シティ・モビリティ

駅前大橋ルートと循環線は中心市街地を再生するのか
~「職住遊近接」から読み解く広島市のまちづくり~

上級研究員 福嶋 一太

広島市では、路面電車の再編と駅前再開発が複合的に進んでいる。2025年8月に駅前大橋ルート・2026年3月に循環線が開業し、2025年3月にリニューアルされた駅ビルは、駅前の商業機能を大幅に強化した。
その一方で従来の中心市街地の活性化は十分とは言えない。そこで広島市は、駅前と中心市街地の活性化をもたらす「2正面作戦」を展開しているが不確実性が残る。中長期的なまちづくりの観点から「職住遊近接」の視点を取り入れ、生活の場として中心市街地を再構成していくことが求められる。
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1.路面電車のエキナカ出発で大きく変わった広島駅

広島市では近年、路面電車網の再編と駅前再開発が一体的に進められている。2025年3月に開業した新駅ビルは、商業機能を大幅に拡充した施設であり、飲食・物販を中心に多数のテナントが入居している。これにより、広島駅は単なる乗換拠点ではなく、滞在や消費を伴う空間へ変わった。
続いて同年8月には「駅前大橋ルート」が開業し、路面電車がJR広島駅のある新駅ビルへ直接乗り入れる構造へと転換した。従来は駅前から電停まで一定距離を歩く必要があり、特に初めて訪れる人にとって分かりにくい動線となっていたが、現在はJR改札から路面電車への乗り換えが同一フロアで完結する。全国的に見て非常に稀有な事例といえよう。この結果、「広島駅に着けばそのまま中心市街地へ行ける」構造になった点が重要である。

≪図表1≫広島駅の様子

(写真左)路面電車の乗り場は従来の1階からJRと同じフロアの2階に移動した。

(写真右)電停はホームが行先別にA~Dに分かれておりわかりやすい。写真はいずれも現地にて当社撮影。

2.なぜ広島駅は強化されたのか ~市長発言にみる政策の前提~

この再編の背景には、人口減少社会への対応という問題意識がある。この点について、駅前大橋ルート開業を間近に控えた広島市長の記者会見1を紐解いてみよう。

市長は、公共交通を通じて人やモノの移動を活性化し、地域の活力を維持することで、地域の愛着を高めて住民に住み続けてもらえる都市を形成する必要性を指摘している。
 確かに、広島市の人口(住民基本台帳による各年3月31日のもの)は、2019年の119万4,524人をピークに徐々に減少しており、2025年は117万275人に至っている。
 その背景の一つが転出超過であり(図表1)、2025年の転入超過数は人口がピーク時の2019年より大きく減少している。とりわけ、日本人の転出超過数は大きく拡大している

≪図表2≫広島市の転入超過数(日本人)

(出典)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(各年版)より、当社作成

一方、同じ会見では、「とりわけ南口は、これから新幹線を通じて、九州方面、あるいは関西方面から来るお客さんが最初に乗り入れる場所で」という表現で、広島駅南口が新幹線利用者の玄関口であることに言及し、駅周辺の利便性向上や都市構造の変化を新幹線による来訪者に直接体感してもらうことの重要性も強調されている。

ここで重要なのは、今回の取り組みの目的が「住民が住み続けるための交通」と「新幹線による来訪者に便利な交通」の両方になっていることである。広島市は他の大都市と比較して中心市街地などの都心居住が多いことを考えると、ここでいう主な「住民」は都心の住民と理解するのが妥当であろう。つまり、都心に住む住民と新幹線による来訪者という、属性が違う二兎を追う戦略といえる。
 さらに、今回のような広島駅周辺の再開発が進んでいる中で、紙屋町・八丁堀といった中心市街地が沈滞している現状への対応について問われた際には、駅前と中心市街地を競争関係として捉え、駅前の整備が中心市街地側の奮起を促すとの認識が示されている。いわば、広島駅周辺と中心市街地の二兎を追うまちづくりが今後の広島市の方向性といえよう。
 しかし、記者会見からは、広島駅周辺と中心市街地の両者をどのように役割分担させ、相乗的に発展させるのかといったまちづくりの方向性は明確には示されていない。つまり、都心において「住民の定着」を掲げながら、中心市街地の活性化策は曖昧なままとなっていることから、今回の施策としては「新幹線による来訪者の利便性向上」に重心が置かれている可能性がある。このズレは、今回の施策の効果を評価するうえで重要な前提となる。

