では使えない、不在が分かってしまうといった課題は解決することができない。

(3)スマートキー

スマートキー(「デジタルキー」「スマートロック」などともいう。)は、電子式の鍵を使用して配達員などに対して鍵を開けるサービスである。自宅の鍵を開けるサービスや自家用車の鍵を開けトランクなどへ配達できるようにするサービスと、オートロック式共同住宅の建築物出入口の開錠のみを行い配達そのものは置き配によって行うサービスがあるが、日本では後者が主流である。特に宅配ボックスが設置されていなかったり、不足していたりするオートロック式共同住宅では、スマートキーが再配達削減策として期待される。

一方で、スマートキーは鍵を特別に開けるという性質上、大手宅配事業者や大手ECプラットフォームを利用した場合に限り利用できることが多く13、地場スーパーが独自に行っている宅配などの大手事業者に依存しないサービスを排除してしまう可能性がある。また、宅配ボックスへの配達と比較すると、スマートキーを使用した置き配の場合、配達員が建築物出入口ではなく各部屋の前まで行く必要が生じる。十分な宅配ボックスが設置できる共同住宅にまでスマートキーを使用した置き配が普及すると、エレベーターでの往復などで配達にかかる時間が増加14し、結果として運転手不足の緩和に寄与しない可能性がある。

(4)宅配ボックス

宅配ボックスはロッカーに荷物を入れ施錠するものである。共同住宅用の大規模なものから戸建て用の簡易なものまで様々な商品がある。盗難や水濡れを防止でき、オートロック式共同住宅でも建築物出入口に設置されていれば再配達が防げる。また、配達先を入力すると氏名を表示する機能によって誤配達を防ぐ製品や冷蔵や冷凍などに対応した製品もある。戸建て用の宅配ボックスの場合は一回分の配達しか入らないことが欠点であったが、上方から追加の荷物を投函できるようにすることで複数回の荷物を受け入れられるようにしている製品もある。

一方で宅配ボックスは、宅配バッグと比べると高価で、設置場所を選び、設置工事が必要となることが課題である。戸建て及び賃貸マンション・アパートでの設置率は低く、2022年に足立区が行った調査では分譲マンションでの設置率68.6%に対し、戸建て6.0%、賃貸マンション・アパート23.5%となっている《図表8》。同調査によると宅配ボックス未設置の世帯のうち、設置したいが53.3%、設置したくないが40.1%となっており、設置したくない理由としては「再配達を利用する」「設置費用が高い」が上位となっている《図表9》。2017年に三菱UFJ不動産販売が行った調査15では宅配ボックスが欲しいと思う回答者は70.5%いたが、設置にかけてもいいと思う費用の平均は12,428円だった。設置工事費を含むと宅配ボックスは数万円以上を要する16ため、予算感と費用の隔たりは小さくない。

≪図表8≫宅配ボックス設置率
≪図表9≫宅配ボックスを設置しない理由

分譲マンションにおいても宅配ボックスを後から追加することは難しい。大和ライフネクスト株式会社の調査19では分譲マンションの管理組合において宅配ボックスを後から設置する議案は12.5%が否決又は継続審議となっており、その理由は「費用面」が最も多い。

宅配ボックスは性能も様々であり、予算の関係から安い製品を選ぶと固定や防水性などが不十分な場合もある。特に戸建てでは希望する性能と異なる場合がある。こうした課題に対し、助成金などの設置支援策20や一般財団法人ベターリビングによる優良住宅(BL)部品認定制度21などがあるが、支援策や製品の性能認定を消費者にもわかりやすくすることが必要であろう。また、再配達を利用するから設置しないという層もあり、設置できる場所がある場合は支援策と合わせて設置を勧奨していくことも必要と考えられる。

(5)その他

その他、配達に依存しない方法として、コンビニなどで荷物を受け取る「拠点受取」があり、「物流革新緊急パッケージ」でもポイントによる誘導先として例示されている。しかしながら、消費者にとっては受取場所から自宅へ荷物を持ち帰ることとなるため、自宅からの距離や交通手段、荷物の大きさ・重さ・形状などによっては利用が限られる。また、スマートキーと同様に拠点受取に対応した大手宅配事業者や大手ECプラットフォームを利用した一部の荷物しか利用できないことも課題となる。さらに、コンビニ受取などの店員に頼る方式の場合、将来的に店員不足などにより対応が困難になることも考えられる。

5.郵便受箱にみる受取設備の義務化と普及

配達物の受取設備が一部義務化されているものに郵便受箱がある。高度経済成長により郵便物の取扱量が増えるとともに建築物の高層化も進み、配達にかかる時間と職員の肉体的負担が増大したことから、1961年6月よりエレベーターのない3階建て以上の建築物はその出入口付近に郵政大臣の定める規格の郵便受箱を設けることが郵便法で義務化された22。1978年にはエレベーターのある建築物も含めた3階建て以上の建築物での出入口付近への郵便受箱設置率が99%に達し23、一部義務化による規格の提示や認知により適切な受取設備が、設置義務のない場所を含むほぼすべての配達先に普及した例といえる。

宅配便もほぼすべての世帯、事業所が配達対象であり、非対面型配達の実現のためには、ある程度統一した設備の規格を示し、規制的措置を含めて設備の設置を勧奨していくことも必要ではないだろうか。

