続々・大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?
~6月以降がやや期待外れで、関係者を除く目標達成は「黄色信号」~
・「Topics Plus:大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~地元在住者による後半の大きな伸びが鍵~」(2025年4月15日公開)は【こちらをクリック】
・「Topics Plus:「並ばない万博」の不都合な真実~人気の企業パビリオンの予約には不満一杯~」(2025年6月6日公開)は【こちらをクリック】
・「Topics Plus:目立つ海外パビリオンの存在感~「行列上等!」とコト消費への対応で来場者を魅了~」(2025年6月6日公開)は【こちらをクリック】
・「Topics Plus:続・大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~可能なれど、目標達成を確実とするためには「夜間券」が鍵~」(2025年6月6日公開)は【こちらをクリック】
1.閉幕まで2か月を切った大阪・関西万博の現況から考察する
大阪・関西万博は、2025年4月13日の開幕前から紆余曲折を経ながらもついに閉幕まで2か月を切り、ラストスパートの様相である。後述するように、入場券の発売数では運営経費を賄うことができるラインに到達したとされるいま、入場者数が目標に達するのかどうかは最大の関心事といえよう。
そこで本稿では、大阪・関西万博の入場者数が目標に達するのかについて改めて考察したい。筆者は開幕直前の状況を踏まえて「Topics Plus:大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~地元在住者による後半の大きな伸びが鍵~」(2025年4月15日公開)、「Topics Plus:続・大阪・関西万博の入場者数は目標達成できるのか?~可能なれど、目標達成を確実とするためには「夜間券」が鍵~」(2025年6月6日公開)を記しているが、本稿はその後の動向を踏まえた改訂版となる。
2.入場券の売れ行きは極めて順調で、入場券は目標達成の見込み
開幕前の前売りの入場券の発売数は約1,200万枚で、目標である1,400万枚に及んでいなかった。そのため、入場券や入場数の目標の達成が危ぶまれていた。
入場券の発売数に関しては、まず運営経費が赤字にならない水準として1,800万枚達成が注目されていた。さらには、最終的な目標として2,300万枚。開幕後の目標販売数は900万枚で、開幕前の1,400万枚と合わせて2,300万枚の発売が全期間を通じた目標となっている。
大阪・関西万博の入場券における開幕後の発売数は1,995万枚(8月29日まで)であり、会期を約2か月残した段階で、愛・地球博(1,720万枚)をオーバーし、開幕前に想定していた運営経費が赤字にならない水準(1,800万枚)は達成した(なお、災害などへの対応など想定外の経費発生の際は赤字の可能性が残る)。開幕後の1日平均発売数は7万枚強で、また、8月に入ってから1日平均発売数が9万枚弱と伸びている。今後も8月と同じペースで売れるとすれば、入場券の累計発売数は2,372万枚に達する計算となる。
このように、開幕前の入場券の売れ行きは苦戦していたが、開幕後の売れ行きは極めて順調といえる(図表1)。

3.入場券の売れ行きに比べて、入場者数は順調とは言い難い
愛・地球博の入場券発売数は1,720万枚で、その1.28倍の2,205万人が入場者数となった。この1.28倍を前述の大阪・関西万博の入場券発売推計2,372万枚に乗じると、3,042万人となる。入場券の売れ行きだけを見れば、会期を通じた入場者数の目標2,820万人を楽々達成し、3,000万人超えも視野に入る。
そこで、20週目までの入場者数の推移を愛・地球博と比較しよう。愛・地球博は20週目まで累計で1,450万人であるのに対し、大阪・関西万博は関係者を除いて1,657万人で愛・地球博の1.14倍。この倍率を愛・地球博の最終入場者数2,205万人にかけると2,519万人となり、目標の2,820万人を下回る(なお、万博協会は「目標」ではなく「想定」としている)。関係者向け入場証(AD証と呼ばれる)による入場者(1日平均2万人弱で、通期で330万人と推定)をカウントしないと、目標が達成できない計算だ。
