シティ・モビリティ

多様な切り口で都市を繋ぐことで地方都市はどう変わるか?~元つくば市副市長毛塚幹人氏に聞く宇都宮市の取組み~

主任研究員 福嶋 一太

全面新設された「芳賀・宇都宮LRT」が2023年8月に開業し、今後のさらなる発展が期待される宇都宮市。しかし、他の都市と同様に、少子高齢化などに端を発する中心市街地の空洞化や経済・雇用の縮小といった課題も抱えている。この環境を打開するには、多様な人材による、地域の特徴や歴史などを踏まえた独自のまちづくりが求められる。多様な人材を惹きつける複数の個性を持つまちをどのように作るのだろうか。宇都宮市で地域の活性化に取り組む、元つくば市副市長の毛塚幹人氏にそのポイントを伺うと、多様な切り口で普段はつながらないコミュニティを丁寧につないでいくことの重要性が見えてきた。
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1.はじめに

(1)宇都宮市の現状

人口約51万人の宇都宮市は、戦後の工業団地の造成や東北自動車道の開通などにより発展してきた都市で、北関東随一の経済都市である。また、各種大学の開学や、県庁所在地として行政機能を有しており、栃木県の政治・経済・文化の中心地として大きな発展を遂げている街である。特に宇都宮駅から西方面は中心市街地として、「街の顔」としての役割を果たしてきた。

一方、宇都宮市の人口は2018年をピークに、2050年には45万人まで減少する見通しである1。少子高齢化が進行し、2015年は約12万人だった65歳以上の人口が2050年に16万人を超え、2015年は約33万人であった生産年齢人口(20歳以上65歳未満の人口)は、2050年には約24万人に減少する見込みである2

また、中心市街地はモータリゼーションの進展や大型郊外店開業、店舗老朽化といった複合要因により空き店舗が増え、その活力が低下している。そのため、本来中心市街地が持つ、まちの魅力を高め人口を維持する機能を十分に発揮できず、人口流出に歯止めがかからない一因となっている。

(2) LRTの開業をはじめとした宇都宮市の変化


少子高齢化が進み中心市街地活性化が求められる宇都宮市だが、コロナ禍で宇都宮市の人口移動にも変化がみられる。コロナ前後の、2019年度と2022年度の宇都宮市の人口移動を比較すると、特に30代以上の年齢区分で減少幅が縮小しており、子育て世代を中心とした年齢層の増加が目立つ。(《図表1》参照)。その背景には、コロナ禍で増えたリモートワーカーを中心に、東京から新幹線で1時間圏内の都宮駅周辺で住居を構える者が増えている可能性も想定される。


さらに、2023年8月、全国初の全面新設となるLRT(次世代型路面電車:Light Rail Transit)として「芳賀・宇都宮LRT」が開業した。このLRTは宇都宮駅東口から東方面に新設され、芳賀町にある工業団地までの約14キロを結んでいる。LRT沿線では新たなマンションの建設や26年ぶりとなる小学校が新設されるなど3、新たな住民獲得の機会となっている様子を伺うことができる。そして、このLRTは2030年を目途に宇都宮駅西口方面まで延伸される計画であり4、宇都宮市が掲げるネットワーク型コンパクトシティの形成において大きな役割を果たしている。(《図表2》参照)。

このように、少子高齢化が進み、中心市街地が空洞化しつつも、LRTの導入などにより人口移動に変化が見られる宇都宮市ではどのような地域づくりが求められるのだろうか。そのポイントを宇都宮市でまちづくり、スタートアップ支援等に幅広く関わっている、元つくば市副市長の毛塚幹人氏に話を伺った。

2.毛塚氏に聞く宇都宮市のまちづくり

(1)宇都宮市のまちづくりの方向性

現在の宇都宮市のように、東口のような駅から近いエリアの開発が進む一方で、駅から遠いエリアにある中心市街地の集客力が落ちることは経済合理性の観点からやむを得ない側面がある。しかし、経済合理性を追求することで、駅前が発展し、そこから離れた中心市街地が空洞化する、いわゆる「どこにでもある街」になるリスクも存在する。

毛塚氏は、そのような街にならないための対応策として、まず、地域の独自性や歴史等を押し出し、地域住民が関与したくなるまちづくりを行う必要性を指摘する。次に、まちづくりを行政だけに任せるのではなく、地域の民間企業など複数のプレイヤーが参画する重要性も指摘する。

これらの指摘について、具体的にどのような取組みが行われているのかを確認していく。

(2)具体的な取組み

①釜川エリアの地域づくり

宇都宮市の中心市街地で代表的なエリアが「オリオン通り」である。以前はシャッター通りで、その活力を失っていたが、近年は20代、30代を中心に、人通りが戻りつつある。この背景には、コロナ占用特例5によりテラス席を置く店が増加したこと等がある。しかし、オリオン通りだけでは、中心市街地来訪者の多様なニーズに応えることができない。そのため、オリオン通りと周辺地域で役割分担し、街としての魅力を重層的に高める必要があると毛塚氏は指摘する。

その取組みの一つがオリオン通りと並行する釜川エリアのまちづくりである。釜川エリアはオリオン通りからやや離れた場所にあり、川沿いの落ち着いた雰囲気を持つ。そのため、オリオン通りより落ち着いてまちを楽しむことができるエリアである。

