ワーク・エコノミックグロース

企業の組織風土改革に向けた視点~従業員の組織風土認識と健康との関連~

上席研究員 田上 明日香

本稿では、当社が2025年に公表した「組織風土を従業員はどうとらえているのか?~個人の認識とその影響~」の分析結果を踏まえた追加分析を行った。従業員の組織風土に対する認識と健康経営に取り組む企業が測定している様々な健康関連指標との関連について、従業員が普段から組織風土を意識することにはポジティブな影響があり、個人が組織の中で健康度高く働くためには、周囲や環境に関心をよせることが重要である可能性が示唆された。また、職場で「必要とされている実感」と健康関連指標には相関がみられ、企業が健康施策に取り組む上で、「必要とされている実感」を分析することが有用である可能性が示唆された。

1.健康経営の効果指標

健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することである。健康経営度調査に基づく健康経営優良法人等の顕彰制度に参加する企業は、2026年の大規模法人部門の回答数で4,175社、中小規模法人部門の認定申請数で23,485社と年々増加しており1、従業員の健康づくりへの関心は高まっている。健康経営のねらいである、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」という本来の成果を示すためのKPIにおいては、1)施策の取り組み状況に関する指標(イベントの参加率や満足度等)、2)従業員等の行動変容に関する指標(高ストレス者の割合等)、3)健康関連の最終的な目標指標の3つのレベルを意識した設定が推奨されている2。3)健康関連の最終的な目標指標については、各企業の健康経営の推進方針等にあわせて最適な指標を模索して設定することが望ましいとされており、指標例として以下の3つが示されている。

 ①生産性への影響度を評価する指標(プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム)
   ②従業員の健康状態に関する指標(身体的指標・心理的指標)
   ③就業に関連する指標(ワーク・エンゲイジメント、離職意思等)

また、これらの指標については、健康経営に係る顕彰制度において、実績値や測定方法を自社HP等で開示していることが認定要件とされているため、認定企業の情報公開が進むようになっている。具体的には、大企業等が該当する健康経営銘柄、健康経営優良法人大規模法人部門の上位500社に認定されるためには、従業員パフォーマンス指標として実績値や測定方法の開示が必須とされている。

2.健康経営と企業の健康風土

健康経営の施策実施においては、同様な健康投資を行っても、企業や組織ごとに効果が異なることがあり、企業の健康に関する共通の考え方や行動様式を生み出す、その企業独特の環境と定義される健康風土などの無形資産が影響するとされ、企業の健康風土については、健康に関する共通の考え方や行動様式が、組織レベル、管理職レベル、職場(同僚)レベルのすべてで醸成されることが重要とされている3。また、これらの健康風土は組織風土をとらえることで代用できることが指摘されている4

そこで、当社が主催した組織風土研究会において、従業員1,000人以上の大企業に会社員として所属する全国18歳から64歳の男女5,000人を対象に実施したアンケート調査に基づき、個人の組織風土に関する認識と健康関連指標との関係について、報告書に掲載した内容に加えて追加分析を行った結果を紹介したい。

その際に、上述した健康関連の最終的な目標指標を参考に3、プレゼンティーイズム(欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態)、ワーク・エンゲイジメント(仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、仕事に対して、「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態)、ウェルビーイング観点での健康状態の心理的指標として、①職場でこうなったらいい、こうしたいという希望を持てているか(以下、職場で希望を持てているか)、②生活全般の幸福度として、あなたはどの程度、幸せですか(以下、幸福度)との関連を分析した。

3.組織風土を意識することと健康関連指標との関係

職場の組織風土に関して普段から意識する程度(意識する、どちらかというと意識する、どちらかというと意識しない、意識しない)と、プレゼンティーイズムへの影響について分析したところ、プレゼンティーイズムについては、「意識しない」と回答している人のプレゼンティーイズムスコアが他の回答と比較して最も低く、統計的にも「意識しない」と他の回答との間に差がみられた《図表1》。このように、組織風土を明確に「意識しない」と回答することは、職場への興味関心や積極的な関わりの低下により生産性が低下している状況とも解釈できる。

次に、所属している職場の組織風土を意識する程度によるワーク・エンゲイジメントへの影響について分析したところ、「意識する」という回答がワーク・エンゲイジメントの得点が最も高く、「意識しない」という回答に向かって得点が低下することがわかり、各回答間の統計的に意味のある差も示された。これらの結果から、普段から組織風土を意識して働いている人の方が、仕事に積極的に向かい活力を得ていることが示された《図表2》。

