シティ・モビリティ

人口減少の主因は生産年齢人口の大幅減少 ~新しい将来推計人口から見た日本の課題①~

上席研究員 岡田 豊

日本全体の将来推計人口が国立社会保障・人口問題研究所から2023年4月に発表された。それによると、日本では今後人口減少が加速し、2070年までに東京圏以上の大規模な人口が失われる。さらに、今後の人口動向が超長期に続くなら、100年後の日本の人口は5,000万人を切り、アジア・アフリカの新興国だけでなく英国のような先進国も下回る。人口大国で経済大国という、現在の日本の国際社会での立ち位置は大きく揺さぶられよう。この人口減少の主因は、生産年齢人口が2070年までに4割減少することにある。つまり、生産年齢人口の大幅減少こそ、人口減少が本格化する日本の今後の大きな課題である。
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1.はじめに

人口減少対策として異次元の少子化対策が話題になる中、日本全体の将来推計人口が国立社会保障・人口問題研究所から、コロナ禍により約1年遅れで2023年4月に発表された。将来推計人口は5年に1回の国勢調査を元に、5年間の変化を反映して推計される。将来推計人口は、年金財政の再計算などに活用されるなど、社会経済の根幹にかかわる様々な制度設計の基礎となるもので、注目度が高い。そこで本稿では、今回の将来推計人口の結果とその背景について概観したい。

なお、結果を概観する前に、将来推計人口の推計方法の特徴を紹介する。将来の人口を推計する際に不可欠な要素である出生、死亡、人口移動は社会経済の様々な変化の影響を受けるため、正確に予測することが難しい。今回の推計の方法は、これまでの将来推計と同様に、社会経済の今後の変化の予測を反映させたものではなく、これまでの出生、死亡、人口移動の変動が今後も続くと仮定したものである。このような手法は「推計」よりも「投影」といえる。実際に国立社会保障・人口問題研究所は人口や世帯の将来推計についてあくまでも投影であって、未来を予測するものではないとしている。このように、今回の将来推計はあくまでシミュレーション結果の一つに過ぎないことを念頭に置く必要があろう

2.出生率は今後下落

今回の将来推計人口はこれまで同様にコーホート要因法という推計方法を用いている。コーホート要因法とは、コーホート(生まれ年)別に推計していくものである。また、前回の推計と同様に、コーホート合計特殊出生率(将来推計人口では日本人女性に限定)について3つ(低位、中位、高位)、コーホート別の平均寿命について3つ(低位、中位、高位)を設定し、その組み合わせで計9つの推計が発表されている。本稿では特に言及しない限り、合計特殊出生率中位・平均寿命中位(以下、出生中位・死亡中位と記す)を前提とした推計を取り上げる。

このうち、出生推計では出生に影響する婚姻年齢、未婚・離婚率などをコーホートごとに推計する。2005年生まれ以降の出生行動については、出生行動はほとんど始まっていないため、2005年生まれとほぼ同じ出生行動と仮定する。また、話題となっていたコロナ禍の影響も出生行動の推計に加味されている。日本で最初に緊急事態宣言が発出された2020年4月から2022年後半までの初婚数や出生数の減少は、今後の出生数を減少させる方向で影響すると予想されている。

これらの結果、2005年生まれの出生行動について、今回の推計では前回の推計に比べて「平均初婚年齢は変わらず」「女性の50歳時未婚者割合は上昇」「夫婦完結出生児数は低下」とされた(図表1)。

これらから、2005年生まれのコーホート合計特殊出生率(中位)は1.29と推計されている。これまでのコーホート合計特殊出生率をみると、1954年生まれまで概ね2を維持していたが、1955年生まれから2を割り込み、1970年生まれでは1.45まで低下している。また、1970 年代後半から1980 年代前半生まれではやや上昇したことから、推計値は2012年推計以降、徐々に引き上げられていたが、それ以降のコーホートでは低下傾向にある。そのため、2023年推計の1.29は前回(2017年)推計(2000年生まれ1.40)より下落すると推測されている。

出生以外の前提条件をみると、平均寿命は今後も緩やかに伸びると推計されている。2012年推計(2060年で男性84.19歳、女性90.93歳)や2017年推計(2065年で男性84.95歳、女性91.35歳)に比べて、2023年推計では2070 年で男性85.89 年、女性91.94 年と、平均寿命の上昇ペースがわずかにアップしている。

コロナ禍で注目を集めた外国人の国際人口移動については、コロナ禍の影響を除外するために2015~2019年の大幅な入国超過が今後も続くと仮定されている。2023年推計における外国人の入国超過数は、2017年推計(2035年約7万人)の2倍以上となる16万人強(2040年)と推計されている。

3.人口減少は今後加速

推計の元となる2020年の日本の人口は1億2,615万人(2015年比▲95万人)であるが、今後は加速をつけて減少し、日本は本格的な人口減少社会に突入する(図表2)。1967年以来となる1億人割れは2056年で、前回推計(2053年)よりわずかに後ろ倒しになっている。少子化の進展にもかかわらず、平均寿命の上昇に加えて外国人の増加のため、人口減少のスピードが少し緩んでいるからだ。また、2070年の人口は2015年に比べて3,915万人(約3割)減の8,700万人となる。この減少規模は今の東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)全体を上回る巨大なものである。

