日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか(2)
~認可取得で先行する限定空間・みなし公道編~
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※前号 の「日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか(1)
~マイルストーンの2025年、国交省は補助金の減額で自治体の自立を促す~」は、【こちらをクリック】
今回は、レベル4の認可取得で先行する限定空間や施設内を走行するモデルを取り上げます。
経済産業省と国土交通省は、レベル4の社会実装を推進するために、「RoAD to the L4(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト)」を展開しています。レベル4のサービスを4つのテーマに分類し、テーマ1から徐々に高度化させていく戦略を取っています。今回取り上げるのは、最初のステップである「テーマ1」に分類される移動サービスです。

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1.福井県永平寺町/日本初・自動運転カートのレベル4誕生
日本で最初にレベル4の認可を取得した事例が、福井県永平寺町の自動運転カートです。2023年度中に認可取得が完了した唯一の事例で、2023年5月からレベル4での運行を開始しました※1。曹洞宗大本山永平寺の参道入口である「志比」停留所と「荒谷」停留所のあいだ約2kmを結んでいます。積雪のある冬季を除き、土日祝の日中に運行しています。運賃は大人100円、小人50円です※2。
車両は、ヤマハのゴルフカート(グリーンスローモビリティ)がベースとなっており、最高時速12kmの低速で走行します。そこへ、経産省所管の国立研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)が開発した自動運転技術を搭載しています。

※画像はすべて筆者撮影
走行ルートは、 京福電鉄永平寺線の廃線跡を利用しており、現在は、永平寺への参拝者向けの遊歩道となっています。自動車の通行はできないため、自動運転カートにとっては交通事故のリスクが低い走行環境となっています。日本初のレベル4が永平寺町になることは、業界の中では暗黙の了解でした。
一般的な自動運転車では、通信によりGPSなどの測位衛星の情報から車両の現在地を捕捉しますが、山間部では通信状況が悪化する地点があります。そのため、永平寺町のモデルでは走行ルートのすべてに電磁誘導線や磁気マーカー、RFIDが埋め込まれており、自動運転カートのセンサーがこれをなぞって走ります。

永平寺町のモデルは、過疎や高齢化の進むエリアで地域住民の足となる自動運転サービスを早期に実現することを目指したため、敢えてアナログな技術によるインフラ協調を取り入れて開発されました。ただし、レールが敷かれているのと変わらないと見ることもできるため、残念ながら、このモデルによって日本が自動運転レベル4を実現したと、諸外国から認識されていることはあまり無いのが実情です。
過去には、志比~永平寺口駅のあいだの集落を繋ぐ約6kmの長いルートが検討されたこともありましたが※3、最終的に実用化されたルートは志比~荒谷の1区間に留まりました。荒谷の周辺には、旅館や名物のごま豆腐屋などがありますが、永平寺に向かう観光客の多くは福井駅からのシャトルバスで志比まで来てしまうため、地域住民の移動手段とも観光客の移動手段とも呼び難いのが実情です。

※青字は筆者加筆
とはいえ、 オペレーションの面では、1人の遠隔監視者が同時に3台の自動運転カートの運行を見守る運行形態が日本で初めて実証されました。レベル4の移動サービスの効率化に向けては、1人の遠隔監視者がなるべく多くの台数を同時に見守れるようになっていく必要があります。
また、なんと言っても、日本で初めて道路運送車両法、道路交通法の両面からレベル4の認可を取得するための審査を受けた実例として、規制当局を含めこの後に続く他の事例にもたらした学びは大きかったと言えます。 永平寺町の事例は小さな一歩ですが、規制枠組みの運用やオペレーションも含めて見ると、プロトタイプとして意義のある事例だったと言えます。
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2.羽田空港近く「羽田イノベーションシティ」、施設内の小型バス
東京都初のレベル4の認可取得となったのが、「羽田イノベーションシティ」を走る小型バスです。
羽田イノベーションシティは、ホテル、レストラン、オフィス、ライブハウスなどが収容された複合施設です。自動運転シャトルは、この敷地内の1周800mのルートを最高時速12kmの低速で周回しています。施設に来訪した歩行者や他の自動車との交錯は生じますが、ルートの半分程度は駐車場内で徐行するため、リスクの低いルートとなっています。運賃は無料です。
将来的には車内無人での運行を目指していますが、現在は、車内に係員(特定自動運行主任者)が同乗しています。この係員の監督のもと、乗客が車両の発進ボタンやドアの開閉ボタンを操作できます。
車両は、NAVYAが開発・製造したEV小型バス「ARMA」を使用しています。NAVYAはフランスの自動運転スタートアップでしたが、2023年に経営危機に陥った際※4、日本のマクニカが救済に乗り出したため、現在はマクニカとNTT西日本が大株主となっています※5。
ARMAは、現在、日本国内の自動運転のコミュニティバスの実証実験で最も多く利用されている車種です。 その運行主体は、親会社のマクニカのケースもあれば、ソフトバンク傘下のBOLDLYが担っているケースもあります。羽田ではBOLDLYが運行主体(特定運行実施者)です。
ARMAには、周囲の物体を検知するためのLiDARが8個標準装備されていますが、レベル4の認可を取得するにあたっては2個追加装備して計10個となっています※6。これは、高さ15cm以上の障害物を検知することを目的としています。自動運転車は、石や雑草、登り坂などを障害物と認識して不要なブレーキを踏んでしまうことを避けるため、一般的に、地表から数十センチを検知しないように見切っています。15cmという高さは、人が路上に倒れていた時に、それを検知して停止できる高さとして設定されています※7。
このほか、緊急車両のサイレンを検知のためのシステムを装備するなど、追加の改造が行われてレベル4の認可取得に至っています。
こうした改造の必要性や搭載された自動運転システムの拡張性に欠ける点から、 レベル4の社会実装拡大に向けては、マクニカはNAVYAの次世代車「EVO」へ、BOLDLYはエストニアのスタートアップAuve Techが開発・製造する「MiCa」へ、それぞれ車両の世代交代を進めています。 現在、ARMAによる公道実証実験は、岐阜県岐阜市や愛知県日進市などで継続されていますが、レベル4を目指すとなったときには、車両の買い替えが生じるかもしれません。



