シティ・モビリティ

国の成長戦略と連携する新しい地方創生
~高市政権の「地域未来戦略」の特徴②~

上席研究員 岡田 豊

2026年7月に公表された高市政権の「地域未来戦略」は、石破政権の地方創生2.0を引き継いだ部分も少なくないが、戦略産業クラスターのように大きく変えている部分もある。このクラスターは国の成長戦略と連携して大型投資の受け皿を狙ったものだが、これまでの地方創生と違い、国や都道府県が主導するし、かつ高度人材が集中する地域経済の中心都市を含む計画が目立つ。一方、地方創生で長年受け継がれている東京一極集中の是正は大きく後退している。地域未来戦略で「都市と地方の共生の実現」という項目が挙げられているように、今後は東京と地方の連携を目指す必要がある。特に、成長分野で大きな課題となる高度人材確保等で、東京と地方がシェアすることにより力点が置かれるべきだ。
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1.はじめに

高市政権の地方創生である「地域未来戦略」は、詳細について2026年7月に閣議決定された。この地域未来戦略は名称が変わったものの、2014年に地方創生の根拠法である「まち・ひと・しごと創生法」に基づき作成されたものである。
 そこで2回にわたり、これまでの地方創生、特に開始10年の検証を経て立てられた石破政権の「地方創生2.0」と今回の地域未来戦略の相違を概観することで、高市政権の地方創生の意義と課題を考察したい。このうち本稿では、石破政権の地方創生2.0のうち、地域未来戦略で変更されたもの、追加されたものを中心に示す。なお、石破政権の地方創生2.0から地域未来戦略へ引き継がれたものについては、別稿「Insight Plus 地方経済重視を「引き継ぐ」新しい地方創生~高市政権の「地域未来戦略」の特徴①~」を参照して欲しい。

2.成長17分野投資による地方経済の活性化

石破政権は地方創生2.0を深化させる前に退陣し、新たに誕生した高市政権では地方創生を担う「地域未来戦略本部」が立ち上げられた。そこでは、従来からの地方創生を基盤としつつ、「地域未来戦略としての新たな取組」として成長17分野の投資における国と地方の連携などが重視されている。
 図表1の「強い地域経済の構築」「豊かな生活環境の実現」「選ばれる地方の実現」の3つの項目は地方創生2.0の目指す姿と非常に似ている。内容面でも「豊かな生活環境の実現」「選ばれる地方の実現」は地方創生2.0とあまり違いはない。

≪図表1≫地域未来戦略の全体構成

(出典)「地域未来戦略」(概要)(2026年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

しかし、地方経済の活性化では大きな違いが見られる。ここでは高市総理の関連発言から紐解いてみよう。高市総理は「第1回地域未来戦略に関する関係副大臣等会議」(2025年12月4日)にて、「政府は、一歩前に出て、地域を超えたビジネス展開を図る企業を支援し、大胆な投資促進策とインフラ整備を一体的に講ずることで、地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していきます。」「加えて、地方には、可能性を秘めた魅力あふれる地域資源が多数存在しています。地方の伸び代を最大限いかすために、各知事が主導する「地場産業」の成長プランを強力に後押しし、その付加価値向上と販路開拓を支援するパッケージを策定してください。」と述べている(参考資料2「第1回地域未来戦略本部における総理発言」)。ここでは、後者の表すようなこれまでの地方創生に加えて、国が主導する地方経済の活性化策を講じることが示されている。
 この点は、第221回国会における高市早苗内閣総理大臣施政方針演説(2026年2月20日)においても明らかだ。「地域の特性に応じた地域発のアイデア創出を募り、これまでの地方創生の支援策や税制などの政策ツールを最大限活用しつつ、大胆な投資促進策と産業用地を含めたインフラ整備とを一体的に講じます。そのことを通じた都道府県知事などとの協働により、各地に産業クラスターを戦略的に形成していきます。加えて、魅力ある地域資源を活かした地場産業の成長を支援します。」とし、従来型の地方創生を引き継ぎながらも、それに加えて国が主導する経済活性化を志向する姿勢を鮮明にしている。
 また、追加された部分の大きな特徴は3つの産業クラスター形成に良く表れている(図表2)。今回追加された戦略産業クラスター計画と地域産業クラスター計画は、従来型の地場産業成長プランとの違いが際立っているからだ。特に注目されるのはそれらを誰が主導するのかである。地方創生2.0でも市町村の枠を超えた連携が記されていたが、地域未来戦略で追加された戦略産業クラスター計画、地域産業クラスター計画では、より一層踏み込んで、国や都道府県知事の主導での経済活性化が目指されている。従来型の地方創生がどちらかといえば市町村のボトムアップ型であったこととかなり違っている。

