求められる交通結節点の再定義~羽田空港アクセス線と南北線延伸から見る今後の都市計画~
現在、東京都心の交通インフラは大きな転換期を迎えている。中でも注目されるのが、羽田空港と東京都心・広域圏を結ぶJR東日本の「羽田空港アクセス線(東山手ルート)」と、東京メトロが構想する「南北線の品川駅延伸」である。まずはそれぞれの概要を確認したい。
東山手ルート──都心直通×国際空港アクセスの変革
羽田空港アクセス線1は、羽田空港と首都圏各方面を結ぶJR東日本の新たな路線で、既存の貨物線である「大汐線」を活用する形で整備される。複数あるルートのうち、「東山手ルート」は、東京駅を起点に、常磐線・宇都宮線・高崎線などの東北方面と接続しながら、新橋駅を経由して羽田空港の新駅(地下駅)へと至る。東京駅〜羽田空港間の所要時間は約18分とされ、従来のモノレールや京急線経由の所要時間(30分以上)を大幅に短縮する。
さらに、宇都宮線・高崎線・常磐線との直通運転により、北関東方面と羽田空港がダイレクトに結ばれることで、乗換等の煩雑さが大幅に軽減される。これは、東京駅周辺のターミナルに一極集中していたアクセス構造が分散・多極化されることを意味する。都心を介さずに広域圏と空港を結ぶ新たな都市交通の軸を形成することで、移動の選択肢が増え、混雑やトラブルへの強さも備えた、より柔軟で使いやすいネットワークが実現されるという点で、大きな意義を持つ。
【図表1】東山手ルートの概要

(出典)JR東日本ホームページ
南北線の品川延伸──リニア時代に対応する地下鉄網の再編
東京メトロ南北線は、東京都北区の赤羽岩淵駅を起点に、文京区、港区を南下して目黒駅に至る南北方向の地下鉄である。沿線には北区・板橋区・文京区といった住宅地や文教地区が多く、東京北西部における通勤・通学路線として機能している。今回計画されている、目黒駅〜白金高輪駅〜品川駅に整備される延伸区間(約2.5km)は、東京の南北を接続する軸を新たに構築し、文京区・北区・板橋区などの東京北西部と品川駅のアクセスを大きく向上させることになる。
今回南北線が接続される予定の品川駅は、山手線・京浜東北線・東海道新幹線に加えて、今後開業予定のリニア中央新幹線の始発駅として位置づけられている。リニアが開業すれば、品川駅〜名古屋駅が40分、将来的には品川駅〜大阪駅が67分という超高速移動が可能になる。南北線の延伸は、そうしたリニア時代への対応として、東京北西部とリニアの玄関口である品川駅を直接つなぐ意義があるプロジェクトといえる。
【図表2】東京メトロ南北線のルート

(出典)東京メトロホームページより
両者は一見すると、空港アクセスの改善と地下鉄の延伸という異なる目的を有する計画に見える。しかし、両者はともに飛行機やリニア中央新幹線といった高速・広域な移動を可能とする交通手段が集積するエリアへ、従来の交通ネットワークを接続するという共通の構造的意図を内包していると捉えることができる。
求められる交通結節点の再定義
従来、交通結節点は、通勤時の乗換利便性や、オフィスの集積度等によって評価されていた。しかし、これらの動きを踏まえると、今後の交通結節点には、「飛行機・リニア」といった高速・広域移動手段への接続優位性と、これを活用したビジネス、観光、文化、イノベーションの機能を複合的に集積・発信する機能が求められるだろう(【図表3】参照)。
【図表3】従来の交通結節点と将来の交通結節点の比較

(出典)各種資料より当社作成
実際、羽田空港周辺では「羽田イノベーションシティ」が稼働し始め、品川周辺では高輪ゲートウェイを中心とした国際ビジネス・MICE対応拠点の形成が進む。これらのエリアは今後、単なる「通過点」ではなく、「目的地」としての価値を持つ複合都市として進化していくだろう。
つまり、羽田アクセス線と南北線延伸は、その交通結節点単独での発展を狙っているものではなく、羽田や品川を中心に都市間をつなぐ交通軸を強化し、そこに交通結節点を集約しすることで、面で成長していく都市戦略ととらえることができるだろう。
交通インフラは、単なる移動の手段ではなく、都市を形成する骨格である。羽田空港アクセス線と南北線延伸は、その骨格を再構築し、東京という都市を進化させるための戦略的投資と位置づけることができるのではないだろうか。今後、羽田空港や品川駅などのリニア発着駅を中心としたまちづくりに注目していく必要があるだろう。
- 羽田空港アクセス線の臨海部ルートは「羽田空港アクセス線「臨海部ルート」2031年度開業にむけ調整
~交通結節点として開発が進む新木場などの臨海部エリアの開発に注目が集まる~」を参照。