シティ・モビリティ

今後の人口減少対策では外国人と高齢者が鍵 ~新しい将来推計人口から見た日本の課題②~

上席研究員 岡田 豊

2023年4月発表の日本全体の将来推計人口の条件付推計結果では、国が目標とする「2060年に1億人」は合計特殊出生率1.60もしくは外国人入国超過数25万人で達成可能である。このうち、スウェーデン(1.68)と比較して日本は20歳代の出生率が低く、結婚後の支援に重点を置いた異次元の少子化対策での実現は難しい。次に、外国人の入国超過数はコロナ禍前に16万人を超えて急増中であり、やや実現可能性は高くなるが、今後は外国人材の国際獲得競争の激化に不安が残る。一方、前期高齢者を生産年齢人口に組み入れると従属人口指数は激減し、今後も低水準で推移するため、前期高齢者の労働参加促進策は重要だ。
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1.はじめに

日本全体の将来推計人口が国立社会保障・人口問題研究所から2023年4月に発表された。同じ報告書を元に記した前回のレポート「人口減少の主因は生産年齢人口の大幅減少~新しい将来推計人口から見た日本の課題①~」では、今回の将来推計人口の結果とその背景について概観したが、本稿では、人口減少の加速が予想される中で、人口減少対策のあり方について考察したい。

将来推計人口は5年に1回の国勢調査を元に、5年間の変化を反映して推計されるが、前回のレポートで指摘したように、推計手法は社会経済の今後の変化の予測を反映させたものではなく、これまでの人口に関する変動が今後も続くと仮定した、シミュレーション結果の一つに過ぎない。

そこで、本稿では今回の推計の中の「条件付推計結果」に注目したい。これは、合計特殊出生率や外国人の入国超過数(国際人口移動)を機械的に変化させたもので、一種のシミュレーション結果といえる。これを元に、出生率の上昇や外国人の入国超過数の増加といった、人口減少対策の政策オプションの効果について考察する。

2.条件付推計結果で見る少子化対策と外国人材拡大策の必要水準

現段階で、国は人口における目標を明示的に掲げていないが、地方創生開始時に掲げられた「2060年に人口1億人維持」を実現するための条件を考えてみよう。

まず、出生率については、2070年の合計特殊出生率を1.00から2.20まで0.20刻みで7ケースについて人口が推計されている。人口が減少しない合計特殊出生率は2強であるので、合計特殊出生率が2.2のケース以外では人口減少を免れない。ただし、2060年の1億人を目標とするのであれば、合計特殊出生率1.60のケース(2060年1億143万人)で達成できる。

次に、日本における外国人の国際人口移動に関する結果である。2040年に入国超過数が0万人、5万人、10万人、25万人、50万人、75万人、100万人の7ケースについて推計されている。出生率と同様に、2060年1億人を目標とすれば、外国人入国超過数が25万人の際に1億82万人(2060年)で1億人を維持できる。

このように、「2060年に人口1億人」を達成するためには、合計特殊出生率1.60もしくは外国人入国超過数25万人が大きな政策目標となろう。

3.20歳代向け少子化対策が必要

2060年の1億人維持に向けて、出生率上昇を目指すのか、外国人の入国超過数増加を目指すのか、どちらが難しいのか議論が分かれる。しかし、長年対策が打たれながら少子化にあまり歯止めがかかっていないこと、先進国の多くが少子化に苦しんでいること等を考えると、出生率の上昇を図る政策がより難易度が高いと推察される。

異次元の少子化対策は、想定される財政支出額を見ると異次元というべきものであり、子育て支援としてはある程度の効果が見込まれるものの、少子化の大きな要因となっている未婚の増加に歯止めをかける政策はあまり見当たらないため、異次元の成果をもたらす可能性は低そうだ。

例えば、スウェーデンの期間合計特殊出生率は1.68(2020年)で、2060年1億人を目指す場合のターゲットとなりえる。そこで、スウェーデンと日本について、年齢別出生率を比較してみよう(図表1)。20歳代の出生率において、日本はスウェーデンに比べ極めて低いのがわかる。日本の平均初婚年齢は上昇し、30歳に近づいているので、子育て支援を強化するのであれば、支援策の主な対象は30歳代以降となるが、20歳代の出生率上昇なくしてスウェーデンに近づくのは非常に難しい。

