日本の自動運転レベル4はどこまで進んだか(6)
~なぜ、海外製のバスが目立つ? 普及台数増には国内の市場形成、車両生産・整備拠点増に政策的支援を~
※本連載「日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか」の発行済みの号はこちらです↓↓
(1)マイルストーンの2025年、国交省は補助金の減額で自治体の自立を促す
(2)認可取得で先行する限定空間・みなし公道編
(3)BRT編/専用道を持つ高速の路線バスBus Rapid Transit~
(4)国交省補助金の在り方を財務省が指摘、「実験しただけ」で終わらないスキームの構築へ
(5)見えてきた日本式のバス活用:地域の人的リソースの再配分と車両の大型化を目指す
※その他、国内外の自動運転やモビリティに関するレポートは【こちらをクリック】
今回は、日本国内の自動運転バスに使われる車両に注目してみたいと思います。
11月末、大阪・関西万博の会期中に事故を起こしたことで注目を集めたEVモーターズ・ジャパンのバスに※1、国土交通省からリコールが発出されました※2。同社は北九州に本社を置く日本企業で※3、将来的には国内での車両組み立てを計画しているものの、自社組立工場は建設中であり、これまでは中国の工場で委託生産されたバスを輸入販売していました※4。
8月末、東京の八王子市で街路樹への衝突事故を起こした自動運転バスも中国製でした。販売元のアルファバス・ジャパンは※5、加賀電子傘下のエクセルと江蘇常隆客車による合弁で立ち上げられた日本企業ですが、中国で製造されたEVバスを輸入販売している会社です。
なぜ日本の自動運転では、中国製をはじめとした海外製の車両が台頭するようになったのでしょうか?
大きな理由として、近年、日本各地で実証実験が展開されるように車両調達のニーズが高まった中で、国産車の選択肢がほとんど無かったことが挙げられます。自動運転車の調達には、以下の2パターンがありますが、いずれのパターンでも直近までは国産車の入手が難しい状況にありました:
■パターン1.市販車にセンサーやシステム等を取り付け、改造で自動運転仕様にする
■パターン2.自動運転専用車として設計・製造された車両を用いる

※本稿の画像はすべて筆者撮影
【左上】大阪・関西万博/EVモーターズジャパン製
【右上】八王子市/アルファバス製
【左下】岐阜市/NAVYA製ARMA
【右下】多気町/AuvTech製MiCa
パターン1.市販車にセンサーやシステム等を取り付け、改造で自動運転仕様にする
日本国内には、東大発の先進モビリティ、名古屋大発のティアフォー、金沢大発のMoveZEといった自動運転システムを開発するスタートアップが存在し、群馬大や埼玉工業大でも自動運転システムの研究開発が行われています。こうした国産のシステムを搭載して自動運転バスに改造するためには、土台となる車両を調達する必要があります。
しかし、日本で手に入る市販車のラインナップは限られています(下表参照)。
特に小型・中型のBEV仕様のバスでは国産がありません。 走るコンピューターとも呼べる自動運転車では電気で走るBEVが採用されることが多く、また将来の公共交通として環境負荷を軽減する観点からもBEVが採用されることがあります。そうすると中国製のバスがベース車両として候補に挙がってくるわけです。
小型バスでは、国産車では日野のポンチョしか選択肢しかありません。 ポンチョは自治体のコミュニティバスに多く採用されている車両で、地域の足として自動運転の実証実験に取り組む自治体では、このような小回りの利く小型バスへのニーズが高い状況です。日野からは2022年にBEV仕様の「ポンチョZ EV」の発売計画がありましたが※6、製造を受託予定だった中国BYDが六価クロムを製造工程に使用していたことが発覚し※7、発売凍結となってしまいました※8。
ジャパン・モビリティーショー2025で、日野はコンセプト車としてBEV仕様のポンチョを発表しました。将来的には自動運転レベル4に活用されることも想定した展示内容で、再度、市場投入に挑むのかどうかが注目されます。
大型バスでも、BEV仕様のいすゞ「エルガEV」は2024年5月※9、日野の「ブルーリボンZ EV」は2024年10月※10に新発売となった車両です。 これを自動運転仕様に改造した実証実験は、2025年秋からやっと始まったところで、それ以前は中国製の車両しか選択肢がありませんでした。したがって、大阪・関西万博がそうであったように、輸入車への依存度が高くならざるを得なかったわけです。
今後は、国産車へのニーズが高まることが予想されますが、いすゞの「エルガEV」は約5,980万円(税抜き)で※9、BYDのK8が3,850万(税抜き)※11で発売されたことを踏まえると、依然、中国製との価格差は大きいものです。ただし、政府の商用車等の電動化促進事業により、下表のいずれのメーカーのバスでも、車両価格の3~4割相当の購入補助金を受給できるため、負担額は軽減されます※12 。
<表:路線バス用途で設計された主な市販車両のラインナップ>

