太陽活動ピーク後の地球影響とは~大規模事象(フレア等)の不確実性とリスク構造の変化~
本稿では、最新の文献・資料のレビューを交えて太陽活動下降期における宇宙天気リスクの特徴を整理し、情報通信、電力、航空・宇宙分野をはじめとする社会インフラへの備えの方向性について考察する。
1.はじめに ── 問題意識と本稿の目的
近年、太陽活動に伴う地球周辺の宇宙環境の変化を予測し、社会インフラへの影響の回避・軽減を図るための体制整備が着実に進んでいる。2025年6月には、宇宙天気予報の高度化の一環として、新たな宇宙天気イベント通報の枠組みが開始され1、利用のためのガイドライン2や手引き3も公表された(※)。こうした取り組みにより、突発的な太陽活動に対する社会の即応体制は以前に比べて大きく強化されつつある。
※宇宙天気予報
太陽活動やそれに伴い発生する磁気嵐など、太陽活動に関する自然現象の現況把握と予測を行うもので、国立研究開発法人情報通信機構(NICT)が24時間体制で運営している。
※新たな宇宙天気イベント通報
インフラの運用者・実務者向けの情報。宇宙天気の自然現象としての規模ではなく、社会的影響の大きさを踏まえた警報基準により、社会インフラへの影響予測を業界ごとに明示して通報する点が特徴。NICTが運営し、通信・放送、宇宙システム運用、航空機運行の3分野を対象に運用開始(他の分野は検討中)。
※利用のためのガイドライン
予報や通報といった情報を、業界・企業等が具体的な防災・減災アクションにつなげるための参考資料。社会インフラへの影響と対策が業界ごとにとりまとめられており、BCP策定において参考になる資料。
※利用のための手引き
宇宙天気ユーザー向けの入門書とされる。宇宙天気情報を初めて見る者を想定した資料とのことだが、太陽活動や地球磁気圏・電離圏に関する一定の知識がないと、直ちに理解することは難しいと思われる。
こうした状況のもとで、現在の太陽活動は、約11年周期で繰り返される太陽活動サイクルのピーク付近、あるいはすでにピークを過ぎたとの見方が広がっている。このため、今後は太陽活動が下降期に移行するとみられており、「地球への影響も次第に弱まるのではないか」という直感的な理解に至りやすい状況にある。参考として、NOAA(アメリカ海洋大気庁)のWebサイト4で公開されている太陽黒点数の推移と今後の予測を≪図表1≫に示す。
しかし、太陽活動の周期的変動と地球への影響との関係は単純ではない。黒点数の増減は太陽活動全体の強弱を示す代表的な指標ではあるが、地球に影響を及ぼす太陽活動にはフレアなど複数の現象があり、それぞれが異なる物理過程と時間スケールを持つ。
例えば、フレアのような突発的な現象は、太陽活動の下降に伴い全体として発生確率は低下するものの、大規模なフレアは下降期においても発生しうる。このことは、過去の太陽活動サイクルでも確認されている(詳しくは3 (1) ③参照)。
また、持続的に発生するコロナホールは地球磁場の乱れを引き起こす太陽活動の1つだが、その影響のピークは、太陽活動全体のピークから時間的に遅れて現れる場合が多い(これについても過去の太陽活動サイクルで確認されており、詳しくは3 (1) ③参照)。
以上を踏まえると、「太陽活動の下降期」という表現を、地球への影響リスクが単調に減少するものとして理解するのは、必ずしも適切とはいえない。詳細は後述するが、太陽活動下降期のリスクを考える際には、大規模現象の発生における不確実性と、リスク構造の質的変化という2つの観点が重要となる。
一方で、太陽フレアなどに伴う影響・被害に焦点をあてた一般向けの分析や解説は一定程度みられるものの、今後のリスク動向に焦点をあてたものは必ずしも多くない。
そこで本稿では、第1に太陽活動と地球影響・社会インフラ影響の因果構造を、学術的な詳細には踏み込まず、理解しやすい形に簡略化して整理する。第2に、最新の文献・資料をレビューし、太陽活動のこれまでの推移と今後の見通しを客観的に整理する。第3に、大規模現象の発生における不確実性とリスク構造の質的変化という観点から、太陽活動ピーク後のリスクを再検討する。
そのような整理・考察を通じて、宇宙天気に関する制度的対応の進展状況も踏まえつつ、過度な安心や過度な警戒に陥ることなく、太陽活動下降期における地球影響を理解するための基本的な視点を提示したい。
2.太陽活動と地球影響・社会インフラ影響の全体像
フレアなどの太陽活動が社会インフラに影響を及ぼす過程は、単純ではない。宇宙天気ユーザー向けの入門書「宇宙天気情報利用の手引き5」には、全体像の概観として≪図表2≫が掲載されている。多数の現象が相互に関係している様子は直感的に理解できるものの、宇宙天気にあまりなじみのない場合には、この図から本質的な因果関係を読み解くことは必ずしも容易とはいえない。
本稿では、太陽活動から社会インフラ影響に至る一連の過程を、4つの段階に切り分けて整理する。
(1) 太陽で起きること(発生源)
(2) 地球に届くもの(伝搬過程)
(3) 地球に生じる変化(地球周辺の環境変化)
(4) 社会・経済への影響(社会インフラへの影響)
以下の説明では、学術的な詳細には踏み込まず、理解しやすさを重視して現象の整理を簡略化していることを、あらかじめお断りしておきたい。
