大井町トラックス開業
~品川広域圏の動きの中で見る大井町駅前~
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2026年3月28日、大井町駅直結の複合施設「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」が開業した。JR東日本が品川駅に近い高輪ゲートウェイ駅、大井町駅、浜松町駅、田町駅周辺で進める「広域品川圏」のまちづくりの一環であり、同日には「TAKANAWA GATEWAY CITY」もグランドオープンしている(住居棟である「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」は2026年4月以降入居可能)。品川駅を中心に、浜松町から大井町までを広く捉えながら拠点整備を進める中で、大井町駅前にも新たな拠点が加わった。品川駅を始発とするリニア中央新幹線の開業が当初予定の2027年より大きく遅れるという「向かい風」がある中、JR東日本の一連のまちづくりが品川周辺にどのような変化をもたらすのか注目される。
OIMACHI TRACKSは、商業、ホテル、シネマ、レジデンス、オフィス・カンファレンスなどで構成される駅直結の複合施設である。低層部の商業施設には約80店舗が入るとされ、買い物や食事だけでなく、働く、滞在する、集まるといった複数の使い方を駅前で受け止める施設として整備された。
《図表1》大井町トラックスの概観


(写真左)大井町トラックス「HOTEL & RESIDENCE TOWER」の様子。店舗、ホテル(一般観光客・ビジネスパーソン向け宿泊施設に加えて、高級賃貸レジデンスタイプを含む)が入る。
(写真右)新たにJR大井町に開設された「トラックス口」は大井町トラックスと駅を直結している。いずれの写真も現地にて筆者撮影。
大井町トラックスの開業は単に新しい施設ができたという話にとどまらない。大井町駅は、JR京浜東北線、りんかい線、東急大井町線が接続する交通の結節点であり、かつ東京都内では10位前後の乗降客数を誇る品川駅からわずか一駅のところにある。一方、駅から数分歩けば住宅街が広がっており、その中にはゼームス坂を中心とした高級住宅街や品川区役所方面のタワーマンションも含まれる。そして、これらを支えるスーパーや駅ビルといった商業施設が豊富で、大井町駅は通勤、通学、買い物、乗り換えといった日常利用において利便性が高い。だからこそ、この駅前の複合施設が意義は、周辺住民の日常利用シーンにどのような機能が加わるかという点にある。
こうした点から見ると、大井町トラックスの開業は、大井町周辺の滞在時間を長くする可能性がある。飲食、物販、映画、宿泊といった施設機能に加え、広場や歩行者デッキなどのパブリックスペースが整備されたことで、駅前に立ち寄り、過ごすための場が目に見える形で増えたからだ。大井町トラックスには、地域の交流の場となる「TRACKS PARK」、人が行き交う結節点となる「CROSS PLAZA」、駅直結で待ち合わせにも使いやすい「STATION PLAZA」などが設けられている。これまで駅前は、地域住民にとって主に「電車に乗る場所」として使われてきた面があったが、こうした空間の整備によって、人が立ち寄り、集まり、時間を過ごす場所としての性格が強まりそうだ。
《図表2》大井町トラックスの開業時の様子


(写真左)TRACKS PARKの様子。家族連れなどが集う芝生が用意されている。
(写真右)CROSS PLAZAの様子。いずれも現地にて筆者撮影。
また大井町トラックスは、にぎわいの創出だけを目的とした施設ではない。JR東日本の公表資料によれば、非常用発電機を備え、約3,000人の帰宅困難者が72時間滞在可能な施設とされている。駅前再開発では商業性や集客力に目が向きやすいが、利用者の多い交通結節点では、防災面での対応力も駅前機能の一部として見ておきたい。
環境面の取り組みも特徴の一つである。JR東日本と東京ガスは、共用部へのカーボンオフセット都市ガスの採用に加え、商業施設の入居企業や賃貸レジデンスの入居者の専用部で選択可能な仕組みを導入するとしている。駅前開発を単なる床の供給ではなく、防災や環境も含めたまちづくりの一部として見せようとする姿勢がうかがえる。
ここで高輪ゲートウェイシティにも触れておきたい。同じ2026年3月28日に高輪と大井町がそろって動いたことは、大井町トラックスの開業を単独で見るのではなく、JR東日本が品川周辺で複数の拠点を動かしているといえよう。高輪では、大企業本社やスタートアップなどを想定したハイグレードオフィスやコンベンション施設、入居企業が他の企業、金融機関・自治体・大学などと連携して新たなビジネスを追求できる「ビジネス創造施設」に加え、文化創造・発信施設「MoN Takanawa」や高級賃貸をメインとする住居棟の整備が進む。高輪が業務、文化、居住にこれまでにない特徴を追加する場所だとすれば、大井町駅周辺は日常利用のシーンが多い、より暮らしや移動に近い変化を担う場所といえる。両者の規模・役割は異なるが、品川周辺の都市機能が増えるという点では共通している。
今後の見どころは、施設そのものの集客だけではない。大井町トラックスが駅前に加わったことで、人の流れがどこまで広がり、駅前全体の使われ方にどのような変化が生まれるかが重要になる。大井町の駅前がすぐに別の街になるわけではないが、日常利用のシーンが目立つ駅前に新しい機能が重なったことは確かであり、その積み重ねがこれからの駅前の特徴を少しずつ変えていく可能性がある。
大井町トラックスの開業は、品川周辺で進むJR東日本のまちづくりの一場面であると同時に、大井町駅周辺のこれからを考える材料でもある。高輪ゲートウェイシティのような大規模開発が広域的な注目を集める中で、大井町駅では、毎日のように使われる駅周辺にどのような機能が加わり、どれだけ使いやすさや滞在のしやすさが高まるかが問われていく。今回の開業は、その変化の入口として見ておきたい。