≪Tokyo Mobility Show2025にて≫
■日野「ポンチョ」のBEVコンセプトカー
バス用途・配送用途のいずれにも車内を架装できる。

■いすゞ「エルガEV」ベースの自動運転バス

※バスには、路線バスのほかに、高速バス・観光バス用の車両、送迎用のマイクロバス等も存在するが、この表には含まない。
パターン2.自動運転専用車として設計・製造された車両を用いる
パターン2では、現在、国産車が目立たない要因として以下の2点が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう:
■要因1:欧州スタートアップによる小型車両の供給が早かった
■要因2:大手自動車メーカーによる自動運専用車が普及しなかった
■要因1:欧州スタートアップによる小型車両の供給が早かった
現在の自動運転ブームは、米国防総省の研究所DARPAが開催した2004年の技術コンテスト「DARPAグランド・チャレンジ」を火付け役に※13、自動車産業100年に1度の変革期と言われる“CASE(コネクテッド・自動化・サービス化・電動化)”の波に乗って広まりました。
少人数が多台数の自動車を利用する非効率なマイカー移動ではなく、市民が乗り合って利用する公共交通にこそ自動運転の未来はあるという発想から、環境意識の高い欧州で2つのスタートアップが立ち上がりました。いずれも自動運転システムの開発と独自設計の自動運転車の開発を担う会社です。
1つは、フランスのトゥールーズで、2014年に創業したEasymileで※14、BEVの低速小型シャトルEZ10は、フランスのほか、ドイツ、ノルウェー、オーストラリア、米国等に導入され※15、2010年代後期には世界的な実証実験車両として脚光を浴びました※16。日本では、2016年にDeNAとの業務提携が発表されましたが、その後の日本での展開は立ち消えとなりました。現在のEasymileは、空港や工場で活躍するEZTow、EZDollyという物流用途の自動運転車に注力しており、日本では関西空港での実証実験に導入されています※17。
もう1社は、同じくフランスのNAVYAで、2014年にリヨンで創業しました※18。BEVの低速小型シャトルの初号機「ARMA」は、日本ではマクニカあるいはBOLDLYが関与した実証実験で多用された車両です。
ARMAの初版は2015年と古く※19、ARMAのシステムでは路駐車両など障害物の追い越しなどに対応できず、複雑な交通環境でのレベル4の実現に向けては、より高度なシステムを搭載した車両が必要とされています。
NAVYAは一時、破産の危機にありましたが※20、マクニカが救済に乗り出し、現在は同社に完全子会社化されています※21。マクニカはNAVYAの国内総代理店として日本に車両を輸入販売しており、常陸太田市や四日市市の実験では、ARMAから次世代車「EVO」への切り替えが進んでいます※22。
≪フランス発:小型の自動運転シャトル≫

上から・・・
■Easymile製「EZ10」@ドイツ
■NAVYA製「ARMA」@日進市
■NAVYA製「EVO」@常陸太田市
一方、BOLDLYが関与する実証実験では、ARMAから中国製の車両へというシフトが見て取れます。
ソフトバンク傘下の自動運転スタータップであるBOLDLYは、遠隔監視システムや乗員向けの車内ディスプレイや乗降の意思表示のためのシステムなど、自動運転バスの運行を支えるシステムの開発を行っており、道路を走る際の判断を担う自動運転システムそのものの開発は行っていません。そのため、自動運転のためのセンサーやシステムが一式装備された車両を輸入して国内各地のプロジェクトに導入を進めています。
2025年度は、岐阜市や松山市で中国WeRideの車両が新たに導入へされました※23。八王子市や甲斐市の実証実験ではアルファバスの車両が導入されています。
ただし、施設内や地方部の交通量の少ないルートを走るケースなど低速小型のシャトルで対応できるユースケースでは、ARMAからエストニアのスタートアップAuvTechが開発するMiCAへの切り替えが進められています。
■要因2:大手自動車メーカーによる自動運転車が普及しなかった
① トヨタe-Paletteの市販の停止
2018年、トヨタはBEVの自動運転車e-Paletteを公開し、「様々なパートナーとともに、2020年代前半の複数エリア・地域での商用化を目指す」という構想となっていました※24。しかし、2021年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村における人身事故の発生により※25、e-Paletteは鳴りを潜め、トヨタグループ外に外販されることはありませんでした。筆者が聞き及んだ中では、トヨタ製ということで、e-Paletteを購入する想定で自動運転プロジェクトに臨もうとしていた自治体や企業が国内に複数いましたが、彼らは急遽、海外製の車両に頼らざるを得なくなりました。
そのe-paletteに、直近で新たな動きがありました。
2025年9月、e-PaletteはEVの小型バスとして復活し、受注生産による外販が始まりました。手動運転のEV小型バスとしての価格は2900万円(税込み)から※26。2027年度にはレベル4対応の自動運転システムを搭載した車両として市場導入を目指すことになっており、トヨタの研究都市:ウーブンシティ以外の場所での活躍、再度の外販が期待されます。
≪BOLDLYの事業ドメイン≫

