シティ・モビリティ

地方経済重視を「引き継ぐ」新しい地方創生
~高市政権の「地域未来戦略」の特徴①~

上席研究員 岡田 豊

長年の重要政策である地方創生について、高市政権はどのような方向転換を打ち出すのか注目される中、新しい地方創生となる「地域未来戦略」の詳細が発表された。地方創生の主な目的は、東京一極集中の是正、つまり出生率の低い東京圏への人口流入を減少させることで、地方の人口減少対策と国全体の人口減少対策の二兎を追うものである。しかし、東京一極集中に関わる人口移動に対し、即効性のある政策を打ち出すのは容易でなく、地方間の人口獲得競争が激化したことなどから、地方創生は人口対策メインから地方の経済活性化メインに転換しつつある。今回の高市政権の地域未来戦略は国の成長戦略との連携による地方経済重視が鮮明になっているが、これはこれまでの地方創生の流れを引き継いだものといえよう。
【お問合せ】本件に関するお問い合わせは執筆者:岡田(050-5363-4383)までご連絡ください。

1.はじめに

高市政権は国の成長戦略と連携を新たに打ち出した「地域未来戦略」の詳細について2026年7月21日に閣議決定した。地域未来戦略は名称が変わったものの、2014年に人口減少と東京一極集中是正という、人口対策を目的に始まった地方創生の根拠法である「まち・ひと・しごと創生法」に基づき作成されており、地方創生の延長線上にあるといえる。
 高市政権ではこれまでの政策の方向転換が目立つことから、地方創生の行方も注目を集めていた。そこで本稿では2回にわたり、これまでの地方創生との相違などを明らかにしつつ、特に開始10年の検証を経て軌道修正が行われた石破政権の「地方創生2.0」と、今回の「地域未来戦略」の相違を概略することで、高市政権の地方創生の特徴を考察したい。このうち、今回はこれまでの地方創生の流れと石破政権の「地方創生2.0」を概説しつつ、地方経済の活性化重視が高市政権に受け継がれていることを明らかにする。なお、石破政権の「地方創生 2.0 」と高市政権の地方創生である「地域未来戦略」の主な違いについては、別稿「Insight Plus 国の成長戦略と連携する新しい地方創生~高市政権の「地域未来戦略」の特徴②~」を参照して欲しい。

2.2014年開始の地方創生を10年目に検証

高市政権の地方創生を考察するにあたり、これまでの地方創生の流れを振り返ろう。安倍政権の主要政策の1つである地方創生の根拠法は2014年施行の「まち・ひと・しごと創生法」である。図表1を見てわかるように、地方創生の特徴は、人口減少対策としての東京一極集中の是正を大きな目的としたことにある。地方から東京圏への人口移動の減少は地方の人口減少緩和に有効であることに加えて、出生率の高い地方で人口が増えることにより、国全体の出生率の底上げを期待したものとなっている(本稿では、東京圏:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県、地方:非東京圏と記す)。

≪図表1≫まち・ひと・しごと創生法の目的

(出典)「e-Gov法令検索」(https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000136#Mp-Ch_1)

つまり、地方創生の「一丁目一番地」は東京一極集中の是正で、地方創生の様々な施策は日本全体と地方の人口減少の対策という「二兎」を追うものといえよう。それゆえ、地方創生は「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」の4つに愚直に取り組んできた。このうち、「人の流れをつくる」の目標として、東京圏の転入超過数ゼロが長年掲げられた。働くことや住むことに対して魅力のある地方に変貌することで、東京圏への人の流れを変え、その地方で出生率がさらに上昇するのが理想的な展開である。
 安倍政権・菅政権・岸田政権と移り変わる中で、世の中のデジタル化の流れを取り込む形で各種施策の一部が変更され、特に岸田政権では「デジタル田園都市国家構想」という名称に変更されたが、この3政権では地方創生の4つの柱は維持された。
 しかし、地方創生開始後の日本人における東京圏の転入超過数は、減少どころか増加基調で推移し、一時期、コロナ禍で大都市部からの移住が一時盛んになるものの、目標の「ゼロ」には程遠い(図表2)。特に、地方創生開始以降、男性より女性の転入超過数が上回り、その是正が大きな課題となりつつある。
 このような状況を受け、2014年の地方創生開始から10年を契機に、これまでの地方創生の成果を検証した「地方創生10年の取組と今後の推進方向」が2024年に発表された。この報告書では、この10年の間、東京一極集中是正が進まない中、地方間で人口獲得競争が激化したことが以下のように記されている。
 「国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある。地方創生の取組においては、各自治体がそれぞれに人口増加を目指し、様々な施策を展開してきたが、成果が挙がっているケースも、多くは移住者の増加による『社会増』にとどまっており、地域間での『人口の奪い合い』になっていると指摘されている。」
 この地方間の人口の奪い合いは、地域経済の中心都市を巡る人口移動に典型的に見られる。例えば、愛媛県松山市は愛媛県内から転入超過である一方、東京圏、大阪府・兵庫県・京都府・福岡県等の西日本の大都市に対して転出超過になっている(図表3)。

≪図表2≫東京圏の男女別転入超過数(日本人)

(出典)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(各年版)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

≪図表3≫松山市の都道府県別転入超過数(2025年、日本人)

