ディーラー保護法の強い米国、EVの直販に障壁
/提訴されたソニー・ホンダやVW、テスラも苦肉の策で対処
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今年1月から米国市場で受注を開始しているソニー・ホンダモビリティの初号機AFEELAは、Web上で注文を受けつけ、予約時に購入者に頭金200ドルを請求している※1。 この直販モデルを、CNCDA(カリフォルニア州新車ディーラー協会)が州法違反で提訴した ※2。ロサンゼルス郡上級裁判所に提訴されたのは、アメリカン・ホンダ・モーター、ソニー・ホンダモビリティ、ソニー・ホンダモビリティ・オブ・アメリカの3社で、CNCDAはWeb直販の即時停止を求めている。
予想された事態ではあった。CNCDAは今年4月には、フォルクスワーゲン(VW)と傘下のScout Motorsに対しても、同様の訴訟を起こしている。Scout Motors は、2022年にVWが立ち上げた子会社で、米国市場向けにピックアップトラックやオフロード車のEVを生産するためのブランドである※3。

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1.州法による手厚いディーラー保護 ~自動車メーカーのビジネスモデル転換の障壁に~
20世紀初頭にフォードが量産に成功し、その販売網として広大な全米にフランチャイズディーラーが広まった経緯から、米国では歴史的にディーラービジネスの保護が手厚い。多くの州で、新車販売事業を行うためには州法に基づく販売免許を取得する必要があり、実質的にディーラーを介してのみ販売が認められている※4。
この各州の規制が、EV化を転機に、自動車メーカーが移行を模索している直販とリカーリングビジネスの障壁となっている。 メーカーが新たなビジネスモデルへの移行する理由の1つは、インターネットの普及によるオンラインショッピングの浸透や個別化された商品を望む消費者の嗜好を汲み取ることである。より切実な理由としては、部品の中でバッテリーの調達価格が高いウェイトを占めるEVは、従来の内燃機関車に比べて利益率が低いことが挙げられる。そのため、EVの販売では直販によるマージンの削減や販売後のリカーリングビジネスによる新たな収益源が必要となる。
このビジネスモデルを先行して実践してきたのがテスラである。テスラの台頭を受け、一部の州ではテスラに限定して、あるいはEV・FCEVを販売するメーカーに限定して直販を認めるような州法改正が2010年代後半から行われてきた※5。しかし、多様な車種・ブランドを擁し、同時に多くのフランチャイズディーラーを抱える大手自動車メーカーはそこから漏れている。
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2.カリフォルニア州での争点は?
カリフォルニア州では、2023年に制定されたたAB 473という州法がある。この州法はディーラーを保護するために、以下のビジネスを禁じている※6:
■自動車メーカーが、系列ブランドを利用して、自社のフランチャイズディーラーと競合するようなビジネスを展開すること。
これをソニー・ホンダやScout Motorsの件に当てはめると以下のようになる:
■ホンダが、系列のソニー・ホンダというブランドを利用して、ホンダとフランチャイズ契約を結ぶ既存ディーラーのビジネスを妨げている。
■VWが、傘下のScout Motorsというブランドを利用して、VWとフランチャイズ契約を結ぶ既存ディーラーのビジネスを妨げている。
こう読み解いてみると、この規制は、テスラに対しては空振りになることが分かる。新興メーカーのテスラには、そもそも「既存のフランチャイズディーラー」が存在しない。また、州独自のZEV規制を制定し、強力な脱炭素政策を展開してきたカリフォルニア州はテスラにとっては相性の良い相手であった。
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3.規制の厳しい州ではテスラも苦肉の策
依然、自動車メーカーによる直販を禁じている州もあれば、直販が認められている場合でも出店できる店舗数に制約があるなど、州ごとに販売規制の内容が異なる。そのため、先駆者であるテスラも苦肉の策で対処している州が多々ある。具体的には以下の3つの手法で、対応2・3については法の抜け道を模索したものと言える※7:
■対応1:リース契約にする※8
■対応2:州外取引だったことにする
テスラの新車の受注手続きはオンラインで完結する。そこで、直販を禁じられているA州の顧客からの注文については、直販の許可が得られているB州やC州での販売契約だったということにし、車両もB州やC州からA州に届ける。
■対応3:州内の自治区に出店する
多くの州には、ネイティブアメリカンを保護するための自治区があり、そのエリアには州法の直販禁止規制が及ばない。このエリアに出店することで、テスラは直販が可能になり、店舗スタッフも価格やデザイン、納車方法等について顧客に案内をすることが可能になる。

テスラは2021年にカリフォルニア州からテキサス州に本社と工場を移転しているが※9、テキサス州は直販を禁じている州である。工場移転によるテキサス州への経済効果、雇用の創出を交渉材料に、テスラは州法改正を訴えてきたが、アボット知事は既存のディーラー保護を維持したい立場である※10。そのため、テキサス州でテスラ車を購入希望のユーザーは、購入を諦めてリース契約にするか、たとえ州内のギガファクトリーで生産された車であっても、州外取引だったことにして別の州から車両を入手する必要がある※11。
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4.おわりに
フランチャイズディーラーの保護規制は、米国において繰り返し議論になっている。連邦司法省の反トラスト局は、Dellのパソコン販売を例に、各州のディーラー保護規制が消費者の嗜好の変化などに照らして時代錯誤に陥っていることを2009年の時点で指摘している ※12 。そして、この規制が撤廃されたほうが自動車メーカー間の健全な競争が促され、最終的には消費者も恩恵を受けることができると結論付けている※13。
しかし、そこは合衆国であり、各州の規制は各州政府の判断に委ねられている。ディーラー協会側、自動車メーカー側、双方のロビー活動合戦や裁判所での争いを通じて、州ごとに様々な結論を迎えそうである。
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※1 ソニー・ホンダモビリティ「ソニー・ホンダモビリティ、CES® 2025で「AFEELA 1」を発表- オンライン予約受付を米国カリフォルニア州にて本日より開始 –」、2025年1月6日
※2 CNCDA “CNCDA Files Lawsuit Against Sony Honda for Violation of California Franchise Laws”, August 11, 2025”
※3 Scoutは、20世紀半ばに米国に存在した自動車のブランド名で、VWはこの名称を復活させた。
※4 NCSL “State Laws on Direct-Sales”, August, 2021
※5 同上
※6 脚注2に同じ
※7 TESLARATI “Tesla, Rivian still face complicated direct sales laws across U.S. states”, November 24, 2024
※8 Teslaウェブサイトによれば、以下の州・特別区で、リース契約を選択可能である(2025年8月25日現在)⇒AK, AL, AZ, CA, CO, CT, DC, DE, FL, GA, HI, IA, ID, IL, IN, KS, KY, LA, MA, MD, ME, MI, MN, MO, MS, MT, NC, ND, NH, NJ, NM, NV, NY, OH, OR, PA, RI, SC, SD, TN, TX, UT, VA, VT, WA, WV, WY.
※9 Reuters ”Tesla moving headquarters to Texas from California”, October 9, 2021
※10 The Drive “Tesla Will Have to Ship Its Texas-Built Cars Out of State to Sell Back to Residents”, May 27, 2021
※11 同上
※12 Gerald R. Bodisch “Economic Effects Of State Bans On Direct Manufacturer Sales To Car Buyers”, EAG 09-1 CA ,May 2009
※13 同上