シティ・モビリティ

【動画あり】Zoox、ラスベガスで自動運転タクシーを一般開放
/~トランプ政権で追い風、ハンドル・ペダルの無い独自車両をNHTSAが容認~

上級研究員 新添 麻衣

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9月10日、Zooxは、ラスベガスで自動運転タクシーサービスを一般開放した※1。ラスベガス随一の繁華街である「ストリップ」を中心に数か所の乗降地点が設定されており、Zooxの専用アプリで配車する。現時点では運賃は無料で、運行エリアと乗降地点の選択肢は順次拡大される予定となっている。

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1.独自車両へのこだわり捨てずに実現へ ~トースター型の4人乗り~

Zooxは、2014年設立の自動運転スタートアップで※22020年にAmazon傘下となった※3自動運転システムの開発だけでなく、車体の開発から内製化している点が特徴で、本社と工場をカリフォルニア州に置いている。設立当初から、自動運転専用に設計した独自のEV車両で移動サービスの実現を目指してきた。

Zoox、ラスベガスで自動運転タクシーを開始

(画像)Zooxのトースター型車両/筆者撮影

彼らが「トースター型」と表現する独特なフォルムの車両は、全長約3.6m、幅約1.9mと小ぶりだが※4車内には運転席が無く、車室内の空間を最大限に活かした4人乗りのボックス席が設置されている。車両のユーザーは全員乗客になることから、各座席には非接触充電が可能なスマートフォン置き場、ドリンクホルダー、読書灯、サラウンドサウンドシステムなど車内を快適に過ごすための装備が設置されている。車両には前後の区別が無く、どちらの方向にも最高時速約120km(時速75マイル)で走行可能となっている※5

ラスベガスの次は、本社近くのサンフランシスコ、その後はオースティン、マイアミを進出先に挙げている。さらに、シアトル、ロサンゼルス、アトランタでもテスト走行を開始している※6

Zooxの独自車両の車内、座席のデザイン

      (画像)Zooxの独自車両の座席のデザイン/CES2025にて筆者撮影
    ドリンクホルダーの奥にある黒い板の部分が、非接触充電機能付きのスマホ置き場

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2.トランプ政権誕生で自動運転に追い風 ~Zooxの独自車両を容認~

米国では、これまでも運転席が無く、ハンドルもブレーキペダルも無い自動運転専用の車両が様々な事業者によって考案されてきた。しかし、前例のないデザインの車両の安全性をどのように判断すべきかは、長らく結論の出ない課題となっていた

米国におけるFMVSS(連邦自動車安全基準)は、日本の道路運送車両の保安基準に相当する車両の安全基準である FMVSSの様々な規則は、当然ながら、人間が運転する従来型の車両を想定して拡充されてきた。そのため、乗員の安全を確保するために、「運転席には●●を備えていること」といった規定が複数あり、これが自動運転専用車両の安全性を認証する際の障壁となっていた。

かつて米国の自動運転タクシーで先行していたGM・ホンダのCruiseも、FMVSSに苦しめられた企業であった 。2024年12月に事業停止を決断する直接の引き金となったのは、人身事故を巡る悪手の対応であったが、自動運転専用に設計した「Cruise Origin」の量産に漕ぎつけられなかったことが、Cruiseとその親会社であるGMの事業計画を大きく狂わせた。Cruise Originは、Zooxの車両と似て、車内には乗客の座席のみを配置し、前後どちらにも進行可能なEV車両であった。GMはFMVSSの規制緩和や適用除外を求めるロビーイングを繰り返し行ってきたが、バイデン政権下での規制緩和は最低限に留まった。

第2次トランプ政権が誕生は、独自車両を諦めなかったZooxにとって追い風となった。
Zooxもまた、FMVSSの壁に直面し、2024年5月からNHTSA(運輸省道路交通安全局)による立ち入り検査を受けている最中だった。

幻となったCruise Origin

幻となったCruise Origin/筆者撮影

トランプ政権に替わり、ダフィー運輸長官は「イノベーション・アジェンダ」の中で、3本柱からなる自動運転の政策を発表した※7。自動運転分野におけるイノベーションが中国との開発競争の渦中にあることを認識し、トランプ政権下で「America first」の実現を目指している※8