日本では、高卒後すぐに大学に入学し、大学を留年なく22歳で卒業してすぐに就職するライフコースを目指す者が多い。そのため、就職先で仕事が落ち着いてから結婚・出産となると30歳前後になりがちである。例えば、大学入学年齢をOECD諸国で比較すると、日本は18歳と最も低年齢である。一方、スウェーデンでは大学入学年齢が24歳となっており、20歳代は子育てを含む複線型のライフスタイルが実現しているとみられる。20歳代のライフスタイルの多様性確保も少子化対策の観点から今後重視すべきであろう。具体的には、経済力の低い20歳代に絞って経済支援を強化したうえで、20歳代が子育てや地元企業での就業を経た後、30歳代以降のステップアップを目指して専門学校を含む高等教育を容易に受けることができる環境整備等が考えられる。

また、親元を離れるケースで出生率が低くなる傾向があるので、20歳代で結婚・子育てしていくためには親からのサポートが得られる地元に留まることを支援することも考慮したい。特に、地方の若者の大学進学や就職時の東京圏への流出を懸念する地方創生の考え方に立脚すれば、地方在住の20歳代を主要ターゲットとし、生活費、地元企業でのインターン経費、地元の専門学校や大学での学費などを手厚く補助することも考えられよう。

4.外国人永住者増加への対応

外国人の25万人増加も難易度が高い政策であるが、外国人の入国超過数はコロナ禍前の短期間に大きく増加していたことや、既に受け入れ拡大に向けて技能実習制度や特定技能制度の改正が予定されていること等から、前述した出生率の上昇策に比べて実現可能性が高そうだ。

この政策での課題は、西欧先進国のほとんどや東アジアで少子高齢化が進展し、今後、外国人材獲得競争の激化が避けられないことである。その際に日本にとって鍵となりうるのは永住権の付与である。永住者は在留期間の制限がなく、ほとんどの職業につくことができる。現在の制度では、日本に10年間在留し、そのうち5年間働き(永住資格における就労として扱わない技能実習制度や特定技能1号を除く)、一定の所得(年収300万円程度とされる)がある等の一定の条件を満たすと、申請により永住者となる可能性が高い。米国のグリーンカード等、諸外国の同種の制度と比較して、日本での永住権取得は比較的容易とされる。そのため、在留資格別外国人数の推移を見ると、永住者は最も多く、かつコロナ前もコロナ禍でも増加している(図表2)。

外国人移民の拡大策は長年、日本ではタブーとされてきた。しかし、家族の呼び寄せや会社の転籍が可能で、事実上の移民労働者といえる特定技能制度の2号が大幅に拡大される予定であることから、人口減少、特に生産年齢人口の減少に歯止めがかからない中で少し変わりつつある。今年度にも技能実習制度は大きく改善され、日本入国当初の日本語が不自由な労働者にとって活用しやすい制度となろう。また、技能実習制度で一定期間を終えれば特定技能1号に移行し、その特定技能1号で一定期間を終えれば、今後分野が拡大される特定技能2号へ移行するという流れが、これまで以上に明確になると推察される。

その結果、日本語が不自由な外国人が日本で働くケースで、新しい技能実習、特定技能1号・2号を順調に経ると、合計10年間在留していることとなろう。特定技能2号は永住資格における就労と扱うのかどうかは現時点では不明であるが、将来的には就労とみなされる可能性が高く、特定技能2号を終えた後に外国人材が望めば永住者として認められよう。

このような流れから、将来的には永住者を目指す外国人が大量に増加し、2060年の1億人という国の目標達成や、日本における生産年齢人口の大幅減少を緩和することが予想される。

外国人の永住者の増加は日本社会にとって大きな課題となる。外国人の増加は地域差、企業差が大きいことから、地域や職場によっては半数以上が外国人というところも次々に誕生していく。外国人との共生の必要性は以前より訴えられているが、その共生で求められる水準が今後高まっていく。少数の外国人を多数の日本人が受け入れるケースだけでなく、多数の外国人の中に少数の日本人が入っていくケースも想定される中、これまでの様々な社会経済の制度や慣行を変更していくことが必要だ。特に、外国人の子供への教育や外国人の地域行政への参加等において抜本的な対応が求められよう。

5.前期高齢者の労働参加効果は非常に大きい

前述の少子化対策や外国人材受け入れ策の成果を見通すのは容易ではない。成果があまり出ない可能性も十分想定し、今回の推計結果を前提に、持続可能な社会経済の構築を目指すことになる。