所属している職場の組織風土を意識する程度と、従業員の健康状態に関する指標として「職場で希望を持てているか」、また、「仕事だけでなくプライベートな生活も含む幸福度」への影響といった、希望や幸福について調査したところ、両方の指標ともに組織風土を「意識する」と回答している人の方が、最も得点が高く、「意識しない」に向かって得点が低下する傾向がみられ、また各回答間にも統計的に意味のある差がみられた《図表3》《図表4》。組織風土を普段から意識する人ほど、職場で希望を持てており、また仕事に限らず生活全般についての幸福度も高いということが示された。

働く人にとっての組織風土を考える際に、普段から周囲や環境といった組織風土を意識することには、健康関連指標からみるとポジティブな影響があることが示された。普段から組織風土を意識する程度は、個人と職場との距離感や関心といった関係性を示している可能性があることから、従業員が組織風土を意識しているということは健康風土を醸成しやすい職場であるともいえるが、反対に組織風土を意識しなくなるということは、健康関連指標との関連で見ると注意が必要といえる。

4.健康関連指標と関連がみられる周囲や環境からの影響

個人と職場との関係性改善のヒントを得るために、職場の組織風土に関する認識を聞いた複数の質問と健康関連指標の相関関係について、年代、役職層別に追加分析した。その結果、「仕事(職務や人間関係など)を通じてあなたは必要とされていると感じることはありますか(以下、必要とされている実感)」の質問と、健康関連指標との相関が示された《図表5》。

必要とされている実感と職場での希望との間には、多くの層で強い相関がみられた。特に40~50代の管理職層に強い相関がみられ、この層では、仕事で必要とされている実感と職場での希望という未来に向けた変化への期待との関連が示唆される。

必要とされている実感とワーク・エンゲイジメントの関連については、管理職層との関連が強く、必要とされている実感と仕事に関連するポジティブで充実した心理状態には関連があることが示された。一方で、30代以上の非管理職の男性においては関連が弱いことが示されている。

必要とされている実感と幸福度の関連を見ると、30代~50代の女性に相関がみられる。また、20代、60代の非管理職でも相関がみられる。

必要とされている実感とプレゼンティーイズムの関連については、40代の女性管理職の関連が強く示された。プレゼンティーイズムが、欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態を示すことから、40代の女性管理職にプレゼンティーイズムの状況が見られた際には、必要とされている実感との関連からも注意が必要である可能性がある。

仕事で必要とされている実感があることは、年代や役職、性別による差異は見られるものの、様々な健康関連指標との関連が見られることが示された。このように、全ての層が何らかの健康関連指標との関連が見られた結果から、従業員が必要とされているという実感があるかを確認することは、個人と職場との距離感や関心といった関係性の改善を考える上でのヒントになる可能性がある。必要とされている実感に影響する要因としては、企業の事業との接点の中で、従業員が自らの仕事の意味や意義を感じられているか、努力に報いる報酬制度があるか等の組織レベルの関わりや、日常の業務内での上司や同僚、顧客からのフィードバック等の管理職や職場レベルでの関わりが想定され、“実感”として個人がとらえるためには、健康風土でも指摘されているように、各レベルでの風土醸成が必要である。したがって、このような“実感”を従業員が持てているかの状況確認をすることは、風土醸成の現状把握としての活用も期待できる。

5.おわりに

本稿では、従業員の組織風土の認識という視点から、健康指標との関連を分析した。その結果、従業員にとって普段から職場の組織風土を意識する程度は個人と職場との距離感や関心といった関係性を示している可能性があり、個人が組織の中で健康度高く働くためには、周囲や環境に関心をよせることが重要である可能性が示唆された。会社が施策として従業員と職場との距離感や関心といった関係性の改善に取り組み、その効果を検討する際には、従業員が必要とされる実感を持つことができているのかについての分析が有用である可能性が示唆された。

企業において従業員の心身の健康の側面から様々な施策を行う場合、または行っていても効果が得られない場合などにおいては、健康風土の把握のために組織風土にかかわる要因を測定することが、課題把握と介入方法の検討において一助となると考えられる。

  • 健康経営優良法人認定2026の速報値(https://kenko-keiei.jp/5926/)
  • 健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版(https://kenko-keiei.jp/5171/)
  • 前掲脚注2
  • 森晃爾・永田智久・小田上公法編著「健康経営を科学する!」(大修館書店、2023年)

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