≪図表2≫地域未来戦略における産業クラスター

(出典)「地域未来戦略」(概要)(2026年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

3.地方創生における、地域経済の中心都市の存在感の高まり

地域未来戦略のもう一つの特徴は地域経済の中心都市の存在感の高まりである。これまでの地方創生ではどちらかといえば人口規模の小さな自治体でも取り組むことができるものが目立ったが、すでに計画が公表されている戦略産業クラスター計画と地域産業クラスター計画では、多くの地域経済の中心都市が名を連ねているからだ。
 例えば、戦略産業クラスター計画は2026年9月8日現在13あり、そのうち北海道は3つあるが、札幌市は「フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担う半導体戦略産業クラスター計画」と「ロケット・射場戦略産業クラスター計画」の2つに登場している。札幌市は市町村別人口で第4位と日本を代表する大都市であるが、北海道に占める人口割合が約4割と、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の日本全体の占める人口割合(約3割)を上回っており(図表3)、北海道における札幌市はまさに札幌一極集中である。これまでの地方創生の文脈でいえば、札幌市以外の北海道の市町村にとって札幌市への人口流出は大きな懸念材料であるが、札幌市を含む様々な自治体が連携して戦略産業クラスターを成功させることも重要ということが今回の地域未来戦略の特徴であろう。
 このように、大型投資を必要とする成長分野のクラスターでは、理系、特にデジタルを中心とした高等教育機関が排出する人材とその人材が雇用されている企業や団体が必要不可欠であるが、そのような高等教育機関、企業、団体は地域経済の中心都市に集中している。そのため、これまでの地方創生以上に地域経済の中心都市が脚光を浴びつつあるのは間違いない。

≪図表3≫北海道における札幌市の人口割合と、日本全体における東京圏の人口割合

(注)2025年は速報値。

(出典)総務省統計局「国勢調査報告」(各年版)、同「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」(2025年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

3.東京一極集中是正の行方

石破政権の地方創生2.0は地方創生1.0を見直し、東京一極集中是正は必要としつつ、人口減少下の地方(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県以外)の経済の成長を目指した。高市政権はそれに加え、国の成長戦略に寄り添う形で地方の経済成長をより重視している。
 一方、地域未来戦略は地方創生2.0の多くを引継ぎつつも、東京一極集中の是正にあまりこだわっていないことが大きな特徴である。焦点の一つであった東京一極集中の是正関連では、KPI(重要業績評価指標)として「東京圏から地方への移住者数:10,000 人(2027 年度)」に留まっており、地方創生開始当時の東京圏の転入超過数ゼロと比べるとかなりマイルドな目標となっているのがその証左といえよう。
地方創生のこれまでを考えると、人口移動に直接影響を与えるような政策はそもそも難しい。例えば、地方創生2.0で大きく注目を浴びたアンコンシャス・バイアスの是正は、女性や若者のやりがいに直結し、人口移動に影響を与える可能性が高いが、すぐに成果が出るものでない。これらには地道に取り組みながらも、5年計画で成果が得られやすい範囲にKPIの設定はとどめているといえる。
 今後注視すべきは、地方創生開始以来、連綿と引き継がれている東京一極集中是正の行方である。今回考察したように、地域未来戦略はこれまでの地方創生の土台にたつものとされながら、東京一極集中是正に関するワードは目立たなくなり、東京圏の転出入均衡に関するKPIが地方創生の代表的なものでなくなっている。そもそも「強い経済」を目指す日本成長戦略は、東京圏を含めた経済成長を目指すものともいえよう。
 東京一極集中是正を巡る東京対地方の対立は、長年続いていることから明らかなように、妥協点や一致点を見出すのが難しい。地域未来戦略のように、短期での実現が困難な東京一極集中是正にこだわらず、あくまで長期の目標にとどめる方が望ましい。そのうえで、東京と地方は対立でなく連携を目指す必要がある。例えば、高市政権の成長戦略では前述のように多額の投資額に見合った高度人材確保に課題が残ることを考え合わせると、リモートワークを駆使した副業・兼業のより一層の推進などにより、人口減少下であっても東京と地方の人材のシェアにより力点が置かれるべきであろう。地域未来戦略でも「都市と地方の共生の実現」という項目が挙げられており、その成果に大いに期待したい。

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