(1)太陽で起きること(発生源)
太陽の構造を≪図表3≫に示す。太陽を見たときの輪郭に当たる部分が光球であり、その外側にあるコロナは地球の場合の大気に相当する。コロナは極めて希薄であり、通常は光球の強い輝きに隠れて見えないが、皆既日食によって光球が月に遮られたときに、一般の人々もその姿を観察することができる。また、太陽は自転しており、地球から見ると約27日周期で同じ領域が地球の方向を向く。
社会インフラ影響の発生源となる太陽活動は、①フレア、②CME、③コロナホールである≪図表3≫。
①フレア
太陽の磁場エネルギーが急激に宇宙空間に解放される現象で、太陽表面における最大級の爆発現象である。
【ポイント】
- 強いX線が宇宙空間に放たれる
- 大規模なフレアでは、後述するCMEを伴う場合が多い
- 発生から約8分後に地球で観測される(光が地球に届く)ため、時間差を置いて現れる地球影響の監視・対処に備える上で重要なシグナルとなる
- フレアの規模(X線の強度など)だけでは、地球への影響の程度は判断できない
- ただし、フレアの規模が大きく、かつ太陽の地球側(地球に向いた面)で発生した場合、地球への影響が大きくなる傾向がある
フレアは、太陽の黒点(光球表面で周辺部よりも温度が低いため暗く見える領域)付近で観測されるが、その外側の大気層である「コロナ」で発生する現象である。太陽活動の活発期(黒点が多い時期)に発生しやすく、静穏期(黒点が少ない時期)には発生しにくい傾向がある。
フレアの規模を表す指標には、放出されるX線の強度の最大値が使われ、低い方からA、B、C、M、Xの5つの等級に分類される。各等級は1~10未満の数字と組み合わせて「M9.0」などと表示される。ただし、最も大規模なX等級では、組み合わせる数字に上限はない。
また、フレアに伴い、後述するSEP(高エネルギー粒子)が発生する場合もある。ただし、フレア単独で引き起こされるSEPで大規模な場合は少ないとされるため、図表3ではフレアとSEPを点線で表現した。
通常のフレアよりも桁違いに規模が大きい極端現象は「スーパーフレア」と呼ばれることがある。明確な定義はないものの、通常のフレアより数桁大きいエネルギーをもつ現象を指す場合が多い。太陽での発生頻度は数百年から数千年に1回とも言われており、不確実性は大きい。発生頻度の時間スケールでみると、直下型地震の主な発生源である活断層の大まかな活動間隔(約1,000年から1万年程度が多いとされる)と同様に、極めて長期的な現象である。活断層による地震については対策の重要性が広く認知されつつあるが、スーパーフレアについては十分な備えが進んでいる状況とはいえず、リスク管理上の課題として位置づけていくことが重要である。なお、総務省では、大規模なフレアを含め、100年に1回またはそれ以下の頻度で発生する極端な宇宙天気現象がもたらす影響シナリオを想定し、対処の必要性について報告している6。
②CME(コロナ質量放出)
太陽の外側に広がる超高温の大気(コロナ)から、物質(質量)が宇宙空間に放出される現象である。
【ポイント】
- CMEでは、フレアによるX線とは異なり、プラズマが一度に大量かつ高速で宇宙空間に放出される(コロナは超高温のため、物質が電気を帯びた粒子と磁場から成る「プラズマ」という状態になっている)
- 大規模なフレアと同時に発生する場合が多い
- ただし、小規模なフレアとともに大規模なCMEが発生する場合や、CMEだけが発生する場合もある
- 後述するSEP(高エネルギー粒子という放射線の一種)や太陽風の乱れを引き起こす主な発生源である(CMEは知名度こそ低いが、社会インフラへの影響という点ではフレア以上となる場合もある)
- フレアの場合と違い、CMEの規模(噴出速度や量)を早い段階で正確に把握することは難しい
- CMEによる地球への影響は、その規模に加え、太陽表面での発生場所と地球との位置関係、太陽風の状態、磁場の向き、地球磁気圏の状態など、多くの要因に左右される(宇宙天気予報の重要性が高い)
なお、コロナは、CMEのような突発的な現象だけでなく、日常的にもごく一部が宇宙空間へ流出している。後者は、太陽から地球などに向けて吹く風になぞらえて、「太陽風」と呼ばれる(詳しくは(2)③参照)。
したがって、水素やヘリウムのプラズマの流れという共通点はあるものの、CMEと太陽風は、移動速度と磁場の強さが大きく異なる。
- CMEの移動速度は、多くの場合、通常の太陽風と比べて桁違いに速い(そのため、通常の太陽風と激しく衝突すると、太陽風を構成する粒子が加速されてSEP(高エネルギー粒子)が生成されることがある)
- CMEで放出されるプラズマに閉じ込められている磁場は、通常の太陽風に比べると格段に強い(そのため、太陽風を強く乱し、それが地球の磁場にぶつかると、地球の磁気圏を強く揺さぶることになる)
③コロナホール
太陽をX線などで観測すると、太陽の大気に暗く大きな穴が開いているように見える領域である。
【ポイント】
- コロナホールからは、通常の太陽風(プラズマの流れ)に比べて2倍近く高速の太陽風(HSS)が継続的に放出される
- コロナホールからの高速太陽風(HSS)は通常の太陽風と速度差があるため、太陽風に乱れが発生する
