スポーツのメディア観戦でウェルビーイング~技術進歩が楽しさを後押し~
本稿ではメディア観戦に焦点を当て、健康・ウェルビーイングとの関係や、楽しさの多様な側面、SNSの普及や技術の進歩で深まる観戦体験について、留意点とあわせて紹介する。
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1. メディア観戦と健康・ウェルビーイングの関係が明らかに
スポーツ観戦の研究は、かつて現地観戦が中心だった。しかし近年では、メディア観戦も注目を集めている。スポーツを視聴している間、幸福感を高める作用がある報酬系の脳活動の活性化がみられたという研究報告がある1。この報告では、スポーツ観戦の効果は一時的なものではなく、それを繰り返すことで報酬系の構造変化が起こり、長期的なウェルビーイングにも貢献することが期待されている。これを支持するように、スポーツ観戦習慣と長期の健康・ウェルビーイングが関係していて、メディア観戦の習慣を持つことは主観的ウェルビーイング、友人の人数、うつ症状の抑制などと関係があることが明らかになっている《図表》2 3 。
2. メディア観戦で体験できる楽しさは様々
スポーツのメディア観戦が健康・ウェルビーイングと関係があるからといって、楽しさを感じなかったり、実践するハードルが高かったりしたら、メディア観戦をしないだろう。しかし昨今のSNSの普及や技術の進歩は、メディア観戦を気軽で多様な楽しみ方を持つものに変えている。
(1) 推しがいなくても楽しさは感じられる
スポーツのメディア観戦で、人々は何に楽しさを感じるのか。例えば、プロ野球の観戦者を対象にした研究によると、次のような要素が挙げられている。つまり、日常からの脱却(日常を忘れられる)、興奮や刺激、そして最後まで結果がわからないドラマ性といった娯楽的要素である。さらに、芸術的なプレーや身体性、技術・戦略などに関する情報・知識の獲得、家族との共有時間、観戦者間の一体感やつながりにも、人々は楽しさを感じている4。
もちろん、好きな選手やチームを応援すること自体に楽しさを感じる人もいるだろう。特定の応援対象がある人は、主観的幸福感が高いという別の研究5もある。しかし、前述の研究で列挙した様々な楽しさについて、特定の応援チームを持たない人の方が、特定のチームを応援している人よりも強く感じていたことも明らかになっている6。普段スポーツ観戦になじみがないなどの理由で特定の「推し」がいなかったとしても、スポーツのメディア観戦には多様な楽しさを見出せる要素があるのだ。
(2) SNSの普及と技術進歩により観戦体験が深化
こうしたメディア観戦の楽しさは、SNSの普及や技術の進歩によって、より手軽かつ深く体験できるようになった。
2010年代以降、SNSを通じた思いの発信や、離れた場所にいる人とのやりとりをしながら観戦するソーシャル・ビューイングが広がり、メディア観戦でも一体感やつながりを感じながらの観戦が可能になった7。メタバース空間でアバターを用いて大勢の人と一緒に観戦することも実現されつつある8。
また、試合の中継・配信では、VR(バーチャルリアリティ)の導入や、最近ではFIFA World Cup 2026TMにおいて、審判員が装着するカメラの映像がAIでブレの補正がされたうえで中継映像に挿入されるなど、技術を活用して臨場感や没入感を高める工夫がされている9。日常からの脱却や興奮・刺激、芸術的なプレーや身体性の点で、観戦者は楽しさをより感じられると考えられる。データの提示や複数の角度からの映像を活用した解説は、メディア観戦だからこそ得られる体験で10、情報・知識の獲得や理解の点で楽しさを促進するといえる。
競技や試合によっては有料の配信サービスと契約しなければ視聴できない、配信のプラットフォームが細分化されているなどの課題はあるが、メディア観戦の様々な楽しさを深く体験できる技術的環境が広がってきているといえる。
3. 留意点を踏まえて楽しみたい
スポーツ観戦は、ポジティブな面ばかりではない。例えば、メディア観戦には高BMI(肥満)や生活習慣病のリスクが潜んでいるとする研究があり、「座ったままで飲食をしながらのスポーツ観戦、いわゆる“カウチポテト”の影響」の可能性が指摘されている11。
観戦形態を問わず、スポーツ観戦に興味がない、スポーツの勝敗や先が読めない展開を好まないなど、ネガティブな感情を抱く人、スポーツと距離を取りたい人がいる12。国・地域の代表の試合といったビッグイベントでは、普段はスポーツ観戦をしない人でも観戦を楽しむ人、ポジティブな気持ちになる人がいるだろう。報道なども相まって、国・地域の一員としてのアイデンティティが刺激されることも少なくない13。一方で、大きな盛り上がりに、同調圧力を感じるなどネガティブな気持ちになる人もいる14。誰にとってもスポーツ観戦が楽しいわけではない。メディア観戦の場合、楽しいと思わない、つらく感じるといった人が物理的にすぐ身近にいる場合がある。
