総量規制には社会的合意が不可欠
~外国人の「総量規制」の難しさ①~
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1.はじめに
2025年の参議院選挙や2026年の総選挙において、外国人政策は大きな争点の一つとなった。その外国人政策において、外国人の「総量規制」、つまり、人口(日本人+外国人)に占める外国人を一定割合に制限することが浮上している。具体的な数値としては1割程度とされることが多い。
そこで本稿では、住民基本台帳に基づく人口、人口動態や在留資格別外国人数などを参考に、日本全体の人口動向を踏まえた外国人の総量規制のあり方について考察したい。なお、地域別分布を踏まえた外国人の総量規制の考察については、別稿「Insight Plus 総量規制は地方圏の人手不足に大きな影響~外国人の「総量規制」の難しさ②~」を参照して欲しい。
総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2025年1月1日現在。特に言及しない限り以下も同じ)によると、外国人は368万人にのぼり、外国人の人口データが把握できる2013年以降では過去最高となった。この規模は市町村別人口ランキング1位の横浜市に迫るもので、また都道府県別人口で見ると、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、北海道、福岡県に次ぐもので、静岡県以下38府県より多い。さらに、日本の総人口(日本人+外国人)に占める割合(3.0%)、2024年1年間の増加数(35万人)も過去最高である。
外国人の1年間の増加数の推移を見ると、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年と2021年は減少したものの、2022年からは一転して2019年を上回るペースで増加している(図表1)。一方、2013年以降の日本人は減少ペースが概ね加速しており、直近は▲91万人と、過去最大である。
このように、新型コロナウイルス感染症の影響下の時期を除けば、日本人が減少する一方、外国人が増加したため、日本全体の人口の減少ペースは緩和されている。言い換えれば、外国人の増加がなければ日本の総人口の減少はかなり加速しているといえる。
日本人と外国人の年齢構成の違いも重要だ。日本人は長年の少子高齢化の影響で人口が多い年齢層は中高年以上となっているが、外国人は日本での就労をメインに在留する者が増えているため、日本人に比べると極めて若い年齢構成となっているからだ(図表2)。特に、外国人・日本人別に、20歳~39歳の割合を見ると、外国人は約半分である一方、日本人はわずか2割にとどまっている。このように、外国人の増加は日本人の少子高齢化による労働力減少、特に若年労働力の減少をかなり緩和している。


2.長期滞在可能な外国人の増加
人口動向は出生と死亡による自然増減と入国と出国などによる社会増減に分けることができる。まず、日本人の自然増減を見ると、2024年の出生者数は69万人で過去最少に、一方、死亡者数は160万人で過去最高となっており、死亡数が出生数を上回る自然減少も過去最高である。日本人では高齢者が多く、若者が少ないことから、今後は自然減少が拡大基調で進むのは間違いない。
一方、外国人は出生が死亡を上回る自然増加であり、2024年の自然増加数は過去最多であった。外国人は日本人に比べてかなり若い年齢構成であることから、自然増加は今後も見込めよう。
次に社会増減を見ると、日本人はわずか3,587人の社会増加であるのに対し、外国人は34万人に上る。社会増減のうち、外国人における国外からの転入者数の推移を見ると、新型コロナウイルス感染症で大きく落ちこんだ時期以外、拡大基調となっている(図表3)。

このような外国人増加の背景を探るため、法務省「入国管理統計」により主要な5つの在留資格別動向に見ると、最も大きく増加しているのは特定技能であり、次いで技術・人文知識・国際業務と永住者の伸びが目立つ(次ページ、図表4)。一方、技能実習(2027年度から育成就労に変更)と留学は新型コロナウイルス感染症の影響で一時期大きく減少したものの、その後は増加に転じている。
