ワーク・エコノミックグロース

ワーク・イン・ライフ時代の「休み」再考
~「働いていない例外的時間」からの脱却~

上級研究員 大島 由佳

日本で「ワーク・ライフ・バランス」が言われて久しい。働き方改革やコロナ禍を経て、仕事は人生/生活のあくまで一部と捉える「ワーク・イン・ライフ」も耳にする1。ワークとライフの関係は多様化しているのだ。
 それに伴い「休み」の位置付けも変化している。 欧米では、「休み」の内容に応じて言葉を使い分けるため、目的や意義を認識でき、「休み」の取得が正当化されやすい。しかし日本語では、「有給」「育児」などを付して区別するものの、「休暇」「休業」が共通して使われ、「休み」は仕事を離れている状態や時間・日を幅広く指す。欧米と異なり日本では仕事をしているのが通常、「休み」は通常外、という考え方に基づくため、「休み」は許容されにくい。
 ワークとライフの関係が多様化する今、そのような「休み」の捉え方からの脱却が求められる。その際、他言語の言葉と背景にある労働観を知ることは日本の「休み」に対する理解を促し、脱却の第一歩になる。さらには、週休3日制、有給休暇の未消化などの休暇や労働を巡る様々な議論の基盤にもなるだろう。
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1. ワークとライフの関係の多様化

日本では、高齢化に伴う就労年数の長期化や、共働き世帯や単身世帯の増加などにより、働く人にとって日々の暮らしや人生の中での仕事(ワーク)の位置付けや比重は多様化している。「ワーク・ライフ・バランス」の浸透にとどまらず、仕事と生活の双方を充実させて統合する「ワーク・ライフ・インテグレーション」や、仕事は人生のあくまで一部と捉える「ワーク・イン・ライフ」などの言葉の広がりはその表れだろう。また、産前産後休業や育児休業、介護休業・休暇の法整備や企業での制度導入は、ワークとライフの関係の多様化への対応といえる。

そこで本稿では、ワークやライフと密接に関わる「休み」について、「休み」という言葉が持つ意味やニュアンスに着目し、他の言語と比較しながら再考する。

2. 「休み」を指す言葉の国際比較

(1) 日本語

日本語の「休み」という言葉は、人を主体とした場合、短時間の休憩から、1日単位の休日や休暇、長期の休暇・休業まで、期間や目的・内容を問わず幅広く使われる。欠勤や欠席、就寝や睡眠を指すときもある。また、会社や店舗などを主体とした場合、営業していない状態を指す。内容に応じて「休憩」「休日」「定休」「休暇」「休業」などの言葉を使い分けるが、多くは共通して「休」の字が入る。

「休み/休む」という言葉を使う場合も、その意味はケースバイケースだ。「作業の手を止めて少し休もう」(休憩)、「来週お休みをいただきます」(ある程度の期間の休暇)、「休んで元気になった」(休養)、「今晩は早く休もう」(就寝)のように、文の中で解釈する必要がある。「Aさんは今日お休みです」という場合は、定休、休暇、欠勤などいくつかの可能性があり、この文の前後の文脈までみないと判断ができない。

日本語と同様に漢字を使う中国語で「休み」に関する言葉には、假期(長期休暇など)、假日・休息日(休日)、休憩(休憩)などの言葉がある。「」や、複数ある意味の1つとして休暇の意味を持つ「」の字が共通して使われる点は、日本語と共通している。

(2) 英語、フランス語、ドイツ語

一方、欧米の言語では、「休み」を意味する言葉は、内容に応じて複数種類が使い分けられている。

例えば英語では、break (休憩)、rest (休息)、absent(不在)、day off (定期的な週休などで仕事が無い日)、leave (休暇 / 例: paid leave (有給休暇)、sick leave (病気休暇、病欠))、vacation / holiday (長期休暇) など、「休み」の目的や期間などに応じて言葉が異なる。

