シティ・モビリティ

目立つ海外パビリオンの存在感
~「行列上等!」とコト消費への積極対応で魅了~

上席研究員 岡田 豊

大阪・関西万博関係のレポートは本稿以外に3本あります。
・「Topics Plus:大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~地元在住者による後半の大きな伸びが鍵~」(2025年4月15日公開)は【こちらをクリック】
・「 Topics Plus 続・大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~可能なれど、目標達成を確実とするためには「夜間券」が鍵~」(2025年6月6日公開)は【こちらをクリック】
・「Topics Plus:「並ばない万博」の不都合な真実~人気の企業パビリオンの予約には不満一杯~」(2025年6月6日公開)は【こちらをクリック】

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1.大阪・関西万博の体験から海外パビリオンを考察する

大阪・関西万博については、入場者数が目標達成可能かどうかについて、すでに2本のレポートで考察し、目標達成は可能であるが、それに向けていくつかの課題があるという結論に至った。
 そこで本稿では、大阪・関西万博の現地体験を中心に、目標達成に向けた海外パビリオンの意義を考察したい。また、別稿では企業パビリオンを対象に分析を進める。なお、筆者は複数回来場しているが、全てのパビリオンが体験済みということではない。そのため、体験していないパビリオンについては、大阪・関西万博のオフィシャルHPに加えて、各種体験談などを参考にしている。

2.「並ばない万博」で「行列上等!」がもたらす安心感

入場者数が今後、順調に推移するためには、公式情報だけでなく、実際の入場者からもたらされる情報が重要である。神戸ポートアイランド博覧会(通称:ポートピア’81。1981年開催)以降、概ね人気が集中する企業パビリオンであるが、前稿で考察したように、「並ばない万博」を標ぼうする大阪・関西万博では企業パビリオンの事前予約に大きな課題を抱えており、実際の入場者の不満は容易になくならないと推察される。そのため、今後の順調な来場者増加に向けて、企業パビリオンには過大な期待は禁物である。
 その一方で、意外なほど存在感を高めているのが海外パビリオンである。筆者の体験を踏まえると、現段階で海外パビリオンの存在感の高さの一つは「行列上等!」に由来する。
 大阪・関西万博は「並ばない万博」を標ぼうしており、企業パビリオンの多く公式HPからの事前予約や当日予約がメインの来場方法であるが、ライトユーザーには非常にわずらわしい。しかし、海外パビリオンは全て行列OKとしている。事前予約や当日予約を受け付けている海外パビリオンはあるものの極めて少数にとどまっており、メインの来場方法は先着入場や自由入場である。例えば、人気のアメリカパビリオンは当初予約を受け付けていたが、すぐに予約をやめて先着入場オンリーに変更した1
 先着入場は人気の海外パビリオンにとって行列必至を意味する。時には数時間並ぶ可能性も否定できない。筆者が実際に経験した事例では、アメリカパビリオンとイタリアパビリオンが2時間超の行列となっており、海外パビリオンの中では人気の1,2を争っていた。
 本来であれば、このような長時間の行列は来場者に苦痛をもたらしかねない。しかし、実際の体験からいえば、行列に悲壮感はそれほど漂っていなかった。なぜなら、行列すれば必ず見学できるからだ。
 また、以下のように考えることもできよう。例えば、事前予約が取れずに当日予約に期待して9時に入場しても、なかなか確保できず、スマホと長時間にらめっこする羽目に至る入場者は非常に多い。そのような状況に陥った場合、まずは人気の海外パビリオンの行列に参加することはベターな選択といえよう。行列しながらスマホの当日予約に挑戦できるからだ。本来は苦痛となるはずの長時間の行列は、当日予約という作業と同時にこなせることで、それほど苦痛をもたらさない。
 事前予約と当日予約は非常に不毛なもので、それに依存していても見学が保証されるわけではない。つまり、「並ばない万博」がもたらす事前予約と当日予約の不毛さとの対比で、行列上等!の海外パビリオンの安心感が高まっているとさえいえよう。

(ユニークな外観でも人気のトルクメニスタンパビリオンでは、予約不要であることをパビリオン前で示している。海外パビリオンのほとんどが、予約不要であることをスタッフが声を出して、またはこのように明示して大々的に告知している)

3.グルメがもたらすコト消費の貴重な体験

海外パビリオンの大きな特徴の一つは、レストランなど飲食体験の提供である。今や観光といえば、見学よりもコト消費が優位になっており、代表的なコト消費といえば飲食体験である。海外パビリオンが提供する本場の味は、普段容易に体験できないものが少なくなく、非常に貴重なコト消費の機会をもたらす。海外パビリオンの中ではパビリオン見学の行列よりもレストランの行列が長いところも少なくないほど、来場者の人気は高い。
 しかも重要なのは、レストランの行列が概ね我慢できないほど長くならないことだ。その背景として、まず、来場者にとって飲食というのは回数に制限があることが挙げられる。パビリオン見学は時間と体力の許す限り、10以上に及ぶこともできる。一方、飲食は胃袋に限界があるため、せいぜい数回にとどまる。また、レストランを提供する海外パビリオンは企業パビリオンを大きく凌駕するほどかなり多くあり、それゆえ、人気は分散しがちだ。
 さらに、価格による需給調整も重要な観点だ。レストランはパビリオン見学と違い、別途の追加料金が発生する。そして、多くは出展本国の料金などを参考にしているのか、会場内の専門レストランの価格に比べて高価である。それゆえ、行列はあったものの、我慢できないような長さではなかった。高額ゆえ、人気が集中しないともいえよう。
 このように、海外パビリオンが提供するグルメは、万博で体験できる貴重なコト消費であるにも関わらず、行列があまり長くならないため、体験者の満足感は比較的高いと推察される。