6.おわりに

今日、宅配便は一種の社会インフラとなっており、再配達は運転手の不足や長時間労働、温室効果ガス排出といった環境面で大きな問題となっている。ポイント付与などによる消費者の意識改革・行動変容は、再配達削減へ向けた重要な取組みであるが、その前提となる非対面型配達ができる環境の整備が進まないと実効性は高まらない。

非対面型配達には置き配など様々な方法があるが、盗難や水濡れを防止でき、共同住宅でも建築物出入口付近で配達を完結できる宅配ボックスは、受取人、配達員双方にとって利便性の高い方式であり、非対面型配達の原則とすることが望ましい。ただし、比較的高価で設置場所を選び、性能も様々であることから、普及には助成金などの支援策や規格認定などが必要と考えられる。また、宅配ボックスを普及させていくとしても、設置が難しい建築物や利用が困難な荷物については、宅配バッグやスマートキー、対面型配達などの多様な受け取り方を組み合わせていくことが有効だ。これらの環境の整備について、規制的な措置を検討していくことも必要ではないだろうか。

  • 経済産業省(2023年8月)「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」p.5
  • 国土交通省「自動車関係情報・データ「宅配便取扱個数(宅配便)」」
  • 厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work(最終閲覧日:2023年11月10日)
  • 休憩時間を含む始業から終業までの時間を拘束時間という
  • 国土交通省貨物軽自動車運送事業適正化協議会事務局への当社取材による
  • 日本郵便株式会社(2017年3月29日)「「郵便局、コンビニ、『はこぽす』で受け取ろうキャンペーン」の実施」及び同(2017年9月29日)「「郵便局、コンビニ、『はこぽす』で受け取ろうキャンペーン」の期間延長」
  • 国土交通省(2019年2月)「国土交通行政インターネットモニターアンケート「「通信販売と宅配便の再配達に関する調査」の結果について(2018年12月調査)」」p.9、国土交通省(2023年4月)「国土交通行政インターネットモニターアンケート「物流に対する消費者意識に関するアンケート」の調査結果について」p.15
  • 国土交通省(2019年2月)「国土交通行政インターネットモニターアンケート「「通信販売と宅配便の再配達に関する調査」の結果について(2018年12月調査)」」p.12、国土交通省(2023年4月)「国土交通行政インターネットモニターアンケート「物流に対する消費者意識に関するアンケート」の調査結果について」p.19
  • 国土交通省(2023年4月)「国土交通行政インターネットモニターアンケート「物流に対する消費者意識に関するアンケート」の調査結果について」p.19
  • 株式会社ナスタ(2022年12月)「2022 年「置き配」利⽤率が6割を突破、19 年⽐で 2.3 倍に増加〜宅配ボックス設置率39.2%。⼾建て住宅・アパートへの普及が課題〜」」
  • 2021年6月21日改正「マンション標準管理規約」で国土交通省から「置き配を認める際の留意事項」が示された。
  • Yper株式会社ECサイトhttps://store.okippa.life/products/%E7%BD%AE%E3%81%8D%E9%85%8D%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%B0okippa(最終閲覧日:2023年11月10日)
  • 例えば、ヤマト運輸株式会社の場合「受取人がクロネコメンバーズサイトなどでオートロック解錠の許諾をし、管理会社やオーナーがオートロックを解錠することを事前許諾しているマンションに、ヤマト運輸の配達パートナーであるEAZY CREWが配達をするEAZYに限って」スマートキーを利用した置き配を行う。(ヤマト運輸株式会社「デジタルキーを活用した置き配サービスとは何ですか?」https://faq.kuronekoyamato.co.jp/app/answers/detail/a_id/3805(最終閲覧日:2023年10月31日))
  • タワーマンションでは配達に30分以上を要する事例がある(国土交通省・農林水産省・経済産業省(2022年12月13日)「第4回 持続可能な物流の実現に向けた検討会 資料1-3 佐川急便株式会社発表資料」p.10)
  • 三菱UFJ不動産販売株式会社(2017年9月12日)「“一戸建て用宅配ボックス”に対する意識調査」
  • 例えば荒川区が助成金の対象製品例としている製品は6万1千円~設置費用別となっている。(荒川区(2021年4月26日)「【東京23区初!】【荒川区】宅配ボックスを設置してCO2削減を推進!新型コロナ対策にも効果!」)
  • 足立区(2022年6月)「令和3年度第2回 区政モニターアンケート調査報告書《宅配ボックス及びオープン型宅配ロッカーについて 》」p.19
  • 足立区(2022年6月)「令和3年度第2回 区政モニターアンケート調査報告書《宅配ボックス及びオープン型宅配ロッカーについて 》」p.21
  • 大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所 久保 依子(2022年12月)「分譲マンションにおける宅配ボックスの設置率および設置検討時の事例について」
  • 国土交通省「国土交通省における宅配ボックス設置に関する支援策等一覧」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000050.html(最終閲覧日:2023年11月10日)。なお、自治体でも支援策を用意している場合がある。
  • 一般財団法人ベターリビングホームページhttps://www.cbl.or.jp/blsys/seinouhyojisyo/ld.html(最終閲覧日:2023年10月31日)
  • 日本郵政株式会社(2022年)『郵政150年史』p.135
  • 日本郵政株式会社(2022年)『郵政150年史』p.178。なお、この調査結果を受け1979年4月からエレベーターのある3階建て以上の建築物も郵便受箱設置が義務化された。

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