フランス語では、reposer (休む ; 休める)という動詞がある。人を主体とした場合、名詞のrepos(休息)とあわせて、リラックス感が強く、心身回復を目的とした静かな休息というニュアンスを持つ。また、jour offという表現は、英語のday off に相当する。休暇はcongé (例: congés payés (有給休暇)、congé de maladie (病気休暇))という言葉のほか、主に長期の休暇を指すvacances (バカンス)がある。フランスでバカンスは当初、富裕層の生活様式だったが、1930年代に労働者への毎年連続2週間の有給休暇の付与が法定されることで人々の間に広がった2。以後、有給休暇の付与日数は増加し、現在は年5週間の有給休暇(うち最低2週間は連続、かつ5月から10月までの間に取得が必要)の付与が法律で定められている。そうした歴史的経緯から、人々はバカンスなどの休暇を権利と捉える傾向がある。また、バカンスはラテン語で空白であることを意味するvacareを語源とし3、仕事や義務から解放された時間というニュアンスがある。

ドイツ語では、Pause (休憩)、Ruhe (休息)、Urlaub (有給休暇をはじめ、会社などに勤めている人が許可を得て取得する休暇) 、Ferien (学校の一斉休暇などの予め決められている休み、例: Weihnachtsferien (クリスマス休暇))といった言葉がある。Ruheには静けさや平穏さ、リラックスした状態というニュアンスが含まれる。また、いずれの言葉も共通して、働くことによって失われた健康と成果をあげる能力を回復させるという目的を持つ4。その他、日本語の「週休2日」はドイツ語ではFünf-Tage-Woche という。英語のfive-day week に相当し、「週5日勤務」という表現の仕方だ5

(3) 言語間に見られる違い

① 言葉をどれだけ区別して使い分けるか

各言語において、身近、つまり自身に密接に関わる対象ほど言葉の区別が細かく、縁遠い対象ほど区別が大雑把になるとされる。例えば、日本では古くから魚をよく食べてきたため、日本語には魚の種類を区別する言葉が数多く存在する。種類の細かさにとどまらず、ブリのように同じ種の中で成長とともに呼称が変わる出世魚もある。一方、英語圏では主に肉を食べてきたため魚の名称は大雑把だ。人の認識は言葉に基づくため、言葉の区別が人の認識の相違につながる。例えば、同じ種であるブリ(概ね体長80センチメートル以上)と、ブリより若く成長途中のハマチ(体長40センチメートル程度)を区別しない英語圏の人が、日本で呼称の違いを知ることで味の差に気づく事例があったという6。こうした言葉の区別の特徴を踏まえると、休みに関する言葉を使い分ける英語・フランス語・ドイツ語圏では、日本語圏に比べて休みを重要と捉え、内容による違いや意義を認識していると推測される。意義が認識されているほど、その「休み」は正当と受け止められやすいと考えられる。

一方、日本語の「休み/休む」は複数の意味を持つ多義語であり7、その単語単独では内容や目的ははっきりしない。加えて、日本では長時間労働や休まないことで意欲を示すカルチャーがまだ残っているとされる8。皆勤賞にみられるように、職場に限らず学校でも休まないことが勤勉さを表し評価に値するという考え方が浸透していて9、「休み」は正当化されづらい風潮が広がった。

② 働くことは通常か特別か

ドイツ語のFünf-Tage-Wocheは、週に5日間働かなければいけないという表現の仕方で、働くことに注目している。働くことは日常の中で特別な時間とみなしていることが背景にある。一方、日本語の「週休2日」は、休むことに注目している。働く日が通常の日であり、その通常の状態に対して週に2日休めるという表現の仕方だ10

「余暇」という言葉にも同様の考え方が表れている。英語のleisure (余暇)に対応するドイツ語の Freizeit は働く必要がない自由な(frei)時間(Zeit)を意味する。前掲(2)で述べたドイツ語の休みに係る4つの言葉と同様、働くことで失われた健康と成果をあげる能力を回復させる目的を持つ11。一方、日本語の「余暇」には、働くことは普通あるいは当たり前の活動であり、ほとんどの時間が仕事に費やされるという前提がある。仕事に費やされたその後の余り時間を「余暇」として過ごすという考え方である12