- 突発的な現象であるフレアやCMEと異なり、数か月以上継続する場合がある(同じコロナホールは約27日の周期で地球の方を向くため、地球への影響の増減が予測しやすい)
- プラズマの速度を比較すると、おおむね「CME > 高速太陽風 > 通常の太陽風」の関係となる(CMEの速度は幅が大きく、高速太陽風と比べて数倍になる場合もあれば、同程度の場合もある)
- プラズマの流れに閉じ込められた磁場の強さも、高速太陽風ではCMEよりも弱い場合が多く、通常の太陽風よりは強い場合が多い。
(2)地球に届くもの(伝搬過程)
太陽の発生源から宇宙空間を経て地球に届くものは、①X線、②SEP、③太陽風の乱れである≪図表3≫。
①X線
透過力の高い光であり、放射線の一種である。医療分野では一般的にレントゲンと呼ばれる。
フレアによって発生し、約8分で地球に届く。強いX線をそのまま浴びると多くの生物にとって有害だが、地球の大気上層で吸収されるため、地上生物への影響はない。宇宙飛行士が船外活動中に遭遇した場合についても、スーパーフレアのような極端に規模の大きいフレアを除けば、短時間の被ばくにとどまるため、深刻な健康影響の可能性は大きくないとされる。
したがって、太陽活動に伴うX線は、人体や生物への直接的な影響ではなく、地球の電離圏の乱れを引き起こし、そのことを介して社会インフラに影響を及ぼすことになる(詳しくは(3)参照)。
②SEP(高エネルギー粒子)
高いエネルギーをもつ粒子の流れであり、これも放射線の一種である。
SEPは、CMEが太陽風の流れと大きな速度差をもつことによって生成される(※1)。さらに、高エネルギー粒子が生成された場所付近に地球と磁場でつながった磁力線があるなど、特定の条件に合致した場合に地球に届き(※2)、影響を及ぼす。地球への到達時間には幅があり、CMEの発生から約30分から2日程度とされる。
※1 SEPが発生するメカニズムは、CMEの移動速度が通常の太陽風に比べて格段に速く、その前面に強い圧縮が生じることにより、太陽風中の陽子などが加速されるためだと考えられている。
※2 太陽も地球と同じように磁場を持っていて、太陽から宇宙空間に向けて多くの磁力線(磁場の通り道)が伸びている。その一部は地球の磁場とつながっており、SEPはその磁力線に沿って地球に到達する。このため、地球とつながる磁力線の近くで発生したSEPは地球に到達しやすく、地球に与える影響も大きくなるが、そうでない場合には影響が小さくなる。
③太陽風の乱れ
太陽風は、太陽から地球に常に吹き続ける風のようなプラズマの流れである。
突発的に発生するCMEは、通常の太陽風に比べて速度が格段に速く、内部に閉じ込められた磁場も強力なため、通常の太陽風の流れや磁場を大きく乱す。
また、コロナホールからの高速太陽風(HSS)も、CMEほどではないが高速で流れるため、通常の太陽風の流れを乱す。ここでは、簡略化のため、CMEプラズマと高速太陽風に起因する太陽風の擾乱を「太陽風の乱れ」として扱う。
このような太陽風の乱れは、地球に届くと磁気圏を強く揺さぶり、大気上層を過熱する。さらに、磁気圏が乱れると、電離圏の乱れという現象が引き起こされる。このため、太陽風の乱れが地球に届いた場合は、結果として社会インフラの広範な分野に影響が及ぶことになる。
(3)地球に生じる変化(地球周辺の環境変化)
(1)と(2)が地球への影響の「原因」であるのに対して、地球周辺の環境変化と、それらを介した社会インフラ影響は「結果」にあたる。原因から結果に至る一連の過程を≪図表4≫に示す。
図に示したとおり、地球周辺の環境変化は、①電離圏の乱れと②磁気圏・大気圏上層の乱れの大きく2つに分けられる。ただし、社会インフラへの影響という点では、伝搬過程で説明したSEPの重要性も高い。そこで、2つの環境変化に加えて、③SEPによる直接的な影響についても説明を加える。
①電離圏の乱れ
電離圏とは、大気上層の原子や分子が太陽光に含まれる紫外線などのエネルギーによって電離し、大気がプラズマという状態になっている高度約60km~1000kmの領域である。
太陽活動に伴い地球に届くX線やSEPはいずれも放射線の仲間である。放射線には物質を電離させる作用があり、それらは電離圏の電離状態に影響を与えるため、結果として電離圏の乱れが発生することになる。
また、後述する磁気圏(高度数百kmから数十万km)は、電離圏と位置的な重なりもあり、両者は地球磁場の磁力線でつながっている。そのため、磁気圏の乱れ(電流や粒子の変化)が発生した場合にも、その影響が電離圏へ伝わるため、結果として電離圏の構造の乱れを引き起こす。
このように電離圏の乱れは、地球に届く①X線と②SEPに加えて、太陽風の乱れに伴い生じる③磁気圏の乱れによっても引き起こされるため、磁気嵐と並び、太陽活動に伴う代表的な地球影響の1つといえる。
電離圏を構成するプラズマは、電波を吸収・反射する性質をもち、通信・放送を支える重要な役割を果たしている。このため、電離圏の乱れは、電波(無線通信やGPS信号など)の伝わり方に影響を与え、通信・放送分野、衛星測位分野(GPS等の測位誤差の増大)、航空機運行分野(通信障害)など、電波利用に関係する社会インフラに影響を及ぼす。
