ワーク・エコノミックグロース

中間管理職の役割を未来の働き方を見据えて再考する
~メンバーを含めた役割の分担と対人関係スキルの向上による中間管理職の負担軽減が組織の底上げに~

主任研究員 大島 由佳

成果主義と組織のフラット化によるプレイング・マネジャー化などから中間管理職の負担が増している。近い将来AIの急速な進歩で情報伝達やタスク遂行・管理の負担軽減が期待される一方、AIでの完全代替が難しい個人毎の育成や動機づけなどの対人業務での中間管理職の役割は依然重要と考えられる。ジョブ型の広がりなどメンバーの専門性や多様性が高まる組織では役割発揮の難易度は上がっている。その流れを踏まえると、役割の分担、対人関係スキルの習得と発揮を非管理職も含めて行い対人業務の負担を軽減するなどの対応策がある。中間管理職の負担軽減は、組織構造全体の中での役割の再定義として行われる必要があり、組織の底上げ、中長期的な企業の成長にもつながるだろう。

1.企業・職場に影響を与える重要な課題

中間管理職の負担が重いという話は今に始まったことではないが、最近はときに「罰ゲーム化」と表現されるなど、その負担の重さが指摘されている。負担の大きさに比べて賃金が十分ではないなどの理由から中間管理職になりたがらない人も多いという1。背景には、組織のフラット化によるポストの減少で部下の人数が増えている、長時間労働の削減による影響のカバーに加えて成果主義のもとでプレーヤー業務を求められる、コンプライアンス面での要請が増えているといった現状がある。また、新卒一括採用や終身雇用が緩み、より多様な背景を持つメンバーが集う職場での部下マネジメントの難易度は上がっている。上司のサポートは部下のエンゲージメントに影響するとの分析がある2など、職場のメンバーに影響を与える中間管理職が求められる役割を発揮できるかは、企業にとって重要な課題といえる。また、管理職自身は人と時間の不足を、人事部門は管理職のスキル不足を課題と捉えているという現状認識の差も指摘されている3

2.中間管理職の役割とその変化

中間管理職は、企業によりその役職名は異なるが、「経営層と一般社員を結び、企業理念や企業経営上の重要な目標を、各職場の特性、状況に応じて現場に浸透させ、チームで実現する中核的な役割」4を担う者とされ、部長と課長などのように中間管理職の中で複数の階層が存在する場合もある。その役割は多岐にわたるが、(a)情報関係 (b)業務遂行関係 (c)対人関係 (d)コンプライアンス関係の4つに大別できる5《図表1》。
 

 
 (a)情報関係と(b)業務遂行関係の役割も重要だが、将来ICT技術やAIなどの進歩で機械による代替・負担軽減が一定進むといわれている6。一方、(c)対人関係と(d)コンプライアンス関係の役割は、雇用形態・働き方に対する意識の多様化やコンプライアンスに係る管理実務の増大という動向、特に(c)は動機づけなど一人ひとりに合わせた対応という対人的な特性から、今後も中間管理職の負担は続くとみられる。

最近では管理職が存在しない「ティール組織」7や「DAO」(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織8)も注目されている。自らの役割を見出して遂行できる、他者との関係を適切に構築できるといった構成員各人の高い能力が前提条件となるため、管理職不在の組織が成り立つのは容易ではない。また、(c)対人関係の役割の中にも対話型AIが担えるケースが既に出ていて、近い将来対話型AIは「人間的」になるとの声もある9。しかし、現時点では仕事の問題解決や悩み相談の相手として対話型AIよりも人間とのコミュニケーションを好む人が多いとの調査結果10があるなど、(c)対人関係の役割は引き続き中間管理職にとって重要と考えられる。更に、AIなどの絶えず変化する技術をいかに適切に利用するかの選択や判断といった新たな役割も求められている。中長期的な見通しを踏まえながらも中間管理職の負担軽減は急務だ。

3.中間管理職の負担を軽減する方法

1.の現状と2.の中長期的な見通しを踏まえ、中間管理職の役割を分担する方法と、対人関係に係る役割が発揮されやすくなるよう組織全体で対人関係スキルを底上げする方法の2つに絞り負担軽減策を紹介する。

