マクロ経済・公共政策

ガソリン補助はいつまで続けるのか
~パワーGXに問われる出口戦略~

上級研究員 尾形 和哉

政府は9月1日、燃料油価格の激変緩和措置を継続するため、6,160億円の予備費支出を決めた。その6日前には、化石燃料への依存低減を掲げる「パワーGX」を打ち出している。危機時の価格支援と中長期の構造転換は役割が異なるため、両者は必ずしも矛盾しない。問題は、その間をつなぐガソリン補助の「出口戦略」がまだ十分に見えないことである。本稿では、ガソリン補助の即時廃止ではなく、縮小・重点支援への切替や構造転換への接続について、パワーGX戦略に組み込む必要性を考える。
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1.パワーGXが示した構造転換と、残るガソリン補助の課題

政府は8月26日、中東情勢を踏まえ、従来のGX(グリーントランスフォーメーション)をエネルギー安全保障の観点から強化する「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(パワーGX)」を打ち出した。このパッケージの特徴は、足元の燃料供給を確保するだけでなく、化石燃料への依存そのものを低減する方向を明確にしたことにある。

政府は「化石燃料の調達先の多角化・リスク低減による調達安定性の抜本的向上」と「投資拡大を通じたエネルギー転換・供給力増強・効率向上によるGXの加速・強化」を柱に据え、原油・ナフサの調達多角化に加え、原子力の活用、ペロブスカイト太陽電池や次世代地熱などの国産脱炭素電源、代替燃料、燃料転換などへの取組を加速するとした1。個々の施策の多くは従来のGX政策にも含まれてきたが、今回、それらをエネルギー需給構造の強靱化という観点から束ね直したものと言える。

だが、政府は構造転換を掲げる一方で、足元では化石燃料の価格を抑える政策も継続している。パワーGX発表に先立ち、8月25日に政府は中東情勢がなお不透明であるとして、ガソリン価格を全国平均170円/L程度に抑える補助を継続すると表明した 。9月1日には、「中東情勢等対応予備費3」の使用が閣議決定された4。今回、この予備費から6,160億円を支出し、うち6,136億円がガソリンなどの燃料油価格を抑える措置の財源に充てられる。政府はこの支援をあくまでも激変緩和措置と位置付け、支援単価や出口を含む今後のあり方を検討するとしている。

こうした短期的な価格支援が当面必要とされる一方、今後はガソリン補助の出口とその道筋について、パワーGX推進との関係もあわせて考える必要がある。当社と一般社団法人日本若者協議会が7月に公表した「化石燃料依存リスク可視化レポート5」では、危機対応を、価格支援や備蓄放出などの「短期」と、供給・需要構造を変える「中長期」に分けて整理している(図表1)。 パワーGXが中長期の構造転換を強化するのであれば、政策の整合性を高めるためにも、短期対策である価格支援をいつ、どのように縮小し、中長期の対策へ接続していくのかまで示すことが重要であろう。

2.パワーGXは構造転換への前進、供給網の強靱化も重要

パワーGXで掲げられた打ち手を見ると、必要な燃料の安定確保に加え、輸入化石燃料への露出そのものを低減することを、日本のエネルギー安全保障上の課題としてより明確に位置付けた点で評価できる。「化石燃料依存リスク可視化レポート」でも、日本の低いエネルギー自給率と高い化石燃料依存を構造的な脆弱性と捉え、省エネ、電化、非化石電源などを通じて価格・供給ショックへの耐性を高める必要性を指摘した。今回の政府方針はこの問題意識と重なると言える。ただし、化石燃料依存を低減する過程で、新たな供給上の脆弱性を生まないことも重要である。

その点で留意すべきなのが、クリーン技術の供給網である。IEAによれば、クリーン技術の供給網は地理的に集中しており、中国は太陽光関連で約85%、リチウムイオン電池で約80%の生産能力を占め、一部工程では95%を超える6。したがって、構造転換の移行期には、石油やLNGの備蓄・調達先多角化を続けつつ、化石燃料依存の低減とクリーン技術・重要部材の供給網強靭化を並行して進める必要がある。その点も踏まえると、国内で原料を調達できるペロブスカイト太陽電池などの国産脱炭素電源の産業基盤を構築するとともに、原子力や化石代替燃料の導入・開発を通じ、エネルギー源そのものの多角化を進める方向性は評価できよう。

3.残る課題はガソリン補助の出口

では、足元のガソリン補助についてはどのように位置付けるべきか。確かに、価格支援には短期的に家計や企業の負担を和らげる「対症療法」としての意義はある。しかし、それ自体は化石燃料への依存を下げるものではない。ここで問うべきなのは、ガソリン補助といった価格支援を誰のために、いつまで続けるのかである。エネルギー価格上昇の影響は一様ではなく、例えば、家計のエネルギー負担の一例として、総務省「家計調査」の2025年平均をもとに光熱・水道費が可処分所得に占める割合を見ると、二人以上の勤労者世帯では、低所得世帯(年収:~343万円)で約7.2%と、高所得世帯(年収:924万円~)の約3.1%の2倍を超えている5。また、燃料価格への露出が高い農業や道路貨物運送など、危機時の影響が大きい事業者も存在する。