BOLDLY作成の資料4

甲斐市の自動運転バス/アルファバス製
≪復活したトヨタe-palette≫

従前のコンセプトを引き継ぎ、バス以外にも、移動店舗を前提とした内装にするなど、多用途の架装が可能
② GM・ホンダ「Cruise」の事業閉鎖
ホンダは、米国のGMと共同開発していた自動運転部門「Cruise」の車両を用いて、2026年初頭から東京都心部で自動運転サービスを展開する予定でした※27。その実現に向け、ホンダの研究所のある栃木県では、日本仕様の試作車の試験走行も始まっていましたが※28、2024年12月、親会社であるGMがCruiseの事業撤退を決定したため、日本での計画もすべて白紙となってしまいました。
おわりに/政府初の台数目標の設定によせて
~国内市場の形成、車両生産・整備拠点の整備に政策的支援を~
「自動運転車の普及台数が増えれば、量産化でコストが下がる」という一般論がありますが、今回見てきたように、現在の日本では多様な自動運転車が走行しています。輸入車が多いうえ、バスを中心に自動運転の実用化を奨励してきた日本では、1つの自治体に1~3台しか車両が無いケースも多く、どれもまだ量産モデルとは言い難い状況です。
2025年も終わりが近づきましたが、岸田政権下で設定された自動運転の移動サービスの普及目標「2025年度目処に全国50か所程度、2027年度に100か所以上」の達成は厳しい状況です。
こうした中、高市政権下では、第3次交通政策基本計画の中で、新たに「2030年度に1万台」という台数目標が設定される見通しです※29。この1万台は、サービス車両(商用車)という書き方のため、自動運転のバス、タクシー、トラックの合算と見られます。
現状の延長線で、導入地域の数や稼働台数だけを追求すると、中国製を中心に、ベース車両が輸入車のケース、自動運転専用車として車体からシステムまですべてが輸入車のケースが増加していく可能性あります。短期的には、早期に調達が可能な輸入車に頼らざるを得ない側面はあるでしょう。しかし、中長期的には、国内産業の育成の観点から国産のEV生産の支援やベース車両としての活用の奨励、国内での整備士育成や整備拠点の充実も併せて検討が必要です。ここで言う”整備”とは、自動運転車の場合、ハードとソフトの両面のメンテナンス・更新があります。また、輸入車の場合にも、事故・故障時の原因究明や車両修理、日常的な点検・整備のための技術的なサポートが日本国内で可能な体制整備をするよう、販売者等に求めていく必要があるでしょう。
また、目下、ノルウェー、デンマーク、英国では、路線バス向けに輸入していた中国大手 宇通客車のBEVバスに、中国本土から遠隔操作が可能な脆弱性があったことが判明し、各国当局が緊急で調査を行うなど重大な懸念が発生しています※30。車載のソフトウェアをアップデートするための仕組みを用いて、バスの運行を遠隔で停止させるような操作も可能だったということが分かりました ※30 。宇通のバスは、幸いにも日本では普及していませんが、路線バスという公共性の高いサービスで輸入品に依存しすぎると、このような安全保障上のリスクもあるという学びが得られた事例と言えます。
国内の運転士不足や高齢化は待ったなしの状況であり、社会課題へのソリューションとして普及を急ぎたい自動運転ですが、ある程度社会に浸透したその先は、長く付き合っていく産業分野となります。海外の先進的なプレイヤーと組むことにも大きなメリットはありますが、日本国として中長期的にどのような座組みの産業を目指すか、という目線も持ち続ける必要があります。
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※1 大阪メトロ「舞洲万博P&R駐車場の待機場における自動運転バス車両のコンクリート擁壁接触事故の原因と今後の対応について」、2025年6月11日および「舞洲万博P&Rにおける自動運転車両の縁石接触の原因と今後の対応について」、2025年8月28日
※2 国土交通省「リコールの届出について(WISDOM F8 series4-Mini Bus(6.99m))」、2025年11月28日
※3 EVモーターズ・ジャパン会社概要(https://evm-j.com/company/about-us)
※4 EV Smart Blog「「EVモーターズ・ジャパン」佐藤社長インタビュー/国内生産で使えるEVバスを広げていく!」、2025年5月6日
※5 アルファバス・ジャパン(https://alfabus-j.com/company)
※6 日野自動車「日野自動車、小型EVバス「日野ポンチョ Z EV」を2022年春に発売予定」、2021年6月9日
※7 BYDジャパン「当社 EV バスに関する⼀部報道について」、2023 年 2 ⽉ 23 ⽇
