「イマーシブ・フォート東京」は「満員」だけど「閉鎖」!?
~少人数型アトラクションの課題②~
1.世界初の「没入型」テーマパークが開業から2年で閉鎖
USJ、西武園遊園地などを経営再建したとされるカリスマが関与して、近年開業した2つのテーマパークの苦境が話題になっている。一つは沖縄北部の豊かな自然と恐竜の体験が話題の没入型テーマパーク「ジャングリア沖縄」。開業直後は満員となったが、開業効果が一服した後に「ガラガラ」とSNSで大きな話題になってしまった。
もう一つが、東京・お台場のテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」。人気商業施設であった「ヴィーナスフォート」を居抜きで活用したことや、世界初ともいえる本格的な没入型のアトラクションだけで構成された「体験型劇場」を標ぼうし、開業時から話題満載であったが、2026年2月28日に閉鎖された。2024年3月1日に鳴り物入りで開業してからわずか2年のことであった。

筆者はこの2つのテーマパークを実際に体験した。特に、イマーシブ・フォート東京については、全6種類のうち5種類のアトラクション(体験型演劇が多いイマーシブ・フォート東京ではアトラクションは「演目」と呼ばれるので、以下は演目と記す)で計13回体験した(最終日の2026年2月28日にも1演目体験し、抽選で当選したラストセレモニーも観戦した)。地域に住む若者の雇用を増やし、地域住民の生活に彩りを与えるエンターテインメントは地域社会に必要なコンテンツである。そこで、これらの体験などに基づいて、この2つの地域発のテーマパークの課題を2回にわたって考察したい。今回はイマーシブ・フォート東京編となる(前回はジャングリア沖縄編)。
2.イマーシブ・フォート東京は「体験型演劇」
筆者がイマーシブ・フォート東京を訪問したのは閉鎖が発表された直後からである。閉鎖が発表されたことからイマーシブ・フォート東京の演目を何度も体験したヘビーユーザーに加えて、一度体験して見たかったというライトユーザーの、この機会に訪問したいという思いが爆発したのか、多くの演目が発売開始頃からすぐに満員となっている。特に、最後の2月分のチケットは1月の発売開始早々に購入希望が殺到し、発売初日でほとんど売り切れたほどだ。
2026年2月に行われた演目は6つで、後述する少人数型の2つの演目以外の4つは以下のとおりである。
・ 「ザ・シャーロック~ジェームズ・モリアーティの逆襲~」:体験型演劇。筆者は3回体験。小説「シャーロック・ホームズ」にヒントを得た演者の設定。小説と同じく、中世のロンドンにある「ベーカー街」を模した会場で、住民の部屋、教会、法廷、バー、探偵事務所、裏通り、などの町全体を体感できるものとなっており、非常に広い。観客はその街の中の様々な場所にて、演者を目の当たりにするだけでなく、演者から話しかけられて会話したりすることもありえる。演者は非常に多く、広大な会場の様々な場所で同時進行の劇がいくつか展開されている。観客は演劇のどれかに自由に着目することとなって、広大な会場をかなり自由に歩き回ることとなる。他に例のないような観劇スタイルであるため、観客向けのチュートリアルとしていくつかの楽しみ方が例示されており、注目する主人公・シャーロック・ホームズ・容疑者らについていくパターンや、全体のストーリーに沿った注目のシーンを追いかけるパターンなどが挙げられている。1回120分、7,800円。

・ 「東京卍リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」:(筆者が唯一体験していないので公式HPの情報などによると)脱出型演劇。1回105分、7,800円。定員120人。「週刊少年マガジン」の人気漫画をモチーフにした演目で、漫画の世界観を生かした会場で、漫画の主人公を演じる演者とともに行動し、会話し、さらにはヤンキーの主人公たちが起こす「抗争」に巻き込まれるなどで、漫画の世界観を実体験する。テーマは危機からの脱出となっており、脱出ゲーム的要素が盛り込まれている。イマーシブ・フォート東京のグッズ売り場では、関連グッズ数が一番多かったように感じられた。