4.痛かった夜間の目玉イベント「噴水ショー」の休止
図表2を見ると、大阪・関西万博の入場者数の「変調」が見て取れる。大阪・関西万博の入場者数は7週目まで愛・地球博を大きく上回って推移してきたが、8週目以降は愛・地球博と似たような水準が続き、17週目からようやく大きく上回るようになっている。
8週目以降の変調については、夜間の目玉イベントとされる噴水ショーが休止(6月5日~7月10日の36日間)の影響が大きそうだ。大阪・関西万博は「並ばない万博」を標ぼうし、特に人気のパビリオンやイベントでは事前予約を必要とするものが多い。事前予約では、慣れない人に面倒なインターネット予約がほとんどで、かつ予約枠が非常に限られている。パビリオンやイベントの予約が全くない「予約なし組」は少なくないと考えられるが、その「予約なし組」にとって、予約なしでも問題なく見学でき、かつ万博の各種イベントの中で屈指の人気を誇る噴水ショーは、噴水ショー後に開催されるドローンショーと合わせて大きな来場目的となっている。その噴水ショーが休止されたうえ、ドローンショーでも雨や風の影響で休止が少なくないことを考えると、噴水ショー休止が梅雨の時期と重なったことも相まって、8週目以降の来場動機が大きく減退したのは間違いない。さらに、噴水ショー再開(7月11日)の発表は前日の7月10日であり、再開の周知徹底が進まないまま、遠方からの来場者が期待できる夏休みに突入したのも入場者数に大きな影響を与えたであろう。

噴水ショーの休止の影響は入場券の種類別販売数にも見て取れる。開幕後に発売開始された「夜間券」は16時以降に入場できるものだが、「予約なし組」にとって万博をお手軽な値段で楽しめるとして、発売数は増加の一途であった。しかし、噴水ショー休止以降、夜間券の発売は停滞した(図表3)。

5.ライトユーザーに厳しすぎる「先着予約」
大阪・関西万博は入場券の販売は極めて順調であるものの、入場者数の目標達成が入場券の販売数ほど伸びていない、というのが現状の評価となろう。
では、大阪・関西万博は、入場券の発売数では愛・地球博を大きく凌駕しながら、なぜ入場者では愛・地球博ほど伸びていないのか?この背景の一つとして、発売された入場券のうちいまだ消化されないものが少なくないことが考えられる。
大阪・関西万博でパビリオンやイベントの情報が解禁になったのは開幕1か月前。入場できる期間が限定的な一部の入場券を除き、一般の入場券は会期中いつでも利用できる。パビリオンやイベントに関する情報がある程度出回ってからの来場は基本であるため、開幕後約2か月経過した時期に、万博で唯一無二の人気イベントとして評判が広がりつつあった噴水ショーの休止は、前売り券組の来場動機にネガティブに働いたであろう。
愛・地球博で閉幕1か月前から入場者数が急激に伸びたのは、入場券保持者の駆け込み需要が顕在化したことが背景の一つと推察される。その結果、愛・地球博の未使用券は99万枚、5.7%に留まっており、入場券保持者の多くは来場した。
大阪・関西万博では8月29日の時点で1,955万枚の入場券発売数にも関わらず、(入場券を持たずに来場できる関係者を除く)入場者数は1,657万人に留まっており、その差は約300万に達する。「通期パス」(会期中毎日入場可能)や「夏パス」(7/19~8/31に毎日入場可能)の発売数も会期前を含めて計70万枚弱にのぼっている。その2つをパス系入場券を使った入場者数が相当程度存在することを考え合わせると、300万枚を大幅に上回る未使用の入場券(多くが前売り入場券と推察)が残っているのは間違いない。そのうえ、会期終盤は入場券をもっていないものの、一度は見てみたいという層も地元を中心に相当期待できるのは間違いなく、前売り券未使用組と相まって、大阪・関西万博でもかなりの駆け込み需要があってもおかしくない。
しかし、このような駆け込み需要の想定には懸念材料がある。大阪・関西万博ではパビリオンやイベントの予約枠では、最も多くが「2か月前予約」(抽選)に割り当てられているが、すでに閉幕の10月13日分まで予約が終了している。「7日前予約」(抽選)もあるが、「2か月前予約」に比べて予約枠がかなり限定され、人気のパビリオンやイベントの入場枠が確保できる可能性は少ない。ちなみに、筆者もすでに10回を超える来場経験があるが、「7日前予約」で当選したことはない。