(海外での展示が希少なものを持ち込んで大人気となっているイタリアパビリオンでは、レストランも大人気だ)

(マレーシアパビリオンのレストランのメニュー。マレーシアパビリオンでは、見学コースまで香辛料の香りが漂い、来場者の食欲を刺激してくれるせいか、大人気に。筆者も1,600円のナシゴレンをいただいたが、コスパの良ささえ感じられるほどであった)

(チェコパビリオンのピルスナー(ビールの一種)は1,450円であったが、酒類に弱い筆者でも満足感が高かった)

4.独自の凝った外装がもたらす夜景の「映え」シーン

海外パビリオンの多くは非常に凝った外装となっている。海外パビリオンには、出展国が外観を建設する「タイプA」、万博協会が建設して単独で運営する「タイプB」、万博協会が建設し、単独の国ではなく共同で運営する「タイプC」がある。この中で凝った外装ばかりなのが「タイプA」で、40以上に上る。企業パビリオンより圧倒的に数で勝るタイプAの海外パビリオンが、会場全体をより一層華やかさにしているのは間違いない。
 さらに、重要なのはこれらのパビリオンは夜になるとライトアップされて、より一層華やかになることである。大阪・関西万博の大きな特徴の一つが「大屋根リング」であり、かなりの高さから会場を見渡すことができるのは、過去の日本の各種博覧会ではあまり見られなかった貴重な体験である。そして、夜になるとこの大屋根リングそのものもライトアップされるうえ、大屋根リングに上って上から見る会場の夜景は絶景である。会場のパビリオン配置は、概ね海外パビリオンが大屋根リングの中、企業パビリオンが大屋根リングの外となっている。そのため、夜に大屋根リングに上って大屋根リングの内側を見ると、大屋根リングの光の輪の中に海外パビリオンが浮かび上がるかのような絶景を体験することができる。筆者は大屋根リングに上って、大屋根リングの内側に浮かぶ海外パビリオンの数々をバックにして、夜の噴水ショーを見学することこそ、この万博の最大のコト消費と考える。海外パビリオンの凝った外観がもたらす夜景の「映え」シーンは今回の万博のレガシーとなり、将来に渡って今回の万博の象徴的なシーンとして記憶されるのは間違いない。

5.夜間券により適している海外パビリオン

海外パビリオンの多くは5年に1度の万博を継続して経験しており、その経験を生かして、レストラン運営などでコト消費を重視する入場者のニーズにうまく対応しているといえる。一方、企業パビリオンは愛・地球博以来の20年ぶりの万博であり、コト消費を意識するあまり、体験できる人数に限界があるなど課題が残る。来館予約への対応についても、並ばないことに固執しがちな企業パビリオンより、行列を割り切って許容する海外パビリオンに、現段階では軍配を上げることができよう。企業パビリオンが主役の時代が続いた日本の博覧会において、今回の海外パビリオンは想定外の存在感の高さを見せている。
 大阪・関西万博に関する一連のレポートでは、前売り券や開幕後の入場券の売れ行き、開幕後の入場者数から目標入場者数に達することは可能であると分析した。そのうえで、目標達成のために、今後の入場者数が順調に推移し、愛・地球博(2005年開催)のように会期後半に多くの入場者数を獲得する必要があると考察した。
 そのために、企業パビリオンの予約方法に大きな変更が必要であるが、キャパシティの問題から企業パビリオン依存には限界がある。ライトユーザーには難しい事前予約をできるだけ避けて、企業パビリオン入場に過度に依存せず、コト消費をより前面に押し出すには、夜間券こそ最適である。その夜間券でより魅力を発揮するのは海外パビリオンといえる。夜のディナーに適した海外パビリオンのレストラン、凝った外装からもたらされる夜景は、夜間券の大きな魅力だからだ。
 今後は入場者数の目標達成に向けて、海外パビリオンがもたらす夜の魅力をより宣伝していく必要があろう。

(夜のマレーシアパビリオン。凝った外観が夜景に映えるパビリオンの代表例といえる)

(会場の全体像。大屋根リンクの内側に海外パビリオンが集約されている。大屋根リンクの下部の海と一体化したエリアで噴水ショーが行われる)

(漆黒の闇に浮かび上がる噴水ショーと大屋根リンク内側のパビリオン群)

  • アメリカパビリオンでは長時間の行列が常態化しているため、予約システムへの回帰が何度も噂されている。

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