※8 日野自動車「日野ポンチョ Z EV発売凍結について」、2023年2月16日
※9 いすゞ「いすゞ、国内初のEVフルフラット路線バス「エルガEV」を発売 ~公共交通におけるカーボンニュートラルの実現を目指して~」、2024年5月28日
※10 日野自動車「日野自動車、BEVフルフラット路線バス「日野ブルーリボン Z EV」を新発売-安全の追求と、カーボンニュートラルの実現を目指す―」、2024年10月31日
※11 BYD Japan「日本市場向け量産型大型電気バスを販売、2021 年 1 月納車開始」、2020年12月16日。なお、K8 2.0の販売価格は開示されていない。
※12 https://ataj.or.jp/subsidy/efv-f_taxibus_r6/
※13 DARPA “The DARPA Grand Challenge: Ten Years Later”(https://www.darpa.mil/news/2014/grand-challenge-ten-years-later)
※14 Easymile “EasyMile Awarded Start-Up of the Year from Ernst & Young”, October 1st 2018
※15 COMFORTDELGRO “EMBARKS ON AUTONOMOUS VEHICLE TRIAL
IN REAL TRAFFIC CONDITIONS – FIRST OF ITS KIND IN SINGAPORE“, 12 November 2018
※16 DeNA「DeNAが仏EasyMile社と業務提携私有地における無人運転バスの交通システムを日本初導入」、2016年7月7日
※17 EasyMile “First Level 4 Autonomous Baggage Towing in Japan with EasyMile Technology”, May 5, 2025
※18 https://www.navya.tech/about-us
※19 NAVYA “Electromin Acquires Its First Navya Self-Driving Shuttle to Speed up the Pilot Projects in Saudi Arabia”, Dec 7, 2022
※20 NAVYA “Navya Responds to the Publication of a Press Release without Its Agreement”, Dec 15, 2022
※21 マクニカ「Navya Mobility SASへの出資完了のお知らせ」2025年3月4日
※22 https://www.macnica.co.jp/business/maas/products/133978/
※23 読売新聞「自動運転バス 岐阜市「レベル4」実証へ」、2025年8月28日、および36Kr Japan「伊予鉄、松山市で「運転席なし」自動運転バス運行へ 中国WeRide製EVバス導入」、2025年11月5日
※24 トヨタ「実用化に向け進化したe-Paletteを公開」、2020年12月22日
※25 トヨタ「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会選手村におけるe-Paletteと歩行者の接触について」、2021年8月27日
※26 トヨタ「トヨタ、次世代モビリティ「e-Palette」を発売-モビリティ社会の実現に向けて、マルチな使い方を通じ新たな移動体験を提供-」、2025年9月15日
※27 ホンダ「日本での自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始予定~クルーズ、GM、Hondaでサービス提供を担う合弁会社の設立に向けた基本合意書を締結~」、2023年10月19日
※28 ホンダ「自動運転車両「クルーズ・オリジン」の試作車が完成、米国でテストを開始~走行映像、開発者インタビュー映像を公開~」、2022年9月29日
※29 国土交通省「第3次交通政策基本計画(素案)」、2025年10月31日公示
※30 The Gardian ”UK transport and cyber-security chiefs investigate Chinese-made buses”, November 10, 2025, “Danish authorities in rush to close security loophole in Chinese electric buses”, November 5, 2025