これらは抽選予約で確保できない場合、先着予約枠として、「空き枠予約」(3日前の0時から予約可能)と「当日予約」(来場の10分後から予約可能)があるが、この先着予約には別の問題が発生している。まず、「空き枠予約」はスマホなどを使って公式アプリ経由でネット予約するものであるが、一般的な利用者の予約で利用する公式アプリと違う非公認アプリが登場し、パビリオンやイベントの空き状況を一覧で把握でき、空き枠予約を瞬時行えるといった「裏技」がネット上で喧伝されている。そのため、「空き枠予約」は「裏技」を熟知する者(いわゆる「ガチ勢」)の独壇場と化している。そうした「裏技」の副作用もあって、「空き枠予約」開始時には予約ページに大量のアクセスが発生し、先着予約開始時に公式アプリから普通に予約しようにも、ログインまでに待機時間が長くなりがちなうえ、大量アクセスに伴うシステムエラーが頻発するため、「裏技」によらない「空き枠予約」での予約確保は非常に厳しい。
次に、「当日予約」は来場10分後の予約開始であるため、基本的に来場時間が早い者が圧倒的に有利となっている。そのため、最も早い時間帯である「9時入場枠」を確保する必要があるが、すでに閉幕まで全ての日程で東ゲート、西ゲートどちらも9時入場枠は埋まっている。9時入場枠はキャンセルで空きが出る可能性があるが、それをいち早く空き状況を把握できる非公認アプリが「裏技」として登場し、それに精通しない者にとって9時入場枠確保は難しい。
さらに、9時入場枠を運よく確保できたとしても、人気のパビリオンやイベントの数少ない当日枠を確保するのは非常に厳しい。人気パビリオンやイベントでは、「ガンダム方式」と呼ばれる、ガンダムパビリオンが早くから採用している段階的予約方式(例えば、9時、12時、15時、17時、19時と段階的に予約枠と予約開始時間を分散させることにより、早い時間帯に入場できない者の予約可能性を高める)を採用しているところが増えている。しかし、会場内に留まる来場者数は開場直後の9時が最も少ないため、段階的予約方式を採用しているパビリオンやイベントの当日予約であっても、9時入場枠を確保した者の中でもいち早く入場することが重要である。会場に直結する地下鉄夢洲駅の一つ手前のコスモススクエア駅に6時すぎに到着し、事前にタクシーを予約するか、駅前の待機しているタクシーに「ガチ勢」と便乗して、西ゲートのタクシー待機場がオープンする6時45分前に到着して、西ゲートで最前列付近を確保する方法が現在、一番とされる。そうした「ガチ勢」の早朝来場は問題となっており、万博協会は早朝来場しないように呼び掛けているが、現実には早朝来場は止まず、早朝のコスモスクスエア駅にはタクシーがずらりと並ぶ、異様な光景となっている。
そのうえ、当日予約でも非公認アプリが登場し、公式アプリのみのライトユーザーにとって予約確保できる可能性が低い。会場内の当日予約でもたびたびシステムエラーが発生しており、筆者もスマホからの予約が全くできない状況に陥った経験がある。
このように、先着予約では「空き枠予約」も「当日予約」も、非公認アプリや早朝来場といった「裏技」を駆使できる「ガチ勢」どうしの争奪戦と化している。興味をもつライトユーザーのほとんどにとって対応が容易ではなく、来場できたとしても「予約なし組」となってしまうのは必至である。
特に、未消化の多くを占めると考えられる前売り入場券では、協賛企業向けのものが多く、その保持者は東京圏や名古屋圏など大阪圏在住者以外が少なくないはずだ。予約なし必至の状態で、大混雑が予想される中、高額の交通費や宿泊費を使って来場してくれるであろうか。
6.ライトユーザーに向けた具体的な改善策が必要
ここまで見てきたように、入場券発売は順調でも入場者数はあまり順調といえず、目標達成を楽観できる状況といえない。入場者数の目標達成に向けて、ライトユーザー向けの何らかの策が必要であろう。
大阪・関西万博の標ぼうする「並ばない万博」はネットによる事前予約と表裏一体だ。入場日、入場時間、入場ゲート、パビリオン・イベントの一部についてネットによる事前予約が必要だが、ライトユーザーにはかなりわずらわしい。そのうえ、先着予約ではライトユーザーに浸透しているとは言い難い「裏技」を駆使する「ガチ勢」に席巻されている。