・ 「今際の国のアリス The Ultimate」:劇場型謎解きゲーム。1回60分、4,800円で最短・最安。定員は200人と最大ながら、会場は定員がより少ない「ザ・シャーロック~ジェームズ・モリアーティの逆襲~」よりかなりコンパクト。「週刊少年サンデーS」の人気漫画を原作とした実写版で、NetflixNetの人気ドラマ「今際の国のアリス」の世界観を体験できる。ゲームをクリアできなければ死亡という世界観のため、演者と観客は全員、「首輪」を装着し、首輪から流れる電流の「ビリビリ感」が恐怖心を煽ってくれる。演者と観客は一緒になってゲームの謎解きに挑戦する。筆者が体験した5つの演目の中では最も謎解き要素が高かった。
筆者は5つの演目の中で最大となる5回に参加。そのうち3回は一般の回で「自分だけ生き残ればいい」というテーマであったが、残り2回は積極的に参加者が協力することで全員の生き残りを目指す「真クリア」が命題に変更され、かつ、1回以上の体験者のみ参加可能であった。そのためか、演者と観客の一体感がより強く感じられ、2月22日の回にて真クリアに成功した。

・ 「フォルテヴィータの追憶」:参加型演劇。2025年10月まで開催されていた「フォルテヴィータ事件簿」の世界観を引き継いで、2025年11月より平日夜1回、1回120分の開催。参加費は7,800円。定員は200人弱。ヴィーナスフォート時代の名残が最も色濃く残る「ゴールデンプラザ」が会場。着席型であるが、演者が観客の目のそばで演じるだけでなく、観客に話しかけ、観客が舞台に引っ張り出されて、実際に踊ったり、全ての観客が立って会場全体で踊るパーティーが開催されたりすることで、ステージショー+体験型ショーという演目となっている。全員で行動を起こすシーンが何度かあって、会場全体の一体感を感じやすい。

2026年2月のイマーシブ・フォート東京の演目は、これら4つに加えて後述する2つあるが、全て体験型演劇で構成されている。体験型演劇では、演者が観客の間近で演じるだけでなく、演者から話しかけられて、それに臨機応変に答えるシーンがあるなど、観客自らが演劇の一部になるかのような体験が得られることが特徴である。イマーシブ・フォート東京が「さぁ、感動の最前列へ」を掲げているのは、演劇で一等席である最前列にいる観客として、まるで劇中にいるかのように演劇の世界に完全に没入する体験を得られることをウリにしているからであろう。
没入型アトラクションだけで構成される常設型テーマパークは世界初とうたわれ、イマーシブ・フォート東京が極めて新しいエンターテインメントにチャレンジしていることがうかがえる。
3.人気の少人数型演目の特徴は極めて高い没入感
6つの演目うち、人気が高く、筆者が予約確保に難渋した演目は、「江戸花魁忌憚」「真夜中の晩餐会」である。この2つは毎週1回ある定休日以外は毎日複数回開催されているが、平日もすさまじいほどの人気であった。
そこで、この2つの演目の特徴をもう少し深堀してみよう。まず、筆者が2回体験した江戸花魁忌憚は70分の演目である。定員が30名ほどで、多い日で1日5回、少ない日で3回開催されていた。開催場所、イマーシブ・フォート東京では演者が演じる場所と観客が行動できる範囲があるが、その範囲が他の演目より狭いため、演者との距離は近い。また、演者は観客数よりやや少ないとはいえ、20人ほどにのぼる。ほとんどのシーンで演者は観客のすぐそばにいて、演者から観客にひっきりなしに声がかかるため、観客がぼーっと手持無沙汰になっている暇はない。つまり、演者と観客は「1on1」となるシーンが多く、まさに、最前列で演劇に没入できる。
そのうえ、様々な演者から観客一人ひとりに濃密な接触があるため、演者が違えば体験がまるで変わる。一人の演者との接触で得られる体験は、他の演者との体験とは違うからだ。さらにいえば、演者も観客の反応に応じて微妙に対応を変えている。つまり、演者と観客の接触は世界で一つだけの体験ともいえよう。また、マルチエンディングとなっており、観客全員が体験するエンドも変わる。
このように、繰返し体験しても飽きない要素が盛り込まれている。一方で、推しの演者ができれば、推し活のごとく、推しの演者との接触を求めて何度も体験することも可能だ。推しの演者の近くに張り付けば、推しの演者から声を掛けられるなど、より濃厚な接触が可能だからだ。