3.広島の都市構造 ~東西2つの拠点の存在~

このズレを生じさせた要因の一つが広島市の都市構造にある。広島市の中心市街地といえば、商業施設・オフィスが集積する紙屋町・八丁堀を中心とするエリアであった。これまで広島駅はあくまで広域交通の結節点の機能を担う一方で、広島駅周辺はMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島が広島駅徒歩圏に2009年開業するまでは、再開発があまり進んでいないエリアであった。
 しかし近年、この二つの地域の関係に変化が生じている。広島駅周辺では大規模再開発が進み、駅ビルの開発をはじめとした商業施設のオープンが相次ぎ、タワーマンションが建設され、都市機能が大幅に強化されている。一方、中心市街地では、紙屋町や八丁堀といったエリアを買い物先として選択する人が低下しており、商業的な求心力が著しく低下している。また、中心市街地の再開発も、商業施設からオフィス中心へと軸足が移りつつある。しかし、人口減少や生産年齢人口の減少を踏まえると、オフィス需要の中長期での拡大を見込むことは難しい。
 この結果、広島駅周辺は活況を呈する一方で、中心市街地の活性化が遅れるという構図が進行している。
このような状況の中で進められているのが、広島駅周辺と中心市街地の双方を活性化させる「二正面作戦」である。しかし、この前提には複数の制約がある。
 まず、公共交通の整備がそのまま商業の活性化につながるとは限らない。広島ではこれまでも交通結節点を活用した施策が行われてきた。例えば、郊外にあるJ1サンフレッチェの以前のホームスタジアム「ビッグアーチ」と中心市街地を結ぶ「アストラムライン」という鉄道の始発駅を中心市街地にある紙屋町の地下街「シャレオ」に設けた。しかし、シャレオでは売上の減少が続いているなど、交通利便性の向上が直接的なにぎわい回復にあまりつながっていない。また、前述のように、オフィスを軸とした再開発についても、中長期的な需要に不確実性がある。
 加えて、広島駅周辺と中心市街地のエリア間競争が激化する中で、両立できない可能性もある。駅前の機能が強化されれば、人の流れが広島駅周辺にとどまり、中心市街地まで及ばないことも考えられる。 
これらを踏まえると、二正面作戦は不確実性が残る。

4.広島市にとって中心市街地に住むことは重要

では、これまで苦戦してきた中心市街地の再生に向けて何が必要なのか。
 ここまで見てきたように、従来の中心市街地は商業やオフィスといった来訪者依存の機能によって支えられてきた。しかし、消費行動の変化や人口減少の進行により、このモデルは持続可能性を問われている。商業については郊外化やECの拡大により集客力が低下し、オフィスについても前述のように、中長期の需要の拡大は期待しにくい。つまり、外部から人を呼び込むことで都市を維持する構造には限界がある。
 そのため、大都市における人口減少時代のまちづくりでは外部依存から内部循環へと構造を転換していく必要がある。この観点から重要となるのが「職住遊近接」である。中心市街地において働く・住む・日常生活を送る機能が近接することで、来訪者に過度に依存しない都市構造を形成することができる。何より、住民という固い需要を背景に外食などのサービス業の活性化も期待できる。