(1) 中間管理職の役割の複数人での分担

① 1つの管理職を二人で担う ~ドイツの「タンデム方式」~

管理職をパートタイム勤務の人が担う場合、必要に応じて二人で分担する「タンデム方式」がドイツにはある11。ドイツでのパートタイム勤務は日本でイメージされる非正規雇用ではなく、所定労働時間の一部の時間働く点でのみフルタイムと区別され、日本の短時間正社員に近い。ドイツで個人の状況に応じた働き方として広がる中で、パートタイム勤務の管理職が仕事を処理しきれず退職するケースが発生した12。その解決策として打ち出されたのがタンデム方式である。パートタイム勤務での役割分担だが、複数人での役割分担という点で分担の効果を示す事例といえる。

ここではVR(フォルクスバンク・ライファイゼンバンク)銀行金融サービス社13の事例を取り上げる14。複数州にまたがるザクセン地域の従業員を管理する人事責任者の役割を二人で分担したケースでは、二人とも1日あたり5時間・週4日勤務、一方が月~木曜、他方が火~金曜に勤務することで、営業日には少なくとも一人は勤務する形をとっている。予め二人で話す機会が設けられ、うまく役職を二人で担えるかを確認したうえでタンデムを組み始め、以後は常に重要情報の共有と互いの支援を行っているという。職場へのヒアリングでは、二人の緊密な共働関係は周囲のチーム意識も高めて部署全体に好影響を与えたという声が聞かれた。また、タンデムを組んだ当人は、時間的・精神的な余裕の創出や互いの能力活用、一人では考えつかないアイデアを得るといった創造性を効果として挙げている15

他企業でのタンデム方式の数々の事例16をみても、二人での分担が機能するために必要なプロセスやタンデム方式の効果は上記の事例と共通している。事前にタンデムを組む当人間で話し合い、共感力や考え方の近さ、コミュニケーション力や信頼を相互に確認したうえでタンデム方式を始めること、開始後の二人での緊密な情報連携と相互支援、互いで異なる得意分野を活かし合うことが肝要だ。

② 管理職の役割を分割して複数人で担う ~日本の事例~

日本でも管理職の役割を複数人で分担する企業が出始めている。例えば日揮ホールディングスでは部長の役割を再定義した17。グローバルのプラント設計を担う空間設計部では中長期ビジョンを実行するリーダーたる部長のほか、組織を統括する部長級の管理職としてプロジェクト管理と人材育成にそれぞれ専念する2つのポストを新設した。前者はプロジェクトコーディネーションマネージャー(PCM)、後者はキャリアデベロップメントマネージャー(CDM)だ《図表2》18

従来は一人の部長が業務運営・管理と人材管理を統括してきたが、激しい事業環境の変化に対する新しいビジョンを描くリーダーとしての負担、事業転換を担う若手などの人材育成の重要性が増した。そこで2022年以降、海外事業を担うグローバルの主要30組織にCDMやPCMを設けた。間接部門は部長とCDMのコンビ、事業を手がける部署はPCMを加えた「三位一体」の運営に転換した。最終決裁者は部長だが、競争力の礎となる人材管理はCDMとPCMが部長と同等の立場で意思決定に関わる。そのため部長・CDM・PCMは密なコミュニケーションをとっているという。
 

 
 効果は育成面から出てきている。人事面談では直属の課長級の上司が業務の達成度を評価してきたが、分担の実施後は加えてCDMが中長期のキャリア希望に耳を傾け、必要なスキルや経験を助言している。それにより部員のキャリア希望の一元的な把握や長期の人材計画の立案ができるようになった。育成も兼ねた若手の抜てきが増えたほか、キャリア相談がしやすくなったとの部員の声も出ているという。

(2) 非管理職も含めた対人関係スキルの習得・発揮

中間管理職の負担を軽減する別の方法として、AIなどが今後一層進歩してもなお引き続き中間管理職にとって重要とされる「対人関係」に係る役割の負担を軽減するアプローチがある。育成や動機づけなどの対人関係の行為は当事者双方があって成り立つため、中間管理職の対人関係に係るスキルの向上のみならず、非管理職など広く組織のメンバーの対人関係に係るスキルを向上させることは効果的と考えられる19