次に、筆者が1度体験した真夜中の晩餐会は120分の演目。定員が50人で、1日に2~3回開催されていた。開催場所は中世の豪華な洋館を想定される晩餐会会場と個別の部屋などで構成される。また、大きな特徴として、観客全員に劇中の名前が与えられ、その名前に沿った晩餐会への招待状が最初に渡されてから体験が始まることにある。筆者がもらった招待状には、劇中の名前だけでなく、観客が演じる役がわかるような、晩餐会の主人公との関係がわかるバックボーンまで記されている。つまり、観客50人それぞれの劇中の名前があるということは50通りの体験があるということだ。そのうち、10人ほどの観客にはさらに特別な招待状が用意され、それぞれに実際に行動やセリフまで用意されており、より能動的に演目に関わることになる。
真夜中の晩餐会では、観客2、3人に1人の演者が用意され、その演者が観客のアテンド役として待合室に登場する。そこでは、演者から演劇中の名前で呼ばれ、話しかけられて、観客は招待状に書かれた内容に沿った演者との会話がアドリブで求められる。観客は観客のままではいられない仕掛けがきっちりビルドインされているのだ。
そのうえ、オードブル、メインディッシュ、デザート、飲み物で構成されるディナーが観客全員に用意され、観客はディナーを実際にいただく。チケット購入時にメインディッシュに魚か肉かを選択し、かつアレルギーなどを確認するという、本格的な食事であり、実際のレストランなどのように、会場では追加のドリンクの注文まで行われる。この演目の晩餐会というテーマに沿った食事を実際に行うことで、観客は否応なく没入させられるわけだ。もちろん、食事中も観客はディナーに集中することは許されない。演者がそれぞれの役割で何度も観客の席に訪れて、観客を劇中の名前で呼んで昔話をしたり、晩餐会会場で初めてあった場合に客同士のような会話を交わす。観客はこの演目の演者の一人となって没入体験しており、ディナーを食することもその演目の一部であるからだ。

