シティ・モビリティ

企業主導の社会課題解決
~「逆プロポ」を事例として~

主任研究員 宮本 祐輔

「逆プロポ」は、企業が自治体に対して社会課題解決に関連する新たな事業に関わるアイデアや実証フィールドの提供等を求めるという、従来のプロポーザルとは逆の発想で行われるサービスである。「社会課題の解決につながる事業を、企業が発案し、行政(特に自治体)と共に創り上げる」新たな枠組みであり、企業主導の社会課題解決の裾野が広がっている。
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1.はじめに

多様化、複雑化する社会課題は、その解決(価値創造も含む)のために、「ヒト・モノ・カネ」に限界のある行政だけでなく、企業等の様々なプレイヤーが持つリソースの結集が必要となる。しかし、現時点では、社会課題の解決のために、企業の力が十分に発揮されているとは言い難い。

もし、企業の事業と社会課題の解決の方向性が一致するのであれば、企業が行う社会課題解決の事業は経済成長の原動力になり、かつ、持続的な社会課題解決が可能となる1 。しかし、社会課題に馴染みが薄い企業は社会課題起点のマーケットイン型の思考を持つことが難しく、また、思考を踏まえたビジネスモデルや商品・サービスの考案やその実証に必要なプロセスが分からない等、社会課題解決事業の企画や開発が難しい。

本稿では、上記のような状況で企業が行政(特に自治体)と事業創造を円滑に行うことができる取り組みの一つとして、株式会社ソーシャル・エックス(以下、SLX社と記載)が提供している「逆プロポ2」を紹介する3

2.「逆プロポ」の仕組み

「逆プロポ」は、≪図表1≫のように、企業が自治体に対して事業の提案を求めるという逆転の発想によって生まれたサービスである。「逆プロポ」では、企業が将来の収益事業化等4に向けて、関心のある社会課題の提示をし、公募を行う。一方で自治体は、関心がある公募に対して、課題認識の解像度を上げる提案や、課題解決の方向性のアイデアや実証フィールドの提供等を提案する。

「逆プロポ」の一連の流れでは、実証事業等の費用は企業が負担し、自治体は実験費用等の物件費を支払わなくてもよい(更に、原則として企業から自治体へ寄付がなされる)。これは、従来の受発注関係とは逆の流れであり、「社会課題解決のためにやることを、企業の発案で、企業の経営資源(資金、人材、資産、ノウハウ等)を使いながら、自治体と共に創り上げ、共に事業を行う」ことによって、企業と自治体の対等な関係の共創が可能となり、社会課題の解決方法の裾野が広がっている。

「逆プロポ」における各者の関係は≪図表2≫のとおりであり、企業と自治体に加えて、SLX社が両社の間に入った三者で共創を実現している。

≪図表2≫「逆プロポ」における三者の共創の狙い、役割、資金の分担

なお、「逆」の流れが生まれたきっかけは、SLX社の二人の代表取締役の伊藤氏(地方議会議員経験者)と伊佐治氏(民間企業事業開発経験者)の出会いである。「お金を出してでも社会課題を知りたかった」という伊佐治氏に伊藤氏が着想を得て「逆プロポ」が創り上げられた。

「逆プロポ」を利用している企業は、東証上場企業からスタートアップまで様々であり、それに応じる自治体も広域自治体や政令指定都市から人口数万人の基礎自治体まで様々である。規模に関わらず利用ができる仕組みとなっており、「逆プロポ」が有するポテンシャルは大きいと考える。

3.キムラユニティー株式会社×枚方市「減災DX」の事例

「逆プロポ」の事例として、キムラユニティー株式会社5(以下、KUCと記載)が枚方市6と行った「減災DX」を紹介する7。「減災DX」は、枚方市がアナログ的に管理をしていた防災備蓄品の管理等について、KUCの「防災備蓄品の管理システム」を枚方市に試験的に使用してもらい、自治体目線での使い勝手の検証等を行い、検証のフィードバックを踏まえた上で、システム等の開発を行うプロジェクトである8

当初このプロジェクトは、KUCの別のシステム(要員等のリソース管理システム)を用いた災害時の効率的なリソース配置の実証実験を想定していた9。「逆プロポ」の公募を行っている際に、枚方市から、災害時だけの利用を想定している要員管理システムではなく、災害時以外の平時に利用できる「防災備蓄品の管理システム」の開発に向けた共創をしたいとの提案があった。KUCは、枚方市の提案を受けて、枚方市が積極的な意見出しや情報提供を行ってくれる可能性が高いことや、「逆プロポ」の公募テーマありきではなく市民目線で考え活動している点等を踏まえ、枚方市を共創相手とした10