一方、全国一律の価格抑制を長期化すれば、財政負担だけでなく、省エネへのインセンティブを弱める可能性がある。価格を直接抑える支援は、消費者や企業が実際に直面する燃料価格を引き下げるため、使用量を減らす動機を弱めるからである。

OECDは、こうした価格抑制策が省エネへのインセンティブを弱めることや、エネルギー効率改善や供給多角化への投資を遅らせうるとも指摘している7。また、対象を絞らない価格措置は対象を限定する場合よりも財政コストが高く、長期化すると撤回も難しくなりやすいことから、OECDは、支援対象を絞り、一時的なものとすることで、省エネへのインセンティブを維持することを重視している。OECDのEnergy Support Measures Trackerによれば、2026年に公表された支援措置のうち、約3分の2が一時的、約3分の1が対象限定型で、両方を満たす措置は3分の1未満と整理されている8。対象限定型は主に農業や道路貨物輸送など、燃料価格上昇の影響を受けやすい部門に向けられている。

今回の予備費投入によって、こうした出口設計の重要性は一段と高まったと言える。報道によれば、政府は、少なくとも10月末までは現在の支援水準を維持し、11月以降は中東情勢を踏まえて制度のあり方を検討するとしている。一定の時間軸が示されているものの、原油価格や中東情勢、家計・企業への影響など、どのような条件を基準として支援を縮小・終了するのかは、なお明確ではない。価格支援を繰り返し実施するのであれば、支援額だけでなく、縮小や終了の判断基準も併せて示す必要があるだろう。

もっとも、対象を絞るには、支援が必要な世帯や事業者を把握し、迅速に支援を実施するための行政基盤も必要である。OECDは、所得や世帯構成、住宅・暖房方式、企業のエネルギー利用や税務情報などを連結して脆弱性を把握し、既存の給付制度やデジタル基盤を通じて迅速に支援できる仕組みの重要性を指摘している。したがって、対象を絞った支援を実効的に行うためには、平時から対象者を把握し、危機時に迅速に支援できる仕組みを整えておくことも重要である。

4.次の危機で必要な補助を小さくする政策へ

こうした価格支援の出口を整える一方で、最終的に目指すべきなのは、対症療法的な価格抑制策に頼りすぎるのではなく、価格上昇・供給途絶ショックに強い需給構造をつくることである。対象を絞った一時的な支援によって危機時の負担を抑えつつ、中長期には省エネや電化、供給源の多角化などを進め、価格・供給ショックへの構造的な脆弱性そのものを小さくしていく必要がある。そのためには、価格を後から抑えるだけでなく、省エネや電化、電源の非化石化などを通じて、輸入化石燃料への依存を低減することが重要になる。

省エネの例で言えば、IEAによると、過去20年間の省エネによって、IEA加盟国では化石燃料輸入量を20%増やす必要がなくなり、特に日本では、自動車の厳しい燃費基準を背景に石油輸入の回避効果が大きかったと報告されている9(図表2)。このように省エネは、脱炭素だけでなく、輸入化石燃料への依存を実際に低下させてきたという点で、エネルギー安全保障にも資する取組でもあると言える。

今後は短期の価格支援と中長期の構造転換を、一つの政策工程として示す必要があるだろう。すなわち、ガソリン補助について、中東情勢や原油価格、家計・企業への影響など、どのような条件で支援を縮小・終了するのかを明確にする。価格高騰の影響を受けやすい世帯や事業者を平時から把握し、一律支援から重点支援へ切り替えられる体制を整えることも重要だ。そして、省エネ、電化、燃料転換、供給源の多角化などを進め、次の価格・供給ショック時に必要となる補助そのものを小さくしていくことである。

政府は年末までに「パワーGX戦略」を取りまとめる方針である。今回、ガソリン補助について11月以降に制度のあり方を検討すると報じられていることを踏まえれば、ガソリン補助の出口戦略の検討はパワーGX戦略と切り離すべきではない。価格支援の対象・期間・縮小条件と、並行して強化する構造転換策を一つのロードマップとして国民に示すことが求められる。

  • 内閣官房 GX実行会議(第17回)「資料1 エネルギー需給構造の強靱化に向けた我が国GXの加速について」(2026年8月26日)
  • 首相官邸「『中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置』及び『物価高対策』等についての会見」(2026年8月25日)
  • 政府は6月に成立した補正予算で、中東情勢に伴うエネルギー価格高騰などへの備えとして2兆5,000億円の予備費を創設している。
  • 財務省「令和8年度一般会計中東情勢等対応予備費使用(閣議決定)」(2026年9月1日)
  • SOMPOインスティチュート・プラス/日本若者協議会「危機対応から危機回避へ ―イラン情勢を教訓とした化石燃料依存脱却とエネルギー自立性強化を―」(2026年7月23日)
  • IEA, “Energy Technology Perspectives 2026”, Mar. 2026.
  • OECD, “OECD Economic Outlook, Volume 2026 Issue 1: Under Pressure”, Jun. 2026.
  • OECD, “OECD energy support measures tracker”, May. 2026.
  • IEA, “Energy security”, Jun. 2025.

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