シティ・モビリティ

鉄道を起点とした都心の巨大なまちづくり、成功の鍵を握る3つの特徴
~高輪ゲートウェイシティがオープン~

上級研究員 福嶋 一太

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東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、2025年3月27日に「高輪ゲートウェイシティ」をまちびらきした。近年の都心再開発では都内最大級であり、敷地面積は2023年開業の麻布台ヒルズを凌駕する。また、JR東日本としても、高輪ゲートウェイシティは過去に経験のない大規模なまちづくりであり、コロナ禍以降のリモートワークの一定の定着と人口減少によって鉄道事業の将来に不安が高まる中、社運を賭けた事業といえる。
 高輪ゲートウェイシティは大きく5つの建物から構成され、今回開業するのは「THE LINKPILLAR1 NORTH/SOUTH」だ。この建物は国際交流拠点の象徴となるツインタワーで、オフィスのほか、国際会議の誘致に対応可能な大規模コンベンションを有している。
その他の施設は今後、続々と開業し、全面開業となる「グランドオープン」が2026年春に予定されている。まず、2025年秋ごろにはJWマリオット・ホテル東京が、JR東日本の連結子会社であるルミネが運営する商業施設「NEWoMan高輪」がそれぞれ開業する。
 2026年春に開業予定は目白押しだ。高輪ゲートウェイ駅近隣にある京急・都営泉岳寺駅隣接の大規模複合施設「THE LINKPILLAR 2」は、オフィス・商業施設を備えるほか、クリニックやフィットネスを併設し、ビジネスワーカーの暮らしを支える役割を担う。
高輪ゲートウェイシティはオフィスや商業施設だけのまちではない。「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」では主に外国人ビジネスワーカーに対応した国際水準の高層賃貸住居が約870戸用意され、低層階には外国人ビジネスワーカーの子供たち向けにインターナショナルスクールが開校予定だ。周囲にはビオトープが配置され、都会の中にいながら自然を感じることができる住環境を提供する。そのほか、1,200人収容可能なライブ・パフォーマンス空間を有する複合文化施設である「MoN Takanawa」も含め、THE LINKPILLAR 2以下の施設の開業は2026年春の予定である。
 また、高輪ゲートウェイシティは「100年先の心豊かな暮らしのための実験場」を掲げている。イベントデータ、在室情報、防犯カメラ、地図基盤等から集めたデータと、JR東日本がもつ鉄道に関する人流データやSuicaのデータが都市OSに集約される。この都市OSの仕組みを活用すると、人の混雑を避けて移動するロボットデリバリーや、Suicaで改札を通過するとそれに反応して居室の冷暖房が付くような仕組みが実現可能となる。
 これらから、高輪ゲートウェイシティの特徴として「グローバル」、「デジタル志向」、「職住遊近接」の3点があげられよう。

特徴1~「グローバル」

近隣の品川駅から国際空港機能を有する羽田空港まで鉄道で15分と至近で、グローバルビジネスを目指す企業にとって利便性が高い。また、海外からのMICEの誘致を行いやすい。さらに、品川駅は東海道新幹線の停車駅になっているほか、将来開業するリニアの始発駅であり、ヒトの流れは今後確実に高まることと予想される。
 つまり、品川駅から田町駅の間にあった車両基地を活用したこのまちは、品川駅エリアと一体となり、巨大な経済圏を構成するだけでなく、グローバルなビジネスを志向するビジネスパーソンの集積地として高輪ゲートウェイシティを開発し、ここに日本と世界をつなぐハブ機能を持たせようとしているといえる。

特徴2~「デジタル志向」

高輪ゲートウェイシティでは、参画する事業者が都市OSのデータを活用して実証実験を行い新たなサービスを開発することで、超長期にわたる持続可能な暮らしの実現につなげる構想となっている。デジタル志向が豊かな暮らしをもたらすだけでなく、企業にも豊かなビジネスチャンスをもたらす。2025年秋にまちびらきとなるトヨタ自動車が運営するウーブンシティのように、デジタル志向を生かしたまちづくりは企業の将来を占う巨大なビジネスとなりつつあり、JR東日本は高輪ゲートウェイシティでその巨大ビジネスへ挑戦することになろう。そのため、高輪ゲートウェイシティでは、デジタル分野のスタートアップ企業のビジネス環境を意識した、インキュベーション施設や大学とのコラボスペースが目立つ。

特徴3~「職住遊近接」

収益重視の再開発ではオフィスや商業施設が重視されがちだが、就業者人口の減少が続く中、オフィスを巡る競争は激化の一途であり、また、ネットショッピング全盛時代に来街者に依存する物販メインのリアル店舗には限界がある。そのため、まちの住人の実需こそまちの実力を決める時代が到来しつつあり、職住遊近接を疎かにしたまちづくりに将来性は感じにくい。そもそも、持続可能な未来志向のライフスタイルにおいて、鉄道をメインとした長時間通勤はあまり似つかわしくないであろう。
 現段階の高輪ゲートウェイシティに限れば、住居機能はそれほど充実しているわけではない。しかし、高輪エリアは山手線沿線では住宅が比較的多いことで知られている。高輪ゲートウェイシティがさきがけとなって、近隣エリアにおいて高輪ゲートウェイシティで働くビジネスマン向け住宅が続々と開発されるのであれば、高輪ゲートウェイシティ内のオフィスや商業施設の優位性が高まろう。

また、職住遊近接でいえば、今回の再開発は大阪駅周辺で進む巨大再開発と比較されよう。高輪ゲートウェイシティと同じく、都心のJR駅に直結したエリアとなる、梅田貨物駅付近のコンテナヤードを活用した巨大再開発は、2027年の「グリーングラン大阪」の全面開業で一段落する予定である。この「グリーングラン大阪」の大きな特徴は、JR大阪駅直結の一等地に巨大な緑地が設けられていることにある。この緑地は大きな話題となっているため、隣接エリアでは住居エリアとしての人気が高まり、住宅建設ラッシュとなっている。職住遊近接のまちづくりは、グローバル化・デジタル志向によってもたらされるのか、これまでの巨大再開発の常識に反する巨大な緑地が呼び水となってもたらされるのか、非常に興味深く、今後に注目したい。

<図表>高輪ゲートウェイシティの様子

(写真左)高輪ゲート右傾シティの中心広場。各種イベントが開催されるほか、キッチンカーが出店し、購入した飲食物を配送するロボットも今後運用開始予定である。なお、左側の木製の台は高輪ゲートウェイシティ内の移動に使用されるモビリティで、現在実証実験中である。
(写真右)今後開業予定の「MoN Takanawa」(中央)、「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」(右)の完成予想図。

(写真左)コンベンションホールの様子。様々な規模に対応可能なホールが用意されており、MICE推進に向けた施設となっている。
(写真中央)コンベンションホール脇にはトラベルセンターが設けられており、施設内や、周辺地域の観光案内を行っている。窓口には英語で表記されるプロンプタも設置され、海外からの利用客を意図している。
(写真右)バーカウンターやDJブースを設置することができるイベントスペースも完備されている。

(写真左)高輪ゲートウェイ駅も今回のまちびらきに合わせて様々な機能が追加されている。写真は商品をスキャンすることなくレジで支払いをすることができる駅ナカのコンビニ。商品を手に取ってレジに立つと、購入金額が自動で表示される。
(写真右)駅内に設置された人工芝で作られたスペース。座るだけでなく、横になったりすることも可能で、フリーな集いの場としての機能を果たしている。

(出典)現地にて当社撮影

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