(4) 相違点から見出される示唆

日本の「休み」の特徴として、幅広い意味を表すため、正確な意味が文脈に依存しがちであること、働くことや出社・出席が好ましくて通常の状態だとする考え方があることが、他の言語と比べることで浮き彫りになる。

働くことや休むことに関する人々の考え方は、国や地域によって異なり、言語と密接に関わっている。日本では働くことを通常と考え、休みは余りや例外とみなしたため、休みという言葉が細かな区別をせず、幅広い意味を持って使われてきた、つまり、前掲(3)の①と②は関連している可能性がある。そのため、英語などのように、日本語でも「休み」を内容に応じて区別した言葉で表現したら、欧米と同様に「休み」の取得は必要で当たり前のことと考えるようになる、というほど簡単ではないだろう。ただし、前掲のブリの例のように、言葉を使い分けることで違いや意義を認識できるようになるかもしれない。

3. 「休み」以外の呼称導入の動き

日本では、「休暇」「休業」が法律や制度も含めて広く使われているため、それらの言葉を使わなくするのは現実的ではない。それに対して、愛称という形で「休」の字を使わない表現を試みる例がある。例えば、「育休」という略称が広く使われている「育児休業」に対し、東京都は「育業(いくぎょう)」という愛称を付けた。育児休業について、「休む」イメージから「大切で尊い仕事(業)」に変わるようにという考えからだという13。言葉がどれだけ人々に認知や受容をされるかは、言葉や社会環境などによるだろう。例えば、近年は「推し」「推し活」という言葉が広がっている。この点について、当初は限られた人の間でのみ使われていた「推し」という言葉が、ワイドショーなどで視聴者に好きなモノや人を尋ねる文脈で使われた影響を指摘する声がある。そうしたメディアでの使用が、好きなモノや人がいる状態やそれらを応援する行為は普遍的だという意識を人々に持たせ、「推す」行為が大衆化したという14。新たな言葉が生まれたり、従来とは異なる意味で使われたりすると、人々の意識や社会に変化が起こる可能性は考えられる。

企業の中には、英語の表現をそのまま使う形で、「休暇」「休業」以外の言葉を使う例が出始めている。例えばメルカリは、事業や人材のグローバル化を背景に、有給の病気休暇をsick leave という名称で設けている15。また、三菱地所が2018年に創設した、仮眠ができる制度は「パワーナップ制度」という名称だ16。パワーナップとは、短時間の仮眠(nap)による疲労回復がパフォーマンスを向上させ力(power)に繋がるという、英語の造語として知られている。企業は、仮眠室の設置やパフォーマンス向上の効果検証などにより、制度の利用促進を図っている17。制度名称は仮眠という「休み」に企業が意義を認識している表れであり、そうした企業の姿勢を伝える効果があると考えられる。

グローバル企業は英語表現を導入しやすい、英語で表現する必要があるという背景はあるが、難解な表現でなければグローバル企業以外でも導入は可能だろう。外国語表現でなくても、「休み」や「休暇」といった言葉を使わず、内容や効果を表す言葉を使うのは一計だろう。企業がその「休み」を重要視する理由を伝えるメッセージになる。また、昨今働く人の関心が高い「週休3日制」18は休む日数を示すのではなく、諸外国を参考に「週4日勤務」という呼称にしてみるのもいいかもしれない。

4. 今後の展望

これまで見てきたように、ワークとライフの関係は多様である。日本では「ワーク・イン・ライフ」という、仕事は人生/生活のあくまで一部という捉え方が広がり始めている。そのような時代において、日本の企業は働くことが通常として「休み」を捉える考え一辺倒から脱却する必要があろう。日本と海外の言語圏の「休み」や背景にある労働観を知ることは、その第一歩になるといえる。