人口面での持続可能性では、100人の生産年齢人口が何人の年少人口と老年人口を支えているかを表す「従属人口指数」に注目したい。従属人口指数が高くなればそれだけ働いて税金を納める人が多い生産年齢人口の負担が重くなり、持続可能性が低くなる。

従属人口指数は1960年代~1990年代に50前後で安定的に推移している。この時期を単純化すれば、働き盛り2人で子供や高齢者を1人支えている「神輿型」だ。しかし、今後の従属人口指数を見ると、2020年代が70前後で比較的安定しているものの、団塊ジュニアが高齢化し生産年齢人口から老年人口に変わる2030年代から大きく上昇し、2070年には92に達する(図表3)。これは働き盛り1人で子供や高齢者を1人支える「肩車型」となり、働き盛りにとっては非常に負担の重い社会といえる。

そこで、仮に75歳以上の後期高齢者のみを老年人口とし、老年人口のうち65~74歳の前期高齢者を生産年齢人口に組み入れてみよう。従属人口指数は、2040代半ばまで50前後で安定し、その後も上昇は緩慢で2070年でも70に達しない(図表7)。この70という従属人口指数の水準は前期高齢者を生産年齢人口に組み入れる前の2020年代の数値とほとんど変わらない。このように、前期高齢者を含めて高齢者の労働参画を高めることは、持続可能な社会経済の構築に向けた大きな一歩になろう。

しかし、高齢者の労働参画を進めるには、体力に応じた柔軟な働き方の導入に加え、年金の補完的な意味合いもある低賃金の労働よりも、高齢者の知見を尊重した賃金の高い労働の増加が欠かせない。そこで、雇用の際に年齢を条件としない、年齢差別禁止法を日本で導入することを提案したい。

年齢差別禁止法を日本で適用する際に課題となるのは、広く定着している定年制等、年齢を基準とした雇用慣行との兼ね合いである。しかし、すでに導入されている諸外国では既存の雇用慣行を考慮した柔軟な制度となっており、年齢差別禁止法導入時の混乱は多くないとされる。2023年の骨太方針では、人口減少の進展により高齢者の労働参加の拡大が必要とする一方、労働移動を促進するために、その障害となる終身雇用の見直し、ジョブ型の導入等の様々な提言がなされている。高齢者においても、長年勤める会社で定年後も長く勤めるだけでなく、ジョブ型の転籍によって活躍の場を移すことも視野に入れるべきであろう。そのためには、年齢差別禁止法について、日本においてはジョブ型の採用時に限定して年齢を問われないようにする等、工夫の余地はあろう。

6.おわりに

新しい将来推計人口について、前回のレポートでは概要とその背景を記し、今回は新しい将来推計人口におけるシミュレーション結果から、「2060年に1億人」を達成するために、少子化対策、外国人材拡大策、高齢者の労働参加策の効果を考察した。

少子化対策ではスウェーデン並みの合計特殊出生率を目指す必要があるが、年齢別出生率では日本は20歳代の出生率がスウェーデンを大きく下回っており、その実現は容易ではない。現在検討されている異次元の少子化対策は子育て支援策の予算規模としては異次元ともいえるものとなっているが、結婚前の対策が今後の課題とされることから、20歳代の出生率上昇には大きな不安が残るからだ。

また、外国人材拡大については、コロナ禍前の趨勢を考えると少子化対策より実現可能性は高く、実際に在留資格制度改善について検討が進んでいる。ただし、先進国や東アジアを中心に人口減少に苦しむ国が増えており、外国人材の国際的な獲得競争の激化が避けられない。特に、日本の賃金は国際的にみて高い水準とは言い難く、昨今の円安はその傾向に拍車をかけている。また、人材難に悩む業界や地域は以前より日本人の賃金水準もあまり高くなく、外国人材拡大のために賃金を容易に上げることが難しいであろう。

一方、高齢者の労働参加策について、前期高齢者を生産年齢人口に組み入れるケースは従属人口指数を見ると劇的な効果がある。従属人口指数は、2040代半ばまで安定的に推移し、その後も上昇は限定的だ。2070年の従属人口指数「70」という水準は、前期高齢者が老年人口のままである2020年代の数値と同水準である。また、前期高齢者は人口減少が進む地域でも比較的多く、労働意欲は高いことから、人口減少対策の中でも比較的有望な政策といえよう。

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