ワーク・エコノミックグロース

健康経営へのスポーツ活用の動向
~「スポーツエールカンパニー2025」認定件数過去最多を記録~

上級研究員 大島 由佳

1. 「健康経営」と「スポーツエールカンパニー」

企業が従業員の健康管理を経営戦略として実践する「健康経営」が言われて久しい。健康経営優良法人の認定件数は増加基調にある1

同様に認定件数が増加しているのが、スポーツを通して従業員の健康増進を積極的に行う企業をスポーツ庁が認定する「スポーツエールカンパニー」である。2025年1月31日に公表された「スポーツエールカンパニー2025」には過去最多の1,491社が認定された2

「スポーツエールカンパニー」の認定取得については、健康経営優良法人の認定取得のために提出が必要な調査書や申請書の中にも記載がみられる。従業員の健康づくりのために行っている健康保持・増進の施策として、保健指導、食生活の改善、長時間労働者への対応、メンタルヘルス不調者への対応、女性の健康保持・増進に向けた各取組みと並んで、運動機会の増進に向けた取組みの実施有無を問う設問がある。当該設問に対して健康経営優良法人の認定基準を満たす施策の1つとして、「スポーツエールカンパニー」の認定取得が挙げられている3

2. 従業員のスポーツ機会の増加を国が後押しする背景

企業による従業員のスポーツ・運動(以下「スポーツ」)機会の増加を国が後押しする背景には、20~50代のスポーツ習慣が低い現状がある。2016年度にスポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、20歳以上の週1回以上のスポーツ実施率は42.5%で、20代~40代は30%台と全体の平均よりも低いという結果だった4。仕事や家事・育児によりスポーツをする時間がないことを理由に挙げる人が多かったことから、健康的なライフスタイルの定着には、一日の大半を過ごす職場でのスポーツに親しむきっかけづくりが重要だとして、2017年度、「スポーツエールカンパニー」の認定制度が創設された5

2023年度の同世論調査では、20歳以上で見ると、週1日以上のスポーツ実施率は52%で2016年度に比べると上昇しているが、20代~50代で引き続き低い傾向にある。性別で見るとそれらの年代では男性の方が女性よりもスポーツ実施率が高い《図表2》6

スポーツの実施頻度が減った/増やせない理由は、「仕事や家事が忙しいから」が37.2%と最も多く、「面倒くさいから」が27.4%と続いていて、過年度の世論調査と同じ傾向にある。また、「現在運動・スポーツはしておらず今後もするつもりはない」と答えた無関心層の割合は17.6%だった7

別の調査では、スポーツへの意欲がなく実施頻度が月に1日(回)以下の人に対して、どのような特徴を持つスポーツがあったとしたらやってみようと思うかを質問したところ、「好きな時にできて、好きな時にやめられる」「運動能力は関係ない」「新たな道具・ウェアがいらない」「ルールが簡単」「誰からも怒られない、馬鹿にされない」「失敗しても笑って楽しめる」という特徴については、やってみようと思うとの回答がそれぞれ50%を上回る結果だった《図表3》8

これらの調査結果から、職場でのスポーツ機会を幅広い人々に対して増やすにあたっては、得意不得意によらず誰もが楽しめ、いつやめてもいいといった気軽さがあるスポーツにするという視点が重要と考えられる。

3. 従業員のスポーツ機会を増やす取組みで期待される効果

「スポーツエールカンパニー2024」の認定企業に対するアンケートでは、取組みの社内向けの目的として、「従業員の体力の維持・向上のため」「従業員のメンタルヘルスの維持・向上のため」のほか、「従業員同士のコミュニケーション活性化のため」や「風通しのよい職場の風土づくりのため」も上位に挙がった9

実際、「スポーツエールカンパニー2025」の認定企業に対するアンケートでは、「スポーツエールカンパニー」への取組みの効果として、「従業員が自分の身体を意識するようになった」「健康を意識するようになった」に次いで、「職場のコミュニケーションがよくなった」という回答が挙がった。「業務の効率があがった」「企業のイメージが上がった」という回答が続く《図表4》10

4. 企業はまずスモールステップから取組みを

規模や事業内容などにより、スポーツの実施機会などの従業員の健康増進のための取組みをする人手や資金などが十分にないという企業もあるだろう。また、スポーツへの苦手意識を持つ従業員もいると思われる。前掲2.の「得意不得意によらず誰もが楽しめ、いつやめてもいいといった気軽さがあるスポーツにする」という視点と、前掲3.での「職場のコミュニケーションがよくなった」という効果を合わせて考えると、職場のメンバー同士が楽しくコミュニケーションをとる機会が気付けば軽く体を動かす時間にもなっていたというような取組みから始めるのは一法と考えられる。過年度のスポーツエールカンパニーの取組事例も参考になるだろう11。また、近年日本で注目されている動きとして、年齢・性別・運動神経に関わらず楽しめる新しいスポーツを「ゆるスポーツ」と名付けてその種目を考案して楽しむというのがある12。企業内で従業員同士で自社独自の誰もが気軽に楽しめるスポーツを創造するという方法も考えられる。なお、スポーツには一人で取り組みたい、スポーツはしたくない、事情があってできないというように、いろいろな人がいる。様々な人への目配りも欠かせない。

企業による従業員のスポーツ実施のきっかけづくりを通じて、働く人々の心身の健康や、職場でのコミュニケーションの活性化、ひいては企業イメージの向上など、個人にも企業にもプラスを生む動きが今後広がることが期待される。

※ 脚注に掲載している資料はいずれも2025年2月6日時点で公開されている内容を参照しています。

TOPへ戻る