②磁気圏・大気圏上層の乱れ
磁気圏とは、地球の磁場が高度数百kmから数十万kmの宇宙空間に広がってできる領域であり、太陽風というプラズマの流れやその磁場から、地球を防御している。電離圏と一部重なるものの、総じて電離圏の外側に位置し、太陽風の影響を受けて、地球を球状ではなく、ゆがんだ形で取り囲んでいる。
磁気圏の乱れは、CMEやコロナホールに起因する太陽風の乱れによって生じる。磁気圏が乱される結果、磁気嵐(地球全体の磁場が数時間から数日間にわたって大きく乱れる現象)や低緯度でのオーロラが発生し、地上の送電線などに電流が誘導される場合がある。
また、高度80~600kmの大気圏上層では、オーロラ電流などにより大気が加熱されて膨張し、人工衛星の大気抗力が増加することもある。そのため、磁気圏・大気圏上層の乱れは、宇宙システム運用分野(衛星の高度低下など)や電力分野(送変電設備の障害など)に影響を及ぼす。2022年には、CMEを発生源とした磁気嵐に伴う大気圏上層の膨張により、打ち上げられたスターリンク衛星49機のうち約40機が軌道低下して大気圏に再突入・喪失したことが知られている。
磁気圏の乱れは、①で示したとおり、電離圏に構造的な乱れを引き起こす。このため、磁気圏の乱れが発生した場合には、併せて電離圏にも乱れが生じ、結果として広範な社会インフラに影響を及ぼすことになる。
③SEPによる直接的な影響
X線や太陽風の乱れは、地球の電離圏や磁気圏の乱れという地球周辺の環境変化を介して、間接的に社会インフラに影響を及ぼす≪図表4≫。一方、SEP(高エネルギー粒子)は、電離圏の乱れを介した影響のみならず、直接的に社会インフラや有人活動に影響を及ぼす。具体的には、宇宙飛行士や航空機乗員・乗客の被ばく(人体への影響)や、衛星・航空機の電子機器の誤動作・故障が挙げられる。
SEPは前述のとおり、高エネルギー粒子の発生した地点と地球との位置関係や磁場のつながり方など、多くの要因によって、地球への影響度合いが変わる。このため、SEPの影響を事前に正確に予測することは難しい。このため、地球から太陽方向へ約150万km(地球と月の距離の約4倍)に配置された観測衛星の観測が、宇宙天気予報において重要な役割を果たす。
(4)社会・経済への影響(社会インフラへの影響)
太陽活動に起因した社会インフラ影響は、通信・放送分野をはじめ、現代社会の基盤を支える広範な分野に影響が及ぶ≪図表4≫。
社会インフラへの影響については、「宇宙天気情報利用の手引き」に詳述されている7。また、被害の回避・軽減策は、「宇宙天気情報利用ガイドライン」として業界ごとに整理されている8。特に、宇宙天気予報の警報基準ごとに、危惧される影響とともに、予防対策や現場対策がタイムラインに沿って示されている。
(5)発生源から社会インフラ影響までの経路
改めて図表4を見ると、太陽における発生源から地球における社会インフラ影響までの各現象は、段階ごとにみると種類が限られている。一方、異なる段階の現象同士の対応関係は必ずしも一対一ではなく、複数の経路が存在することが、太陽活動に起因する影響リスクの理解を難しくしている要因だといえる。
そこで、発生源から社会インフラ影響までの経路を発生源ごとに因果経路図として≪図表5≫に示した。
これを見ると、次のことが読み取れる。
- CMEに伴う影響リスクが最も広範であること
- リスクの大きさは別として、コロナホールに伴う影響リスクもCMEに次いで広範に及ぶこと
次項にて詳述するが、太陽活動下降期にはCMEやフレアの発生頻度は低下する一方で、大規模なCMEやフレアの発生可能性は引き続き存在する。また、太陽活動下降期には、コロナホールに伴う高速太陽風(HSS)が増加し、磁気嵐の主な要因となる傾向がある。これらを踏まえて図表5を見ると、太陽活動下降期においても広範な分野で社会インフラ影響リスクが残ることがわかる。
3.太陽活動のこれまでとサイクル25の見通し
(1)太陽活動の長期的な変動からみたサイクル25の今後
①長期変動におけるサイクル25の位置づけ
太陽活動の強弱は、黒点数の変化によって把握される。これまでの長期観測により、太陽活動はおおむね11年周期で増減を繰り返すことが知られている。現在進行中の周期は、18世紀半ばに開始された国際的な観測における25番目の周期にあたるため、「サイクル25」と呼ばれる≪図表6≫。
各活動周期の黒点数の極大値(前後1年間のデータで平滑化した値)を見ると、300近い活発な周期もあれば、100未満の周期もある。こうした活動強度には、おおむね80~100年程度の長期的な変動がみられ、グライスベルク周期と呼ばれる場合がある。
2019年に始まったサイクル25は、20世紀後半の高活動期に比べると相対的に活動が低位な時期にあり、現時点では観測史の中でほぼ平均的な活動強度に位置づけられる(当初はやや低調な活動が予測されていた)。
一般に、フレアやCMEの発生頻度は、太陽活動の長期的な強度変動と一定の関係をもつと指摘されている。このため、20世紀後半の高活動期は、現在のサイクル25に比べて地球周辺環境への影響リスクが相対的に高かった可能性がある。