2020年の日本は世界第11位の人口数を誇るが、国連による諸外国の将来推計人口によると、今後はアジアやアフリカの国々に続々抜かれ、2070年には20位以下に脱落する。今回の推計では2070年までの人口動向が2071年以降も続くと仮定する参考推計が行われおり、2120年は4,973万人と、ついに5,000万人を割れる。この水準は大正時代に行われた第1回国勢調査(1920年5,547万人)を大きく下回るだけでなく、国土面積で日本よりはるかに小さい英国にも抜かれてしまう。日本はこれまで人口大国の先進国を背景に国際経済社会に大きな影響力を行使してきたが、今後は影響力の大幅な低下は避けられない。

4.人口減少の主因は生産年齢人口の減少

2020年から2070年にかけての年齢3区分別人口割合を見ると、年少(0~14歳)人口は11.9%から9.2%へ、生産年齢(15~64歳)人口は59.5%から52.1%へ、それぞれ低下する一方、老年(65歳以上)人口は28.6%から38.7%に上昇し、少子高齢化が一層進む。

また人口ピラミッドを見ると(図表3)、2020年は出生数が他の生まれ年よりも多かった「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)やその子ども世代の「団塊ジュニア」(1971~1974年生まれ)が飛び抜けて目立った。しかし、「団塊ジュニアのジュニア」は少子化の進展で形成されず、団塊の世代や団塊ジュニアの多くが人口ピラミッドから抜けてしまう2070年には、際立った人口規模となるべき年齢層がほとんどなくなってしまうこととなる。

一方、2020年から2070年にかけての人口数をみると、年少人口は▲706万人、生産年齢人口は▲2,974万人、老年人口は▲236万人と、年齢3区分全てで減少するが、日本の人口減少は主に生産年齢人口の減少によりもたらされている(図表4)。

国勢調査年の年齢三区分別人口を見ると、1920年に2,042万人であった年少人口は戦後のベビーブームの影響等で1955年(2,980万人。返還前の沖縄県を含まず)にピークを迎えたものの、2020年は1,503万人と75年かけて半減し、さらに2070年には797万人と、今後50年かけて半減することで、ピーク時の1/4になる。このように、少子化は20年以上かけて出生の多くを占める20歳代、30歳代の女性の人口減少に直結し次世代の少子化を加速する。

生産年齢人口のピークは年少人口のピークから40年遅れの1995年(8,717万人)であるが、ピーク時からの減少は緩やかで、2020年(7,509万人)はピーク時の約9割となっていた。しかし、今後、団塊ジュニアの高齢化等により生産年齢人口は急減し、2070年(4,535万人)は2020年の6割となる。

少子高齢化の進展過程では、まず年少人口の減少から始まり、次に生産年齢人口が減少し、最後に老年人口が減少する。つまり、老年人口の減少は年齢計の人口の減少が加速化するシグナルである。老年人口は2020年(3,603万人)から緩やかに増加するが、2020年の10%増となる2043年(3,953万人)をピークに、団塊の世代や団塊ジュニアの死亡増加により減少し、日本はついに人口減少社会に本格的に突入していく。ピーク後の老年人口の減少は比較的緩やかで、2070年(3,367万人)はピーク時の約9割弱にとどまるものの、その後は他の年齢層と同様に減少が加速化し、参考推計の2120年(2,011万人)はピーク時の半分でしかない。

5.おわりに

新しい将来推計人口から推察される日本は、人口減少が今後本格化し、特に、生産年齢人口の大幅な減少からくる様々な社会経済の課題に直面する。生産年齢人口は税・社会保障や経済の主な担い手であるため、今の社会経済構造を維持するのは難しい。特に、アフターコロナ・ウィズコロナにおいても人手不足が大きな課題になっている中、人手不足問題は今後ますます先鋭化するであろう。

5年ごとに行われる国勢調査を元にした将来推計シリーズは、今後、地域別人口、日本全体の世帯数、地域別世帯数と順次発表される。これらの推計は全て連動していることから、今回の日本全体における将来推計人口の減少は、他の推計にも波及する。既に人口減少が大きく進んでいる地域では今回の推計を受けてさらなる人口減少に見舞われよう。また、今後の生産年齢人口の大幅な減少は地域の将来像に大きな影響を与えるであろう。地域社会・地域経済における人手不足は深刻化し、現在の地域社会・地域経済を支える根幹的なサービスの維持が難しくなるなど、地域のあり方を根本的に見直すことも重要となろう。

この生産年齢人口の大幅減少への対策では、今回の推計で掲載されている「条件付推計結果」が参考になる。この推計は出生率や外国人の国際人口移動(入国超過数)を機械的に変化させたシミュレーションにより人口への影響度合いを探ることができる。人口減少については国も大きな課題と考えており、異次元の少子化対策や外国人材の在留資格制度の改定など、様々な対策が検討されている。次回のレポート「新しい将来推計人口から見た日本の課題②」では、この「条件付推計結果」を用いて、様々な人口減少対策の有効性を考察したい。

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