シティ・モビリティ

自動運転タクシーWaymoの車両が東京に到着
~意外と人手のかかる自動運転のオペレーション、裏側を支える拠点整備も進む~

上級研究員 新添 麻衣

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 ※海外の自動運転タクシー(ロボットタクシー)の開発動向について、随時情報発信しています。
  Waymoについては、アプリの使い方・走行の特徴、ロサンゼルスでの走行動画なども掲載しています。
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4月10日、Waymo、タクシー大手の日本交通、配車アプリのGO、そしてJR東日本は、東京での実証実験を始めるにあたり報道関係者向けに車両を公開しました※1。実は、数日前から、ビジネスSNSのLinkedInの海外のユーザーのあいだで「Waymoの車両が日本に到着したらしい」と話題になっていました。お披露目の場には、3月27日にオープンしたばかりの高輪ゲートウェイシティ(港区、JR東日本運営)が選ばれました。

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1.車庫発見?~都内7区をカバーするには、充電など車両メンテナンスの拠点整備も必要~

SNSの情報をもとに港区内を散策してみると、Waymoの車庫となりそうな敷地を発見。

以前はカーシェアリングのポートとして稼働していた駐車場で、2台のチャージャーと8台のジャガー「I-PACE」と思しき車両がありました(ある鉄道路線の窓から見えます)。さほど広い敷地ではないことと、1ヶ月半の短い工期で1階建ての建物が建設されるとありますので、ここは清掃や充電が中心の拠点でしょうか。

WaymoはGoogleの自動運転部門が独立したテクノロジー企業です。したがって、清掃や充電のほか、より専門的な車両管理、修理・整備を行う人員や設備は有していません。Waymoは米国の各都市で、こうした業務はパートナー企業に委託しています。

東京では、この役割をタクシー会社大手の日本交通が担います。 日本交通は、都内に複数の整備工場を保有しており、近隣では品川工場、新木場工場などがあります※2。車両の修理や整備については、工場に所属する整備士たちに自動運転対応の特定整備の資格を取らせるものと見られます。

日本交通とWaymoは、乗客を乗せた運行は当面行いません。 まずは、自動運転システムが使う東京の高精度3Dマップを作るために、日本交通の乗務員が乗り込み、I-PACEに設置されるLiDAR、レーダー、カメラなどの車載センサーによるデータ取集を始めます。港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の7区が走行予定地に挙がっていますので、今回見つけたような充電のための小拠点をいくつか整備していく必要があるのでしょう。

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2.米国でのオペレーションの裏側 ~Waymoが充電待ちする車庫にお邪魔しました~

Waymoは環境負荷の軽減を謳い、ベース車両にはBEV(バッテリー式の電気自動車)しか採用していません。 そのため、稼働エリアが拡大し、それにつれて稼働台数も増えてくると、車両の充電がネックになってきます。

Waymoの車庫と思しき場所

※画像は筆者撮影

ここで、サンフランシスコのWaymoの車庫(Depot)の様子を少しだけお見せします。

Waymoの車両は、バッテリー残量が少なくなってくると、充電のために続々と車庫に戻ってきます。非接触充電は採用されておらず、人間の係員が1台ずつチャージャーを挿して充電しなければなりません。画像の状況では、30台以上のチャージャーが充電中の車ですべて埋まり、さらにチャージャーが空くのを待っている車両も複数いました。こうした背景から、I-PACEよりバッテリーの“電費”の良い次世代車の1つとして、現代自動車「IONIQ5」の採用が決まっています。

画像の左手で充電を担当している係員の背中には「Transdev」のロゴが見えます。

Transdevは、フランスの大手交通オペレーター企業の1社で、欧州を中心に国内外でバスや路面電車などの地域交通の運行管理を行っています。アメリカ法人にあたるTransdev North Americaは、Waymoが車内有人で実証実験を行っていた時代から、サンフランシスコでの車両の運行管理を請け負ってきました。

念のために申し上げますと、筆者は車庫に不法侵入をしたわけではなく、Waymoに乗って目的地へ向かおうとしたところ、車庫を通過するルートが設定されてしまったのです。路上でUターンをするのではなく、Waymoが車庫の中をぐるりと回って進路を変える選択をしたようでした。なお、秘匿性の高い車両整備は建物内で行われていると見られ、屋外での作業は清掃や充電が中心でした。

Waymoの車庫、たくさんの車両が充電待ちをしている
Waymoの車庫、落とし物や忘れ物の対応も必要

※画像はサンフランシスコにて筆者撮影

この車庫は、落とし物等の返却窓口も兼ねています。Waymoの場合は、こうした車庫兼顧客対応窓口となる施設が各営業都市に設置されています。路上を無人で走行できるようになっても、行き届いたタクシーサービスのオペレーションの裏ではまだまだ人手が必要です。だからこそ、初の海外進出である東京では、サービス基盤を有した日本交通というパートナー企業が必要だったのでしょう。

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3.高度な車両整備から落とし物の対応まで ~オペレーションに欠かせないパートナーシップと人手~

筆者が把握している限り、Waymoの米日における委託関係を主なフェーズごとに分解すると、下表のとおりになります。

Waymoのライバル企業だったGM Cruiseは(2024年12月事業停止を発表)、M&Aの実施も含め、自動運転タクシー事業のあらゆるオペレーションをGMグループで内製化しようとしていました。一方、Waymoの場合は、当初から自社に強みの無いオペレーションについては、外部委託を行うことに躊躇がありません。

Waymoの米国・日本におけるビジネスモデル(委託関係)

(出典)各社のプレスリリース、Webサイトを基に筆者作成

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4.おわりに ~JR東日本の役割は?~

乗客を運ぶまでには、これから様々な段階を乗り越えなくてはなりませんが、Waymoの車両が無事に東京に届き、最初の走行が始まろうとしていることが確認できました。

さて、東京におけるWaymoのタクシー事業のパートナーは、現状では日本交通と配車アプリのGOのみです。車両のお披露目に登場したJR東日本も協力姿勢を示していましたが、どのような役割でかかわっていくのでしょうか。 高輪ゲートウェイシティは、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプト※3に掲げています。ロボットなどの先端技術の利活用の実証の場として機能しようとしている点では、今後、Waymoの自動運転タクシーとのイベントや乗降場の設置などが考えられるでしょう。

また、ゲートウェイシティから湾岸に向けたエリアは、タワーマンションの建設が今まさに進んでおり、新しいまちが作られているエリアです。広々とした歩道や自転車道が整備された通りも増え、今回発見した車庫もそのエリアにあります。歩車分離が進んでいること、子育て世代が増えていくことを踏まえると、いずれは乗客を乗せて走るであろう自動運転タクシーにとって、同地は物理的に走りやすく、潜在ユーザーが多い実験適地と言えそうです。東京でのWaymoの走りだしを楽しみに、車庫が完成したら、また現地に足を運んでみようと思います。

※画像は筆者撮影

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※1 日本経済新聞「米ウェイモ、自動運転向けにデータ収集 車両を公開」、 Impress Watch「東京で自動運転タクシー実現へ Waymoと日本交通、GOが車両テスト開始」、2025年4年10日 ほか
※2 https://www.nihon-kotsu.co.jp/about/office/factory/
※3 東日本旅客鉄道株式会社「TAKANAWA GATEWAY CITY ―100年先の心豊かなくらしのための実験場― 2025年3月27日 いよいよまちびらき」、2024年 10月 30日

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