「発進」「STOP」を乗客が操作可能

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3.三重県多気町、山間のリゾート施設「VISON」の低速周遊バス
BOLDLYが「MiCa」を用いて運行している事例です。三重県多気町のVISONは、ホテル、ミュージアム、スパ、地元の特産品を使ったレストランや食材店、車中泊のための駐車場などが立ち並ぶ山間のリゾート施設です。施設内を周遊する無料のバスサービスとして、片道約2.5kmのルートをMiCaが走ります ※8。
三重県では、多気町を含む6町の広域連携によるスーパーシティの特区認定を目指しています※9。VISONはその拠点施設に位置付けられ、先端技術の実装である自動運転バスの定常運行はキーコンテンツとなっています。レベル4での運行は2025年2月まで予約制で限定的に行われており、通常は、係員が同乗するレベル2での運行となっています※10。
施設内とはいえ、東京ドーム24個分(約119ha)の広大な敷地の中では※11、観光バスやマイカーが行き交い、来場者は歩行だけでなく、レンタルしたバイクや自転車で移動することもできます。こうした往来があるため、VISONではほとんどのルートにおいて、車道や歩道とは別に、MiCaのための専用道が整備されています。専用道によりリスクの低い走行環境が確保できた点は、新たに開発されたリゾート施設ならではと言えます。
MiCaでのゆっくりとした周遊は、VISON(美村)を楽しむというコンセプトとも相性が良いものとなっています。階段やエスカレーターでショートカットできる場所もありますが、子ども連れや高齢者の方にはありがたい移動手段となっています。また、このような観光施設での自動運転車の導入は、これまで自動運転に触れる機会のなかった人々に偶然の利用機会を提供することで、社会受容性の向上にも資する取組みと言えます。



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次号では、路線バスの自動運転の中から、専用レーンや優先レーンを持つ「BRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)」の事例を取り上げます。
⇒次号/日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか(3) ~BRT編/専用道を持つ高速の路線バスBus Rapid Transit~
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※1 経済産業省「国内初!レベル4での自動運転移動サービスが開始されました」、2023年5月22日
※2 https://www.town.eiheiji.lg.jp/200/206/208/p010484.html (2025年5月20日閲覧)
※3 https://e-machidukuri.co.jp/autonomous/ (2025年5月20日閲覧)
※4 NAVYA “Navya announces the partial takeover of its activities by Gaussin, and its delisting as a result of its judicial liquidation”, April 18, 2023
※5 株式会社マクニカ「Navya Mobility SASへの出資完了のお知らせ」、2025年3月4日
※6 鹿島建設株式会社、BOLDLY株式会社、羽田みらい開発株式会社「民間初、自動運転レベル4の運行許可を取得」、2024年6月26日
※7 2025年2月、現地でのヒアリングによる。
※8 VISON「自動運転バス「MiCa(ミカ)」運行ダイヤ変更」、2025年4月30日
※9 多気町「三重広域連携スーパーシティ推進協議会について」、2024年5月10日更新
※10 多気町「多気町「VISON」内にて自動運転バスに乗車できるのをご存知ですか?」、2025年1月20日更新
※11 https://hacienda-vison.jp/hotelInfo/vison.php (2025年5月20日閲覧)