将来においても対人関係のスキルは役職や職種によらず不可欠だとも言われている。例えば、世界的なコンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが2021年に公開した調査結果では、未来の仕事の世界で生き抜くために必要なスキルを4つの領域に区分して提示している。その中の1つが対人関係のスキルである《図表3》20。中間管理職の負担軽減に加えて、未来の仕事環境を考えても、中間管理職以外のメンバーの対人関係に係るスキルの向上は重要といえる。
 

 
 未来に向けて必要とされるスキルの中には、従業員への教育方法がまだ確立していないスキルもあるかもしれない。一方で、人材育成や組織開発などの分野で教育方法が既に見出されているスキルもある。また、デジタルのスキルなどは役職に関わらず広く従業員に習得機会を提供していても、《図表3》に挙げているような対人関係のスキルは、中間管理職やその候補者に研修などの習得機会が限られている企業もあるだろう。認知やセルフ・リーダーシップのスキルとあわせて、対人関係に係るスキルの習得機会を役職問わず提供することは、未来に向けた人材投資をしながら、中間管理職の負担軽減につながることが期待できる。

例を挙げると、近年注目が高まっていて研修プログラムも複数存在するフォロワーシップを非管理職のメンバーに習得・発揮してもらう方法が考えられる。フォロワーシップとは、指示命令に効果的に従い、リーダーの努力を支援する能力のことである21。いくつかの種類があるが、中でも上司やリーダーの考え方に対して、能動的、先回りして、示された枠を超えて果敢にチャレンジする「プロアクティブ型」のフォロワーシップは、中間管理職の負担軽減にもつながるといえよう。《図表3》にある「■対人関係」の各スキルと符合し、「■認知」のスキルにある批判的思考や的確な問いかけも含む能力で、未来においても重要なのがみてとれる。組織のメンバーをプロアクティブ型へ成長させるには、リーダーシップによる後押しが欠かせないが22、フォロワーシップに係る学習機会を非管理職も含めて広く提供する、そして職場でフォロワーシップを発揮してもらうのは一法だろう。

4.考察

(1) 示唆と課題

将来の中間管理職を育成する意味でも、組織内に小規模なチームを作り、下位職をチームリーダーとして中間管理職の役割の一部を担わせている企業もあるだろう。中間管理職の役割負担軽減が期待されるほか、チームリーダーにとってはリーダーシップのみならずフォロワーシップを養う機会にもなり得る。こうした場合でも、3.(1)で紹介した2つの事例にある役割分担が機能する鍵はヒントになる。中間管理職とチームリーダーとの事前の話し合いと信頼構築、密なコミュニケーション、などである。また、明確な役職・肩書や権限の付与は、当人も社内外の関係者も安心・納得して相談や仕事がしやすくなる点で効果的だ。

3.(1)②の人材育成・人事面談の事例のように、中長期的な視点が必要など内容によっては中間管理職が担ってきた役割を同位や下位ではなく上位の役職者が担う方法も考えられる。

一方で課題もある。従来一人で担っていた役職を複数人で担い、責任と権限を付与するとなると、組織構造、役職、評価、報酬など企業全体の仕組みの整備が必要だ。中間管理職の役割の一部を担うポジションに対して、イメージしていたキャリアとの違いやその後のキャリアの見通しなど、戸惑いや不安を抱く人もいるかもしれない。本人への具体的な期待やキャリア見通しの提示・支援など、丁寧な運用が欠かせない。

(2) 未来の働き方を見据えて

《図表3》に挙げたスキルは、ティール組織やDAOの構成員に求められるスキルと重なる。そうしたスキルを広く人々が持つ未来がくれば、中間管理職が不在の組織が今より増えるかもしれない。

たとえティール組織やDAOのようにあらゆる構成員が高い自律性や能力を持った組織でなくても、ジョブ型やスキルベースでの採用を背景に、メンバーのスキルや専門性が高い組織が今後広がる可能性がある。そうした組織では、育成・指導の役割が弱まる、あるいは高い水準で求められる、育成・指導ではなく高いスキルや専門性の発揮を引き出す役割が強まるなど、中間管理職の役割の水準や重心は変わるだろう。