まず、パビリオンやイベントの空き枠予約と当日予約の2つの先着予約の改善は必要だ。3日前予約は全て抽選とするか、7日前予約(抽選)に統合すべきであろう。また、現在、ほとんどの海外パビリオンが行列OKである(その際、多くの海外パビリオンで導入されているように、おおよその行列時間は2,3時間程度に制限)が、人気の日本企業関連パビリオンやイベントのほとんどで事前予約が大前提となっている。当日予約分は基本、海外パビリオンのような行列OKとすべきであろう。少なくとも、午前中の当日予約を廃止し、行列対応に振り向ける必要があろう。
これにより、先着予約を巡る「裏技」は大きく封じられる。万博協会が抑制を呼び掛けている早朝入場について、劇的に減らすことは可能であろう。また、万博協会では前述したような先着予約における「裏技」について、特別なアプリを使用した予約者についてID停止の措置を行うなど対策を打ち始めているが、対策が追い付いておらず、いたちごっこの感は否めない。先着予約を廃止すれば、このような「裏技」対策に追われることがなくなり、また、「裏技」による大量アクセスが引き起こすシステムエラーも減じられよう。
さらには、より多くのライトユーザーが予約なし入場できる工夫を人気のパビリオンにお願いしたい。その際、参考になるのは1,2の人気を博しているシグネシャーパビリオン「null2(ヌルヌル)」の対応である。このパビリオンでは自らが体験できる「ダイヤログモード」が基本であるが、体験できる人数があまりに限られているので、他人が体験している様子を見学できる「インスタレーションモード」が設けられ、当日予約に限って提供されるようになった。そして、その「インスタレーションモード」も人気が過熱化する中で、8月頃から採用されたのが「ウォークスルーモード」である。これは、わずか1分程度であるが、会場内部に実際に入って映像の一部を見学できる。しかも、予約なしで14時30分頃から時間限定で行列を受け付け、行列した人の全ての見学を受け入れており、ライトユーザーの満足度は高い。
人気のパビリオンでは、大量の観客が捌ける映像メインのシアター型が少なく、体験型のアトラクションがメインとなる中、実際に体験できる人数があまりにも少ないのが事前予約をより困難にしており、大阪・関西万博の欠点にもなっている。「null2(ヌルヌル)」の「ウォークスルーモード」のように、体験を省略して短い時間の見学メインとなるコースを時間限定で予約なしに受け入れることはライトユーザー向けには望ましい。
7.「並ばない」から「行列上等!」への転換に期待
もちろん現状でも、「予約なし組」にも万博を楽しめる余地は十分に残っている。人気の噴水ショーやドローンショーなどは基本的に予約がいらない。巨大構造物として異彩を放つ大屋根リングも、まばゆいばかりの夜景に映えるパビリオン群の美しさも予約なしで楽しめる。そのうえ、前述のように、海外パビリオンのほとんどは行列OKである。
しかし、そうであっても、予約なし組の先着予約に対する不満は小さくない。「裏技」を駆使する「ガチ勢」に根こそぎさらわれて、予約なしを我慢するしかないライトユーザーが大量に発生しているのは明らかに理不尽だ。例えば、人気のテーマパークで入場前から人気のアトラクションを「ガチ勢」に独占されてあきらめなければならないとなれば、他に楽しめるコンテンツがあると甘くささやかれても、ライトユーザーは来場する気持ちをどこまで高めることができるであろうか。
中長期にわたって何度も通ってくれる熱心なファンの育成が重要な課題となる常設型のテーマパークと違い、万博は約半年開催の短期間イベントであるため、ライトユーザーのニーズに十分応えることが重要である。ライトユーザーに向けては、「並ばない」ための先着予約に生じている数々の理不尽さより、並べば必ず見学できる安心感の方がアピールできると考えられる。つまり、パビリオン・イベントにおける先着予約を基本的に廃止し、海外パビリオンのほとんどですでに導入されている「行列上等!」の万博に進化することこそ、関係者入場なしで入場者数の目標達成に向けた切り札といえよう。