こうした観点からみると、衛星通信など宇宙空間の利用を前提とした通信・電子システムは、太陽活動が比較的低調な時期に発展・高度化してきたといえる。現在を、将来の太陽活動の活発化に備えたレジリエンス強化のための準備期間と捉え、宇宙天気リスクへの対応を進めていくことが重要である。宇宙インフラへの依存が高まる中、その重要性は今後さらに増していく。
②サイクル25の推移と現状
サイクル25における太陽黒点数の2026年2月までの推移は≪図表1≫のとおりである。
太陽活動周期のピーク(極大期)は、次の極小期が確定した後に正式に特定されるため、現時点でサイクル25のピークを確定することはできない。しかし、図が示すように、黒点数の推移からみて、現在はサイクル25のピーク付近、あるいはすでにピークを過ぎた可能性があるという見方が一般的になりつつある。
したがって、今後は太陽活動が下降期に移行していく可能性が高く、フレアやCMEのような突発的な現象の発生頻度も、全体としては徐々に減少していく傾向にあると考えられる。
しかし、社会インフラへの影響も同様に減少していくと考えてよいかどうかは別の問題である。黒点数の減少やフレアの発生頻度の低下に伴い、地球への影響も単調に低減するとは限らない。
③太陽活動・地球影響の長期変動と大規模イベントの発生時期
図表5に示したとおり、地球への影響の発生源となる太陽活動には複数の種類があり、さらに社会インフラへの影響に至るまでの過程や経路も複数存在する。太陽活動の変動と、その結果として生じる地球影響は必ずしも同じように変動するとは限らない。
地球への影響を測る方法には複数あるが、ここではAp指数に着目してその関係を確認する。Ap指数は、地球全体の地磁気の乱れの強さを示し、磁気嵐の活動度を定量的に評価するための代表的な指標である。図表4で示した地球周辺の環境変化の中では、磁気圏の乱れの程度を表すものといえる。
サイクル22以降の黒点数とAp指数の推移を≪図表7≫に示した。点線は月平均値、実線は前後1年間のデータを用いて平滑化した値であり、長期的な傾向を把握しやすい(※)。
※黒点数やAp指数は日単位で大きく変動する。図中の値は平均値や平滑値であるため、実際のデータは、より大きく変動する。例えば、小規模な磁気嵐はAp指数30以上とされるが、図中の月平均値(点線)が30を超える月は非常に少ない。そのため、値の絶対値を比較する際には注意が必要になる。
この図から、サイクル22以降では、太陽黒点数の長期変動(青の実線)とAp指数の長期変動(赤の破線)は必ずしも一致しておらず、時間的なずれが存在することがわかる。特に、地球への影響を表すAp指数のピークは、太陽活動の指標である黒点数のピークに比べて1年~2年ほど遅れて現れる傾向がみられる。
この背景には、太陽活動周期の進行に伴う次のような発生源の変化が関係していると考えられる。
- CMEに起因する磁気嵐の頻度が減少
- 一方で、コロナホールに起因する持続的な磁気嵐が増加
次に、太陽活動周期と大規模イベントの発生時期の関係を整理する。太陽活動の低下に伴い、フレアやCMEのような突発的なイベントの発生頻度は全体として減少する傾向があるとされる。しかし、大規模なイベントに限った場合、その発生頻度は太陽活動の低下に単純には連動しない可能性がある。また、磁気嵐の発生という地球への影響についても、強いイベントに限れば同様の傾向がみられる可能性がある。
ここでは、大規模フレアをX5.0以上、強い磁気嵐をKp指数7以上とし、発生時期を≪図表7≫の上段にマークで示し、強度を下段に棒グラフで示した(※)。
※Kp指数は、地磁気の乱れの強さを3時間ごとに示す指標であり、Kpが5以上で磁気嵐、7以上で強い磁気嵐と分類される。Ap指数は、1日分のKp指数(8回分)を日単位に集約した指数である。図には、Kp指数が7以上となった回数の月間累積値を縦棒の長さとして示した。
この図から、大規模なフレアは、サイクル22以降において、太陽活動の極小期での発生は少ないものの、ピーク前後の広い期間にわたって発生していることがわかる。特にサイクル23と24では、太陽活動下降期の終盤において、X10を超える極めて大規模なフレアが発生している点が注目される。なお、サイクル25では、本稿執筆時点でX5以上のフレアが複数回発生している。2024年5月にはX8.7、2024年10月にはX9.0クラスのフレアが発生し、磁気嵐の発生や日本などの低緯度地域でオーロラの発生が報告された。2026年2月にもX8.1のフレアが発生したが、全体的に大きな影響は発生しなかった。
また、強い磁気嵐(Kp指数7以上)をみると、サイクル22以降では、Ap指数の長期変動とおおむね対応する形で発生しており、太陽活動のピーク以降も発生が続く傾向が認められる。
以上から、太陽活動周期と地球影響、とりわけ大規模イベントとの関係は、太陽活動がピークを迎えた後も社会インフラへのリスクが低下するとは限らず、むしろ異なる形で継続する可能性がある。
- 太陽黒点数を指標とした太陽活動のピークは、磁気圏の乱れといった地球への影響のピークを必ずしも意味しない。地球影響は太陽活動のピークから年単位で遅れてピークを迎える場合がある。