このプロジェクトでは、防災訓練でKUCが開発した試作モデルを枚方市に複数回使用してもらい、システムの使用感や操作性が検証されている。実証実験を通じて、KUCは「自治体とKUCで目線や判断基準が異なる」具体的な事項を確認し、より利用者目線に適合したシステム開発が進められた。

現在、実証実験は終了しており、KUCは、「防災備蓄品の管理システム」を自治体等に導入してもらうための事業展開を行っている。

4.「逆プロポ」がよりよい共創につながる理由

(1)「逆プロポ」のメリット

「逆プロポ」では、企業および自治体が≪図表3≫に記載のメリットを享受できることが期待される。「逆プロポ」を利用する企業は、SLX社のコーディネートを受けることによって、自社で独自に関係性を構築するよりも早く効果的に新たなプロジェクトを立ち上げ、進めることが可能となる。

自治体にとっては、手続きの公平性を担保した上で、熱意のある企業とともに、当該企業の資金等のリソースをもとに(自治体が支出する物件費が無ければ予算要求プロセスが簡略化される)、社会課題の解決につながる取組・実証を進めることができる。なお、「逆プロポ」では自治体が提案する書類はA4判1枚とし、自治体が動きだしやすくなるような工夫も行っている。

≪図表3≫「逆プロポ」のメリット

(2)「逆プロポ」の留意点

「逆プロポ」では上述のようなメリットが期待されるが、対象者の熱意そのものは生み出さない11。「お金を払うのだから後は自治体に動いてもらおう」という企業や「事業費が無料だから失敗してもリスクは無いのでとりあえず企業に全部任せよう」という自治体が「逆プロポ」を使っても共創は難しい。よりよい共創のためには、両者が課題解決についての熱意を持ち、他者の考えを受容する必要がある。

上述のような必要性を踏まえ、「逆プロポ」では良質なマッチングを図るため、熱意のある企業や自治体をサービスの一義的な対象としている(全ての企業や自治体を対象としているわけではない)。

なお、「逆プロポ」は良質なマッチング部分がサービスの対象であるため、プロジェクト開始後に共創を機能させていくためには、会議等を円滑に進めるための要員(いわゆるファシリテーター)の確保やプロジェクトが円滑に進むような場の設計等を、企業または自治体が行う必要がある。

(3)「逆プロポ」を有効に機能させるためのSLX社の努力

「逆プロポ」が有効に機能するためには、企業と自治体のマッチングを適切にコーディネートする等、SLX社の運用面の役割が重要となる。適切なコーディネート等を行うためには、企業と自治体の双方に対して信頼関係を構築し続ける必要がある。中長期的な信頼構築のために、SLX社では、短期的な収益を得られるとしても、「逆プロポ」の理念にそぐわない企業からの依頼は断る等の方針を継続している。

「逆プロポ」のようなマッチングプラットフォーム型のビジネスモデルの場合、特に事業の初期段階では収益よりも費用のほうが大きくなる傾向にある12ため、事業が軌道に乗るまでは、財務的なマイナスが継続して出ることを覚悟しながら事業を行わなければならない。そのような状況で目の前の収益を断るという経営判断をするのは容易ではない。「逆プロポ」は社会課題を解決し、企業の新規事業創造を促すような仕組みであるが、「逆プロポ」そのものの運営費用を行政からの事業委託に頼るのではなく、補助を受けているものでもない。サービス利用企業から「逆プロポ」の対価を得ており、その対価や派生サービスの収益13が「逆プロポ」の運営費となっている。なお、SLX社は「逆プロポ」の開発や運営で生じた財務的なマイナス部分のうち、これらの収益でカバーできていない部分については、SLX社の理念に賛同する企業からのシステム発注から得られる収益等でカバーしている。

このような取組の結果、「逆プロポ」は、「2021年度グッドデザイン賞受賞14」等、先進性等に対する外部からの高い評価も受けている。また、SLX社は、東京都等の自治体のアクセラレーションプログラムの運営事業者やアドバイザー等となっており、官民共創の裾野を拡大させている。

5.おわりに:イノベーションによって社会課題解決のビジネスフロンティアを広げる

「逆プロポ」は、受発注の関係を逆転するという、誰もが思い付きそうだが思い付けなかった「コロンブスの卵」のようなアイデアである。言われてみれば当たり前のように見えるアイデアであるが、最初にアイデアを思い付くことは難しく、リスクを取りながらそのアイデアを実行に移すことは更に難しい15

「逆プロポ」の類似のビジネスが今までになかった理由は、発想が無かったことだけではなく、仮に発想があったとしても初期投資のリスクをとれるような覚悟がある企業がいなかったからと考えられる。