この2つの演目の料金は、江戸花魁忌憚が14,800円で、真夜中の晩餐会がディナー付きとはいえ24,800円と、他の演目に比べて高額だ。それにも関わらずに完売率が高いということから、この2つの演目の人気の高さが容易に想像できよう。
4.少人数型演目のデメリットと解決策
イマーシブ・フォート東京は2024年の開業当時、他のテーマパーク同様に入場券と一部のアトラクションに対する追加利用券を販売していた。入場券は6,800円であり、無料で体験できる演目がかなり用意されていたが、2025年3月からは入場券を販売せず、個別の演目ごとに販売する方式に変わった。その際に無料で体験できる演目は今際の国のアリスを除いてなくなり、有料で体験できる演目が残っている。つまり、当時から有料で体験できる演目が収益面で有望だったことがわかる。
入場券方式だった当時の追加料金は、今際の国のアリス関連演目は追加なし、ザ・シャーロック関連演目は1日入場券に加えて追加3,500円、江戸花魁忌憚は追加9,000円で、少人数型演目が極めて割高になっている。人気の高さを個別演目のチケット代に反映させたといえよう。また、真夜中の晩餐会はディナー付きとはいえ、江戸花魁忌憚より10,000円も高額に設定されており、運営者は少人数参加型演目の集客に自信があったと思われる。
しかし、2025年3月から開業1年目を期して少人数型の演目重視に変更したにも関わらず、それからわずか1年での閉鎖に至った。その一番の背景としては、運営側がメディア向けに何度も発言しているように、イマーシブ・フォート東京の施設レンタル料がビジネスモデルに見合っていないことが挙げられよう。少人数型演目の2つが満員完売を続けたとしても、他の4つの大人数型演目が料金改変時に期待した通りの売れ行きでなかったとすれば苦しいはずだ。大人数型演目は大規模な会場を必要とするため、大人数型演目のチケット売れ行きの悪さから施設レンタル料の負担の重さが一層厳しく感じられたと思われる。
もう一つはサービス業全体に通じる人材確保の難しさ、人件費の高騰が考えられる。少人数向け演目は観客一人当たりの演者の数が多く、それゆえ人材確保や人件費負担がより厳しくなったと推察される。
さらに、前回の「ジャングリア沖縄」に関するレポートに記したように、イマーシブ・フォート東京の閉鎖の背景には大阪・関西万博のデジャブも感じられる。具体的にいえば、少人数型演目そのものよりも少人数型演目に人気が集まることのデメリットである。大阪・関西万博では、少人数型アトラクションをウリにした日本関係パビリオンが大人気となった一方で、そのようなパビリオンには追加料金が発生せず、抽選や先着方式で体験できた。そのようなパビリオンにヘビーユーザーが集中した結果、ライトユーザーの不満が高まりがちであった。イマーシブ・フォート東京を体験しようと初めて挑んだ時の筆者がまさにそうような感情を抱いた。下調べをすればするほどソールドアウトになる少人数型演目をまず体験しなければという思いが募り、ソールドアウトにならないような演目は後回しでいいかもと思い込んでしまい、すぐに体験できるものを後回しにしようとする。ネット上には利用者の様々な感想がすぐにあふれ出す昨今、利用者側には損をしたくないという思いがどうしても先立ち、人気の高いものにだけ目が向きがちなのだ。その結果、人気の高いものにますますヘビーユーザーが集中し、ライトユーザーはますます手軽な体験を忌避することになりがちであろう。
大阪・関西万博にて、誰でも楽しめるショーや並べば楽しめるアトラクションがライトユーザーを救ったことを考えると、ヘビーユーザーに偏った演目はもったいない。1年目に試行錯誤したと思われるが、その経験を生かして、ライトユーザーも楽しめる演目をもっと開発すべきであろう。また、ヘビーユーザー重視のためか、ライトユーザー向けチュートリアルがやや不足していると感じられる演目がいくつかあったのも事実である。ヘビーユーザーが観客の多くを占めるようになった演目なら、チュートリアルの充実した回を特別に設けてライトユーザー専用の回にするのも考えられよう。
地域特有の問題として、お台場が娯楽施設に向かない地域になりつつあると判断するのはやや早計であろう。例えば、スポーツ施設が街づくりの中核の一つになっているような北広島市や長崎市のような事例がある。職住遊近接が最も望ましい街づくりであるため、「遊」に適したエンターテインメントは街づくりに欠かせない。特に、政令指定都市や県庁所在地のような地域経済の中心都市では、就業者人口の減少やネット販売への移行に応じて、オフィスや商業施設への需要が今後も必ずしも高いとは限らない。そのため、そのような都市ではエンターテインメントのニーズが今後高まるであろう。イマーシブ・フォート東京は大型施設の巨額の固定費に苦しんでいるなら、地域経済の中心都市の施設などをうまく活用しながら、数か月単位で都市を転々と移動するようなやり方も一計だろう。
エンターテインメントは若者雇用を増やし、街づくりに寄与するため、地域経済の中心都市の活性化に欠かせない要素である。イマーシブ・フォート東京のようなエンターテインメントの新しいチャレンジに対し、地域経済の中心都市から大きな注目が集まっているのは間違いないであろう。