- 大規模なフレアは、太陽活動のピークだけでなく、下降期を含めて発生している。特にサイクル23と24では、活動周期の終盤にX10を超える極めて大規模なフレアが発生している。
- 大規模なフレアには大規模なCMEが伴う場合が多く9、太陽活動下降期においても、SEPによる直接影響を含めて社会インフラへの影響が生じうる。
- 太陽活動ピーク後にはCMEに起因する磁気嵐の頻度が減少する一方、コロナホールに起因する磁気嵐が増加する傾向にある。このため、磁気嵐のリスクは太陽活動ピーク後も継続する。
(2)最新の文献・資料が示すサイクル25の今後の見通し
本項では、サイクル25に関して近年公表された国内外の公的機関の資料や査読付き論文をレビューし、2026年以降の太陽活動や大規模イベントの見通しについて、最新動向を整理する。ここでの目的は、個々の予測の当否の評価ではなく、現時点でどのような見通しが提示されているかを俯瞰することにある。
レビューにあたっては、次の条件に該当する文献・資料を収集した。
- 国内外の査読付き論文(オープンアクセスのものに限る)、または公的機関の公表資料(※)
- 公開・公表時期が2025年1月(サイクル25の活動ピークが見通せる時期)~2026年2月のもの
- サイクル25における2026年以降の太陽活動または地球影響に関する予測(forecast)を含むもの
- 宇宙天気予報のような短期的予測ではなく、月単位・年単位の中長期的予測を対象とするもの
※論文はオープンアクセスに限定し、プレプリントは対象外とした。このため、有料閲覧の購読型文献は含めていない。
太陽活動の中長期予測には、主に3つのアプローチがある。物理モデルは短期予測で成果を上げつつあるが、中長期予測では依然として困難を伴う。このため、中長期予測の中心は経験・統計的アプローチであり、機械学習などによるデータ駆動型アプローチが増加しているほか、ハイブリッド型の手法もみられる。
<予測アプローチの分類>
- 経験・統計的アプローチ:過去データにみられる統計的関係や経験則に基づく予測
- 物理モデルアプローチ:太陽の物理過程や法則に基づく予測
- 機械学習・データ駆動アプローチ:機械学習等を用いたデータ駆動型の予測
以下では、サイクル25の今後の見通しについて重要な示唆を含む文献・資料10件を取り上げ、その予測結果の概要を整理する。
①太陽活動レベルの予測
2026年時点では太陽活動のピークは過ぎており、2030年前後と見込まれる次の極小期に向けて、活動がおおむね一様に低下していくという、NASAやJouveらの予測がある。
a.Marshall Space Flight Center, NASA(2026年3月:毎月更新)
指標:黒点数、F10.7(※) ─経験・統計的アプローチ─
結果:黒点数、F10.7の予測が図示されている≪図表8≫。図からは、2024年秋がピークとみられ、2026年以降は2030年にかけて一様に低下する可能性が高いことが読み取れる。
出典:Marshall Space Flight Center, NASA, “Marshall Solar Cycle Forecast“(2026年3月10日閲覧)
※太陽から放射される波長10.7cmの電波フラックス(流量)で、黒点数とともに太陽活動の強さを表す代表的な指標。黒点数と高い相関を持ち、自動観測が可能。
b.Jouveら(2025年6月)
指標:黒点数 ─物理モデルアプローチ─
結果:黒点数は2029年にかけておおむね一様に低下する(なお、黒点数のピークは太陽の両半球で異なり、南半球では2024年頃、同じく北半球では2025年頃とみられる)。
出典:L. Jouve et al., “Forecasting the solar cycle using variational data assimilation: Validation on cycles 22 to 25“, Astronomy & Astrophysics, Volume 699, 2025
②太陽フレアの予測
フレアの活動全般を示す太陽フレア活動指数の予測では、ピークを2025年1月頃としたHeらの予測のほか、ピークが2024年頃と2025~2026年頃の2回あると推定したCaoらの予測がある。いずれも、ピーク以降は、太陽活動におおむね対応する形でフレア活動指数が低下する予測となっている。
大規模なフレアに限った発生の見通しでは、極端に強いフレア(文献ではX14.3以上)の発生回数を2027年春以降に約2回±1回とするTanらの予測のほか、X10超のフレア発生確率が高い期間を2025年半ば~2026年半ば、2027年前半~同年末などとしたVelasco Herreraらの予測がある。いずれの予測も、太陽活動下降期における大規模なイベントの発生に注意を促す内容となっている。
a.Tanら(2025年1月)
指標:大規模フレア(X10以上、X14.3以上)の発生回数 ─経験・統計的アプローチ─
結果:極端に強いフレア(X14.3以上)の発生回数を、2027年春以降に約2回±1回と予測。
関連:大規模フレアは、主に太陽活動周期の後期に、太陽面の低緯度領域で発生する傾向がある。