このうち、特定技能は2019年に創設された在留資格である。特定技能は技能実習から移行することができる分野が多いため、技能実習が増加すれば、数年後に特定技能が増加する。特定技能のうち1号は滞在期間の制限があるが、2号に移行後は滞在期間に制限がない。また、技術・人文知識・国際業務は留学生が卒業後に移行することが多い資格であるため、留学生が増加すれば数年後に滞在期間に制限のない技術・人文知識・国際業務も増加する。そして、永住者は10年を目途に日本で在留している外国人が取得する在留資格である。このように考えると、技能実習や留学生が増えれば、いずれ特定技能や技術・人文知識・国際業務が増え、最終的には永住者が増えよう。

3.注目される留学と特定技能2号の行方
特に注目されるのは、特定技能のうち、会社を変わる転籍と妻子の入国が許される特定技能2号と留学の行方であろう。何かと課題が多いとされた技能実習は就労後の帰国が前提であったのに対し、特定技能1号は技能実習3年間を経て移行可能な資格で、最大5年滞在できる。特定技能2号は特定技能1号から移行でき、対象分野も当初の2分野から16分野に拡充された。特定技能2号は在留期間に制限がなく、永住資格に次ぐ制度と位置づけられよう。このような背景から、日本でできるだけ長く働きたい外国人にとって、特定技能は以前より魅力的な制度となっている。世界的に進む少子化の影響もあって、外国人労働者は各国で争奪戦の様相を呈しているが、著しく不利益な制度に変更されない限り、現在の日本の制度は競争力を有しているといえ、技能実習や特定技能を目指す外国人はあまり減らないであろう。
また、留学生もあまり減らない可能性が高い。日本の少子高齢化の進展で大学を中心とした高等教育機関の経営は厳しくなっており、外国人の獲得を進めていく意義は高まる一方であるからだ。さらに、トランプ政権における米国留学受け入れの厳しさは、当面、日本で留学生が増える要因の一つにもなろう。このような背景から今後の外国人は漸増傾向と推察される。
4.労働力不足への代替策に社会的合意が必要
国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計によると、出生率中位・死亡率中位の日本の将来推計人口は、2050年に1億人を若干上回る水準となる。現在、出生率が出生率中位よりも低く推移していることを考慮すると、2050年までに1億人割れの可能性もある。一方、外国人について、年35万人増加が今後も続くと考えると、2040年代には1,000万人に達し、外国人が1割程度を占める計算となる。20年程度の猶予しかないため、1割程度の総量規制のためには、今すぐにも効果的な数量制限を導入しなければならない。
しかし、外国人受け入れ数を毎年5万人減少し、毎年の増加数を30万人と仮定すると、外国人受け入れ数は20年で100万人の減少となるが、1割到達までわずか数年ほどの猶予でしかない。外国人受け入れ数を毎年15万人減少して毎年の増加数を現在の半分近くとなる20万人に制限しても、同様の計算で1割到達まで10年ほどの先延ばしにとどまる。このように考えると、1割という目標を達成するためには、いますぐに外国人受け入れ数を現在の半数以下とし、さらに2050年頃の1割達成時からは、受入数を出国者数以下にコントロールするような、強力な総量制限を導入する必要があろう。
その際、長期滞在可能な在留資格について強力な規制を設けるのは難しい。永住者などの長期滞在可能な在留資格を既に保有し、現在日本に在住する外国人を無理に減らすことは現実的でないからだ。他の在留資格から永住者になる条件を非常に厳しくすることも考えられるが、他の在留資格をすでに持つ外国人にとって、日本人並みである永住者の在留資格取得を目指す者が少なくないから、いきなり門を閉ざすようなことは難しいだろう。
また、技術・人文知識・国際業務への移行を通じて日本で働くきっかけとなっている留学についても、運用の強化(在学中の労働時間制限の強化など)は考えられるが、日本人の少子化の中で多くの大学で国際化を進めていることを考えると、留学の受け入れ人数の大幅減少は容易ではないだろう。また、若年人口の減少に伴って、技術・人文知識・国際業務の外国人の労働力は決して軽視できるものではない。さらには、大学のある都市部での留学生の労働も、サービス業を中心に大きな役割を果たしているのは間違いない。