この釜川エリアのまちづくりを行っているのが「カマクリ協議会」である。令和2年に発足したこの協議会は、まちづくりの直接的なプレイヤーだけでなく、商店街の代表や行政、研究者も含め多様な参加者で構成されている点に特徴がある。毛塚氏はカマクリ協議会の委員の他、カマクリ協議会の事業の実働を担っている一般社団法人釜川から育む会の理事を務めており、釜川から育む会代表理事の中村周氏などの仲間と活動している。毛塚氏がつくば市の副市長を務めていた際、長らく釜川沿いのまちづくりに取り組んできた釜川から育む会の中村氏から釜川地域の勉強会の講師として登壇依頼があり、釜川エリアやそこに集う人々の魅力に触れたことが宇都宮市にUターンを決めるきっかけになったという。宇都宮市における釜川エリアなど中心市街地の重要性に気づき、宇都宮市で活動を始めるならLRTの開業に伴い地域が劇的に変化する時期を逃してはいけないと考えた。

カマクリ協議会で行った取組の一つが、地域にある雑居ビルに焦点を当てた小冊子「Kamagawa MIXTURE CULTURE」の発行である。今まであまり着目されていなかった雑居ビルにスポットを当てている。冊子ではイラストをふんだんに用い、釜川エリアにある雑居ビルの特徴や店舗など、釜川エリア独特の雰囲気や歴史、文化的魅力を複合的に伝えている。本冊子の作成にあたっては、コアメンバーの他、会員である商店街の店舗からも意見を吸い上げるなど、地域の魅力を発信するために様々な意見を取り入れている。また、デザインや写真は釜川エリアに縁のあるクリエイターのネットワーク作りのために開催してきた交流会「クリエイターズネットワーク」に参加したデザイナーやフォトグラファーが手掛けている。このように、地域を知る多様なメンバーが集い、顔が見える距離感で企画立案・作成まで行うことで、エリア内で今まで着目されていなかった特徴や歴史を深く伝えることができるという。(《図表3》参照)。

また、カマクリ協議会では、廃墟だったビルをリノベーションにより再生した拠点を活用しており、宇都宮市で工業団地企業に勤務するエンジニアと連携しながら子供向けのプログラミング教室を開催している。釜川エリアは夜間と比して日中の人流が少ない中、日中に家族連れでも参加できるような企画となっている。郊外の工業団地の産業を背景に全国から宇都宮市に集まっているエンジニアと地域の接点が強化されることで、新たな地域と住民の関係性が生まれている。

②地域スタートアップ企業支援

地方都市におけるスタートアップの価値は税収や雇用人数だけでなく、働き方の選択肢の多様化やビジネスを通した地域課題の解決にもあると毛塚氏は指摘する。一方で、資金面の問題から宇都宮市のような地域でスタートアップを起業し、成長させる難しさもあるという。宇都宮市のような地方都市ではベンチャーキャピタルがあまりなく、資金調達の際は融資か、出資については東京のベンチャーキャピタルから提供を受けるケースもある。そのため、スタートアップ企業が成長するにつれ東京のベンチャーキャピタルとの連携が密になり、徐々に東京に軸足が移り、本社が東京近郊に移転してしまうケースもあるという。

このような地方都市のスタートアップエコシステムの課題を補うため、毛塚氏は主に宇都宮市出身でスタートアップ企業を成功に導いた経営者と、これから事業を拡大しようとするスタートアップ企業の接点強化に向けた取組みを進めている。すでに成功した企業による支援や、地域との接点強化を狙っている。

この取組みをコロナ禍で導入が進んだリモートワークも後押しする。リモートワークの進展により東京で活躍する地元出身の経営者や起業とのコミュニケーションが容易になったことに加え、宇都宮に住みながら東京の仕事ができる機会も増えたという。逆に、東京に住みながら宇都宮の仕事ができる人材も増えており、市場が大きい東京で仕事をしながら、宇都宮市に軸足を残す選択肢が増えている。

しかし、このような接点強化だけではなく、重要なのは魅力的なまちづくりだと毛塚氏はいう。独自色のあるまちづくりを行うことで、多様な人材を引き付け、地域に根差した人材を育むことができる環境を整えることが、その地域で民間企業が発展していくために求められているという。

3.むすび

多様性のあるまちづくりには、経済合理性を重視した画一的な取組みではなく、地域に根差し、地域の特徴や歴史を捉えることが求められている。そのためには、多様な参加者によるまちづくりが必要であり、参加者それぞれの顔が見える密な距離感が必要ではないだろうか。実際、毛塚氏と釜川エリアを歩いている際、飲食店の店主から「毛塚さん、ちょっと小冊子のことで相談があるけれど大丈夫?」と呼び止められる場面があった。その地域の人材と丁寧に顔が見える関係を積み上げる取組みを行っている証左であろう。

そして、多様性のあるまちは、多様な人材を呼び込む。人材と地域の接点が強化されることで、地域の民間企業を支える人材が育ち、経済的発展と雇用を創出し、地域活性化につながるはずだ。多様な人材が集えば、それだけ街に求められる魅力は多様なものになる。街に個性を複合的に持たせることで、地域に根差した人材や民間企業を育成する土台を作る、そのような観点から、普段は繋がりにくいコミュニティを多様な切り口で繋げていくことはまちづくりにおいて重要なポイントであろう。

宇都宮市は東口に開業した芳賀・宇都宮LRTにより大きな変化を迎えている。現在は東口の開発が進むLRTであるが、2030年頃を目途に現在の中心市街地付近まで延伸される予定である。このLRT導入効果を最大限発揮するためにも、中心市街地活性化を軸とした多様性のあるまちづくりの推進が求められる。

  • 宇都宮市「未来都市うつのみや 第 6 次宇都宮市総合計画」( 2018 年 3 月)
  • 同上。
  • 芳賀・宇都宮 LRT 公式ホームページ< https://u movenext.net/westside/ > (visited on Oct 17,2023)
  • 日本経済新聞「宇都宮LRT、栃木再生への期待乗せ発車」(2023年8月28日)
  • 賑わい創出やコロナ禍での屋外営業の推進等の目的から、道路占有許可基準を緩和する特例。正式名称は「「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱いについて」。

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