出典:Baolin Tan et al., “The Occurrence of Powerful Flares Stronger than X10 Class in Solar Cycles“, The Astrophysical Journal Letters, Volume 979, Number 1, 2025
b.Heら(2025年2月)
指標:太陽フレア活動指数(SFI※) ─機械学習・データ駆動アプローチ─
結果:SFIのピークは2025年1月頃(不確実性を考慮すると2023年12月から2026年2月までの間)。
関連:過去の統計的分析により、黒点活動やフレア活動の最大期は、太陽活動周期のピークの数年前または数年後に現れることが多い。
出典:Mu He et al., “Forecasting the Timing of Peak Solar Flare Index in Solar Cycle 25 for Improved Space Weather Prediction“, Advances in Astronomy, 2025
※フレアにより太陽から放出される総エネルギー量の目安。フレアがどれだけ激しく続いたかを表す。
c.Caoら(2025年3月)
指標:太陽フレア活動指数(SFI、NFI※) ─機械学習・データ駆動アプローチ─
結果:SFI、NFIとも2つのピーク(グネヴィシェフ・ピーク)が予測され、NFIは第1ピークが2024年頃、第2ピークが2025~2026年頃。
関連:太陽フレア活動は黒点活動に対し時間的に遅れる特徴がある。フレア活動指数の大きな変化は黒点活動ピーク後に生じる傾向があり、この遅れは両者の物理的な関係性を反映したものと考えられる。
出典:Jie Cao et al., “Multi‐Source Forecast of Solar Cycle Flare Activity Using the Novel Informer‐Based Models“, Space Weather, Volume23, Issue4, 2025
※太陽表面の磁場のねじれや複雑さを数値化したもの。フレア発生前のエネルギーの溜まり具合を表す。
d.Velasco Herreraら(2026年2月)
指標:大規模フレア(X10超)の発生確率 ─ハイブリッド(物理モデル+機械学習・データ駆動)─
結果:X10を超える大規模なフレアの発生確率が高い期間は、①2025年半ばから2026年半ばにかけて、②2027年前半から同年末にかけて、③2028年後半から2029年後半にかけての3つの期間。
出典:V. M. Velasco Herrera et al., “A New Method for Probabilistic Spatiotemporal Forecasts of Solar Soft X-Ray “S-Class” (>X10) Superflares“, Journal of Geophysical Research: Space Physics, Volume131, Issue2, 2026
③地球影響(うち磁気の乱れ)の予測
地磁気の乱れの予測では、すでにピークは経過しており、太陽活動下降期では強い二次ピークは現れないとするQvickらの見解のほか、Ap指数のピークを2026年1月頃、後述するDst指数のピークを2026年2月頃とするHeらの予測や、Ap指数が2026年中にピークを迎え、その後緩やかに低下するとみるNASAの予測などがある。いずれも、2027年度以降は指標値が低下傾向で推移すると見込まれている。
また、極端な磁気嵐については、その発生確率が従来の推定値に比べて低いとする一方で、弱い太陽活動周期でも発生例(サイクル14の1909年9月など)があることを指摘したRileyらの統計的評価がある。
a.Qvickら(2025年5月)
指標:aa指数(※) ─経験・統計的アプローチ─
結果:2022年7月頃に滑らかなピークを迎え、その後の太陽活動下降期では強い二次ピークは現れない。
出典:Timo Qvick et al., “Predicting Geomagnetic Activity Cycles“, Space Weather, 23(5), 2025
※Ap指数と同じく地磁気の乱れの程度を示す指標。Ap指数以前から観測され、長期間のデータがある。
b.Heら(2025年7月)
指標:Ap指数、Dst指数(※) ─機械学習・データ駆動アプローチ─
結果:Ap指数のピークは2026年1月頃で、Dst指数のピーク(指数値の極小期)は2026年2月頃。
関連:過去の太陽活動周期では、黒点数のピークと地磁気指数(Ap、Dst)のピークの間に、最大3年の遅れが観測されてきた。
出典:Mu He et al., “Forecasting Geomagnetic Disturbances in Solar Cycle 25 for Space Weather Prediction“, The Astrophysical Journal, 2025
※Ap指数と同様に地磁気の乱れの程度を示す指標だが、磁気嵐の強度を直接反映する代表的な指標。
c.Rileyら(2025年10月)
指標:極端な磁気嵐(キャリントン級)の発生確率 ─経験・統計的アプローチ─