公道における自動運転車の運行の安全を最優先とする

不必要な規制障壁を排除して、イノベーションを解き放つ

自動運転の商業展開を可能にすることで、米国民の安全とモビリティを向上させる

イノベーション・アジェンダに基づく、自動運転車へのFMVSSの適用除外がZooxのトースター型車両の全台に認められ、バイデン政権下から続いたNHTSAによる立ち入り調査の終了が告げられた※9Zooxの車両が国産であったことも大きい。

Zooxの車両が容認されたことで、自動運転専用にデザインされた車両の活用に弾みのつく可能性がある。

自動運転タクシーの分野で、現在トップランナーであるWaymoだが、これまで愛用してきたジャガーのBEV「I-PACE」は販売終了が決まっている。次世代車として、中国Zeekrと韓国Hyundaiの車両を公表しているが、このうちZeekrのワゴンタイプの車両については、当初は運転席の無いデザインを目指していた。

今年1月のCES2025では、Waymoのスタッフは「FMVSSへの対応を考慮して、Zeekrの車両にも運転席を残すことにした」と説明していたが※10、トランプ政権に替わり、再度、車室内の理想のデザインを追求できる可能性が生まれた。もっとも、トランプ政権下において、ベース車両の提供者がZeekerとHyundaiで許されるのかという別の論点はあるだろう。

Zeekr製のWaymo次世代車

Zeekr製のWaymo次世代車/筆者撮影

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3.トランプ政権、全米統一の規制導入に挑む

米国では、車両の安全性を担保するFMVSSは連邦政府の運輸省が管轄している。一方、実証実験の実施や走行ルールに関わる交通法規は各州に権限があるため、自動運転の社会実装は、特定の州で進んできた。厳格だが明確な規制を先んじて示したカリフォルニア州、先端産業の誘致政策の一環で寛容な規制のアリゾナ州やテキサス州が代表例である。

一方で、 この状況は、事業者に対して州ごとに異なる安全管理や事故報告を求める結果となっている。事業者にとっては対応の負荷が大きいとともに、米国民の安全 がバラバラの基準で守られている状況とも言える。トランプ政権では、中長期的な目標として、全米で統一の規制の策定に挑む※11

米国では、過去にも2017 年の「SELF DRIVE Act」、「AV START Act」など全米統一の法規制の必要性を訴える議員立法が何度かなされた。しかし、当時は自動運転技術そのものを危険視する議員や、トラックのプロドライバーなどを支持基盤に持つ議員の反対があり成立には至らなかった。米国での自動運転サービスが普及のフェーズに入ってきた今、全米統一の規制が導入されれば、自動運転への対応が遅れている州でも商用化が進めやすくなる。America firstを掲げるトランプ政権の手腕を注視したい。

最後に、Zooxの車両が走行する様子を短い動画にまとめた。

乗客が利用できるのはトースター型の車両のみだが、ZooxではトヨタのSUV「ハイランダー」の改造車を多数保有し、データ収集やシステム学習のために運行している。Zooxが進出する都市では、この2種類の車両を見ることができる
【カリフォルニア州のZoox本社近くで筆者撮影/35秒・音声なし】

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※1 Zoox “Zoox is live in Las Vegas!”, Sep. 10, 2025
※2 Zoox “10 years of building Zoox”, July 17, 2024
※3 Amazon “We’re acquiring Zoox to help bring their vision of autonomous ride-hailing to reality”, June 26, 2020
※4 Zoox “Introducing Zoox The robotaxi designed around you”, July, 2025
※5 同上
※6 Zoox “Zoox is arriving in Atlanta”, May 20, 2025
※7 USDOT “Trump’s Transportation Secretary Sean P. Duffy Unveils New Automated Vehicle Framework as Part of Innovation Agenda”, April 24, 2025
※8 https://www.transportation.gov/innovation-agenda, , ダフィー長官Youtube演説より (visited Sep. 18, 2025)
※9 NHTSA “NHTSA Issues First-Ever Demonstration Exemption to American-Built Automated Vehicles”, August 6, 2025
※10 CES2025 Waymoブースでの筆者のインタビューに基づく
※11 脚注8に同じ

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