シティ・モビリティ

中国の自動運転タクシーの実情に迫る/北京レポート(1)
~安全配慮で運行エリア制限、今後はインフラ協調でエリア拡大へ~

上級研究員 新添 麻衣

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※2025年1月30日追記/続編の北京レポート(2)を発行しました。撮影した動画も掲載しています⇒【リンク】

米国と並んで、車内にドライバーのいないレベル4の自動運転タクシーが走り始めている国が中国である。
 昨年11月末に日本からの渡航ビザが免除となり※1、現地訪問のハードルも下がった※2。今回は首都・北京での取材を通じて自動運転タクシーの運行実態に迫る。

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<1.各都市の運行可能エリアは限定的>
 国策としてAI・自動運転産業を振興してきた中国では、「一線都市」に分類される北京、上海、広州、深圳、その次に位置する重慶、武漢、蘇州などの「新一線都市」において、自動運転タクシーやバス、自動配送ロボットの実証が進んでいる。

米国では、既にサンフランシスコやフェニックスなどの市全域が自動運転タクシーの走行エリアとして認められている。一方、中国では制約があり、各都市の一部区域のみがパイロットエリアに指定され、走行が認められている状況である。

  【WeRideの自動運転タクシー/筆者撮影】

北京の場合には、E-Town(北京亦庄、北京市委经济技术开发区)と呼ばれるエリアがその中心地である。E-Townは1991年に建設が決まった工業団地だが、現在は自動運転を含む様々な先端技術関連の企業を誘致し、技術実証のパイロットエリアとして機能している。したがって、歴史ある中心市街地の雑踏の中を走行しているわけではなく、比較的新しく整備されたエリアを走行していることになる。それでも、中国国内では、北京を走る自動運転車の台数が最多、かつ、累計走行距離で最長を記録している※3

 【北京・広州の運行エリア/WeRideの場合】
     ※濃い水色が運行可能エリア

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<2.中国のレベル4発展の経緯 ~商用運行の転機は2022年8月、安全重視の政府ガイドライン~>
 中国全土で見ると、2018年に公表された「インテリジェント・コネクテッド・ビークルの路上試験管理規則(試行版)(智能网联汽车道路测试与示范应用管理规范(试行))」以降、自動運転の路上試験、実証等に関わる規則が整備されてきた。

レベル4の実現に向けた転機は2022年8月8日にあった。
 この日、中央人民政府の交通運輸部は「自動運転車両輸送安全サービスガイドライン(試行版)(自动驾驶汽车运输安全服务指南(试行))」の素案を公表し、パブコメ募集を開始した※4。パブコメの募集開始という日ではあったが、中央人民政府の姿勢を受けて、同日から重慶と武漢の地方人民政府がBaiduの自動運転タクシーに対し、市内のパイロットエリアを対象にレベル4の商用運行を認可した※5。このように、中国では中央人民政府が政策や方針を示すものの、実際の走行認可については各地の地方人民政府の判断に委ねられている。

交通運輸部のガイドラインは、2023年12月に正式に発効した※6。このガイドラインは、自動運転レベル3以上のバス・タクシーなどの移動サービスまたは物流・配送サービスを想定したもので、マイカーは対象外となっている。そのため、車両メーカーやサービスに関わる事業者に対し、安全に配慮した業務運営を求めている。具体的には、従業員の教育の実施や緊急時対応の体制を整えること、事故・故障時には所定のデータを保存すること、自動車の強制保険へ漏れなく加入することなど、遵守すべき事項が網羅的にまとめられている。

注目すべきは、車両の遠隔監視に関する規定である。レベル4になると車内にドライバーは不要となるが、完全に人の目がなくなるわけではない。ガイドラインでは、バスの場合には車内に保安要員を同乗させることが求めている。一方、タクシーの場合には、車内に保安要員を同乗させるか、遠隔地からリアルタイムで運行状況や車内の状況を見守る係員を置くことにより、車内を無人とすることが認められている。遠隔監視可能な台数は、「係員1人につき3台まで」と明記されている。米国や日本では、バス・タクシーの種別を問わず、レベル4では遠隔監視が認められているが、中国では車両が大きく輸送人員の多いバスに、より慎重な姿勢を示している。

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<3.慎重なレベル4の裏で、レベル2+の開発加速でソフトウェアを鍛える中国>
 中国では、マイカー向けの乗用車に搭載可能な「レベル2+」と表現される高度な安全運転支援システムの開発が、レベル4の開発と並行して活況となっている。レベル2+は、運転席に人間のドライバーがおり、自動運転ソフトウェアはあくまでもドライバーの安全運転を支援する機能として搭載されている。テスラのオートパイロット機能などと同様、人間の責任によって運転される車という前提があるからこそ、マイカーとして運行可能なエリアに制約はない。