結果:キャリントン級事象(※)の今後10年以内の発生確率は、採用する統計モデルにより大きく異なり、べき乗則分布では4.76%、対数正規分布では0.03%と推定される。これらは、従来研究による推定値(約12%、約2%)に比べて大幅に低い。ただし、極端な磁気嵐の発生頻度は太陽活動周期の強さの影響を受ける可能性がある一方で、サイクル14などの弱い周期でも発生した例がある。
出典:Pete Riley et al., “Inter-Solar-Cycle Variability of Extreme Geomagnetic Storms“, Space Weather, 23(11), 2025
※1859年に発生した観測史上最大級の磁気嵐「キャリントン事象」(電信網の障害や発火など広範な被害が生じた)に匹敵する規模の極端な磁気嵐。社会インフラへの重大な影響が懸念されている。
d.Marshall Space Flight Center, NASA(2026年3月:毎月更新)
指標:Ap指数 ─経験・統計的アプローチ─
結果:Ap指数の予測が図示されている≪図表9≫。予測の中央値である50パーセンタイル(緑色の線)からは、2026年中にピークを迎え、その後2030年に向けて緩やかに低下する可能性が高いことが読み取れる。
出典:Marshall Space Flight Center, NASA, “Marshall Solar Cycle Forecast“(2026年3月10日閲覧)
4.まとめ──サイクル25の今後の見通しを踏まえて
現在進行中の太陽活動サイクル25では、黒点数などからみた太陽活動のピークはすでに過ぎた可能性が高く、2030年前後と見込まれる極小期に向けて、今後の活動水準そのものは全体として低下していく公算が大きい。突発的な地球影響の発生源であるフレアの発生頻度や、地球影響の指標となる磁気嵐関連指数についても、中長期的には低下が見込まれている。したがって、平均的あるいは平滑化した活動水準だけをみれば、リスクは今後徐々に低下していく傾向にあると考えられる。
ただし、社会インフラへの影響リスクを考える上では、こうした平均的な活動水準の低下を、単純にリスクの低下とみなすことは適切ではない。
第1に、地球への影響、特に地磁気の乱れは太陽活動のピークと必ずしも同時には現れず、年単位で遅れてピークを迎える場合がある。サイクル25についても、太陽活動のピークは2024年~2025年頃とみられる一方で、Ap指数などのピークは2026年とする予測がある。したがって、少なくとも当面は地球影響が強まりやすい時期が続くとみておく必要がある。
第2に、大規模現象に関しては不確実性が依然として大きい。フレア活動全般は低下傾向に移行するとしても、大規模あるいは極端に強いフレアは、太陽活動の下降期を含めて発生しうることが、過去の観測結果と最新の予測の双方から示唆されている。活断層による地震と同じく、発生確率が低い事象であっても、影響が大きければ無視できないリスクとなる。特に、活動周期の終盤に大規模なフレアが出現した過去の事例(サイクル23および24)があり、2027年以降も大規模なフレアの発生可能性が指摘されている。すなわち、ピーク経過後であっても低頻度・高影響事象への警戒は維持する必要がある。
第3に、太陽活動のピーク後は、地球影響の発生源や伝搬過程の構造が質的に変化する。すなわち、CME起源の磁気嵐の発生頻度は低下する一方で、コロナホール起源の高速太陽風に伴う磁気嵐の頻度が相対的に高まる傾向がある。このため、突発的な事象への備えに加え、持続的・反復的な地磁気擾乱への対応の重要性が増す。
このように、サイクル25のピーク後のリスクは、「平均的な活動水準の低下」「大規模事象リスクの残存・継続」「リスク構造の変化」という3つの視点から捉える必要がある。重要なのは、太陽活動と比例して影響リスクが低下するとみなすのではなく、太陽活動下降期における不確実性とリスク構造の質的変化を踏まえ、監視・警戒と備えを再点検することである。その際、宇宙天気予報や宇宙天気イベント通報は、社会インフラの運用リスクの回避・軽減に不可欠な基盤情報であり、幅広い分野での活用が求められる。
- 国立研究開発法人 情報通信研究機構「新宇宙天気イベント通報及び宇宙天気情報利用ガイドライン」2025年6月
- 国立研究開発法人 情報通信研究機構「宇宙天気情報利用ガイドライン」2025年6月
- 国立研究開発法人 情報通信研究機構「宇宙天気情報利用の手引き」2025年6月
- NOAA, Space Weather Prediction Center, Solar Cycle Progression(2026年3月10日閲覧)
- 前脚注3
- 総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書(令和4年6月)
- 前脚注3
- 前脚注2
- 国立研究開発法人情報通信研究機構「科学提言のための宇宙天気現象の社会への影響評価」2020年10月, P38
PDF:2MB
PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。