(出典)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(各年版)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

つまり、松山市は愛媛県内の他の自治体から人口を集め、東京圏をはじめとする大都市に流出する構造となっており、これは「破れたバケツ」とも呼ばれるものだ。松山市のような地域経済の中心都市は、県内から集めた人口を県外に出さない「人口のダム機能」を果たすのが地方創生の望ましい姿であるが、現実は非常に厳しい。その背景にあるのは容易に解決できない賃金格差である。特に東京都の賃金水準は、他の地域経済の中心都市と比べて高いだけでなく、年齢が上がるほど格差が広がっていく。

3.地方創生2.0は地方の経済活性化を重視

2024年10月に誕生した石破政権では、こうした流れを受けて地方創生の本格的な見直しに着手し、2024年12月には地方創生2.0の「基本的な考え方」」を、2025年6月には「地方創生2.0基本構想」を、それぞれ発表した。目指す姿としては、「地方創生2.0基本構想」(概要)(2024年)より、以下の3つが掲げられた。高市政権のイメージと重なる「強い経済」というフレーズが石破政権の地方創生でもすでに登場していることが注目される。
●「強い」経済:自立的で持続的に成長する「稼げる」経済の創出により、新たな人を呼び込み、強い地方経済を創出
●「豊かな」生活環境:生きがいを持って働き、安心して暮らし続けられる生活環境を構築し、地方に新たな魅力と活力を創出
●「新しい日本・楽しい日本」:若者や女性にも選ばれる地方、誰もが安心して暮らし続けられ、一人一人が幸せを実感できる地方を創出
 これまでの地方創生である「地方創生1.0」との相違(図表4)は以下の通りである。地方創生2.0は、岸田政権で行われた地方創生1.0の検証結果、つまり、人口の東京圏への一極集中の流れを止めることができず、地方創生の成果が限定的であったという判断を引き継いだ。人口減少は当面続くことを所与としながらも、人口の東京一極集中は加速させないとし、そのために多様な地域・コミュニティがもたらす「楽しい地方」の存在が重要とされた。
 また、石破総理(当時)の第2回新しい地方経済・生活環境創生本部での発言(24年12月24日)「これは単なる地方の活性化策ではございません。日本全体の活力を取り戻す経済政策でありますし、国民の多様な幸せ、楽しい地方を実現する社会政策であります。」から、地方の活性化は日本の活性化に通ずるとされたことがわかる。
 これらから、地方創生2.0の大きな特徴は4つある。第一は、人口減少を所与とした点である。人口減少対策から始まった地方創生により、地方間の人口獲得競争が深まったという反省を踏まえたものといえる。
 第二は、経済活性化を前面に掲げたことである。地方の経済活性化なくして賃金が高く、やりがいのある仕事が創出できず、地方に人を呼び込めないからだ。さらには、日本全体の活性化のためにも地方の活性化が必要だからである。
 第三は、働く人を地方に呼び込むために、地方の生活環境の整備を掲げていることだ。この第二と第三の特徴は地方創生2.0を策定した「新しい地方経済・生活環境創生本部」という名称に明確に表れているといえよう。
 最後に、女性と若者を主要ターゲットとしたことを大きな特徴として挙げることができる。地方創生1.0では地方に仕事を作ることにある程度成功したものの、特に若い女性にやりがいのある仕事を多く見出すことは難しかったといえる。その背景にある地方の職場などで無意識に醸成されている偏見である「アンコンシャス・バイアス」の解消が重要とされた。

≪図表4≫これまでの地方創生1.0と地方創生2.0の主な違い

(出典)「地方創生2.0基本構想」(概要)(2024年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

4.地域未来戦略が「引き継ぐ」地方経済の活性化

地方創生の主な目的は、根拠法であるまち・ひと・しごと創生法にあるように、東京一極集中の是正による地方と国全体の二つの人口減少対策にある。若者を中心に、出生率の高い地方から出生率の低い東京圏への人口移動を減少させることができれば、地方では人口流出が減少するうえ、若者が多く留まることによる出生増加が期待できる。それは、国全体で見ても出生増加にもつながると考えられた。
 しかし、地方と東京圏の大きな賃金格差などから、地方から東京圏への人口移動に即効性のある政策を打ち出すのは容易でなく、KPI(重要業績評価指標)として第1期に掲げられた東京圏の転入超過数をゼロにするという目標はゼロどころか増加傾向に終わった。一方で、地方にとって人口減少に歯止めをかけることを重視せざるをえなくなった結果、対東京を意識する以上に、宅地開発などにより近隣の自治体からの人口移動を促す等、地方間の人口獲得競争が激化した。
 このような状況を鑑み、開始から10年を契機に地方創生の検証が行われ、それを踏まえて石破政権の地方創生2.0では人口減少を所与としながら、地方経済の活性化を重視する方向に舵が切られた。今回の高市政権の地域未来戦略は国の成長戦略と連携を打ち出し、地方経済重視が鮮明になっているが、これはこれまでの地方創生の流れを引き継いだものといえよう。つまり、石破政権からの政策変更が目立つ高市政権にあっても、地域未来戦略では引き継がれている。石破政権の地方創生2.0で生まれた「強い経済」というフレーズが地域未来戦略で見られるのはその証左といえよう。

PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る