そうした変化に対して、中間管理職の役割の分担や再定義は企業や働く人にとって機会になる。多岐にわたる役割やその負担から、これまで中間管理職のポストを躊躇していた人も少なくないだろう。切り出された役割は、そうした人や、専門性を高めてきた人に合っていて、従来の役職から一歩踏み出して能力やスキルを発揮する機会になると期待される。また、組織内の現在ある役職の階層に対して「階段を昇るか否か」というキャリアパス以外に選択肢を広げる、あるいは階段のステップを細かく刻めることにもなる。その際、3.(2)で紹介したフォロワーシップをはじめとする対人関係スキルが役立つだろう。
 

本稿では、中間管理職の負担軽減策として、役割の分担と、非管理職も含めた対人関係スキルの習得・発揮の2つの方法を事例も交えて紹介した。中間管理職の負担軽減は、既存の負担を減らすという局所的な観点だけではなく、組織構造全体の中での役割の再定義として行われる必要があり、組織の底上げ、中長期的な企業の成長にもつながるだろう。

  • 小林祐児 「罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法」(集英社、2024年2月)
  • SOMPOインスティチュート・プラス 生産性に関する研究会 「データ分析を通じて人的資本経営を加速する Vol.1 ―生産性が高い組織や個人の特徴―」(2023年7月) (visited Apr. 23, 2024) < https://www.sompo-ri.co.jp/publicity/productivity/ >
  • パーソル総合研究所 「中間管理職の就業負担に関する定量調査結果報告書」(2019年10月)
  • 企業活力研究所 「働き方改革に向けたミドルマネージャーの役割と将来像に関する調査研究報告書」(2017年3月)
  • 日本経済団体連合会 「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」(2012年5月)
  • 放送大学 経営情報学入門(2023年)。組織での意思決定は順に「探索」(問題発見・定義および問題解決に利用可能な代替案の策定)、「設計」(代替案の結果の予測と評価)、「選択」の3段階で、「探索」などの上流段階ほどICTが貢献するとされる。
  • 経営者や上司がメンバーに指示するのではなくフラットな関係の中で協力して共通の目標達成に向けて成長を続ける組織。
  • ブロックチェーンの技術により、組織の代表者が存在せず誰でも自由に参加、平等な立場で自律的に運営される組織。
  • Forbes JAPAN Web-News 「対話型AIは人より気楽だが、相談相手なら人間に優位性」(2023年9月15日)
  • 日本能率協会マネジメントセンター 「対話型AIの活用とコミュニケーションに関する実態調査 半数以上が、指導の効率性・公正性なら「対話型AI」、問題解決・悩み相談など感情面のコミュニケーションは「人間」を重視」(2023年9月12日)
  • 田中洋子 「ドイツ企業の管理職における短時間パート勤務とジョブシェアリング―企業調査からみる働き方改革の実態―」(筑波大学地域研究 第41巻、2020年3月)。タンデムとは馬を直列につないだ二頭立て馬車やサドルが縦に並んだ二人乗りの自転車を指す言葉で、二つの力を合わせてものを動かすという意味で使われる。
  • 前掲注11
  • ドイツ語表記はVR FinanzDienstLeistung GmbH。ドイツ国内の全ての協同組合銀行にサービスを提供する中央組織。
  • 前掲注11。左記論文において本事例は2016・2017年の情報をもとに執筆・紹介されていて、企業名などは当時の内容。
  • 前掲注11
  • 前掲注11、NHKスペシャル 「2024 私たちの選択~AI×専門家による“6つの未来”~【前編】」(2024年1月4日放送)
  • 日本経済新聞 「日揮、3人で分ける「部長職」 高まる管理職負担にメス」(2023年10月26日)
  • 前掲注17、日揮ホールディングス株式会社 統合報告書 2023 JGC Report
  • 前掲注1
  • McKinsey & Company “Defining the skills citizens will need in the future world of work”, June 25, 2021, (visited Apr. 23, 2024) < https://www.mckinsey.com/industries/public-sector/our-insights/defining-the-skills-citizens-will-need-in-the-future-world-of-work#/ >
  • Bjugstad, K., Thach, E. C., Thompson, K. J. & Morris, A., “A fresh look at followership: A model for matching followership and leadership styles,” Journal of Behavioral and Applied Management, 7(3), 2006, p.304
  • 大島由佳「ワーク・エンゲージメントの向上を心理的安全性とフォロワーシップから考える」(SOMPO未来研レポートVol. 80、2021年12月)

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