また、SNSは、従来メディア観戦では難しかった感動などのポジティブな感情の共有を可能にする一方、ネガティブな感情の共有や拡大も生みやすい。期待通りの結果やプレーを観られなかった際には、選手や監督、チームなど他者への攻撃的な言動が生まれる場合がある15。
メディア観戦で得られる体験の深さが増し、様々な人がその楽しさに触れられる現在、これらの留意点を踏まえたスポーツ観戦により、人々の楽しい時間や、健康・ウェルビーイングが広がることを期待したい。
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- Kawakami, R., Kitano, N., Fujii, Y., Jindo, T., Kai, Y., & Arao, T. (2024). Association of watching sports games with subsequent health and well-being among adults in Japan: An outcome-wide longitudinal approach, Preventive Medicine, 189, 108154, https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2024.108154, 明治安田厚生事業団 プレスリリース 「スポーツを観るとこころが元気に!現地観戦はもちろんメディア観戦でも―世界初!スポーツ観戦の長期的な健康効果を解明―」(2024年11月19日)
- Tsuji, T., Kawaguchi, K., Ide, K., Nakagomi. A., Narita, Y., Kanamori, S., & Kondo, K. (2026). Watching sports and subsequent health and well-being in older adults: a longitudinal outcome-wide study. Archives of gerontology and geriatrics, 142, 106120, https://doi.org/10.1016/j.archger.2025.106120, 日本老年学的評価研究(JAGES)機構/筑波大学 プレスリリース 「スポーツ観戦は健康・ウェルビーイングに良い?~高齢者約7,000人を3年間追跡し、47項目を幅広く調査~」(JAGES Press Release NO: 503-25-48, 2026年3月)
- 日本体育・スポーツ経営学会 編 「スポーツ観戦を科学する―スポーツ文化のさらなる発展を目指して」(大修館書店、2024年8月)
- スポーツ庁 令和5年度 Sport in Life推進プロジェクト 「コンディショニングに関する研究(スポーツの価値を高めるための運動・スポーツが身体に与える影響に関する新たな研究促進と医学的知見の集積に向けた調査研究)」 成果報告書 (2024年3月)
- 前掲注4
- 月刊事業構想 「SNS進化で「参加型」の先へ」(2014年3月号)
- 前掲注4
- WIRD 「2026年W杯で実現する「レフェリー視点」の試合観戦─AIが支える新技術」(2026年6月12日)
< https://wired.jp/article/world-cup-referee-body-cameras-live/ > (visited Jun. 15, 2026) - NHK放送技術研究所 技研だより 「新しい映像表現技術をスポーツ中継に活用」(2019年2月号)
- 明治安田厚生事業団 プレスリリース 「スポーツを観るとこころが元気に!現地観戦はもちろんメディア観戦でも―世界初!スポーツ観戦の長期的な健康効果を解明―」(前掲注2)
- クロス・マーケティング 「【報告書】スポーツに関する調査(2024年)観戦編」(2025年1月)、AERA DIGITAL 「国際スポーツ大会での異様な盛り上がり方が嫌いだという50歳女性に、鴻上尚史が「あなたの感覚はとてもまっとうなもの」と伝えた理由とは」(2025年2月11日)
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- AERA DIGITAL 「国際スポーツ大会での異様な盛り上がり方が嫌いだという50歳女性に、鴻上尚史が「あなたの感覚はとてもまっとうなもの」と伝えた理由とは」(前掲注12)
- BBC News Japan 「昨年のサッカーW杯、罵倒の投稿2万件=FIFA報告書」(2023年6月19日)
< https://www.bbc.com/japanese/65947504 > (visited Jun. 15, 2026)