そこで、総量規制において今後の技能実習の受け入れ枠を大きく減らすことがクローズアップされる。日本に入国する前の段階で減らすことができるからだ。その際、特定技能2号で認められている妻子の帯同を今後は原則禁止することも考慮することとなろう。帯同する妻子分だけ外国人が増加するうえ、技能実習は特定技能1号への移行を経て特定技能2号に至るため、技能実習の魅力を減じるからだ。しかし、妻子の滞在は外国人労働者に魅力的な制度の一つであり、それなしに海外との人材獲得競争に勝てる見通しは厳しい。日本での労働を短期間に限定して期間満了後に帰国してもらうという「回転ドア型」政策では、賃金などの労働条件を思い切って引き上げる必要があるが、外国人労働者に依存する仕事の多くは労働条件のいいものばかりでないのが現実であるからだ。
また、技能実習などの受け入れ制限による労働力不足に対して効果的な代替策も難しい。例えば、高齢者の相当数に外国人が担うブルーカラーとして働いてもらうことが考えられるが、高齢者が若年労働力の多い外国人の代わりを完全に果たすことはできないであろう。また、比較的年齢層の低いホワイトカラーを中心に、外国人労働者が主に担っているブルーカラーへの移行を進めることも考えられるが、ブルーカラーの大幅な賃上げを含めて、社会的な合意を得るのは容易ではないだろう。
5.おわりに
日本における少子高齢化の進展を考えると、若年労働力を中心に外国人労働者は重要な存在である。そして、単純労働分野の入り口である技能実習を大きく制限することは、それに伴って不足する労働力の効果的な代替策無しでは、社会経済に大きな混乱をもたらすのは間違いない。
技能実習を大幅に規制する際、技能実習の外国人が担っているブルーカラー分野を中心に人手不足への対応が不可欠である。元気な高齢者にブルーカラーの仕事を、あるいはAIや省力化投資などで余剰になりそうなホワイトカラーにブルーカラーの仕事を、それぞれ担ってもらうという、机上の計算は成り立つが、実際に進めるとなると容易ではないだろう。一方で、今すぐに受け入れ人数を大きく削減できないのであれば、「1割」に達する時期をあまり遅らせることはできず、かつ達した後の受け入れを極端に減らし、いきなりゼロ近くとするのも難しい。このように考えると、「総量規制」は政策目標としてわかりやすいが、実現可能なオプションが乏しい。1割といった特定の数値目標を掲げた総量規制ではなく、地方の人手不足対策を進めながら、それに応じて技能実習の受け入れる数をできるだけ減少させることで外国人割合の上昇スピードを緩和することが現実的な解であろう。
日本全体の人口に対する国の目標は、2014年度の地方創生開始に設けられた「2060年に1億人」であり、地方創生への反対が少ないことを考え合わせると、この目標に対して現段階では社会的合意があろう。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2023年)の参考推計では、外国人増加数が2024年の35万人よりもかなり少ない毎年23万人であれば、「2060年に1億人」を達成できる。一方で、外国人受け入れ数を大幅に制限する場合、日本人出生率の大幅上昇なしにこうした目標は達成できず、人口の急減は避けられない。
そのため、外国人の数量制限、特に1割という目標を達成するには、前述の労働力不足対策だけでなく、出生率の大幅な上昇をもたらす少子化対策と並行して行う必要があるが、これまでの少子化対策の成果を考えると、抜本的な少子化対策が成功する保証はない。つまり、外国人の数量制限は日本の経済社会のあり方に関わるものである。緩慢な人口減少を前提としてきた今までの政策のあらゆる面での見直しを早急に検討すべきものであろう。特に、人口急減を受け入れることやそれに伴うブルーカラーへの日本人労働力移動について社会的合意が必要になる。
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