社会課題解決を新しいビジネスにする際、既存の手法を単純に踏襲するだけでは収益化が難しい。それ故に「逆プロポ」のようなイノベーティブなビジネスモデル16を社会に実装することが必要であり、それが新たな資金の流れを生み出し、ビジネスフロンティアを創出することができるになるであろう。

このようなビジネスモデルの構築は容易ではないが、「逆プロポ」のような新しい形の社会課題解決のためのサービスが増えるほど、民間企業の力を使った社会課題の解決がより加速していくであろう。

  • 内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年6月16日閣議決定)において「課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現する」との記載があり、社会課題を民間企業の事業活動で解決するという動きは今後ますます重要になると期待される。
  • 逆プロポホームページ<https://gyaku-propo.com/>
  • 「逆プロポ」の詳細は、伊藤大貴、伊佐治幸泰、梛野憲克著「ソーシャルX 企業と自治体でつくる「楽しい仕事」」(日経BP社、2022年4月)にて記載されている。当該レポートの各所において当該書籍を参考としている。また、伊藤大貴の「ソーシャルX」(visited Jan. 12, 2024)<https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00464/>や北川正恭、伊藤大貴監「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(日経BP社、2019年3月)の内容やSLX社代表取締役の伊藤氏への取材内容も本レポートの参考としている。
  • 企業が「逆プロポ」を行う目的は、「将来の収益化を見込んだ実証事業の実施(アイデアが無い状態から事業を起こす、アイデアを実証しながら磨き上げる、実際の現場で事業を行いながら既存事業を改善する)するため」、「社会貢献(企業が提供するサービス、ソリューションの中に社会貢献の要素を盛り込む)」等が考えられる。
  • キムラユニティー株式会社(KIMURA UNITY CO.,LTD.:KUC)は、「物流サービス」、「自動車サービス」、「情報サービス」、「人材サービス」の4つの複合的なサービスを通して、国内・海外で広く事業を展開している東京証券取引所(スタンダード)上場企業。<https://www.kimura-unity.co.jp/>
  • 枚方市は大阪府にある人口約40万人の中核市(政令指定都市以外で人口20万人以上の要件を満たす規模や能力などが比較的大きな都市の事務権限を強化し、できる限り住民の身近なところで行政を行なうことができるようにした都市)。<https://www.city.hirakata.osaka.jp/front.html>
  • KUCのロジスティクス事業本部特販部(当該プロジェクトの担当部署)への取材に基づく。
  • 枚方市プレスリリース「災害時、物資提供の迅速化へ 物資・物流システムの共創に向けてプロジェクト始動」(visited Jan. 12, 2024)<https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000045/45006/220329.pdf>
  • 逆プロポホームページ「減災の観点から意見交換または実証実験(有事シミュレーション等)を共に実施いただける自治体を募集」(visited Jan. 12, 2024)<https://gyaku-propo.com/projects/52701171-4ba6-42d7-8af5-f9507894901e>
  • PR TIMES「「逆プロポ」にて、枚方市とキムラユニティーのパートナーシップが成立、防災DXに挑む」(visited Jan. 12, 2024)<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000088249.html>
  • SLX社が「逆プロポ」関係者をエンカレッジすることはある。しかし、エンカレッジした結果としてどうなるのかということや、そもそもの熱意は企業や自治体サイドによる。
  • プラットフォームのシステム構築費用、自治体や企業との関係構築費用(=人件費)、サービス認知度向上のための各種広告宣伝費用等が発生する。また、システム維持費や人件費は固定費として毎月支出されるものと推察される。
  • 「逆プロポコンシェルジュ」(visited Jan. 12, 2024)<https://gyaku-propo.com/services/gyakupropo_concierge>のように、自治体から対価を得ている派生サービスも存在する。また、SLX社は行政からの委託を受けた事業も実施している。ただし、「逆プロポ」サービスそのものは行政から対価を得ていない。
  • 公益財団法人日本デザイン振興会「GOOD DESIGN AWARD」<https://www.g-mark.org/>
  • 『ソーシャルX 企業と自治体でつくる「楽しい仕事」』によると、「逆プロポ」の構想段階で中央省庁にヒアリングをした際に、サービスの市場性について懐疑的な意見が出された。恐らく一般的な大企業やVC等も当時であれば同様の意見であり、サービスを形にするということは他社では難しかったと考えられる。なお、代表取締役の伊藤氏は中央省庁の反応を見て「これはいけるかもしれない」と感じたとのことである。
  • 「逆プロポ」の類似ビジネスを後発で行うことを指すのではなく、社会課題解決を企業の事業活動によって解決できるような前例の無い事業を創造することを指している。

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