国の成長戦略に寄り添う、高市政権の地方創生「地域未来戦略」
~基本方針では東京一極集中是正以上に「強い経済」の実現を強調~
1.石破政権では多様な地域・コミュニティ実現による地方発の経済成長を目指す
高市政権初めての地方創生に関する総合戦略が2025年12月23日に閣議決定された。この総合戦略に基づき、地方創生の各施策の肉付けが2026年6月までに行われ、骨太方針に反映されることになろう。
高市政権ではこれまでの政策の方向転換が目立つため、地方創生の方向転嫁についても注目が集まっている。そこで、今回の総合戦略と、1年前に石破政権で作成された「地方創生 2.0 の「基本的な考え方」」(新しい地方経済・生活環境創生本部2024年12月24日決定)の相違について簡単に考察したい。
まず、石破政権の地方創生では、その前の岸田政権で検討が進んでいた、地方創生開始からの10年の反省を引き継ぐことを大きな主眼としていた。そのため、これまでの地方創生を「地方創生1.0」と称したうえで、これからは「地方創生2.0」を進めるとした。
この点は「地方創生 2.0 の「基本的な考え方」」の冒頭に記された。この10年の間に様々な取り組みがなされてきたものの、「(前略)人口減少や、人口の東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった。」とし、地方創生の成果が限定的であったと断言された。それを踏まえて地方創生2.0では、人口減少は当面続くことを所与としながらも、人口の東京一極集中は加速させないとし、その一方で、多様な地域・コミュニティがもたらす「楽しい地方」の存在が重要とされた。さらに、「地方創生 2.0 は、単なる地方の活性化策ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策であり、(後略)」として、日本全体のために地方の経済活性化が必要とされた。
2.高市政権では「強い経済」の実現による地域発の経済成長が強調される
次に高市政権では、「これまでの地方創生で進めてきた取り組みに加え、「強い経済」の実現に重点を置いて(後略)」として、地方発の成長戦略を目指している。その際、具体的には以下のような3つの地域クラスターが記されている。この3つのクラスターを見る限り、これまで以上に国の方針や施策がより前面に出た形となっている。
● 熊本のTSMCや北海道のラピダスの具体例を挙げ、国の「日本成長戦略」の17分野における企業の大規模投資が主導する
● 都道府県知事が主導するもので、国の施策の活用を目指す
● 既存クラスターの拡大を目指す
また、KPIとして挙げられた項目に、非東京圏の就業者1人当たり労働生産性の伸び率について、2029年までに東京圏以上であることが挙げられ、経済成長がより強調されたものとなっている。この非東京圏としては、三大都市圏に属する大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)や名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、いわゆる「札仙広福」(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)といった、域外からの人口流入が目立つ巨大都市が含まれている。このKPI達成はこのような地方の巨大都市の経済成長によっても可能であるが、これらの巨大都市は地方創生のイメージでもある、消滅可能性都市に代表される人口減少に悩む地方とはかなり意味合いが違ってくる。
3.今後の地方創生では国主導の地域経済成長に主眼がおかれ、人口の東京一極集中是正はやや後退か
安倍政権の目玉政策の一つとして2014年から始まった地方創生は、人口減少と東京一極集中への対応を「一丁目一番地」の重要な目標としている。この背景には、「消滅可能性都市」の議論に始まる地方の人口減少、それをもたらす若者の大都市、特に東京圏への流出を問題視したことがある。出生率の高い地方から出生率の低い東京圏への若者の流出が日本全体の出生率の低下ももたらしているというロジックのもと、東京一極集中の是正は地方の人口減少への対策だけでなく、日本全体の人口減少への対策となるとされた。つまり、地方創生は二兎を目指すものである。
しかし、KPIとして挙げられ続けた東京圏の転出入均衡は、日本人においては男女ともに達成できていない(図表1)。特に、東京圏の転入超過数で女性が男性を上回り続けているように、非東京圏における若い女性の転出超過は問題とされている。石破政権の地方創生2.0はこれまでの地方創生を反省し、東京一極集中是正は必要とし、性別などに基づく思い込みである「アンコンシャスバイアス」の地方での解消に務めながらも、当面の人口減少を所与とし、人口減少下の地方経済の成長を目指した。石破政権で地方創生を担った組織である「新しい地方経済・生活環境創生本部」という名称にも、その意図は色濃く反映されている。高市政権の地域経済成長重視も、石破政権以降の地方創生の流れを加速化しているといえよう。
【図表1】東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の転入超過数の推移(日本人)

(出典)総務省「住民基本台帳人口移動報告」各年版より、SOMPOインスティチュート・プラス作成
一方、高市政権の打ち出した方針のうち、日本成長戦略に即した地方経済の発展は国主導といえるもので、石破政権の目指した多様な地域・コミュニティとは趣がやや違う。2026年6月に打ち出される地方創生の各施策の具体的な肉付けでは、このような高市政権の方針が色濃く反映されたものとなろう。
今後注視すべきは、東京一極集中是正の行方である。今回見たように、東京一極集中是正に関するワードは目立たなくなり、東京圏の転出入均衡に関するKPIが地方創生の代表的なものでなくなっている。そもそも「強い経済」を目指す日本成長戦略は、東京一極集中是正そのものを目的としたものでないであろう。
東京一極集中是正議論に潜む、東京対地方の二項対立の不毛さは、これまでの反省を生かした地方創生2.0でも指摘されたものである。短期での実現が困難な東京圏の転出入均衡に過度に拘泥するのではなく、あくまで長期での目標にとどめる一方で、人口減少下だからこそ限られた地方自治体間のパイの奪い合いでなく、東京と地方が人材をシェアすることと、それを可能にする副業・兼業やリモートワークの推進に、より力点が置かれるべきであろう。
しかし、地方創生の基本法である「まち・ひと・しごと創生法」の「目的」を記す第一条では、人口の東京一極集中是正を強く謡っており(図表2)、地方創生開始以降、地方自治体に広く、深く浸透しているのは間違いない。この数年の流れが続くようであれば、これまでのように、まち・ひと・しごと創生法を変えずに内容を変える形で総合計画を策定するのではなく、地方創生の各施策の現場となる地方自治体のマインド転換促進のために、基本法を改正することも一計であろう。
この法律は、我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくためには、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進すること(以下「まち・ひと・しごと創生」という。)が重要となっていることに鑑み、まち・ひと・しごと創生について、基本理念、国等の責務、政府が講ずべきまち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための計画(以下「まち・ひと・しごと創生総合戦略」という。)の作成等について定めるとともに、まち・ひと・しごと創生本部を設置することにより、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施することを目的とする。
(出典)「e-Gov法令検索」(https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000136#Mp-Ch_1)