広島市は中心市街地の人口が他の大都市に比べて多く、路面電車によって日常的な移動がしやすいという特性を持つ。また、広島市の人口がピークであった2019年と直近の2025年を比較すると、広島市の中区以外の区は減少している中で、中心市街地を抱える中区の人口は微増しているように(図表3)、広島市の中心市街地はいまなお住むことに魅力がある。中心市街地への居住の魅力増進は中心市街地活性化に向けた有力な選択肢の一つであろう。

≪図表3≫広島市の転入超過数(日本人)

(出典)広島市HP「区別・高齢者人口の推移(各年3月31日現在)」より、当社作成

5.「職住遊近接」の観点から見た循環線の意味

この視点から見ると、2026年3月に導入された循環線の役割は単なる交通機能にとどまらない。

この循環線は、広電本社前を起点として、比治山エリアと中心市街地を結ぶ形で運行され、中心市街地を抱える広島市中区の多くをカバーする運行エリアとなっている。
 中区の様々な都市機能へのアクセスがより便利になれば、循環線沿線に住まう魅力が増す。例えば、今回循環線沿線となる比治山エリアに含まれる段原地区は、広島駅や中心市街地から一定の距離にある。そのため、路面電車やバスによるアクセスは確保されているものの、紙屋町・八丁堀周辺と比べると日常的な人の動きの流れに乗りにくい位置にある。
 このため、目的をもって訪れる場所となりやすく、中心市街地内の移動の中で立ち寄る形の利用は必ずしも多くない。
 一方で段原地区の人口は増加しており、近隣にMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島が開業した2009年と比較して、2026年1月末で約50%増加 している。

《図表4》駅前大橋ルートと循環線

(出典)広島電鉄ホームページ

そして、今回の循環線の導入により、こうした人口が増加している居住地域を中心市街地への移動の中に組み込むことが期待されている。
 ただし、現状の運行条件ではその効果は限定的であろう。循環線では内回り・外回りの2系統が設定されているが、運行は平日・土休日の9時~16時に限られ、運行間隔も平日は約25分間隔、休日は約45分間隔であり、1時間に1本から2本の運行頻度とされている。間隔が空きすぎているうえ、時間ごとに出発時刻が違い、時刻表が覚えにくい。これでは日常的な移動手段として十分とは言い難いだろう。
 したがって、循環線を職住遊近接の観点から中心市街地の強化に活かすためには、運行頻度の向上は重要な要素の一つになるだろう。

《図表5》循環線の様子と時刻表

(写真左)循環線の様子。乗車数の多い広島港行や宮島口行は3両編成だが、循環線は1両編成となっている。
(写真右)循環線(比治山下)の実際のダイヤ。同駅の広島港行の運行本数は5本/時(平日10時~15時)であり、これと  比較しても循環線の運行本数は少ない。写真はいずれも現地にて当社撮影。

6.まとめ

今回の駅前大橋ルートと循環線の導入は、広島市の構造を短期的に変えるものではないが、中長期的には大きく変える可能性を含むものである。中心市街地を来訪者のための空間として維持するのか、それとも居住を含めた生活の場として再構成するのか。この選択によって、今後の都市の在り方は大きく変わるのではないだろうか。
 実は中心市街地でも、既に「職住遊近接」に向けた取り組みが始まりつつある。例えば、「広島八丁堀3・7地区市街地再開発事業」では、オフィスや教育機関などが入る2つのオフィス棟に加えて、高さ100メートル以上の住宅棟が予定されている。今後は、循環線の運用や再開発の方向性を通じて、「職住遊近接」にどこまで踏み込めるかが、広島市の中心市街の行方を左右しそうだ。

  • 2025年7月2日市長記者会見「路面電車駅前大橋ルートの開業について」<https://www.city.hiroshima.lg.jp/mayor/press/1039497/1041644.html>(2026年3月31日訪問)
  • 広島市「住民基本台帳による町丁目・大字別人口及び世帯」より、2009年1月現在と2026年1月現在の比較。

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