レベル4と2+の双方の開発が活況になっている背景には、レベル4への規制の厳しさがあると考えられる。パイロットエリアに制約の多いレベル4の運行では、エリア内でのユーザーの移動ニーズが限られるため、投入すべき車両台数が限られる。一方で、レベル2+は、最大ボリュームのマイカー市場で販売・実装が可能なソリューションであり、利用可能なエリアに制限がない。高速道路でも、中心市街地でも、走行データを取得し、自社のAIを鍛錬することが可能になる。実際に、自動運転タクシーを開発するIT大手のBaidu、またWeRide、Pony.ai、Momentaなどのスタートアップ企業も、レベル4の複数車種の開発と並行して、レベル2+向けのソフトウェアの開発にも注力している。

したがって、現状ではあくまでも規制上の問題として、レベル4の運行エリアが制限されているが、このことが中国勢の技術力を示しているものではないと見るべきだろう。

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<4.今後はインフラ協調型で運行エリア拡大へ ~北京市は2025年4月から新条例を施行~>
 自動運転を次のステップへ進めるため、2024年12月末、北京市は「北京市自動運転車条例(北京市自动驾驶汽车条例)」を公表した※7。施行日は2025年4月1日となっている。条例ではあるが、地方人民政府の関係部局が自動運転車の社会実装などのスマートシティの実現を後押しした内容となっており、バスやタクシー、トラックなどの商用車だけでなく、マイカーも対象車種に含めている点が注目される。

北京市は、今後の運行エリア拡大に向けて、市内では「5駅2空港(五站两场)」構想を掲げている。5駅とは鉄道網のハブとなる北京南駅、朝陽駅、豊台駅、清河駅、北京市副中心駅を指し、2空港は北京大興国際空港と北京首都国際空港で、これらの交通拠点を結ぶ幹線道路に自動運転のパイロットゾーンを拡大していく計画である※8。市外では、隣接する河北省、天津市と連携し、高速道路での自動運転の開発促進にも取り組む。

  【5駅2空港/出典:GoogleMapに補記】

こうした拡大構想を実現するために必要とされるのが、いわゆるV2X(Vehicle-to- Everything、自動車と他物との通信によるデータ連携のこと)である。中国は、特に道路インフラの整備によるV2I(Vehicle-to-Infrastructure、自動車とインフラの連携)の実装に注力している。 具体的には、道路脇のポールや信号機などに通信機器やカメラ、レーダーなどのセンサー類を設置し、路上の信号情報や標識の情報、周囲の他車や歩行者の動向などを自動運転車に対して通知し、自動運転システムが速度や進路を決定するための付加情報とする。

北京市では、以下の5つを自動運転社会実現の主要要素と考え※3
V2I対応道路の整備計画の策定と建設を段階的に進めている:
 ①    スマートな車
 ②    スマートな道路
 ③    リアルタイムクラウド
 ④    信頼性の高いネットワーク
 ⑤    正確な高精度地図

このように、インフラ協調型で運行エリアを拡大し、徐々に市内の交通拠点をカバーしていくことで、移動・輸送手段としての自動運転車の実用性を高めていく計画となっている。北京における今後の段階的な自動運転の展開方針からは、車線が少なく、歩行者や自転車等との交錯が多い日本の過密な都市部での自動運転の社会実装の進め方に示唆が得られそうだ。

   【V2I対応の試験走行ルート/筆者撮影】

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 次号(2)では、北京のE-townで乗り比べたBaidu、WeRide、Pony.aiの自動運転タクシーについて報告したい。日本からの出張者・観光客でも乗車が可能な、各社のアプリの使い方なども案内する。
⇒【クリック】北京レポート(2)~動画も掲載/Baidu、WeRide、Pony.ai乗り比べ~

        【北京 E-townを走る自動運転タクシー(Baidu)とバス/筆者撮影】

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※1 中華人民共和国駐日本国大使館ウェブサイト「ビザ免除措置対象国の範囲拡大に関するお知らせ」2024年11月22日
※2 北京经济技术开发区ウェブサイト「北京经济技术开发区介绍」
※3 北京经济技术开发区「自动驾驶嘉年华展现未来智慧生活图景」、2024年10月18日。この時点で、北京では870台の自動運転車やロボットが走行し、その累計走行距離は3,200万kmにのぼる。
※4 交通运输部运输服务司「关于《自动驾驶汽车运输安全服务指南(试行)》(征求意见稿)公开征求意见的通知」、2022年8月8日
※5 重慶市人民政府「全国首个全车无人化示范运营资格在永川发放 百度无人驾驶车正式上路运营」、2022年8月8日、および武漢市人民政府「全国首批无人化示范运营资格发放 真正的无人驾驶车在武汉上路」、2022年8月9日
※6 交通运输部办公厅「交通运输部办公厅关于印发《自动驾驶汽车运输安全服务指南(试行)》的通知」、2023年11月21日
※7 北京市第十六届人民代表大会常务委员会第十四次会「北京市自动驾驶汽车条例」、2024年12月31日
※8 北京日報「“五站两场”将开启自动驾驶接驳」、2024年3月5日

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