シティ・モビリティ

宅配便の駐車場所確保へ
~共同住宅に荷捌き駐車場設置が義務化~

上級研究員 水上 義宣

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近年の電子商取引(EC)の伸びから、宅配便の取扱個数とともに、主に宅配に使用されている営業用貨物軽四輪自動車の保有台数が増加基調である≪図表1≫。また、配達先の一つとなるタワーマンションでは、オートロックが複数あったり、エレベーターの待ち時間が長くなったりする等、配達に30分以上を要する事例がある1。こうした状況から、共同住宅への貨物車両の駐車需要が増加している。

≪図表1≫宅配便取扱個数と営業用貨物軽四輪自動車保有台数の推移

自治体は駐車場法に基づき駐車場条例を制定し、建築物やその敷地に対して駐車場の附置義務を課すことができる。しかし、従来の駐車場法は主に商業施設や事務所等を想定しており、駐車需要を発生させる用途と指定される「特定用途」に共同住宅は入っていなかった。このため、共同住宅に駐車場附置義務を制定していない自治体が77.9%となっており、共同住宅において宅配便等の荷捌き駐車場の確保が課題となっている≪図表2≫。

≪図表2≫共同住宅への駐車場附置義務条例等の有無

国はこの問題を解決するため、2025年3月28日に標準駐車場条例を改正し、共同住宅も駐車場附置義務の対象となることを明確化した。さらに、2026年4月1日に駐車場法施行令を改正し、共同住宅を特定用途に指定する予定だ。これによって、自治体に共同住宅への荷捌き駐車場の設置を定めた駐車場条例の制定を促す。

しかし、駐車場条例の附置義務による荷捌き駐車場の整備には課題もある。

まず、駐車場条例は新築や増築をする場合を対象としており、既存の共同住宅では駐車場の増設は義務付けられない。

次に、駐車場管理の問題がある。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると2023年度に発生したマンション居住者間の行為、マナーをめぐるトラブルのうち、違法駐車は18.2%で2位となっている。荷捌き駐車場が設置されていても、運送会社に認知されづらい場所にある、来客等の他の用途に活用されてしまい空いていない、違法駐車を防止するために閉鎖されるといったことが起きれば、荷捌き車両の不適切な駐車が減らせない。近年はナンバープレートをカメラで読み取ることでロック板等を設置しないコインパーキングも登場しているが、共同住宅の駐車場管理にもナンバープレートや車種等を自動で判別し、適切な駐車か判別する技術の活用が考えられる。自治体も、単に荷捌き駐車場が設置されたかだけではなく、適切に運用、管理されているか継続的に確認していくことが必要だ。

最後に、配達に係る時間や再配達を削減し、駐車需要そのものを減らすことも重要だ。国土交通省の「標準駐車場条例の改正に関する技術的助言」では、共同配送に取り組むことや、オートロック等のセキュリティ設備等がボトルネックになり住宅内の配達時間を伸ばすことが無いよう考慮することを述べている。また、技術的助言では触れられていないが、宅配ボックスの増設や、将来的には共同住宅内での配送ロボットの活用等も駐車時間の削減に有用だろう。

以上のとおり、標準駐車場条例の改正によって、共同住宅における荷捌き駐車場の必要性が明確になるものの、需要の伸びに対して既存の住宅を含めて適切な駐車場所を確保し、運用、管理することは容易ではない。効率的な配送方法の検討による駐車需要の削減や、駐車場所の適切な選定、管理、運送会社への周知等も含め、運送会社との協働が重要になる。自治体も、住宅開発会社、管理会社等と運送会社の協議の推進や、駐車場の管理状況の継続的な確認等によって、共同住宅における適切な荷捌き駐車場確保を後押しすることが望まれる。

  • 国土交通省・農林水産省・経済産業省(2022年12月13日)「第4回 持続可能な物流の実現に向けた検討会 資料1-3 佐川急便株式会社発表資料」p.10

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