また、ワークとライフの関係の多様化が進めば、「休み」へのニーズも多様化する。育児や介護、治療その他の事情にあわせて働く日や時間を柔軟に調整したい人は少なくないだろう。事情の有無にかかわらず、仕事はほどほどがいいと考える人もいれば、たくさん働きたい人もいる。同じ人でもライフステージなどによって、ライフの中のワークの位置付けや比重は変わる。そのような多様な人が集う職場にあって、従業員間で不公平感が生じないよう、特定の休みに限らずどんな人でも休みが取得しやすい業務フローや分担、休み中に代わりに業務を担う従業員への報酬など、組織全体の仕組み構築が不可欠だ。

働く人にも「休み」の捉え方の変化が求められる。休みの取得には本人や上司・同僚、取引先といった関係者間の「休み」に対する相互理解が欠かせないからだ。その点でも企業での組織全体としての仕組みと、休みの意義や企業としての姿勢を制度名称の工夫も含めて従業員に伝えることが肝要だろう。

週休3日制、有給休暇の未消化、サバティカル休暇、労働時間規制の見直しなど、「休み」に関するトピックは様々存在する。日本の「休み」の特徴を認識することは、それらのトピックを議論・検討するうえでの基盤になるという点でも重要といえる。

  • 日本経済新聞 「ワーク・ライフ・バランスからワーク・イン・ライフに」(2021年10月28日)
  • 鈴木宏昌 「フランスのバカンスと年次有給休暇」(日本労働研究雑誌 No.625、2012年8月)
  • 三陸河北新報社 ホームページ 「コラム:ワーケーション」(2020年8月6日) (visited Nov 27, 2025)
  • 西嶋義憲 「労働関連語彙の日独比較―語彙意味論の観点から―」(金沢大学経済論集 第29巻第2号、2009年3月)
  • 同上
  • 佐藤義隆 「英語と日本語の語彙の比較―国際理解教育の一環として」(岐阜女子大学紀要 第40号、2011年3月)
  • 柳悟聖 「初級日本語教科書6種の多義語の頻度調査」(國學院雜誌 第119巻第3号、2018年3月)
  • リクルートワークス研究所 「巧みに休む」 (機関誌 Works 第25巻 第2号 通巻154号、2019年6月)
  • 日本経済新聞 「コロナで消えゆく皆勤賞 「休むことは悪」風潮に変化 個性重視、精神論は通じず」(2021年9月11日)
  • 前掲注4
  • 前掲注4
  • 前掲注4
  • 東京都 こともスマイルムーブメント ホームページ < https://kodomo-smile.metro.tokyo.lg.jp/ikugyo > (visited Nov 27, 2025)
  • 廣瀨涼 「今どき推し活事情」(国民生活、2023年7月)
  • メルカリ プレスリリース 「メルカリ、組織のグローバル化に合わせた新休暇制度Sick Leave・リラックス休暇を導入」(2019年7月1日) < https://about.mercari.com/press/news/articles/20190701_sickleave_relaxdays/ > (visited Nov 27, 2025)
  • The Monthly MITSUBISHI ホームページ 「よく眠り、よく生きる。“睡眠投資”で仕事も人生もうまくいく!」(2023年5月18日) < https://www.mitsubishi.com/ja/profile/csr/mpac/monthly/life_style/2023/05/3.html > (visited Nov 27, 2025)
  • BUSINESS INSIDER 「三菱地所が導入した仮眠制度。15分から30分の仮眠はこんなに集中力が回復する」(2019年3月 30日) < https://www.businessinsider.jp/article/187917/ > (visited Nov 27, 2025)
  • 日本経済新聞 「何でもランキング 週休3日に無料社食…我が社にも導入してほしい制度10選」(2025年11月8日)。30〜40代の男女正社員1,000人へのインターネット調査(2025年9月実施)で、働きやすさを向上させる21制度を示し、勤務先に導入してほしい制度を最大7つ選択してもらった結果、「週休3日」が591ポイントで第1位であった。

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